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9話 イケメン、ヤンキー女子に掴まれる★
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【一也視点】
六月十五日、カルム再オープン三日目。お昼の時間になっても客が途絶えることはない。
年齢層は幅広く。全ての層に受け入れられているのだろう。
ただ、勿論、全てのお客様に満足いただけるわけではない。
「ちょっと、今日のは濃いかったねえ。これ、持ち帰っていい?」
お婆さんが食べきれなかったようで聞いてくる。
「すみません、持って帰るのは」
「ああ、そう……じゃあ、ごめんなさいね」
今日のランチはチーズをふんだんに使ったパスタ。
好き嫌いもあるだろうし、若者向けに作ったので少し重かったのかもしれない。
「ああ、そう。たくちゃんはどうしちゃったの?」
「たくちゃん? すみません、今ちょっといなくて」
たくちゃんが誰なのか分からない。そんなスタッフいたか?
もしかしたら、おばあさんはちょっとボケているのかもしれない。
「そうなの……まあ、しょうがないねえ。じゃあ、珈琲を貰える?」
「かしこまりました」
脈絡のない会話にちょっと苦笑いを浮かべながらオレは珈琲をキッチンにオーダーする。
キッチンスタッフは、流れるように珈琲の準備を始める。
あのジジイは本当にトロかった。
誰が注文を? とか、食後ですか? とか色々必要ないことを聞いてくる。
早く出せと思っていた。
「あの……すんません」
オレに声がかけられる。
初日にも来た女性だ。よく覚えている。
ポニーテールのあの子とはまた違いちょっとキツ目の印象の美人だ。
暗めの茶でウェーブがかかった髪と気の強そうな吊り目のアンバランスさが独特の色気を放っている。ヤンキーっぽい雰囲気だが、言葉遣いは丁寧だ。
「はい、なんでしょう?」
「あの、えーと、ああ、珈琲ってなんか変わりました?」
「良くお気づきで」
オレはニヤリと笑う。
こんなヤンキーな感じの子でもやはりウチの客。流石だ。
「海外から最高級の器具を取りそろえまして、より美味しいコーヒーを皆様にお届けできてるかと」
「なるほど。確かに。なるほど」
やっぱり分かってないんじゃなかろうか。
ただ、ちょっとダボダボで緩めの恰好だったから気付かなかったが、この子物凄く良いプロポーションだ。これは
「あ、もういいっす。教えてくれてありがとうございます」
急に少し不機嫌になり、帰らされた。
やはりコーヒーの違いが分からない女はそんなもんか。
「あのね、ちょっとあんた」
おばあさんがオレに声を掛ける。オレは笑顔で対応。
「どうされました?」
「珈琲って前からこんな味だっけねえ? なんか、ヘンな味がしないかい?」
おばあさんはやはりちょっとボケているようだ。
最高級の器具と最高級の豆で作ったコーヒーが分からないのだから。
「そうですか? もしかしたら、おばあさんのお口にあわなかったんですかね」
「たくちゃんはいつ来るの? ちょっと言ってあげるわよ」
たくちゃんなんていない。いい加減にしてほしい。
「あのー、おばあさん。たくちゃんは今いないので」
「そんなわけないでしょう。あの子毎日働いていたんだから。あの子ちょっと最近モテてるから天狗になってるんじゃないかしら。ちょっと、たくちゃん」
誰だよたくちゃん。少なくともオレはモテて天狗になってない。おい、たくちゃんいるなら出て来い。
おばあさんがキッチンの方へ向かう。
店がちょっとざわついている。いい加減にしろ。
「おばあさん! それ以上騒ぐと……!」
オレが慌てておばあさんの襟元を掴むと、その腕を誰かが掴んでくる。
「ちょっと……扱いが乱暴じゃないですかね? おばあちゃん、別にキッチンの中に入ろうとしてなかったし」
あのヤンキー女が掴んでいた。まったく、あの福家のジジイの客だろうか。
質の悪い客をアイツが連れてくるからこんな騒ぎが起きる。
オレはおばあさんの襟を離す。
おばあさんはビックリはしていたが、別にビックリしていただけだ。
掴んだところが偶然襟元だっただけだ。ヤンキー女が大げさに捉え過ぎだ。
「ああ、ごめんなさいね。一言いってからだったね。でも、本当にいないみたいだから、今日は帰るわね。騒がしくしてごめんなさいね」
おばあさんは深々とお辞儀をする。
ほら、おばあさんが謝ったぞ。
「あの、放してもらえませんかね?」
「あんたもおばあさんに謝るべきでしょ? 場合によっては首締まってたよ」
締まってなかっただろ。
オレは余りにも言い方がキツイこのヤンキー娘に腹が立ってきた。
一度痛い目を見せた方が彼女の為ではなかろうか。
オレはこれでも大学時代はバスケでセンターをやっていた。力では男に勝てないということを教えてやろう。まあ、その時ちょっとどこかに当たるかもしれないがそれはすぐに放さなかったコイツが悪いんだ、うん。
オレは掴まれた腕をグイと……グイと……動かせなかった。
何だコイツ! どんだけ力あるんだよ! ゴリラかよ!
