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前世の働き者姉ちゃんもクラスのアイドル妹もズルい
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「姉ちゃん、ズルい!」
私は、後ろから掛かる妹の声に溜息を吐いた。
「なんなのよ、杏奈。もうバイトに行かなきゃいけないんだけど」
振り返ると、妹である杏奈が、かわいいと評判の綺麗な二重の、大きな瞳を吊り上げて怒ってくる。
「またお姉ちゃんだけ出かけて」
ぷくーっと膨らませた頬がまた小動物のようで、クラスの男の子にモテるんだろうなあと僻みの目を向けつつ、私は溜息をつく。
「あのねえ、私は今から仕事に行ってくるの。それ、分かってる?」
そう、私は今から再び仕事に出かける。
昼間は、事務系の会社で働き、夜はお店で酒を注ぐ。
そうでもしないと、生活できないからだ。
私は、この可愛らしい妹杏奈と二人暮らし。
両親は事故で四年前に亡くなった。
良い両親ではあったが、母が病気がちということもあり、生活は苦しかった。
そして、母が亡くなり、追うようにして父が亡くなった。
私が働ける年まで育ててくれたことが不幸中の幸いだった。
頼れる人もおらず、私は妹を不幸な子にさせない為いっぱい働いた。
妹は私と違って不幸が似合わない。
私は母親似のうっすい顔だが、妹は父親似で目鼻立ちのはっきりした正直アイドルにいてもおかしくないような顔だった。
嫉妬はしたが、それ以上に何故か同情してしまった。この顔で貧乏はあんまりだ、と。
それは私の願望でもあったのかもしれない。こんな顔で生まれて、不幸なんて知らずに、明るく生きてみたい。
勝手に自分の理想を妹に求めていたのかもしれない。
しかし、妹は、やはり私の理想である、あまり考えないポジティブ思考の持ち主で、そのまますくすくと育ってくれた。
勿論、贅沢はさせてあげられなかったが、なんとか短大までは行かせてあげられそうだ。
そんな私の嫉妬交じりの理想の女が、何故こんなことを言ってくるのか。
なんだ、夜の街で声かけられて自尊心を高めたいのか。
私は母親譲りの自慢の三白眼で妹をじろりと見る。
妹は、俯いて、何事か呟いている。
「だから、そういうところが、ずるいんじゃん……」
何がズルいというのか。まさか少しばかり自分の稼ぎを誤魔化して、趣味の本を買っているのがばれているのか。いや、それを知っていて言わないのか。そして、その感じで直接的なことは言わず私を脅す気かそれはズルいんじゃないか、妹よ。
「な、何がよ……あ、あー! そうだ! ゲーム! ゲーム新しいの買ってあげようか?」
決して脅しに屈したわけではない。優しさだ。見た目では、完全試合達成されても、内面では死球受けてでも塁に出てみせる! あれ? 死球で塁に出ても完全試合は達成なんだっけ?
