[R18]異世界に売られた少年は甘い檻の中で溺愛される

harihari

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ご主人様と凪

洗脳と支配

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 アステルが懐から取り出したのは銀色の輪っかのようなもので、輪には紐が結えられている。カチリという音がして、輪っかが首輪に嵌められた。

 まるでペットのリードでも引っ張るようにそれを軽く引く仕草を見て、凪は背筋が凍るのを感じた。身動きの取れない状態でそれを引かれたらどうなるか、わからないはずがない。

「え………やだっ……嫌だぁっ!!」

「大人しくなさい」

 アステルは容赦がなかった。首輪に繋がれた紐をくいと後ろに引っ張る。凪の身体も釣られて後ろに引っ張られ、銀の首輪が食い込んだ。凪は息を詰まらせながら上を向かされる。

「ぐっ……!」

 首が絞まり、気道が無理矢理狭められる。必死に息をしようと口を開けるが、うまく呼吸ができなかった。酸素を求めて喘ぐ姿はまるで陸に打ち上げられた魚のようだった。呼吸が管理され、自由に息ができなくなる。命を握られていることを思い知らされ、凪の心に恐怖が芽生えた。

「ほら、ちゃんと呼吸しないと死にますよ」

 アステルはそう言って、今度はゆっくりと緩めていく。凪はそれに合わせて必死に息を吸いこむと、締め上げられていた気管に突然空気が流れ込んだことで、大きく咳き込んでしまった。

「げほっ……ごほ……」

 咳き込む凪の背中をアステルが労わるように撫でてくる。優しい手つきが凪を落ち着かせ、身体を弛緩させる。苦しみの中で差し伸べられる手に、思わず警戒心を解き、心を許しそうになる。

 しかし凪は頭を左右に振ってそれに抗った。凪の態度に非があるから懲罰を課しているのだと、凪自身にそう認識させるために、アステルはあえて呼吸を許した時に優しく振る舞うのだ。それがありありとわかるから、どんな言葉よりも雄弁に思い知らされる。アステルの手は残酷だ。

 アステルは凪の呼吸が整ってくると再び紐を引き、今度は先程よりも少し強めに絞めてきた。

「ほら、もう一度」

「やぁっ……やめっ……」

 整いかけていた呼吸が強制的に止められて、息苦しさに顔を歪めた。凪の喉から苦しげな声が漏れる。酸素を求めて口をぱくぱくさせるが、呼吸の自由は与えてもらえない。そのまましばらく責められ続け、限界ギリギリまで耐えさせられる。凪の呼吸は完全にアステルの支配下にあった。限界を感じ、頭がぼんやりしてくると、そこで初めて塞がれていた気道を開放してもらえて呼吸を許される。まるで拷問のような仕打ちが容赦なく繰り返され、次第に何も考えられなくなり、身体からは力が抜けていく。

 朦朧としてきた意識に楔を打つように、アステルが耳元で囁いた。

「私が飼い主で、あなたは私のペット」

 洗脳するかのように頭の中に言葉が直接流れ込んでくる。アステルの言葉が脳裏で反響して、次第に自分が何者であるのかさえ曖昧になる。何も考えられなくなり、身体からは力が抜けていく。

「ペット……」

「わかりましたか?」

 凪はこくりと小さく首を縦に振った。

「良い子です」

 アステルが褒めるように頭を撫でると、その心地良さに目を細めた。まるでペットを可愛がる飼い主のような手つきだ。心地よく、思わずもっと撫でて欲しいと、そんな思いに駆られる。
 しかし、しばらくそうしていたかと思うと頭を撫でる手は離され、再び首輪に繋がった紐が引かれた。呼吸が遮られ、苦悶の――指導の時間がやってくる。

「ぐ……ぁ……」

「あなたは私のペットです」

 アステルは何度も繰り返した。そして、紐を後ろに引っ張り、首を絞めながら耳元で囁いた。

「さあ、言ってごらんなさい。私はあなたの、何?」

 その問いかけに対して、凪に許された答えは一つだった。
 呼吸をしたければ、答えを言えと。それはたとえ本心からの言葉でなかったとしても、繰り返し口にしていると次第に思考の奥深くに刻み込まれ、本心へとすり替わっていくのだ。

