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6話 五十路、最初のお嬢様をお迎えする。
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さて、今までは研修期間として、若井さんの後ろについて教わるのが主でしたが、今日からは一人の執事として、お客様、もとい、ご主人様、お嬢様、お坊ちゃまにお仕えせねば。
『まあ、基本白銀は年上に見えるでしょうから、お嬢様・お坊ちゃまでいいっすよ。ご主人様はそう呼ぶよう言われた時だけで』
『かしこまりました』
若井さんに研修中、そう仰っていただいた時には、ほっとしました。
なんせ皆さんお若く見えるもので、私より上か下かなんて判断がつきません。
『白銀の大人っぷりが半端ないだけだと思いますけど……』
『年寄りですからね……』
『もう、俺はそれを嫌味だと認識し始めてるからな』
何故か、若井さんは研修中にそう言い始めました。
私もそう言われてから、他の方の前では控えるようにしていますが、調子のよいときは若井さんには使わせていただきます。
若井さんは眉間に皺を作りながらも楽しそうに、そう、ツッコんでくれるのです。
若井さんとは年は離れていますが、この時はかなりフランクに話しかけてくださるので、ちょっとやってしまいます。
そんな若井さん、もとい、執事名で、千金楽さんがオープン前ミーティングの前に近づいてきます。
「今日はまず、白銀にはあさイチの予約の対応からしてもらいます。オーナーのお知り合いなので、そこまで気負わなくていいです」
「予約の方の対応だけで良いのですか?」
基本執事喫茶【GARDEN】は、執事長が、各テーブルの状況を見て、執事たちに指示を出します。その判断で、このお嬢様お坊ちゃまにはこの執事が相性がいいという事で多めに付くテーブルもありますが、担当というのはありません。
なので、私は思わず千金楽さんに聞き返してしまいます。
「いいのいいの、あんま色んなテーブルつかせるとオーナーが不機げっ……こほん、オーナーが最初は一人に丁寧な対応をとね、おっしゃってね、やさしいオーナーダネ、うん! とにかく! 最初のご予約の方は、未夜さんっていうウチの常連さん……まだ、会ったことないんだっけ?」
「はい」
「まあ、オーナーが人前に出すの嫌がって別室やらキッチンでの研修多かったしなあ」
こんな年寄り中々出すわけにはいきませんものね。
「はい、絶対ズレた事かんがえてるー。まあ、いいや。とりあえず、常連さんなので、リラックスして、対応。お帰りになられたら、通常の業務に戻って、黒鶴さんの指示に従うように」
「かしこまりました」
そうでしたか、オーナーの……! 私が感動し思わずオーナーの方を向くと、オーナーはものすごい目つきで千金楽さんを睨んでいましたが、私が見ていることに気付くと、慌てて何故か身体をパタパタ叩き始めます。私は何も危ないものを持っていない、みたいな動きですが、すぐにハッとし、小さく私に手を振ってくださいます。
オーナーである南さんは本当にエネルギッシュで、表情豊かでかわいらしい方です。
そして、私のような年寄りを拾ってくださった方。
今日のご配慮にも応え誠心誠意お仕えさせていただこう。
私はオーナーへの感謝を精一杯微笑みと礼に込めます。
私が顔を上げると南さんは顔を押さえながらどこかへ駆け去ってしまいました。
『キモかった』んでしょうか。
「白銀ぇ……お前、微笑みは出来るだけ抑えて微笑んでね」
千金楽さんが呆れたように言ってきます。
こういう時の千金楽さんは本当に遠慮がありません。
その感じを喜ぶ私もいけませんが。
「分かりました……『キモく』ならないように抑えます」
「いや、キモくっていうより、一部の人たちが気持ちよくなっちゃうから……まあ、いいや。とにかく出来るだけ微笑みは小さく微笑め、な?」
難しい注文に頭を悩ませながら私は千金楽さんに連れられて、オープン前のミーティングに参加します。
「では、皆さん。本日もご主人様達がより良い一日を過ごせるよう心を込めて自分の出来ることを精一杯に。よろしくお願いします」
「「「「「「「はい。よろしくお願いします」」」」」」」
黒鶴さんからの伝達事項と掛け声を受け、みんなで声を掛け合い、今日も執事喫茶【GARDEN】のオープンです。
本日最初にご帰宅されたお嬢様は、千金楽さんに言われたご予約の方でした。
「お帰りお待ちしておりました。未夜お嬢様」
出迎えのスタッフに連れられて入ってこられたのは、左右で桃色と灰色に分かれたロングヘアーで、背の高い、垂れ目ではありますが気の強い印象を受ける、そう、まるで夜のような深い黒い瞳のお嬢様でした。
私は、出迎えのスタッフ、そして、執事長の黒鶴さんとアイコンタクトを交わし、お嬢様の元へ向かいます。
「お帰りなさいませ、未夜お嬢様」
私が礼をし、顔を上げると、くっつきそうな位の距離で私を見つめるお嬢様のお顔が。
「……今日はよろしくね、白銀」
吸い込まれるような夜空を持つ瞳で私を見つめる未夜様に、私は精一杯の微笑みで応えます。
「はい、おまかせください。お嬢様」
「……ん~、ヤバいかも」
あ、やってしまいました。微笑みは出来るだけおさえろと千金楽さんに言われたのに。
お嬢様にヤバいと言われてしまいました。
しかも、目を見開いたあと、口元に手をあてて天井をご覧に。眉間には困ったように小さく皺が。
ああ、まったくもう。年寄りは忘れっぽくて本当にいけません!