とにかく……物で吊ろう。
妹は派手な顔の癖に意外に物持ちが良い。
四年前両親が亡くなって初めての誕生日、私が奮発して買ってあげた携帯ゲーム機を未だに綺麗に使っている。
なので、ソフト? の一本や二本買えば私の本など十冊は買える。だから、大人しくしろしてください、妹よ。
「いい、コレやるから」
妹が、その携帯ゲーム機を持ち出し、こちらに背を向けてスイッチを入れる。
そのソフトは携帯ゲーム機と一緒に買ってあげたもので、中古だしかなり古い。
乙女ゲームという奴で、妹はもう多分何十回とクリアしているはずだ。
どんだけ好きなんだ妹よ。
「どんだけ好きなんだ妹よ」
あ、マズい。声に出た。
すると、妹は顔を真っ赤にして怒ってくる。
「は、はあ!? べ、別に……ぇちゃんのことなんて全然好きじゃないですけど!」
「妹よ、お前はゲームソフトをちゃん付で呼ぶのか」
何でもちゃんを付けて許されるのはようじょか、豪華なおばちゃんくらいだぞ。
すると、妹は一瞬「え?」という顔をして、そのあと更に顔を茹蛸レベルで真っ赤にし、眉間に皺を寄せ、頭を掻き、再びこちらに背を向けてゲームを再開した。
「うるさい! ねえちゃんなんて嫌い!」
乙女ゲームちゃんは好きで、姉ちゃんは嫌いなのか。
姉ちゃんは悲しいよ。
「……じゃあ、行ってくるね」
「……」
ピコピコという返事を受け取り、私は玄関から外に出た。
それにしても、本当にあのゲーム好きなんだな。
誕生日3周してもまだやってるもんな。
あ、そういえば、妹の誕生日は来月か。
あれ? じゃあ、私の誕生日は……
「今日だ」
誕生日に、妹に嫌いと言われる私、あんはっぴーばーすでー。
流石、妹とは真反対の幸薄顔やでえ。
客も、なんか余裕あるやさしそうなおじいちゃんばっかりだしな。
凄い毎回食べ物くれるしな。
お陰で食費が浮くしな。
今日も、きっといいものくれるだろう。
うん、はっぴーばーすでー。
でも……きっと帰る頃には日が変わってて……
「おめでとうって言ってほしかったなあ」
コンクリートジャングルの真ん中で幸薄チンパンジー(メス)は上を向いて歩く、涙が零れないように。
スキヤキ……食べたい。
よし、肉なし豆腐多めのスキヤキを明日作ろう。誕生日翌日くらいいいじゃないか。
そう自分に気合を入れて、妹からもらえなかった「おめでとう」の代わりの誕プレ(自作)で誤魔化そうと心に決めたその時。
「ねえちゃん!!!」
あまりの幸薄っぷりに神様が幻聴のプレゼント。うわーい。妹の声が聞こえるよ。
「ねえちゃん!!!!」
あれ、おかわり? うそうそラッキー。
ってんなわけないだろ!
振り返ると、妹が息を切らせて、膝に手を突いていた。
何してんの、あの子。息切らせてる姿はなんかエロイなおい。
「どした? 杏奈?」
「あの! 琴音……姉ちゃん! あの、今日家にけ、ケー……!」
妹は必死な顔もかわいいなあ。
うんうん、横から光が当たる顔もかわいい。
光!?
見るとトラックがふらふらと近づいてくる。
うそでしょ!
そういう不幸は妹には似合わないんだって!
私は慌てて、地面を蹴り妹に近づく。
左側を見つめて動けなくなってる妹の手を握り引き寄せ間に合っ……
ぐらりと身体が揺れる。世界が傾く。
あ、やべこれ位置入れ替わってるな。
いや、やばくはないか。
幸薄女のエンディングとしてはドラマチックなほうか。
妹よ、そんな顔するな。通帳には結構ある。黙っててごめん。
そして、これからもっと苦労させちゃうなごめん。
