騎士にも色々いる 続

砂山一座

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【ギルド工作員ユウキの不満3】

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「この件についてはギルドマスターから国に話を通します。
 妹の命を脅かしかねない事ですので、くれぐれも、そこにいる方々も、『国の深い所におられる方』の事も含めて、滅多なことを他言なさらないように」
 騎士達には気の毒なことだが、全て見て見ぬふりをしてもらうようにする。
 特に皇太子の母に食ってかかるようなことが無いように、と念押しする。
 タリムに被害が及ぶようなことになれば、せっかく引退した父がしゃしゃり出てきて面倒だ。
「くっ……やっと姫とお会いできたというのに」
 なんだろね、この騎士様はいちいち動きがうるさいね。
「私は幼少の頃よりずっと姫にお仕えする事を夢みて生きて参りました。
 騎士道を極めて来たのも全て姫にお仕えするため!」
 断腸の思い、といった顔だが、言ってる事は……わぁ、変態。
 引くわぁ。
「セレスタニア様のお喜びになった薔薇も、私が管理し毎年咲かせております。
 姫の存在を知ってからは、城で退屈なされない様に市井の流行りも勉強しておりました。
 素行の悪い王子達の汚い手で指一本触れさせたり致しません。
 どうか、どうか、お傍に……」
 後半はタリムに向かっての嘆願だったが、今は無視しておこう。
 いや、あのね、悲嘆に暮れてるけど、俺は別にこの騎士が変な陰謀に関与していないのなら一向に構わないのであって。
「えーと、騎士様、お名前は?」
「ニコラ・モーウェルと申します」
「ニコラ・モーウェル殿、つかぬ事をお伺い致しますが、うちのタリムがお好きですか?」
「それは、もう!」
 単刀直入に聞いてみたら、間髪入れずに返事が来る。
 ひゃー、ロイに分けてやりたいぜ、その切れ味。
「それは、タリムが王女の娘であるからお好きなのですか?」
 ずっと俺が気になっているのはそこなのだ。
 男性を役職で好きだという女は割といる。
 それが悪いと言っているのではないが、男女は逆だが、タリムに姫という肩書きがなければ、こんな旨味のない女をいつまでも構わないのではないだろうか。
 もし、この騎士がタリムが姫でなく、アホでもスルメでも愛すると言うのなら、タリムの選択肢は少し広がる。
 少なくともロイしか選択肢がない今の状況からは抜け出せる。

「まて、ユウキ! 面倒な奴を覚醒させるな!」
 ロイが思惑に気が付いたらしく焦り出す。
 ふふふ、いい気味だ。
「ロイは黙ってて。
 俺は、タリムには選択肢が多い方がいいと思うんだ。
 ……どうせ、結果的にはそんなに違わないんでしょ」
 ロイの肩書きには興味ないが、タリムが姫の血筋だと云うなら、生まれた時から何故か近くにいたロイは、おそらく国の偉い誰かの一味だ。
「ユウキ殿、私は……。タリム嬢を……」
 悩め悩め。
 額に手をやり悩ましげに美しい眉根を寄せている騎士を放って、ロイに向き直る。

「ねえ、ねえ、ロイ? この騎士様にタリムのファーストキスを許したんだって? 
 それって、タリムの恋人として相応しいからって許可したわけ?
 ロイは保護者降板?」
 意地悪く尋ねる。
 タリムを守りきれなかったロイなんて禿げてしまえ。
「馬鹿。こんなクソ騎士にやるわけねぇだろ。
 今回のは……タリムがちょっと油断しただけだ」
「ええ? 何その言い方?! 聞き捨てならないよね!
 今回ってことは前回もあるわけ?
 じゃぁ、もうとっくにロイが手を出してたってこと?!」
 これは薮蛇だった。
 ロイはタリムに手を出さないっていう原則を考え直さなければならないかも知れない。
「いや、そういうんじゃねぇ!下衆な事を訊くな」
 憤慨しているが、これは何かあったな。
 許すまじ。
 ガタガタと音を立てて騎士がロイに詰め寄る。
「な、なんだって!? アデルア殿、嫌がるタリム嬢になんと、なんと、酷い事を!」
 掴みかかる勢いだ。
 ……そういえば、しばらく前からタリムがいない。
 ロイと騎士と顔を合わせるのが嫌で、母のテーブルに避難していたようだ。
 チラっとタリムを見ると、母と一緒に朝ごはんの続きを食べ進めている。

 お兄ちゃん達は、お前の事を討論しているんだからな!!