「ねえ」
ヤンキー女が睨んでくる。美人な分、睨むと迫力が増す。
仕方ない。オレは大人だ。ここは引き下がろう。
「お、おばあさん。すみませんね、失礼しました」
「ああ、いいのよう。こっちもごめんねえ」
オレが謝ると、仕方なくヤンキー女が手を放す。
お前も謝れよ! 痛かったぞ!
だが、ヤンキー女は完全にオレを無視して、ばあさんの方に話しかけている。
「ばあちゃん、一緒に出ようか」
「ああ、あんたもありがとね」
ばあさん、ソイツに礼は不要だろ。
そう思ったが、ヤンキー女が睨みつけてくるので、相手にするのも面倒だ。
オレは仕事を続けることにした。こんな奴らの相手をしている暇はない。
「ばあちゃん、いこ」
「はいはい、それにしてもたくちゃんは何処行っちゃったのかしらねえ」
知らねえよ、たくちゃんなんて。
ん? たく? そういや、おふくろ、あのジジイのこと、拓さんって呼んでたけど。
まあいいか。もうアイツら来ないだろう。
もし、バカやボケのせいでまた来たらその時教えてやろう。
たくちゃんなら、クビになってもう二度とここには来ませんよって。
六月十五日、カルム再オープン三日目。お昼の時間になっても客が途絶えることはない。
年齢層は幅広く。全ての層に受け入れられているのだろう。
ただ、勿論、全てのお客様に満足いただけるわけではない。
「ちょっと、今日のは濃いかったねえ。これ、持ち帰っていい?」
お婆さんが食べきれなかったようで聞いてくる。
「すみません、持って帰るのは」
「ああ、そう……じゃあ、ごめんなさいね」
今日のランチはチーズをふんだんに使ったパスタ。
好き嫌いもあるだろうし、若者向けに作ったので少し重かったのかもしれない。
「ああ、そう。たくちゃんはどうしちゃったの?」
「たくちゃん? すみません、今ちょっといなくて」
たくちゃんが誰なのか分からない。そんなスタッフいたか?
