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22話 どこに行くんですか?
しおりを挟む美味しい料理を堪能し、透が会計をしようとした時には、すでにグレイドが支払いを済ませていた。
「すみません、グレイドさん。ごちそうになってしまいました……」
申し訳なさそうに謝る透に、グレイドは首を横に振り、優しい笑みを浮かべた。
「いや、気にしなくていい。君と一緒に食事ができて、俺は楽しかった」
グレイドの言葉に、透は胸が温かくなった。今度は必ず自分が払おうと、心の中で誓う。透の後ろにいたハリも「ありがとう」と頭を下げた。
料理店を出ると、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。透は、オレンジ色に輝く海をしばらく眺めたあと、静かに砂浜へと足を踏み出す。波打ち際を歩きながら、何かを探すように視線を落とした。
透の様子に気づいたハリが不思議そうに尋ねた。
「透、何か探してるの?」
「はい。ここら辺に、人魚の涙が落ちてないかと思って……」
透の言葉に、ハリの顔は一瞬にしてこわばった。彼の声は、さっきまでの無邪気なものから、少しだけ低く、真剣な響きを帯びていた。
「……人魚は、滅多に泣かないよ」
「そうなんですか?」
「うん……恋をした人魚しか泣かないんだ」
透は、その言葉に考え込んだ。もしハリの言うことが本当なら、人魚の涙を手に入れるのは、想像していたよりもずっと難しいのかもしれない。
途方に暮れそうになったその時、ふとハリの方を見ると、彼は突然走り出した。
「……ハリくん! どこに行くんですか?」
「ぼく、用事がある! またね、透……!」
透が彼を追いかけようと足を一歩踏み出したが、ハリの姿はずっと遠くに行ってしまった。呆然と立ち尽くす透の背中に、グレイドが優しい声で語りかける。
「透、もう日が暮れる。どこかに泊まろう」
「……そうですね」
透は、ハリの突然の行動に戸惑いを隠せないまま、グレイドと一緒に海辺の宿屋へと向かった。部屋を二つ取ろうとすると、部屋が一つしか空いてないと言われ、透は困惑した。
「え、一部屋だけですか……?」
透の声は、わずかに震えていた。しかし、彼の隣に立つグレイドは、平然とした声で答える。
「問題ない。俺は気にしない」
「ですが……」
「透と一緒なら、むしろ安心だ」
その言葉に、透はそれ以上、何も反論できなかった。胸の鼓動が速くなり、顔が熱くなるのを感じた。透は、赤くなった顔をグレイドに見られないように、視線をそっと逸らした。
鍵を受け取り、部屋に入ると、そこは広いとは言えない空間に、ベッドが一つ置かれていた。透はますます落ち着かなくなった。
「先に……シャワー、浴びてきます」
居場所を失った透は、逃げるように部屋の奥にある浴室へと向かった。その慌ただしい背中を、グレイドは黙って見送る。
透は身体を洗いながら、この状況をどう乗り切るかを必死に考えていた。どうにかしてこの緊張を解かなければ。
(ベッドで横になって、寝たフリをしよう……)
そう結論を出し、透は髪を濡らしたまま浴室から出た。すると、ベッドに腰掛けていたグレイドが、透に向かってゆっくりと手を伸ばしてきた。
「濡れたままだと、風邪を引く」
低く優しい声が透の耳に届く。大きな手が、透の肩にかけられていたタオルを取り、髪を拭い始めた。その仕草はあまりにも自然で、そして丁寧だった。透の胸は、不思議なほど高鳴り、顔が熱くなる。
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
透は、グレイドが優しくしてくれることを嬉しく感じる一方で、こんな特別な優しさを自分だけに向けて欲しいと思った。
グレイドは、透の髪が乾いたことを確かめるように、そっと透の頭を撫でる。
「……俺も身体を洗ってくる」
グレイドがシャワーを浴びている間に、透はベッドに横になり、目を閉じて寝たフリを始めた。しばらくして、誰かが近づいてくる気配がし、ベッドが軋む。透は緊張で身体をこわばらせた。
そして、嗅ぎ慣れた爽やかな香りがした。次の瞬間、透は自分の両手が力強く持ち上げられ、何かで縛られるのを感じた。
「……な、グレイドさん?!」
驚きで目を見開いた透の視界に、グレイドの顔が飛び込んできた。彼は透の上に乗り、苦しそうな表情で透を見下ろしている。
彼の上半身は服をまとっておらず、洗いたての濡れた髪から滴る雫が、逞しい筋肉を滑り落ちていく。その光景に、透は動揺を隠せなかった。
「透……身体が、焼けるみたいだ……」
「っ……!」
グレイドの荒い息遣いと、切迫した声。その言葉に、透は彼が毒の発作に襲われているのだと悟った。
透はすぐに起きようとしたが、グレイドに身体を押しつけられ、身動きが取れなくなった。そして、そのまま熱を帯びた唇が、透の唇を塞いだ。
「ん……っ!」
グレイドの手が、透の身体を探るように滑り、服が脱がされていく。触れた指先から、焼けつくような熱が伝わってきた。思わず息を詰めた透の耳元に、彼の荒い呼吸が触れる。
「はぁ……透……」
グレイドは透の足首を掴んで引き上げ、さらに腰を押しつけた。二人の身体がぴったりと密着し、上下に擦れるたびに、透の身体は敏感に反応する。
「あ……っ」
その刺激に、透は小さな声を抑えることができなくなった。グレイドは、自分の下で感じ始めている透に、より貪欲に口づけを繰り返す。
「……んんっ」
口の中を舌でなぞられる感覚が気持ちよくて、透は身体が震えた。下腹部に熱が集まっていくのが自分でも分かった。
「……は、ぁっ……」
激しい口づけの後、唇が離れて透はようやく呼吸を取り戻した。ぼんやりとしていると、懇願するような、切なげな声が聞こえてくる。
「透……苦しい」
額に汗を浮かべ、眉をひそめるグレイド。その姿を見て、透の心臓は締め付けられるような痛みを覚えた。
もう、これ以上彼を苦しませたくない。その一心で、透は決意の言葉を口にした。
「グレイドさん……僕が、気持ちよくしてあげます」
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