騎士にも色々いる 続

砂山一座

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【ギルド工作員ユウキの不満2】

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 ドアを開けると、騎士がいた。
 目が潰れそうなほどキラッキラの騎士だ。
 赤い髪に緑の目、均整のとれた立派な体躯、絵本の騎士が飛び出てきたようだ。
 ロイも顔は整っているが、どちらかと言えば魔王みたいな雰囲気で、粗野な態度が鼻につくから、こんなのが出てきたら八対二くらいで負ける。
 妹よ、こっちのキラキラ騎士にしておけばいいんじゃないのか?

「騎士様、何の用ですか? とりあえず、帰っていただけませんか?」
 兄の期待を他所に、すげなく帰宅を促す妹は、赤毛の騎士に警戒心を露わにしている。
「私は貴女を……」
「お兄ちゃん、ちょっときて!」
 騎士が縋る様に何かを言いかけたが、妹はそれを遮って俺を呼び寄せると俺の背を壁にした。
「ど、どうも。タリムの兄です」
 俺は礼儀くらいは弁えているのでちゃんと挨拶くらいするのだ。
 変な板挟みは慣れているが、騎士と愚妹って嫌な組み合わせだな。
 騎士は俺とタリムを、それはそれは苦々しい表情で交互に眺める。
「タリム嬢の……血の繋がりのない義理のお兄様ですね。
 失礼ですが、一緒に育ったとはいえ、年頃の女性との距離を弁えては?」
 俺の背に妹が引っ付いているのが気に入らないようで、キラキラの騎士は眼光を鋭くして失礼なことを言ってきた。
「いやー、血の繋がりはありませんが、タリムは大切な妹です。
 他人にとやかく言われるようなやましいことなど何もありませんよ」
 血の繋がりが無いからって敵意を持たれる謂れはない。
 妹は天文学的な距離で射程外です。
 キモいこと言うな。
「それは失礼致しました。
 しかし、私はタリム嬢の騎士です。
 主人の身の安全に気を配る故のことですので無礼はお許しください」
 む、む、む、張り合ってくる。
 こんな奴が義理の弟になるのは嫌だな。
「勝手なこと仰らないで頂けませんか。
 騎士なんて雇った覚えはありません。
 迷惑です」
 本気で迷惑そうに言う妹は俺の背後から出てこようとはしない。
 けどな、世の女性なら騎士に「あなたの騎士です」って言われたら大喜びするぞ、いいのか?

「タリィ、これがお前の言っていた変な騎士か?」
「……」
 後ろを向いて耳打ちすると、「変な」と言ったのは隠しておきたいのか、気まずそうに人差し指を唇に当てる。
 礼儀正しくしたいならそもそも、開口一番で帰れとか言うなよ。
 人付き合いにもバランスがあるんだぞ。
「姫、一緒に王都に帰りましょう」
 乞うようにタリムに手を伸ばす姿は、魔法使いに囚われた姫を高い塔から助け出す騎士そのものだ。
 何をしても様になる。
「王都には帰りますが、一人で帰れます。
 あと、姫じゃないんで」
 ぴしゃりと断ったが、「一人で」と強調する語気に、今ここには居ないロイへのわだかまりが透けて見える。
 キラキラ騎士と話す時くらいロイの事は忘れればいいのに。
 騎士の報われないであろう必死さを少し哀れに思う。
「お前、さっきの話じゃ本当に姫だったって話じゃないのか?」
 気になる事をはっきりとさせたくて、混ぜ返してみる。
「お兄ちゃんはややこしくなるから黙ってて」
「……じゃぁ、もう、むこうに行ってていい?」
 意地悪く言えば慌てて首を振る。
「ダメ! この騎士様は口の中を舐め回す変態なんだから」
 小声で告げてきた内容にギョッとして妹を騎士から遠ざける。
「はぁ? お前それだけの筋肉馬鹿なのに、なんでそんなことさせちゃったの?
 無防備にも程があるだろ!
 だいたい、ロイは何していたんだ」
 腕力と暴力に定評のあるウチの妹が、無理やり唇を奪われるなんてありえない。
 仮にタリムがぼーっとしていたとして、劣情を持ってタリムに近づいた時点でロイが気配で動くだろう。
 この騎士、割と凄いやつなのか?
 だとしても、敵だな!
 この騎士は敵だ!

