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33話 口移しで飲ませてくれ
しおりを挟むグレイドはソファに腰を下ろし、深い吐息を漏らしていた。窓の外は、王国の灯りと夜の冷たさだけが広がっている。
「透……」
名を呼ぶだけで胸が痛い。あの山で、透が自分から逃げるように転移魔法で去ってしまった事実が、冷たい雪のように心を覆っていた。
(恋人のフリなんてせずに、本当の気持ちを伝えればよかった……)
しかし、透にはすでに大切に想う人がいる。自分が告白したところで、困らせるだけだろう。
理屈では分かっているのに、彼の手に残る透の体温が忘れられず、会いたくてたまらない。グレイドは、感情を押し殺すように拳を握ったが、すぐにその力は抜け、わずかに苦い吐息が漏れた。
その時、静寂を破るように、部屋の扉が小さくノックされた。
「……誰だ?」
こんな時間に訪ねてくるなど、騎士仲間に何かあったのかもしれない。重い足取りで扉を開けたグレイドは、次の瞬間、言葉を失った。
そこに立っていたのは透だった。彼は肩で呼吸をしながら、それでも真っすぐにグレイドを見上げていた。
「グレイドさん、こんばんは……」
「……透?」
グレイドは驚きで固まったのも束の間、すぐに我に返り、透を自室の中へと招き入れる。扉が閉まると、平静を装いながら問いかけた。
「……こんな時間に、どうしたんだ?」
透は、両手で大切に包み込んでいた小瓶を差し出した。その中でエリクサーの液体がきらきらと、淡い光を揺らめかせている。
「グレイドさんに、エリクサーを渡したくて来ました」
「これを……俺に?」
驚くグレイドに、透は無理やり笑みを浮かべて頷いた。
「はい。遅くなってしまいましたが、これで完全に解毒できます」
それを聞いて、グレイドの胸の内で張り詰めていた糸が切れ、代わりに温かい感情が爆発した。透は自分のために、エリクサーを作っていた。
透の大切な人とは、他の誰でもない、自分だったのだ。
舞い上がりそうなほどの喜びを必死に抑えながら、グレイドはゆっくりとベッドに腰掛けた。透に近づいて欲しいという想いを、低く甘い声に乗せて囁く。
「……透が、口移しで飲ませてくれ」
「え……?」
透は困惑した表情を浮かべる。だが、グレイドの頬が赤く染まっているのを見て、また毒の発作のせいだと考えた。迷った末に小さくため息をつき、覚悟を決めて小瓶の栓を外す。
透はエリクサーをひとくち口に含み、座るグレイドの肩にそっと手を置いた。そのまま身を寄せて唇を重ねる。
「……ん」
冷たいエリクサーの液体が、透の口からグレイドへと流れ込む。グレイドの喉仏がゆっくり上下した。
すると、グレイドの全身が淡い金色の光に包まれた。身体の中から何かが消えるのを、彼自身もはっきりと感じ取る。だが、身体の熱はそれ以上に、目の前にいる透の存在によって燃え上がっていた。
透はゆっくりと、名残惜しげに唇を離した。これがグレイドとの最後のキスだと思いながら。
(グレイドさんの毒は完全に消えたはずだ……)
グレイドの様子を確認するために後ろに下がろうとすると、後頭部を押さえられ、視界が一転した。
「っ……?!」
逃がさないと言わんばかりの力強さでベッドに転がされ、透の心臓は激しく跳ね上がった。柔らかいマットレスが身体を受け止め、深く沈み込む。目の前のグレイドの瞳は、これまでにないほど熱を帯び、抑えきれない愛情に満ちていた。
「あの、グレイド、さん……?」
透は混乱した。毒は完全に消えたはずなのに、なぜグレイドは熱っぽく見つめてくるのだろうか?彼の表情は、以前の毒の発作による苦しげなものとは全く違っていた。
「透、君が好きだ」
「……!!」
その一言に、透は息を詰めて固まった。胸の奥が爆発しそうなほどの嬉しさと興奮で満たされ、頬がみるみるうちに紅潮していく。
「……僕も、グレイドさんのことが好きです」
次の瞬間、唇を奪われた。今までよりもずっと強く、深い口づけは甘さだけではなく、互いの息を奪い合うような激しさを増していく。
「……はぁ……透」
「……っ、グレイドさん……」
ベッドの上で、透はキスを交わしながら、そっとグレイドの胸に触れた。指先が熱に触れた瞬間、彼の身体がかすかに強張る。そのまま服の裾に手をかけると、グレイドがその手を優しく掴んだ。
「ダメだ、透。これ以上は……止められる自信がない」
グレイドは眉を寄せ、透の手首をそっと撫でる。その瞳には、愛情と同じくらい強い後悔の色が滲んでいた。
「……あの宿で、君を縛って無理強いしたのを覚えている。ずっと、謝りたいと思っていた」
透は、グレイドがあの時のことを覚えていることに驚いた。けれど、責める気持ちは少しもなかった。
「僕は、グレイドさんと……したいです」
こんな大胆なことを口にしたのは初めてで、透は顔がさらに熱くなるのを感じた。それでも、隠していた想いを伝えるように、グレイドを愛おしそうに見つめながら微笑んだ。
「大好きです。貴方になら、何をされてもいいと思っています」
その言葉が、グレイドの中の最後の理性を静かに溶かした。彼はもう抑えきれず、再び透にキスをした。今度のキスは、想いがぶつかり合うほどに深く、優しかった。
「……ん……ぁ……っ」
「君は、俺を煽るのが本当に上手いな……」
互いに相手の衣服に手をかける。服が床に落ちる音が、部屋に静かに響いた。布越しに感じていた温もりが、少しずつ直接肌へと伝わる。
露わになった透の脚を、グレイドの指先が優しくなぞる。触れられるたびに透は思わず声を漏らし、唇でそれを塞がれた。
「俺がどれほど君を好きなのか、身をもって知って欲しい」
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