白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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13話 イケメン、腐る★

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【一也視点】



七月十三日、カルム再オープンから一か月。
調子は、悪くない。

多少、売上が落ちてはいるが、まあ、方向転換をしてる最中だ。客層も変わりかけているのだろう。
この前、店休日にチェーン店でこの前のババアがのんびりしてやがるのを見た。

やはり、どこでもいいのだろう。ああいう客がいなくなってくれて清々する。
ウチは、若者たちが集う夢のある場所なのだ。

「きゃはははは! ウケる」

ギャルの声が響き渡る。ああいう層の子にも来てもらえているのは本当にありがたいことだ。
例え、タピオカドリンク一杯でずっと居座っていても、客は客だ。

「ていうか、ココ、最近めっちゃ空いてね? 前は、すげーいっぱいで入れんかったけど」
「あー、なんかね、てんちょが代わって、全然ちがくなったんだって。りんがインス○で言ってた」

りん? ああ、アイツか。黒髪美少女だったが、いきなり襲い掛かってきたあぶねーヤツ。
アイツ、インス○でウチの悪口でも言ってたのか、最悪だな。

「マジ? でも、普通じゃね?」

普通じゃないだろ? 最高級の豆と器材を使ったコーヒーだぞ!

「う~ん、ウチ前も行ったことあるけど、前良かったよ」

前も、な。今も、な。
いちいち癇に障る言い方をする茶髪だ。あの時、俺の腕を掴んできたあのヤンキー女みたいな色で腹が立つ。頭悪い女は同じような髪色してるんだな。アイツと同じで胸がデカいしな。養分胸にいってるんじゃないか。

「なんか、めっちゃやさしいじいちゃんがいて、すげー癒された」

ソイツの話をするな。

「ちょっと失礼しますねー」

俺は、お手拭きを追加しにそいつらのテーブルに行く。
ギャルたちは曖昧な笑顔を浮かべ会釈した。
静かにしろ。ここはお前たちだけの店じゃないんだ。

まったく。忌々しい。アイツが野垂れ死んで化けて出てるんじゃないだろうか。
最近、どんどんと客足が遠のいている。
それに、おふくろやあのじいさんの名前を出してくるヤツが多い。まあ、年寄り共ばっかりだったが、やはり、若い感覚についてこれなくて、じじばばくさい喫茶がお好みなんだろう。

そのうち分かるヤツが来る名店になるはずだ。

そう、あの活発なポニーテール女子大生のような分かる子が。
彼女は、そういえば、あの日以来来ていない。
大学が忙しいのだろうか。息抜きにでも来てくれれば、デザートをサービスでつけてあげよう。
最近のデザートはめちゃくちゃ映えるのを作ったからな。
よく若者たちが写真を撮っている。ツイッ○ーでも探すと呟いてくれたりする。
時代はSNSだ。出来なければ取り残されていく。

そういえば、ジジイもおふくろも全くそういうのを分かっていなかった。
ツイッ○ーやインス○なんてカフェの基本だ。

あのギャルもタピオカドリンクとデザートのセットを撮っていた。
そういえば、さっきスマホいじっていたし、もう何かしらに投稿してるんじゃないだろうか。

俺は、おもむろに自分のテーブルにつき、パソコンを開く。
インス○で『カルム』で探す。

ウチのデザートがあった。早速投稿してくれているみたいだ。
ギャルってこういうことは素早いな。いいぞいいぞ。ん?

『味ビミョー、映え最&高w』

頭悪そうな感想だ。映え重視なんだから味の事なんて触れるな。
他の投稿もないか調べてみるが、概ね好評なのではないだろうか。
いちいち味について言っているのもあったが、美味いもん食べたいなら、高い金払ってそういう店に行けばいい。
そうこうしているうちに、RINというのを見つける。これがあの黒髪美少女のか。

『私の大好きなカルムが変わってしまいました。どちらかというと、若い子向けの派手な感じに方向転換したみたいです。そういうのがお好きな方は是非』

彼女の手と店の外観が映っている写真。
流石に人前に出る仕事をしているせいか、多少の毒を感じるものの、大人なコメントだ。ちゃんと紹介もしてくれている。ギャルも見習え。