 キッと睨むと、すこぶる真面目に「いえ、私は不埒な気持ちで口付けしたのではありません。忠誠を誓う口づけをしただけで」と宣う。
 いけしゃあしゃあと。
 俺はイケメンと露天販売の腸詰だけは信用しない事にしている。
 妹の顔色が悪い。
 蕁麻疹のでる勢いだ。
 子供の頃、孵化したばかりのカマキリの大群に突っ込んだ時と同じ顔している。
「姫っ……」
 待てのできない犬のようになってきた騎士は、こちらに向かって歩みを進める。
「ち、近づかないで下さい」
 これは、本当にダメなやつだ……むき出しの腕に鳥肌を確認した。

 その時、バァンと勢い良くドアが開けられ、ロイが入ってきた。
 タイミング的にはヒーローっぽいが、目の下にクマを作り鬼の形相だ。
「貴様ら、まだうろついていたのか?
 帰れって言われただろうが」
 不機嫌そうなロイは騎士に対しても口が悪い。
 それにも負けず、騎士はあごを上げロイを威嚇する。
「これは、これは、アデルア殿……そちらこそ、昨夜は遂に部屋を追い出されたそうではないか?」
 内容は醜い小競り合いだが、二人とも見目麗しい造作なので、仮に観客がいたらきゃぁきゃあ黄色い悲鳴を聞けたかもしれない。
 今いるのは残念な妹とフワフワした母だけなのだが。
 加えて、程々に保守的な兄もいますよ。
 巻き込まれたくはないんですけど、聞き捨てならないやり取りをきいちゃったんですが。
「……タリィ、ロイと同じ部屋に泊まってたの?」
 こちらも鬼の形相で振り返る。
 騎士の件とは別に、浮上した問題も言及しなければなるまい。
 ロイはヘタレだし、そういう意味で危険なことはないのは分かっているが、やはり異性と同室は家族としては許し難い。
 妹を問い質すと、バツが悪そうに視線を逸らす。
「ええと……経費削減に?
 ……ロイ・アデルアとなら、ほら、大丈夫だと思って……」
「全然よくないよ!
 父さんが知ったらロイは半殺しだよ」
 ロイも同じ顔して俺から視線を逸らす。
「恋人じゃないって言うなら、そこは断われよな、ロイ」
 タリムが同室の提案をしたのだろうが、断らないとはなんともタチが悪い。
 俺の知らない数年の間にロイの拗らせた鋼鉄の理性は、飴ほどの柔らかさになってしまっていたようだ。
「お母さんはパパに黙っていてあげるー♪ロイ頑張って!!」
 母はいつでも楽しそうだ。
 さて、タリムとロイには釘は刺したし、後はこの騎士達をどうするべきか。


「さて、騎士様、少々邪魔がはいりましたが、うちの妹が故セレスタニア様の娘であるというのは確かなことなのですか?
 にわかには信じ難い事なのですが」
 アホを拗らせた身内二人には、あとで話を聞くから、と睨みつけ、騎士たちと先程の話に戻る。
 ロイは騎士に剣先が届く距離で壁にもたれかかり、腕を組んで静観するようだ。
 俺にはこの騎士達がどういうつもりでタリムを姫と呼ぶのかを知っておく必要があるのだ。
 妹の出自についての問いに悠然と微笑み、深く頷く騎士。
 それだけで信頼出来そうな雰囲気を作り出すとは、恐ろしい。
 騎士を廃業したら詐欺師になればいいのに。

「証拠の品である指輪は、姫が破壊してしまったので、その正統性を検証は出来ませんが……私が保証いたします。
 何より、セレスタニア様の血を受け継ぐ容貌、セレスタニア様の従兄弟にあたる王にも似たその目の色、間違いありません。姫こそ私が仕えるに相応しいお方だ」
 面倒な事を極力避けたがる妹が、わずらわしい高貴な身分を望む事は無いだろうとはわかっていたが、指輪を破壊するとは、実に粗野な証拠隠滅だ。
「王族と似ている、ですか……」
 妹が望むか望まないかはさておき、騎士たちからもたらされた情報が俺を陰鬱な気持ちにさせる。
 妹が王宮へ出向けば、勘の良い旧知の者ならタリムの容貌からその母を探り当てる者も皆無ではないだろう。
 それでも、血を証明するのは容易いことではない。
 単に似ているというだけで、なんの証もないような娘が無事に王宮に返り咲くことはまず無いだろうが、それを利用したい輩はいくらでも湧く。
 容貌と合わせて正統な証拠の品が提出されては国も動く他なくなる。
 この騎士達が騒げば否が応でもタリムは国のいざこざに巻き込まれるだろう。
 妹がそれを見越してやったとは思えないが、巻き込まれるのを避ける為に物的な証拠を早々に隠滅したのは正解だった。
 タリムは頭は悪いが、生き残るためのギリギリの選択は間違えたことがない。
 父が叩きこんだ理屈は色々忘れているようだが、排除するべき物は無意識に理解しているようだ。
 しみじみと思う。
 ……人は生まれじゃない、育ちだ。
 感慨深く幼かった妹を反芻していると、「そうだ!」と騎士が声を上げる。

