白髪、老け顔、草食系のロマンスグレーですが、何でしょうか、お嬢さん?~五十路男、執事喫茶で無双始めました~

だぶんぐる

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21話 五十路、上を向く。

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さて、蒼樹さんにも反省頂きましたが、暴力をふるったことは事実。どうすれば、と思っていると、

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

ホール内に割れんばかりの拍手が。

そして、南さんがスマートホンを収めながら私の所に。

「白銀、良くお嬢様を守ってくれました。執事を束ねる者として誇りに思います」
「いえ、執事として当然のことをしたまでです」
「本日お帰り頂いたお嬢様。【GARDEN】の人間が、執事としてあってはならない姿をお見せし、誠に申し訳ございませんでした」

南さんは深々と頭を下げます。私達もそれに倣い、思いを込め頭を下げます。

「ささやかではありますが、お詫びの品を用意させていただきます。そして、このような事がないよう……」
「オーナーさん」

南さんの一番近くにいたお嬢様が声を掛けます。

「私達は、お嬢様、お坊ちゃんでしょう? しかも、こんな最初に帰ってくるお嬢様達なんて、大体、此処を知り尽くしているわ」

冗談めいた言葉に他のお嬢様が顔を綻ばせます。

「そこの白髪の執事さんが良い事言ってたわ。好きなものや人に誇れる自分であるのがお嬢様だって」

聞かれていたのですね、お恥ずかしい!

「だから、大好きな此処を貶めるつもりなんてないわ。そして、信じてる。此処はもっともっと素敵な場所になってくれるって」
「……ありがとうございます」
「あ、でも、貰えるものは貰うわね。お詫びの品楽しみにしてる」
「はい」

そのお嬢様のお陰で、和やかな空気で場は収まりました。有難い。

ですが、私達はここからです。ここから取り戻さねばなりません。
執事としての誇りを。

南さんの指示がとびます。

「蒼樹、話は奥で。黒鶴、この場は任せました」
「は!」
「千金楽、緑川、私と一緒に」
「はい」「かしこまりました……」
「緋田」
「はいっ! ぐす……ぐすっ……」

緋田さんは何故かとても号泣していました。

「貴方は白銀の姿を見て、しっかり学んだことと思います。【GARDEN】の執事、蒼樹が落とした評価を、貴方が誇りある【GARDEN】の執事として、取り戻しなさい」
「……はい! 全力で、誠心誠意、緋田、お嬢様からの信頼を取り戻せるようお仕えさせていただきますっ!」

緋田さんが深々と頭を下げます。その様子を見ていると、千金楽さんがこちらに近づき、耳元で囁き教えてくださいます。

「緋田は、そこまで悪い奴じゃない。ただ、影響受けやすいし、信じ込みやすい。ただ、まあ、今回で分かってくれたと思う。許してやってくれ」
「分かっておりますよ。ただ、私はお嬢様達が幸せであれば、何も気にしません」

千金楽さんは、困ったように笑うと、私の方に手を置き、

「新人白髪執事にこんなことを頼むのも悪いけど」
「師の仰ることには逆らいませんよ」
「……古いなあ、考え方が」
「ジジイですので」
「直ぐにケリをつけて戻ってきます。それまで、頼みますよ」
「ええ、誠心誠意お仕えさせていただきます」

ポンと肩を叩いた千金楽さんは、緑川さんと一緒に蒼樹さんを立たせると、蒼樹さんに頭を下げさせ、そのまま奥へと行ってしまいました。

「さて……では」

黒鶴さんが眼鏡をなおし、私達を見回します。

「白銀、朝日お嬢様のお見送りを。その後、給仕をお願いします」
「かしこまりました」
「緋田、まずは、朝日お嬢様に、そして、各テーブルを回り、謝罪してきなさい」
「はい!」
「私は、キッチンの杉と檜に声を掛け、その後は緋田と共に各テーブルのお嬢様にお仕えします」

パン! と、黒鶴さんが小さく手を叩きます。
とても澄んだ音で、身が引き締まります。

「さて、失ったものは返ってきません。新しく信頼を勝ち得るしか、ない。私達【GARDEN】の執事にはそれが出来る。そう信じています。では、自分の仕事を全うなさい」
「「はい」」

黒鶴さんの号令で、緋田さんが早歩きで朝日お嬢様の元へ向かい、謝罪をし始めます。
私も、朝日お嬢様の元へ向かおうとしていると、先ほどのお嬢様からお声を掛けられます。

「白髪の執事さん、あなた、お名前は?」
「白銀と申します。お嬢様、先ほどはありがとうございました」
「なんのこと? それより、覚えたわ。今度来た時には私のテーブルにも来てね」
「ええ、喜んで」

独特の色香を感じさせる赤というより紅の髪色のお嬢様に笑顔で応えると、お嬢様は時間が来ていることに気付いてか慌てて紅茶を飲み始めます。
顔が赤かったのですが、まだ熱かったのでしょうか。

