【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ

文字の大きさ
17 / 37

17話 もう大丈夫だ

しおりを挟む

 グレイドは、トオルの顔を片手でそっと持ち上げた。

「……なぜこんなに顔が赤い? 熱があるのか?」

 青い瞳が真剣に透を見つめる。その眼差しはいつになく鋭いのに、奥底には深い心配の色があった。その距離の近さに、透の心臓がどくんと跳ねる。熱が頬に集まり、呼吸が浅くなる。

「……グレイド、さん……」

 掠れた声が漏れた。グレイドの指先が、汗と冷気に濡れた頬をゆっくりとなぞる。その温かさが、透の強ばった心をゆっくりとほどいていく。張り詰めていたものがふっとほどけ、透は安堵の息をこぼしながら瞼を閉じた。

 グレイドの唇が、静かに透の額に触れる。

「……もう大丈夫だ」

 低く落ちた声が、優しい熱を帯びて耳をくすぐる。その言葉に包まれるように、透は穏やかに意識を手放した。

 気を失った透を、グレイドは大切そうに両腕で抱き上げ、彼はその柔らかな重みを感じていた。

グレイドを追いかけてきた騎士が、切り刻まれた触手モンスターの残骸を見て、驚きと賞賛の声を上げる。

「さすが騎士団長! 討伐完了おめでとうございます! 透さんはご無事ですか?」

 グレイドは視線でモンスターの残骸を一瞥し、冷静に指示を出した。

「ああ。モンスターの残骸処理を頼む。そして……」

 透を抱き直した腕に、わずかに力がこもる。だが表情は氷のように冷たく、部下に向ける視線には一切の温度がなかった。

「俺と透は、泉で身体を洗ってから帰る。処理が済んだら、先に王国へ戻れ」

「はい!!」

 騎士は迷うことなく力強く敬礼し、足早にこの場を去っていった。森は再び静けさを取り戻し、鳥のさえずりだけが響く。グレイドは透を腕に抱いたまま、泉へと向かった。

 水面が月の光できらめく泉に、グレイドは腰までゆっくりと浸かった。冷たいはずの泉の水が、腕の中の柔らかな熱をいっそう際立たせる。

 濡れた黒髪が白い頬に張りつき、そのあまりに儚い姿に、グレイドは思わず息を呑んだ。

「……透」

 返事はない。ただ、安らかな寝息だけがグレイドの胸元に触れる。その鼓動を確かめるように、冷たい水をすくい、透の首筋にそっと流した。冷たさに小さく身じろぎすると、頬をグレイドの胸にさらに深く擦り寄せた。

「透……?」

「んん……」

 その仕草があまりに可愛すぎて、グレイドは一瞬呼吸するのを忘れそうだった。腕の中に感じる重みと温もりは心地よいはずなのに、胸の奥を焦がすように熱くなる。

 そのとき、眠っている透の指先が、グレイドの濡れた服を無意識に掴んだ。顔をゆっくりと近づけ、次の瞬間、柔らかな唇がグレイドの鎖骨に触れ、そっと噛んだ。

「……っ!」

 泉の冷気さえ、一瞬で焼け付くような熱に変わる。吸い付くような唇が喉仏をなぞり、水音と混じって濡れた音を立てた。

(眠っているはずなのに……なぜ、こんなにも俺を惑わせる……)

 困惑しながらも、振り払うことはできない。グレイドが顔を赤らめながら、抱き直すために頭を下げると、透はそっと唇を重ねてきた。

「……!?」

 短い口づけだったが、グレイドの心臓は破裂しそうなほどに脈打つ。冷水に浸かっているはずなのに、全身が焼け付くように熱い。腕の力が抜けそうになり、慌てて抱きしめる。

「はぁ……どうすればいいんだ……」

 掠れた声が泉の水面に溶けていく。これほど近くで密着していると、透の安らかな鼓動が自分の胸に重なって、とても心地よく、そしてくすぐったい。この溢れるような愛おしいという気持ちを、どう扱えばいいのか分からなかった。

 透は安らかな寝顔を浮かべ、さらに身体をグレイドへ寄せてきた。頬が胸に触れ、わずかに身じろぎするたびに、透の身体がグレイドの下腹部に触れる。軽く当たっただけで、雷に打たれたような衝撃が全身を走った。

 (透……君が好きだ……)

 愛おしさに耐え切れず、グレイドはそっと彼の唇へ静かな口づけを落とした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

若さまは敵の常勝将軍を妻にしたい

雲丹はち
BL
年下の宿敵に戦場で一目惚れされ、気づいたらお持ち帰りされてた将軍が、一週間の時間をかけて、たっぷり溺愛される話。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 ※諸事情により、本編、番外編「嫁溺愛大将と幼馴染み達」「イザームさんとルーカスくん」のみ再掲します。 「羽化」 「案外、短気」 「飴と鞭」 は未公開のままで失礼いたします。

気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話

上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。 と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。 動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。 通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話

処理中です...