もしかしたら、おばあさんはちょっとボケているのかもしれない。
「そうなの……まあ、しょうがないねえ。じゃあ、珈琲を貰える?」
「かしこまりました」
脈絡のない会話にちょっと苦笑いを浮かべながらオレは珈琲をキッチンにオーダーする。
キッチンスタッフは、流れるように珈琲の準備を始める。
あのジジイは本当にトロかった。
誰が注文を? とか、食後ですか? とか色々必要ないことを聞いてくる。
早く出せと思っていた。
「あの……すんません」
オレに声がかけられる。
初日にも来た女性だ。よく覚えている。
ポニーテールのあの子とはまた違いちょっとキツ目の印象の美人だ。
暗めの茶でウェーブがかかった髪と気の強そうな吊り目のアンバランスさが独特の色気を放っている。ヤンキーっぽい雰囲気だが、言葉遣いは丁寧だ。
「はい、なんでしょう?」
「あの、えーと、ああ、珈琲ってなんか変わりました?」
「良くお気づきで」
オレはニヤリと笑う。
こんなヤンキーな感じの子でもやはりウチの客。流石だ。
「海外から最高級の器具を取りそろえまして、より美味しいコーヒーを皆様にお届けできてるかと」
「なるほど。確かに。なるほど」
やっぱり分かってないんじゃなかろうか。
ただ、ちょっとダボダボで緩めの恰好だったから気付かなかったが、この子物凄く良いプロポーションだ。これは
「あ、もういいっす。教えてくれてありがとうございます」
急に少し不機嫌になり、帰らされた。
やはりコーヒーの違いが分からない女はそんなもんか。
「あのね、ちょっとあんた」
おばあさんがオレに声を掛ける。オレは笑顔で対応。
「どうされました?」
「珈琲って前からこんな味だっけねえ? なんか、ヘンな味がしないかい?」
おばあさんはやはりちょっとボケているようだ。
最高級の器具と最高級の豆で作ったコーヒーが分からないのだから。
「そうですか? もしかしたら、おばあさんのお口にあわなかったんですかね」
「たくちゃんはいつ来るの? ちょっと言ってあげるわよ」
たくちゃんなんていない。いい加減にしてほしい。
「あのー、おばあさん。たくちゃんは今いないので」
「そんなわけないでしょう。あの子毎日働いていたんだから。あの子ちょっと最近モテてるから天狗になってるんじゃないかしら。ちょっと、たくちゃん」
誰だよたくちゃん。少なくともオレはモテて天狗になってない。おい、たくちゃんいるなら出て来い。
おばあさんがキッチンの方へ向かう。
店がちょっとざわついている。いい加減にしろ。
「おばあさん! それ以上騒ぐと……!」
オレが慌てておばあさんの襟元を掴むと、その腕を誰かが掴んでくる。
「ちょっと……扱いが乱暴じゃないですかね? おばあちゃん、別にキッチンの中に入ろうとしてなかったし」
あのヤンキー女が掴んでいた。まったく、あの福家のジジイの客だろうか。
質の悪い客をアイツが連れてくるからこんな騒ぎが起きる。
オレはおばあさんの襟を離す。
おばあさんはビックリはしていたが、別にビックリしていただけだ。
掴んだところが偶然襟元だっただけだ。ヤンキー女が大げさに捉え過ぎだ。
「ああ、ごめんなさいね。一言いってからだったね。でも、本当にいないみたいだから、今日は帰るわね。騒がしくしてごめんなさいね」
おばあさんは深々とお辞儀をする。
ほら、おばあさんが謝ったぞ。
「あの、放してもらえませんかね?」
「あんたもおばあさんに謝るべきでしょ? 場合によっては首締まってたよ」
締まってなかっただろ。
オレは余りにも言い方がキツイこのヤンキー娘に腹が立ってきた。
一度痛い目を見せた方が彼女の為ではなかろうか。
オレはこれでも大学時代はバスケでセンターをやっていた。力では男に勝てないということを教えてやろう。まあ、その時ちょっとどこかに当たるかもしれないがそれはすぐに放さなかったコイツが悪いんだ、うん。
オレは掴まれた腕をグイと……グイと……動かせなかった。
何だコイツ! どんだけ力あるんだよ! ゴリラかよ!
「ねえ」
ヤンキー女が睨んでくる。美人な分、睨むと迫力が増す。
仕方ない。オレは大人だ。ここは引き下がろう。
「お、おばあさん。すみませんね、失礼しました」
「ああ、いいのよう。こっちもごめんねえ」
オレが謝ると、仕方なくヤンキー女が手を放す。
お前も謝れよ! 痛かったぞ!
だが、ヤンキー女は完全にオレを無視して、ばあさんの方に話しかけている。
「ばあちゃん、一緒に出ようか」
「ああ、あんたもありがとね」
ばあさん、ソイツに礼は不要だろ。
そう思ったが、ヤンキー女が睨みつけてくるので、相手にするのも面倒だ。
オレは仕事を続けることにした。こんな奴らの相手をしている暇はない。
「ばあちゃん、いこ」
「はいはい、それにしてもたくちゃんは何処行っちゃったのかしらねえ」
知らねえよ、たくちゃんなんて。
ん? たく? そういや、おふくろ、あのジジイのこと、拓さんって呼んでたけど。
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もし、バカやボケのせいでまた来たらその時教えてやろう。
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