見ると、ギャルがまた少し騒ぎ出している。
俺は、ここまでの蓄積もあり、苛立ちの限界だった。彼女たちのテーブルに近づき、笑顔で話しかける。

「お客様、他のお客様の迷惑になりますので、静かにしてもらえませんか?」

俺がやさしーくそう言うとギャルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、口を開く。

「客? ウチら以外にいませんけど」

そう。丁度、タイミングが合って、今は客がいない。
だが、そういう問題ではない。

「ですが、これから入ろうとするお客様がいらっしゃった時に入りにくいでしょう?」
「わかりましたー。じゃあ、出ます。でも、おにいさんのモノの置き方の方がうるさいと思いますよ」
「それは申し訳ありませんでした。そんな軽そうな髪色なのに、意外とそういうことはおっしゃるんですね」

ギャルはいきなり涙目になって立ち上がり、お会計をすませて店を出ていく。
相手を悪く言う癖に自分のこと言われたら泣くってなんだ!
涙目はこの前のグラマラス美女を思い出してしまう。なんだか俺が悪者になったみたいで気分が悪い。
それに、あんな女はさっきまで泣いてたくせに、出てすぐに泣き止んで、レビューサイトとかで悪口書くんだろ! どうせ、SNSでも悪口ばっかり言ってるに違いない!
俺はアイツの本性を調べようとパソコンに戻る。

「ん?」

RINの投稿の一つが目に入る。他のカフェの画像だ。
クリーム色の壁と店の名前が入った外観をバックに、アップで鼻から上だけを撮った画像。
視線は横を向いていて、額は少し赤い。

『聖地発見。私の求める場所はここにありました。しあわせ。さいこう。ありがとうございますありがとうございます』

ハッシュタグも何もない。随分頭の悪そうな内容だ。

店名を調べてみると、笑ってしまった。コンセプトカフェ、しかも、執事喫茶らしい。
所詮、この女もその程度なのだ。雰囲気とか空気で珈琲美味いとか勘違いするんだ。

こんな店、ただただイケメン揃えて、食器だけそれっぽく誤魔化した珈琲と見栄えばっかりのデザート出してるに違いない。

俺は腹が立って、その執事喫茶をレビューサイトで調べる。どうせ評価低いに決まってる。



『真の執事喫茶は此処にありました。おもてなし、飲み物、食事も素晴らしい。贅沢な時間を過ごしたいならぜひここに。価格もそこまで高くなく入りやすい雰囲気です』

『お食事も紅茶も執事も最高でしたわ』

『白髪執事爆誕。私達は恐ろしい執事に出会ってしまった。もうじいやなしでは生きられない。そこまで高くないので何度も帰宅したい』

『大手の執事喫茶のクオリティ凄かったですが、ここの価格設定であの味はちょっと驚き。珈琲が最近格段に変わりました。それこそ、ちゃんとした喫茶店で味わえるような味で凄く良いです』

『金髪の執事さんがとてもスマートな対応で素敵でした。白髪の執事さんとの絡みは、興奮しました。味もよくてこういうカフェではコスパ最高では』

『ロマグレ様最高です! 白髪の執事とか全私が泣きました。あと、相変わらず珈琲が私好みで……素敵過ぎて泣いちゃいました』

『伝えたくない……! でも、伝えたい……! 最高の空間がここに、あり、ます……!』



……そこそこの評価を得ているようだったが、まあ、頭の悪いレビューが多かったように思う。

白髪の執事というのがここ数日のレビューで多い。

白髪か。福家のジジイももしかしたらこういう所ならチヤホヤされたかもな。
いや、無理か。トロくて、幽霊みたいに静かで、そのくせ、何かと口うるさいジジイだったからな。

まあ、もし街中で偶然会ったら、この店白髪でもウケるらしいから雇ってくださいとお願いしてくればいいんじゃないか、と教えてやろう。

えーと、なになに、名前は……執事喫茶【GARDEN】。
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