駆け寄ろうとする妹の二重の美しいアイドル顔、指、手、腕。
それらよりも早く左から衝撃。まっくら。
ごちゃとみたいな音と共に私は一瞬の光のあと『見慣れた山の中』に居た。
「杏奈!」
コルネリアは、はっと身体を起こし、そう叫ぶ。
と、同時に横から風と共に声が飛ぶ。
「琴音ねえちゃん!」
横を見ると、ぼんやりとしたアンジェリカが涙を流しながら、起き上がっていた。
コルネリアはその時、自分も泣いていたことに気づく。
そして、アンジェリカの少し吊り目のサファイアブルーの瞳が小柄で女の子らしいコルネリアをとらえ、コルネリアの大きな瞳がすらりとした凛々しいアンジェリカをとらえ、同時に口を開いた。
「お姉さまが杏奈!?」「コルネリアが琴音ねえちゃん!?」
前世の姉が現世の妹で前世の妹が現世の姉、早口言葉のような奇妙な姉妹がここに誕生する。
「「うそでしょ~!!」」
私は、後ろから掛かる妹の声に溜息を吐いた。
「なんなのよ、杏奈。もうバイトに行かなきゃいけないんだけど」
振り返ると、妹である杏奈が、かわいいと評判の綺麗な二重の、大きな瞳を吊り上げて怒ってくる。
「またお姉ちゃんだけ出かけて」
ぷくーっと膨らませた頬がまた小動物のようで、クラスの男の子にモテるんだろうなあと僻みの目を向けつつ、私は溜息をつく。
「あのねえ、私は今から仕事に行ってくるの。それ、分かってる?」
そう、私は今から再び仕事に出かける。
昼間は、事務系の会社で働き、夜はお店で酒を注ぐ。
そうでもしないと、生活できないからだ。
私は、この可愛らしい妹杏奈と二人暮らし。
両親は事故で四年前に亡くなった。
良い両親ではあったが、母が病気がちということもあり、生活は苦しかった。
そして、母が亡くなり、追うようにして父が亡くなった。
私が働ける年まで育ててくれたことが不幸中の幸いだった。
頼れる人もおらず、私は妹を不幸な子にさせない為いっぱい働いた。
妹は私と違って不幸が似合わない。
私は母親似のうっすい顔だが、妹は父親似で目鼻立ちのはっきりした正直アイドルにいてもおかしくないような顔だった。
嫉妬はしたが、それ以上に何故か同情してしまった。この顔で貧乏はあんまりだ、と。
それは私の願望でもあったのかもしれない。こんな顔で生まれて、不幸なんて知らずに、明るく生きてみたい。
勝手に自分の理想を妹に求めていたのかもしれない。
しかし、妹は、やはり私の理想である、あまり考えないポジティブ思考の持ち主で、そのまますくすくと育ってくれた。
勿論、贅沢はさせてあげられなかったが、なんとか短大までは行かせてあげられそうだ。
そんな私の嫉妬交じりの理想の女が、何故こんなことを言ってくるのか。
なんだ、夜の街で声かけられて自尊心を高めたいのか。
私は母親譲りの自慢の三白眼で妹をじろりと見る。
妹は、俯いて、何事か呟いている。
「だから、そういうところが、ずるいんじゃん……」
何がズルいというのか。まさか少しばかり自分の稼ぎを誤魔化して、趣味の本を買っているのがばれているのか。いや、それを知っていて言わないのか。そして、その感じで直接的なことは言わず私を脅す気かそれはズルいんじゃないか、妹よ。
「な、何がよ……あ、あー! そうだ! ゲーム! ゲーム新しいの買ってあげようか?」
決して脅しに屈したわけではない。優しさだ。見た目では、完全試合達成されても、内面では死球受けてでも塁に出てみせる! あれ? 死球で塁に出ても完全試合は達成なんだっけ?