「俺は嫌がられてねぇ!
 仕事上の事情があっての事だ!
 ……今は俺達のことは関係ねぇだろっ」
 ロイはどうやら、ギルドの仕事の際に不本意に口付けることになったようだ。
 どうせ人工呼吸かなにかの、色恋もへったくれも無いようなキスだろう。
 それを見越して「それは、単なる接触であって、キスには数えられないから」と言うと、苦々しい顔を更に苦めた。
 たとえ合意でもタリム相手でファーストキスだなんて思うなよ。
 タリムはロイ相手じゃ、犬に舐められたほどの感慨しか持たないぞ。
「愛の無いままに唇を奪うとは! とんだ悪漢だ!」
 モーウェルさんが怒ってるけど、同罪。
 愛があっても嫌がられたら犯罪です。
「だいたい、嫌がられたのは貴様だろうがっ!
 蕁麻疹出して拒否されていたもんなぁ」
「アデルア殿とて同じ事。
 部屋から追い出されるとは、余程不埒な真似をしたに違いない」
 睨み合うが、妹はどこ吹く風でアホそうにパンをスープに浸している。
 母の趣味でパステルカラーにまとめられた部屋で、つかみかからん勢いで言い争う二人を、冷めた目でみるしかない。
 こいつら、図体ばかりでかくてうるさいなぁ。

「うーん、なんだかなぁ。
 なんかこう、色んな意味で二人とも力不足感が拭えないなぁ」
 俺は腕を組んで首を傾げる。
「ユウキ、お前、何を企んでいる?」
 心配そうに尋ねるロイに、意地悪く微笑んで見せる。
「役者は多い方がいいかなー、って」
「馬鹿、この騎士は騎士として姫姫言いたいだけなんだ!
 余計な事をして引っ張りだそうとするんじゃねぇ」
 そうだよねー、タリムをがっちり囲い込んだ後だし、ロイは今更当て馬なんか欲しくない。
 確かに今なら単に姫という存在への憧れで済みそうな訳だが、俺はこの騎士にもうひと働きしてもらいたいのだ。

「ホントにそうかなぁ。
 俺は割と純粋にタリムを好いてくれてるんじゃないかな、って思ってるけど?
 俺はロイがいつまでもはっきりしないなら、モーウェル騎士に妹を任せてもいいかなって」
「なっ……」
 俺の意思表明に顔色を失う。
 俺が敵に回るのは怖かろう!
「だって、父さんから敵認定されてないし。
 ギルドとは関係ないし。
 稼ぎも良さそうだし。
 キラキラだし。
 仕事で女と寝る趣味無さそうだし」
「そんな趣味は無い。ただの仕事だ」
「ロイだって陰ながらに見守って、いい人がいれば見送るってずっと公言してきて、良き兄のような立ち位置を貫いてきた訳だし。
 そのつもりで花街の仕事も受けてきたんじゃないの?」
 おっと、これはなかなか効いているんじゃないの?
「それは……」
 そんなんじゃないのは、本人達より俺の方が分かってるんじゃないかな、と思う。
 だが、俺は煽る!煽りまくってやる!!
「それが原因でタリムは女の子達に公道で引っぱたかれたりしてるのにさ」
 タリムの動向はギルドを通して俺の耳に入るようにしてある。
 もちろんロイの働きぶりも。
 その結果ロイに惚れた花街の新人が、タリムに殴りかかったとか何度も聞いて、頭が痛かった。
 だいたい、花街の仕事はいくらでも免除される項目がある仕事なのだ。
 既婚者、恋人がいる組合員はもちろんのこと、想い人がいるとか、年頃の兄弟姉妹がいるとか、童貞だとか、性的対象が女性以外だとか、どんな理由でも辞退できる。
 家族の反対で、なんてのでも免除されるくらいだ。
 その仕事を断らずにこなしている時点で、タリムとの関係性を否定しているのに、実際はベタベタといつまでもタリムにひっついている。
 一夜の夢を見せられる花街の女達は、二度と自分を抱きに来ないロイと、いつまでもロイが離れないぼーっとしたタリムにイライラを募らせるのだ。
 タリムからロイを奪ってやるといきりたって向かっていった嬢も居たようだが……タリムには糠に釘だったようで……なんて聞かされる俺の方が居た堪れない。

