【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ

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16話 毒でもあるのか? ※触手

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 トオルは急いで追いかけようとテントから飛び出すと、誰かの身体に強くぶつかった。

「おい……!貴様、気をつけろ!」

「す、すみません……」

 倒れそうになりながら顔を上げると、そこに立っていたのは、透を魔法が使えない凡人と蔑んでいたヒーラーだった。冷ややかな眼差しで見下ろし、鼻で笑った。

「ふん、誰かと思えば凡人じゃないか。役に立たないから、置いていかれたんだな」

「……え?」

「騎士団長たちは、魔物討伐に行ったんだ。知らないのか?」

 その言葉に透は胸の奥が冷たくなる。グレイドは自分を起こさずに、魔物討伐に行ってしまったのか。そう考えた透は、戸惑いを隠せなかった。そんな様子を楽しむように、ヒーラーは口の端を歪めて嘲笑した。

「お前みたいな凡人とは違って、私はここで待機中だ……ん?」

 言葉を失って俯く透の背後に、ぬるりとした気配が迫っていた。ヒーラーはそれに気がついて、恐怖で顔を蒼白にしながら大声で叫んだ。

「うわあ……! た、助けてくれぇ……!!」

 ヒーラーは透を突き飛ばして、振り返ることもなく一目散に走り去っていく。

「痛っ……急になんだ……?」

 地面に倒れ込んだ透が逃げる間もないうちに、冷たく湿った触手が身体に絡みついた。

「……うわっ?!」

 透の腰に巻き付いた触手が、まるで意思を持っているかのようにゆっくりと這い上がってくる。冷たくぬめる感触に、透は息を呑んだ。

「やめろ……!」

 抵抗の言葉を口にするのに、身体は反射的に震えた。足首を絡め取られ、強引に開かされる。そこにまとわりつく動きは、獲物を食らうというよりも、弄ぶように執拗だった。

「……っ、ふ……ぅ……」

 身体がじわりと熱を帯びていくのを感じ、困惑する透。だが、くすぐるように弱いところばかりをなぞられ、抗えないほど敏感になってしまう。

「……っ、あ……だめ……っ」

 理性では拒んでいるのに、追い詰められるほど、身体の熱が広がっていく。自分でも理解できない反応に、頬が赤く染まった。

(おかしい……この触手、変な毒でもあるのか?)

「このっ……離して……くださいっ!」

 叫んでも、触手は逆に喜ぶように肌へ吸いつき、じわじわと這い上がってくる。抵抗しようと力を込めても、体は言うことを聞かない。なんとか動かせるのは指先くらいだった。

(……魔物撃退薬……! あれさえ使えれば!)

 腰の袋に手を伸ばす。だが震える指先は、何度も薬瓶の蓋を掴み損ねた。触手はゆっくり這い上がり、胸元へ迫ってくる。焦燥で呼吸が浅くなり、心臓が痛いほど跳ねた。

(もう少し……っ!)

 歯を食いしばり、最後の力を振り絞って指先を差し込む。ようやく薬瓶の蓋を開け、その勢いで瓶を振りかける。

「……これでも、くらえ!!」

 触手に薬の液体を浴びせると、じゅっと焼けるような音が響いた。触手の一部は黒ずんでしおれ、枯れ落ちていく。

 だが残った触手は激しくのたうち、怒りを露わにしたかのように暴れ、その動きは一段といやらしく、不謹慎さを増していった。

「や……やめ、っ……!」

 触手にあらゆる場所を刺激され、透の意識が朦朧としてきたその時。

 その圧迫を断ち切ったのは、鋭い風の音だった。氷の刃が空を走り、残っていた触手が一斉に凍りついて砕け散る。

 舞い散る氷の結晶は陽の光に照らされ、きらめく光の粒となって透の頬を撫でた。その中心に立っていたのは、青白く輝く剣を携えた騎士団長グレイド。

 凛とした表情、冷気を纏う青い瞳。だが透を見つけた瞬間、その氷は溶け、確かな温もりに変わった。

「透……!」

 その呼び声に、透の胸が熱く震えた。恐怖に揺らいでいた心が一気に緩み、涙がこぼれそうになる。

「……グレイド、さん……」

 切り裂かれた触手モンスターがゆっくりと倒れ伏す。透はその場に膝をつき、荒く乱れる呼吸を必死に整えようとした。

「大丈夫か、透……!」

 グレイドが駆け寄り、その肩を抱きとめる。逞しい胸に支えられ、透の全身から力が抜けた。

「怪我はないか?」

 グレイドは確かめるように問いかける。透は顔を伏せ、熱に浮かされたように小さく首を振った。

「……大丈夫です」

 言葉は途切れ、頬が紅潮していく。あの不思議な感覚が、まだ身体に残っている。それを悟られたくなくて、透は俯いて隠そうとした。

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