とにかく……物で吊ろう。
妹は派手な顔の癖に意外に物持ちが良い。
四年前両親が亡くなって初めての誕生日、私が奮発して買ってあげた携帯ゲーム機を未だに綺麗に使っている。
なので、ソフト? の一本や二本買えば私の本など十冊は買える。だから、大人しくしろしてください、妹よ。
「いい、コレやるから」
妹が、その携帯ゲーム機を持ち出し、こちらに背を向けてスイッチを入れる。
そのソフトは携帯ゲーム機と一緒に買ってあげたもので、中古だしかなり古い。
乙女ゲームという奴で、妹はもう多分何十回とクリアしているはずだ。
どんだけ好きなんだ妹よ。
「どんだけ好きなんだ妹よ」
あ、マズい。声に出た。
すると、妹は顔を真っ赤にして怒ってくる。
「は、はあ!? べ、別に……ぇちゃんのことなんて全然好きじゃないですけど!」
「妹よ、お前はゲームソフトをちゃん付で呼ぶのか」
何でもちゃんを付けて許されるのはようじょか、豪華なおばちゃんくらいだぞ。
すると、妹は一瞬「え?」という顔をして、そのあと更に顔を茹蛸レベルで真っ赤にし、眉間に皺を寄せ、頭を掻き、再びこちらに背を向けてゲームを再開した。
「うるさい! ねえちゃんなんて嫌い!」
乙女ゲームちゃんは好きで、姉ちゃんは嫌いなのか。
姉ちゃんは悲しいよ。
「……じゃあ、行ってくるね」
「……」
ピコピコという返事を受け取り、私は玄関から外に出た。
それにしても、本当にあのゲーム好きなんだな。
誕生日3周してもまだやってるもんな。
あ、そういえば、妹の誕生日は来月か。
あれ? じゃあ、私の誕生日は……
「今日だ」
誕生日に、妹に嫌いと言われる私、あんはっぴーばーすでー。
流石、妹とは真反対の幸薄顔やでえ。
客も、なんか余裕あるやさしそうなおじいちゃんばっかりだしな。
凄い毎回食べ物くれるしな。
お陰で食費が浮くしな。
今日も、きっといいものくれるだろう。
うん、はっぴーばーすでー。
でも……きっと帰る頃には日が変わってて……
「おめでとうって言ってほしかったなあ」
コンクリートジャングルの真ん中で幸薄チンパンジー(メス)は上を向いて歩く、涙が零れないように。
スキヤキ……食べたい。
よし、肉なし豆腐多めのスキヤキを明日作ろう。誕生日翌日くらいいいじゃないか。
そう自分に気合を入れて、妹からもらえなかった「おめでとう」の代わりの誕プレ(自作)で誤魔化そうと心に決めたその時。
「ねえちゃん!!!」
あまりの幸薄っぷりに神様が幻聴のプレゼント。うわーい。妹の声が聞こえるよ。
「ねえちゃん!!!!」
あれ、おかわり? うそうそラッキー。
ってんなわけないだろ!
振り返ると、妹が息を切らせて、膝に手を突いていた。
何してんの、あの子。息切らせてる姿はなんかエロイなおい。
「どした? 杏奈?」
「あの! 琴音……姉ちゃん! あの、今日家にけ、ケー……!」
妹は必死な顔もかわいいなあ。
うんうん、横から光が当たる顔もかわいい。
光!?
見るとトラックがふらふらと近づいてくる。
うそでしょ!
そういう不幸は妹には似合わないんだって!
私は慌てて、地面を蹴り妹に近づく。
左側を見つめて動けなくなってる妹の手を握り引き寄せ間に合っ……
ぐらりと身体が揺れる。世界が傾く。
あ、やべこれ位置入れ替わってるな。
いや、やばくはないか。
幸薄女のエンディングとしてはドラマチックなほうか。
妹よ、そんな顔するな。通帳には結構ある。黙っててごめん。
そして、これからもっと苦労させちゃうなごめん。
駆け寄ろうとする妹の二重の美しいアイドル顔、指、手、腕。
それらよりも早く左から衝撃。まっくら。
ごちゃとみたいな音と共に私は一瞬の光のあと『見慣れた山の中』に居た。
「杏奈!」
コルネリアは、はっと身体を起こし、そう叫ぶ。
と、同時に横から風と共に声が飛ぶ。
「琴音ねえちゃん!」
横を見ると、ぼんやりとしたアンジェリカが涙を流しながら、起き上がっていた。
コルネリアはその時、自分も泣いていたことに気づく。
そして、アンジェリカの少し吊り目のサファイアブルーの瞳が小柄で女の子らしいコルネリアをとらえ、コルネリアの大きな瞳がすらりとした凛々しいアンジェリカをとらえ、同時に口を開いた。
「お姉さまが杏奈!?」「コルネリアが琴音ねえちゃん!?」
前世の姉が現世の妹で前世の妹が現世の姉、早口言葉のような奇妙な姉妹がここに誕生する。
「「うそでしょ~!!」」
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