「俺は…………ペット……」

 息も絶え絶えにそう口にした瞬間、アステルは満足そうに微笑んだ。呼吸を許され、褒美とばかりに頭を優しく撫でられる。凪の中に安堵が生まれ、アステルに身を預けるように寄りかかった。従順であればアステルは優しいのだ。反感を持つから指導を受けることになるのだ――次第に凪の中に被支配者としての意識が浸透していく。

「そうです。あなたは私のペットです」

 擦り込むように発せられる言葉は凪の思考を犯した。
 アステルの求める答えを言えば、褒美のように紐が緩められ、呼吸が許された。そして息が整うと、また絞められ、限られた酸素の中で同じ言葉を言わされる。何度も繰り返し、ペットという暗示を刷り込んでいく。苦しみの中で行われるそれはまさに洗脳だった。

 何度も繰り返されるうちに、凪は自分の思考がぼんやりとしていくのを感じた。まるで夢でも見ているかのように現実感がなくなり、ふわふわとした浮遊感に包まれる。

「よくできました」

 夢見心地の中でアステルの声を聞いていた。
 求められた答えを言えば、アステルは手に握る紐を緩め、凪の呼吸を開放する。
 まるで飼い犬に芸を仕込むように、凪に己の立場を示していく。よくできましたと言いながら、頭や顎をくすぐるように撫でられると、凪は次第に心地良さを感じて目を細めるようになった。その姿はまさに主人と飼い犬の関係そのものだった。

「これからナギが反抗的な態度を取るたびに、罰を与えます。いいですね?」

「わかっ………た……」

 凪は虚な目で答えた。しかし言葉遣いがアステルの気に召さなかったようで、添削が入った。首輪を引かれ、呼吸が狭められる。凪の口から呻き声が漏れた。

「わかりました、でしょう?」

「わ……、わかりました」

「あと、ご主人様」

「…………」

 言われるまま口にしようとして、しかし凪の口からその言葉は出てこなかった。呼吸を管理されていたからではない。凪自身が言いたくないと、そう思ってしまったからだ。目を閉じると、思い出したくもない残像が浮かび、傷ひとつない身体に痛みが走った。アステルの声が遠くに聞こえ、管理されているはずの呼吸の苦しみさえわからなくなる。夢見心地のふわふわした状態から一転して、凪は現実へと引き戻された。

 早く『ご主人様』に求められる答えを言わなければという焦燥と強い抵抗がせめぎ合い、唇が震え、顔から血の気が失せていった。喉の奥が震え、声は出なかった。アステルではない何かが凪の感情を支配していた。

「ナギ?」

 アステルは凪の異様な様子の変化に気づき、紐を握る手を緩めた。凪の顔を覗き込むと、彼は小さく震えていた。その姿はまるで悪夢から醒めた子供だ。目は虚で焦点が定まっておらず、呼吸も荒くなり、まるで過呼吸のように息が上がっていた。何が凪を支配しているのかわからなかったが、アステルは後ろから優しく凪を抱きしめた。すると震える手がアステルの服の袖口がきゅっと握ってきた。

 返された仕草にアステルは思わず目を見開いた。
 アステルに対して従順な姿など見せてこなかった凪が自分に縋るような仕草を見せたことが新鮮で、同時に愛おしく思えた。

「大丈夫ですよ。今は何も言わなくて良いです」

 凪の頭を優しく撫でてやると、幾分か安心したようだった。

 アステルに包まれながら、凪は目を閉じて、その温もりを享受した。
 凪の身体を包み込むアステルの腕は、とても温かかった。その温もりに身を委ねていると次第に乱れていた心が落ち着きを取り戻し、か細い声が漏れ出た。

「ごめんなさい……ごめん……なさい……っ」

 まるでこの場にいない誰かに許しを乞うように凪は言葉を紡いだ。

 そんな凪の姿をアステルはじっと見つめる。

「……私ではない誰かにナギの心が揺らされるのは、いい気分がしませんね」

 幼い子供のように声を漏らす凪の後ろで、アステルはぽつりと呟いた。
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