「今は前線を退いておられますが、セレスタニア様の騎士であったアディアール騎士なら、如何に姫がセレスタニア様の容貌を継いでいるか保証してくださることでしょう!
 王都に着いたら直ぐにお会い出来るように手配致します」
 壁に持たれていたロイの眉間のシワが僅かに深まった気配がした。
「アディアール騎士ですか……」
 セレスタニア王女に仕えた騎士で、王女亡き後、忠臣二君に仕えずと、誰の騎士にもならず、後進を育てる役を担っているのは巷では有名な英雄譚だ。
「アディアール騎士なら当時の事もお分かりになるかもしれません。
 セレスタニア様の忘れ形見が見つかったとなれば騎士もお喜びになるでしょう」
 うーむ、別の勢力が出てくるのは不味い。
 前線を退いたとはいえ、アディアール騎士なんかが出てきたら世論が盛り上がってしまうかもしれないし。
「ユウキ、聞くな、戯言だ。
 タリムは国とはなんの関係もねぇ。
 俺が出産に居合わせたあの女は、国の王女なんかじゃなかった。
 ただの通りすがりの女が育てられずに産み残していっただけだ。
 騎士の出る幕なんざこれっぽっちもないからな」
 ロイが吐き捨てるようにして言う。
 ロイとしても別の騎士の登場は都合が悪いようだ。
 俺にとってはロイの必死さが何よりもタリムの血統を保証している。
 騎士がどんなに喚いてもロイの否定のほうがずっと真実を告げているのを俺は知っている。
 ロイはそういうやつなのだ。

「アデルア殿は姫が手の届かない存在になるのが余程惜しいとみえるが、姫の幸せを考えれば城へ返す事こそ最善とは思わぬのかね」
「タリムが嫌がっているのに、余計なお世話だ。
 仮に、例えお前らが言うような血が流れていたとしても、それこそ今更、暴いて騒ぎ立てる事じゃねぇ。
 国が乱れる」
 ロイはタリムと国の繋がりを否定したいようだし、タリムを姫にするつもりはないようだ。
 まあ、そんな事になったら、ロイがタリムを独り占めできなくなるもんなー。
 騎士の揶揄も当たらずとも遠からずだと思うよ。
 赤子の頃からタリムをストーキングするくらいの変態がタリムを手放すはずがない。
 俺としては、タリムが姫だと証明する物もなさそうだとわかって、一安心だ。
 アディアール騎士については別口で監視を用意しよう。
「では、仮にタリムが王家の血を引いていたとして、騎士様は妹をどうなさるつもりです?」
 タリムを国に返せば、望まぬ身分を得て様々な責任を負うことになる。
 他の王位継承権を持つ者達より年長のタリムは、下手すれば皇太子候補に担ぎ出される。
「私は、姫には然るべき身分と生活が保証されるべきであると思っている。
 今まで享受されるべきだった姫としての幸せを取り戻して頂きたいのだ。
 もちろん姫の意思は尊重されるべきだが、しかるべき時が来れば私がタリム嬢の騎士となり、お傍で誠心誠意お仕えする所存だ」