「白銀さん、かっこよかったです」
「ありがとうございます」

「し、白銀さん、あの、また来ますね」
「お待ちしております」

皆さんが声を掛けてくださいまして、これはなんでしょう。
カルムで近所の方が誕生会を開いてくださった時のアレみたいなもんでしょうか。
あの時も終わりの時間に、おじいさんおばあさんに、おめでとうおめでとうと声を掛けられながら外に出されました。閉店作業があったので、また、戻ってきて笑われましたが。

あの時の様な、沢山の笑顔がこの【GARDEN】に溢れていました。

「しししし白銀さん!」
「はい」

最後にお声がけくださったのは、お坊ちゃんでした。
りんさんよりも幼く見えるこの方は、おひとりで来られたのでしょうか。

「ああああの、かっこよかったです。僕も……い、いえ、なんでも!」
「そうですか……では、もし、また、お帰り頂くことがあり、話したくなったら、是非白銀に聞かせて下さい」
「は、はい!」

キラキラした目。なんでしょうジジ馬鹿と言うんでしょうか。
無性に応援したくなるお坊ちゃんでした。

そうして、やっと朝日お嬢様の所に辿り着くと、朝日嬢様は何やらりんさんとお話されていました。

「それでは、また」
「は、はひ!」

りんさんはこちらに気付くと、小さくお辞儀をぺこりと。そして、慌ててテーブルへと戻っていきました。

「いかがなされました?」
「はひゃああ! へ? いえ、何も……あの、ちょっとお話してくださいました……うへ」
「然様でしたか。……朝日お嬢様、本日は誠に申し訳」
「し、白銀」

私の言葉を遮り、朝日お嬢様が口を開きます。

「あ、謝らないでください。謝られると、嫌です……私は、今日、此処にこれてよかったから。あの、だから、ありがとう。白銀。今日貴方がくれた時間、多分、人生で一番最高の時間でした」
「朝日お嬢様……ありがとうございます。でも、人生で一番はこれからもっともっと更新していくべきですよ」
「あ、はい」

きょとんとしながらお返事する朝日お嬢様ですが、そうでなければ困ります。

「この【GARDEN】は、『自分の花を見つけなおす』という意味も込められているそうです。自分の咲き誇りたいものや場所、どんな美しさが自分は好きなのか、好きだったのか、好きになりたいのか……ここで、この空間で思い出してほしいのだそうです」
「自分の花……」
「此処には、生花も造花もございます。それは四季折々の花を、出来るだけ多くの花を見て、見つけていただきたいということなんです。それに、造花も綺麗でしょう? これもまた、技術、努力の結晶ですから。……お嬢様は、どれがお好きですか? 少し掛かりますが、手折って差し上げることも出来ます」
「えと……白銀に選んでもらう事って、出来ますか?」

朝日お嬢様は、まっすぐにこちらを見て尋ねます。それが誇らしく、

「私に、ですか?」

思わず、聞いてしまいます。勿論、拒否するつもりはありません。
ですが、しっかりと人の目を見て頼ってくださる朝日お嬢様が嬉しくてついついやってしまいました。

「はい。今日、私に仕えてくれた執事に、私がどう見えたか知りたいんです」
「かしこまりました」

私は、迷うことなく一つの花に向かって歩きます。

「あ……」

この花は、本来大きいものなのですが、造花で小さいものを飾っています。
私は鋏で切り、その一本を朝日お嬢様の元へ。

「ひ、向日葵……」

朝日お嬢様の手に、一輪の向日葵をお渡しします。

「これはミニヒマワリですね。造花ではありますが。……静かに優しく揺れる百合の花が最初に思い浮かんだのですが、お名前と真っ直ぐで美しい姿勢、そして、明るい未来へと向かわれますよう願いを込めて、この花を」
「……はい。ありがとう、白銀」

向日葵にも負けない満面の笑み。それを見ることが出来、本当に私は幸せです。
これからも自分を下げて俯かず、顔を上げて頂きたい。
朝日お嬢様にはこれからいっぱいの可能性があるのですから。
それに……。

朝日お嬢様は、自身に満ち溢れた姿でお出かけになられました。

「行って来ます。また帰ってきます。今度はもっと素敵になって」
「はい、その日を楽しみに。白銀はお嬢様のお帰りをお待ちしておりますよ」

朝日お嬢様に、思いを込めて精一杯の笑顔でお見送りを。

「あ、はい」

どこか呆けた様子での生返事。
何かしでかしてしまったのか不安になりましたが、それでも、背筋はピンとまっすぐに顔を上げて前へ進む朝日お嬢様を祝福するかのように、広がる空は青く、美しく、浮かぶ白雲は太陽を目指すかのようにどこまでも高く伸びておりました。
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