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17話 もう大丈夫だ
しおりを挟むグレイドは、透の顔を片手でそっと持ち上げた。
「……なぜこんなに顔が赤い? 熱があるのか?」
青い瞳が真剣に透を見つめる。その眼差しはいつになく鋭いのに、奥底には深い心配の色があった。その距離の近さに、透の心臓がどくんと跳ねる。熱が頬に集まり、呼吸が浅くなる。
「……グレイド、さん……」
掠れた声が漏れた。グレイドの指先が、汗と冷気に濡れた頬をゆっくりとなぞる。その温かさが、透の強ばった心をゆっくりとほどいていく。張り詰めていたものがふっとほどけ、透は安堵の息をこぼしながら瞼を閉じた。
グレイドの唇が、静かに透の額に触れる。
「……もう大丈夫だ」
低く落ちた声が、優しい熱を帯びて耳をくすぐる。その言葉に包まれるように、透は穏やかに意識を手放した。
気を失った透を、グレイドは大切そうに両腕で抱き上げ、彼はその柔らかな重みを感じていた。
グレイドを追いかけてきた騎士が、切り刻まれた触手モンスターの残骸を見て、驚きと賞賛の声を上げる。
「さすが騎士団長! 討伐完了おめでとうございます! 透さんはご無事ですか?」
グレイドは視線でモンスターの残骸を一瞥し、冷静に指示を出した。
「ああ。モンスターの残骸処理を頼む。そして……」
透を抱き直した腕に、わずかに力がこもる。だが表情は氷のように冷たく、部下に向ける視線には一切の温度がなかった。
「俺と透は、泉で身体を洗ってから帰る。処理が済んだら、先に王国へ戻れ」
「はい!!」
騎士は迷うことなく力強く敬礼し、足早にこの場を去っていった。森は再び静けさを取り戻し、鳥のさえずりだけが響く。グレイドは透を腕に抱いたまま、泉へと向かった。
水面が月の光できらめく泉に、グレイドは腰までゆっくりと浸かった。冷たいはずの泉の水が、腕の中の柔らかな熱をいっそう際立たせる。
濡れた黒髪が白い頬に張りつき、そのあまりに儚い姿に、グレイドは思わず息を呑んだ。
「……透」
返事はない。ただ、安らかな寝息だけがグレイドの胸元に触れる。その鼓動を確かめるように、冷たい水をすくい、透の首筋にそっと流した。冷たさに小さく身じろぎすると、頬をグレイドの胸にさらに深く擦り寄せた。
「透……?」
「んん……」
その仕草があまりに可愛すぎて、グレイドは一瞬呼吸するのを忘れそうだった。腕の中に感じる重みと温もりは心地よいはずなのに、胸の奥を焦がすように熱くなる。
そのとき、眠っている透の指先が、グレイドの濡れた服を無意識に掴んだ。顔をゆっくりと近づけ、次の瞬間、柔らかな唇がグレイドの鎖骨に触れ、そっと噛んだ。
「……っ!」
泉の冷気さえ、一瞬で焼け付くような熱に変わる。吸い付くような唇が喉仏をなぞり、水音と混じって濡れた音を立てた。
(眠っているはずなのに……なぜ、こんなにも俺を惑わせる……)
困惑しながらも、振り払うことはできない。グレイドが顔を赤らめながら、抱き直すために頭を下げると、透はそっと唇を重ねてきた。
「……!?」
短い口づけだったが、グレイドの心臓は破裂しそうなほどに脈打つ。冷水に浸かっているはずなのに、全身が焼け付くように熱い。腕の力が抜けそうになり、慌てて抱きしめる。
「はぁ……どうすればいいんだ……」
掠れた声が泉の水面に溶けていく。これほど近くで密着していると、透の安らかな鼓動が自分の胸に重なって、とても心地よく、そしてくすぐったい。この溢れるような愛おしいという気持ちを、どう扱えばいいのか分からなかった。
透は安らかな寝顔を浮かべ、さらに身体をグレイドへ寄せてきた。頬が胸に触れ、わずかに身じろぎするたびに、透の身体がグレイドの下腹部に触れる。軽く当たっただけで、雷に打たれたような衝撃が全身を走った。
(透……君が好きだ……)
愛おしさに耐え切れず、グレイドはそっと彼の唇へ静かな口づけを落とした。
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