 ……こいつ、つまり、タリムをお姫様にしたいのか?!
 こんな姫に仕えたいとは奇特な趣味だな。
「しかし、事実を明らかにする事が妹の命を脅かしかねないのはわかっていますよね」
 権力争いやら政略結婚やらが待ってますからねー。
「……それは……もちろん。
 しかし、城で危険な目になど合わせなどしない!
 そのための騎士だ」
 闘志を燃やして目を輝やかせているが、だいたい、この騎士、強いのか?。
「いゃー、でもですよ?
 なんでも、道中、暗殺者に狙われたとか?」
 知っていて聞くのは意地が悪いが、恐らくこの騎士は暗殺者がどれほど恐ろしいかちっとも分かっていない。
 暗殺者に対して、流行の冒険活劇のように反撃できる事は希なのだ。
「それで、妹は騎士様に守っていただいたのですか?」
 お兄さん、少し意地の悪い気持ちになっちゃった。
 ロイがいなければ今頃タリムの葬式だった。
 それが分からない騎士達の危機感のなさをどうしてくれようか。
「いや……面目無い。しかし、次こそは!」
 次、とか怖いことを言う……。
 暗殺者なんておかしなものが出てくる方が悪いので、決して騎士達が悪い訳では無いのだが、使命感に燃えてはしゃいでもらっては困る。
 力量によって、出来ることは出来るし、出来ないことは出来ないのだ。
「いえ、次があったらおそらく妹は死にます。
 その場にロイが居なければ確実に。
 ロイがいても防ぎきれるかはコインを投げるようなものです。
 どのように守ります?
 牢にでも監禁しますか?」

 ギルドに守られて存在する、今の国の騎士のレベルでは暗殺者を差し向けられたら出し抜かれるだろう。
 それにしても、この騎士、悔しげに拳を握り俯く姿も絵になるなぁ。
 少し蒼ざめて……とか、いかんいかん、新しい扉が開きそう。
 この見た目、父が見たら微妙に気に入りそうだな。
 そうなる前にそろそろ引導を渡してやらねば。

「騎士様、タリムの身柄は今やロイ・アデルアや私たち家族の物ではなく、ギルドのものです。
 例え国王でもギルドからタリムを奪い去ることは出来ないでしょう。
 騎士様然りです」
 そうなのだ、答えは最初から出ていた。
 ここがギルドマスターの家だと知ってやって来たのかどうかは知らないが、ギルドマスターが諾と言わない限り事態が動く事は無いのだ。
 そして、うちの父は娘を溺愛してるので絶対にタダでは手放さない。
「この件について騎士様たち以外にどなたかに話は?」
「いや、おそらく誰も知らないはずだ。
 私は姫の乳母からが口を滑らせた事で偶然知ったが、長い事心に秘める事で姫を想っていた。
 乳母に付けていた者も私の子飼いの手の者で姫については何も話していない。
 部下の二人が偶然知ってしまったことについての責は私にある。
 我等は隊の情報は身内にさえ漏らさない。
 今回のこれも慰安の旅として連れ出したまでだ」

 騎士その1が口を開く。
 長いことしゃべらずに控えていたからか、口の端がぱさぱさになっている。
「モーリス隊長はそれは長い事姫の為に騎士道を捧げてきたのです。
 例えどんな粗野な姫でも、姫に仕える事こそが本懐。
 我等は長く対象もなく王家に仕えてきた隊長に束の間でもその夢を叶えて欲しくてお供して参りました」
 粗野な姫って言いきったのは好感が持てる。
「それに、セレスタニア様にお子がいるなんて、荒唐無稽な話、誰かに話したところで誰が信じるでしょう。
 場合によってはそんなことを言おうものなら我々が処分されかねません」
 騎士その2もよくわかっているようで、大変結構。
「我々もこの事は何も無かった事としてこの場に置き去る心積りです。
 しかも、ギルドマスターの養子とは……我々も独り身とはいえ親兄弟のある身、命が惜しい。
 誓って他言致しません」
 つまり、キラキラ騎士の酔狂を見学しに来た人たちってことでいいのかな?
「それを信じましょう。
 これ以上この話を続けるつもりなら、ギルドの規律を破ってでも騎士を数名行方不明にしてしまう職員が出てしまいそうなので」
 ロイの剣はよく切れるぞ、と。
「そうでなくとも、ギルドには工作員と呼ばれる、人死にが出そうな事態を最小限で未然に防ぐ職員もいまして……」
 わかりやすい脅しに、後ろの騎士1・2は顔色を無くして他言しないと首を振る。
 ギルドの工作員は今や暗殺者よりもわかりやすい脅威だ。
 様々な厄介事を「様々な」やり方で収めるのだが、殺す以外の事はなんでもするので恐れられている。
 王都の騎士達にとって、強姦魔の去勢騒動が耳に新しいかも知れない。
 去勢された挙句、引っこ抜くと激痛がする寄生樹木を背骨に埋め込み、よく育った所で 「こちらが強姦魔です。ご注意くたさい」旗を吊るされた。
 手間のかかる嫌がらせを丁寧にやり抜くのに定評がある。

 いゃー、丁度良い種類の樹木を探すのと、いい高さに育つまで世話するのが大変だったなぁ。
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