「……それはどうにかする」
「どうにかって、どうするの?
 だれかと所帯でも持って仕事を受けなくするの?
 それとも山ほどいる取り巻きの中から選んで彼女でもつくる?
 タリムをふところにいれたまま?
 今度は引っぱたかれるだけじゃ済まないよね。
 刺されるね。
 しかも刺されるのはタリムだよ!」
 まぁ、妹は刺されて死ぬほど弱くはないが。
「ユウキ、落ち着け。
 本当に白黒ハッキリさせるから、とりあえずタリムの事は俺に任せておけ」
「待ちくたびれたから、いってるんだけど」
 タリムも悪いがロイも相当だ。
「アデルア殿、貴殿は剣の腕はたつが、聞くところによると姫の傍に仕えるには素行が著しく悪い様に見受けられる。
 姫に相応しいとは思えない。
 即刻、私と立場を入れ替えるべきだ!」
「ほっとけ」
 騎士は何かが吹っ切れた様子で今度は俺に詰寄る。
「ユウキ殿、いや、兄君!
 私は、私はっ!
 例え姫でなくとも!
 タリム嬢をっ!!
 タリム嬢として愛しております故っ!!」
 一言喋る毎に近づいてくる。
 あー、近い近い近い。
 距離感まちがってない? 超近いよ。
 俺にもキスするの?
「アデルア殿にタリム嬢を任せるのはおやめください。
どうか、兄君として私との交際の後押しを!!」
 うーむ。
 圧がすごいな。
「では、仰るようにタリムをタリムとして、単なるギルドのメンバーとして、そして普通の一人の街の娘として見ていただけませんか。
 ダメな妹でも受け入れてくださる方なら、喜んで後押しいたしましょう。
 ただし、妹があなたを望むなら、です」
 そこで冷え冷えと騎士を睨む。
「許しもなく口付けするなど、言語道断!」
 ニコラ・モーウェルはがくりと膝から崩れ落ちた。
「許しがあっても、その気が無いならしちゃダメだとおもうんだけどね」
 ロイも睨むと、バツが悪そうに目をそらす。
「という訳で、騎士様方はお引き取り願いたい。
 妹との事は申し訳ないが、王都に戻った後に個人的に妹と話し合っていただきたい。
 さあ、ここからはギルド内部の話になるので、部外者が立ち会うことは出来かねます」
 ドアを開けて騎士達に退出を願う。
 耳を塞ぐタリムに、名残惜しそうに王都でお待ちしておりますとか何とか宣って騎士達は出ていった。


 ここからはロイに話を聞く番だ。
 下心がどう爆発したのかをね……。
「何がギルド内の話だ、単なる家族会議だろ。
 俺への糾弾なら聞かねぇからな」
 腕を組み壁に凭れながらロイが口を開いた。
「あーあ、ロイ、さっきのは嘘だろう?
 遂にタリムに手を出したな。
 実家に近いところで勝負に出るなんて、さすが変態はやる事がエグイなぁ」
「出してねぇ!」
 あ、目が泳いだ。
 何かしたな?
「え? 出してないの? この状況で手が出てないとすると、今の騎士に根こそぎ持っていかれちゃうよ」
「お前がお膳立てしたんじゃねぇか」
「だって、今のままじゃ、タリムは流されてロイの手中へ、だよ。
 ロイがヘタレでタリムが無頓着なのは知ってるけど、何となくそうなりましたとか、本当にやめて欲しい」
「……それはちゃんとする」
「妹が恋かなんだか分からないうちに、全部済んでましたとか、どちらも哀れで嫌なんだけど」
「俺だってそんなの真っ平御免だ」

 言ったからにはタリムをきっちり口説いて貰おうじゃないか。
 それでもタリムには、ロイの気持ちは真っ直ぐには届かないのかもしれない。
 タリムには時間が要る。
 意識せずに身内として取り込んでしまった者を、改めて異性として認め、どうするかを決めるだけの時間が。
 生活に絡みついたロイの好意を、一々意識して吟味する時間がなければ、この先に進むべきではないだろう。
 俺は妹には幸せになって欲しいだけなんだ。


「ちょっと、ロイ・アデルアに話があります」
 頭を抱えて難しい顔をしていたタリムが今まで顔を背けてきたロイに言う。
「まて、タリム早まるな」
 急いで変な答えを出すのを止めてやったのに、お兄ちゃんは外して、と冷たい答えが返ってきた。
「ロイ・アデルアに確かめたい事があるんです」
 何かを決意したような風には見えないし、拗れるからやめろって。
「パパのお部屋が空いてるわ。使っていいわよー」
 母はそれはそれは満面の笑みで許可した。

