【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ

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26話 絶対に離れるな

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 馬車の揺れが止まり、隣で眠っていたトオルの頭を、グレイドは優しく撫でる。

「透……王都に着いたぞ」
「……んん」

 低く落ち着いた声が耳に届き、透はゆっくり目覚めた。心地よい香りに包まれて、思考はまだぼんやりしていた。グレイドの肩に頭を預けていたせいか、頬に温かい感覚が残っている。

「すみません、グレイドさん……重かったですか?」

「重くない。むしろ、もう少しこのままでもいいくらいだ」

 その言葉に、胸の奥が温かくなる。窓から差し込む夕日が、微笑むグレイドをやわらかく照らしていた。その光景があまりに美しく、透はしばらく目を離せなかった。

 地面に足を下ろすと、聞き慣れた王都の活気が聞こえてくる。行き交う人々のざわめき、露店の呼び声。透は、楽しかった旅が終わってしまったことに、かすかな寂しさを覚えた。

 二人が城門をくぐり、訓練場前を通りかかると、普段の賑やかさとは異なる張り詰めた空気が漂っていた。剣を持った騎士たちが何やら騒がしく、皆の表情は硬い。ざわつく声だけが重苦しく広がっている。

「なんだか、いつもと様子が違いますね」

「そうだな……」

 透たちは足を止め、訓練場の方を見やった。すると、近くにいたアデルが二人に気づいて、安堵したように手を振りながら歩いてきた。

「おかえり、二人とも」

 グレイドはうなずき、アデルに騒ぎの理由を尋ねた。

「何かあったのか?」

 アデルの顔にはいつもの軽薄さはなく、真剣な表情が浮かんでいる。

「……ドラゴンが、近郊の山に姿を現したって報告があったんだ」

 アデルの言葉に、透の心臓がどきりと大きく跳ねた。ドラゴン、その響きは、透に元の世界のゲームの記憶を鮮明に蘇らせる。それは、この世界では「幻獣」と呼ばれる巨大な脅威だ。

(一緒に行けば、幻獣の宝珠ほうじゅが手に入るかもしれない……!)

 ドラゴンの宝物だと言われる幻獣の宝珠は、エリクサーを作るための最も重要な材料だった。

 だが透はすぐには口を開かなかった。どこまでグレイドに話すべきか考える。秘密にしておいた方がいいのかもしれない。しかし、彼に嘘をつきたくなかった。

 透が口を開こうとしたその瞬間、グレイドはすでに状況を判断していた。鋭い声で、駆け寄る騎士たちに指示を飛ばす。

「討伐隊を編成する。俺もすぐに向かう」

「はいっ!!」

 踵を返し、足早に歩き出そうとするグレイドの背に、透は慌てて声をかけた。

「グレイドさん! 僕も一緒に行かせてください!」

 グレイドの足がぴたりと止まる。振り返った彼の青い瞳が、驚きと戸惑いを宿して透を見つめた。その表情には、なぜ危険な場所へ行きたがるのか、という純粋な疑問が浮かんでいる。

「……なぜだ?」

 透は一瞬ためらった。だが、グレイドの真っ直ぐな瞳を前に、誤魔化すことはできなかった。彼は正直に話すことにした。

「どうしても、ドラゴンの宝珠が必要なんです……エリクサーを、作るために」

「エリクサー?」

 グレイドの眉がぴくりと動く。彼は一歩近づき、透の心の内を覗き込むように見つめながら、低い声で尋ねた。

「ドラゴンのいる場所は、とても危険だ。そこまでして、宝珠が欲しいのか?」

 透の頬が、ほんのりと赤く染まった。言葉を選ぶように視線をそらし、震える声で告げる。

「……大切な人に、渡したいんです」

 その言葉と、頬を染めた透の表情を見た瞬間、グレイドの胸の奥で何かが弾けた。熱と痛みが入り混じったような衝動が、心臓を締めつける。

(大切な人……まさか、あの少年か……?)

 透が海で出会った白い髪の少年、ハリ。その姿が脳裏をよぎる。透が彼から貰った金色の真珠を大切そうに握っていたことを思い出すと、喉が焼け付くように苦しかった。

(透は、彼が好きなのか……)

 理性で抑え込もうとしても、胸の奥で嫉妬が膨らむ。唇を固く噛みしめ、グレイドは己の感情を必死に押し殺した。今、透に真実を問いただすべきではない。

「……わかった」

 低く、冷静な声で、グレイドは言った。

「一緒に行こう。ただし、俺から絶対に離れるな」

 その瞳の奥に揺れる激しい感情を、透は知らないまま、小さく頷いた。

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