『まあ、基本白銀は年上に見えるでしょうから、お嬢様・お坊ちゃまでいいっすよ。ご主人様はそう呼ぶよう言われた時だけで』
『かしこまりました』
若井さんに研修中、そう仰っていただいた時には、ほっとしました。
なんせ皆さんお若く見えるもので、私より上か下かなんて判断がつきません。
『白銀の大人っぷりが半端ないだけだと思いますけど……』
『年寄りですからね……』
『もう、俺はそれを嫌味だと認識し始めてるからな』
何故か、若井さんは研修中にそう言い始めました。
私もそう言われてから、他の方の前では控えるようにしていますが、調子のよいときは若井さんには使わせていただきます。
若井さんは眉間に皺を作りながらも楽しそうに、そう、ツッコんでくれるのです。
若井さんとは年は離れていますが、この時はかなりフランクに話しかけてくださるので、ちょっとやってしまいます。
そんな若井さん、もとい、執事名で、千金楽さんがオープン前ミーティングの前に近づいてきます。
「今日はまず、白銀にはあさイチの予約の対応からしてもらいます。オーナーのお知り合いなので、そこまで気負わなくていいです」
「予約の方の対応だけで良いのですか?」
基本執事喫茶【GARDEN】は、執事長が、各テーブルの状況を見て、執事たちに指示を出します。その判断で、このお嬢様お坊ちゃまにはこの執事が相性がいいという事で多めに付くテーブルもありますが、担当というのはありません。
なので、私は思わず千金楽さんに聞き返してしまいます。
「いいのいいの、あんま色んなテーブルつかせるとオーナーが不機げっ……こほん、オーナーが最初は一人に丁寧な対応をとね、おっしゃってね、やさしいオーナーダネ、うん! とにかく! 最初のご予約の方は、未夜さんっていうウチの常連さん……まだ、会ったことないんだっけ?」
「はい」
「まあ、オーナーが人前に出すの嫌がって別室やらキッチンでの研修多かったしなあ」
こんな年寄り中々出すわけにはいきませんものね。
「はい、絶対ズレた事かんがえてるー。まあ、いいや。とりあえず、常連さんなので、リラックスして、対応。お帰りになられたら、通常の業務に戻って、黒鶴さんの指示に従うように」
「かしこまりました」
そうでしたか、オーナーの……! 私が感動し思わずオーナーの方を向くと、オーナーはものすごい目つきで千金楽さんを睨んでいましたが、私が見ていることに気付くと、慌てて何故か身体をパタパタ叩き始めます。私は何も危ないものを持っていない、みたいな動きですが、すぐにハッとし、小さく私に手を振ってくださいます。
オーナーである南さんは本当にエネルギッシュで、表情豊かでかわいらしい方です。
そして、私のような年寄りを拾ってくださった方。
今日のご配慮にも応え誠心誠意お仕えさせていただこう。
私はオーナーへの感謝を精一杯微笑みと礼に込めます。
私が顔を上げると南さんは顔を押さえながらどこかへ駆け去ってしまいました。
『キモかった』んでしょうか。
「白銀ぇ……お前、微笑みは出来るだけ抑えて微笑んでね」
千金楽さんが呆れたように言ってきます。
こういう時の千金楽さんは本当に遠慮がありません。
その感じを喜ぶ私もいけませんが。
「分かりました……『キモく』ならないように抑えます」
「いや、キモくっていうより、一部の人たちが気持ちよくなっちゃうから……まあ、いいや。とにかく出来るだけ微笑みは小さく微笑め、な?」
難しい注文に頭を悩ませながら私は千金楽さんに連れられて、オープン前のミーティングに参加します。
「では、皆さん。本日もご主人様達がより良い一日を過ごせるよう心を込めて自分の出来ることを精一杯に。よろしくお願いします」
「「「「「「「はい。よろしくお願いします」」」」」」」
黒鶴さんからの伝達事項と掛け声を受け、みんなで声を掛け合い、今日も執事喫茶【GARDEN】のオープンです。
本日最初にご帰宅されたお嬢様は、千金楽さんに言われたご予約の方でした。
「お帰りお待ちしておりました。未夜お嬢様」
出迎えのスタッフに連れられて入ってこられたのは、左右で桃色と灰色に分かれたロングヘアーで、背の高い、垂れ目ではありますが気の強い印象を受ける、そう、まるで夜のような深い黒い瞳のお嬢様でした。
私は、出迎えのスタッフ、そして、執事長の黒鶴さんとアイコンタクトを交わし、お嬢様の元へ向かいます。
「お帰りなさいませ、未夜お嬢様」
私が礼をし、顔を上げると、くっつきそうな位の距離で私を見つめるお嬢様のお顔が。
「……今日はよろしくね、白銀」
吸い込まれるような夜空を持つ瞳で私を見つめる未夜様に、私は精一杯の微笑みで応えます。
「はい、おまかせください。お嬢様」
「……ん~、ヤバいかも」
あ、やってしまいました。微笑みは出来るだけおさえろと千金楽さんに言われたのに。
お嬢様にヤバいと言われてしまいました。
しかも、目を見開いたあと、口元に手をあてて天井をご覧に。眉間には困ったように小さく皺が。
ああ、まったくもう。年寄りは忘れっぽくて本当にいけません!
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