 パタンとドアの閉まる音がした。
 俺がのぞきに行こうとするのを母が凄い笑顔で威圧してくる。
 仕方なく、母の向かいに座る。
「ユウキ、心配なのはわかるけど、タリムのことはロイに任せておけばいいのよ」
 そうしておいたから、変な風に拗れ尽きているんだが。
「あなたの仕事と、タリム達の仕事は違うわ」
 それはそうだ。
「あの子達、互いが命を落とすような目には何度も遭ってるし。
 もう愛とか恋とかでは追いつけない域のやり取りをしてしまっているのよ」
「それはわかってるよ」
「ねぇ? 本当にわかってる? 
 ユウキは、もしあなたのクソ生意気な彼女が死にかけていたら、命を奪ってあげる覚悟はある?」
「……」
 俺にとっては、そんな覚悟は想定外だっだ。
 俺は彼女をそんな目には遭わせない、と誓っているし、生き死にからは少し遠い所での仕事だ。
 自ら愛しい相手の命を奪う事など、考えたことも無かった。
「そういう関係になんと名前をつけたらいいか私にはわからないわ。
 お母さんはパパが死にかけて苦しんでいても、その願いを叶えるのは絶対に無理」

 なんかいいこといった風だが、ちょっと待て。
 母さん……俺の彼女をクソ生意気っておもってたのか。

「タリムとロイのことなんか俺が一番わかってるよ」
「そうよね。ユウキはお兄ちゃんだものね」
 母が俺の頭を撫でる。

 妹は知らない。
 ロイがどれほどの執念を持ってタリムを得ようとしてきたのかを。
 今タリムの傍に居る為にどれだけの代償を払ったか。
 ロイの情熱にタリムは同じ情熱無しに応えるべきではない。
 そんなことになったら、ロイは姫に付き従うだけの憐れな騎士様になってしまう。

 俺は妹がロイの元に身を寄せるのに反対だった。
 ロイがどんなつもりでタリムを欲しているのかもちろん知っていたし。
 妹が頭からバリバリ食われてしまうと思っていた。
 それなのに、妹はロイが花街での仕事を続けてもなんでもない様子で日々を過ごしている。
 時々女達に叩かれたりしても、なんやかんやと受け流して、空気のような存在で何年もロイの手中にいる。
 ロイと離れるなんて選択肢が無いくせに、ただ傍に居る。

 歯がゆいのだ。
 俺は妹もロイも大好きな家族だから。


 半刻ほど経って、ロイの悲鳴だか慟哭だかが閉ざされたドア越しに聞こえてきたような気がした。
 気にはなったが無視を決めこみ、二人が出てくるのを待った。
 しばらくして、どたどたとロイが出てきた。
 しょんぼりとタリムが続いて出てくる。
「タリム、一先ず今みたいな関係は解消する。
 仕事では組むだろうが、あくまでも仕事上の付き合いだ」
「そんなぁ……」
「俺は一人で帰る。
 お前はユウキにでも着いてきて貰え。
 どうせユウキも王都で仕事があるはずだろ」
 背を向けて玄関へ向かうロイの服の端を引き、タリムが止める。
 服が切れそうなくらいお互い力を入れている。
「つまり、わたしに恋愛感情があればいいってことですよね?
 大丈夫です。
 出来ます!」
 え? なんか、どうしてそうなった?
 わぁ、これは二人に任せておいたら、余計に酷いことになってきているんじゃないかな?
 母を振り返ると、あらあら、とか言いながらキッチンに引っ込んで行った。

「お前が俺を異性として意識してるっていうのか?
 ハッ、出来ない約束はするもんじゃねぇな」
「してます、してますよ!」
「嘘つけ! ユウキの言うとおり、クソ騎士にでも嫁ぐことも視野に入れておくんだな」
 ロイはタリムを薙ぎ払い、捨て台詞を吐く。
「ロイ・アデルア、待ってください!」
 ロイはそれはもう悲惨な顔をして出ていった。
「タリィ? ロイに何したの?」
「お兄ちゃん、恋愛感情ってなに?! 無いとダメなの?」
 泣き崩れる妹に何と声を掛けたらいいやら……

「ええー……駄目だろ、そりゃ」
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