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真実とは~バーン視点~
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「入れ」
「失礼します」
応接室には対面で父とフォルクス様が座っていた。
何か、政治的な話をされていたんだろう。
「父上がお呼びとのことですが、何か?」
「たいした話じゃない」
「?」
父はいつもと変わらないが、なぜか背後のルカから異様なほどの緊張感が伝わってくる。
「お前の後ろにいるルカに、エレノアとのことを話せと煩く言われてな。バーン、知りたいか?」
母上とのこと?
どういうことだ?
噂話ではなく、父の口から聞けと?
今さら、必要性ない。
「必要ありません」
「だと」
「ダメだ!」
ルカ?
背後のルカを見る。
なぜそんなに気にするのだろう。
別に今さら父との関係性を変えることなど望んではいない。
父のことを、憎んでいた。
それは否定しない。
だが、今ならば分かることもある。
この、オルレラ家の当主としてなさなければならないこともあるんだろう。
その重責にいない自分が、慮ることができるほどには成長した。
しかし、母の姿はまだ脳裏に焼き付いている。
ただ、そこに在っただけの母。
その胸の内を思うと……。
「バーン……俺はお前に真実を知って欲しい。それが、どんな真実でも」
ルカの絞り出すような声。
真実、とは?
ルカの言っている意味が分からない。
なぜか、悲痛そうな顔をしている。
そんな顔をして欲しくない。
その顔にそっと触れる。
「バーン」
父上の声にはっと前を向く。
「申し訳ありません」
父上の御前で、礼に欠く行為をしてしまった。
頭を下げる。
父上は目をすがめると、椅子で優雅に足を組み換える。
「で?どうする?」
父上の意図も分からない。
そもそも、なぜルカと父上が?
父上は高位貴族だが、血筋がすべてとする貴族主義ではない。
実力主義だ。
しかし、もちろん平民のルカが会える相手ではない。
ここにフォルクス様がいたということは、フォルクス様に頼んだのではないかと思う。
だが、会談前に会えたとしても、父上が簡単にルカの話を聞くとは思えない。
分からないことばかりだが、ルカが望んでいることは分かる。
父上から直接、母上の話を聞いて欲しいということだろう。
まずは、そこから、か。
「母上の話を聞きます」
「……そうか。少し長くなる。お前たちも座るといい」
父上に促され、ルカと共に応接室の椅子に座ると、父上に向き直る。
父上は組んでいた足をまた組み換えると、いつもと同じ表情のまま、淡々と語り始めた。
心臓が、うるさい。
父上の話を何度も遮りそうになるのをぐっと堪えていたため、何度も握りしめた拳は手汗に濡れていた。
頭が混乱し、何も言葉が出てこない。
その話は本当ですか?と問いたいが、愚問であることは分かっている。
父上が児戯のような真似をされるはずがない。
すべて、真実。
私が抱いていた母上への思いは、何だったのか?
「なぜ、今まで、黙って……」
ようやく、絞り出した言葉。
「聞かれなかったからなぁ?お前が勝手に噂話を信じただけだろう?俺かエレノアに問うたことがあるか?」
そうだ。
一人噂話を信じ、母を憂い、父を憎んだ。
母に問うたら傷つけ、父に問うたら傷つけられると思い込んでいた。
勇気がなかった、ただの臆病者の子供だ。
「どうだ?エレノアはお前が思っていた女ではなかった。騙されていた気分か?」
騙されていた?
そうは思わない。
母上は確かに父上に利用され搾取された可哀想な人ではなかった。
でも、私に見せた顔は……嘘ではなかったはずだ。
私を見て、嬉しそうに父に似ていると言った、あの笑顔は。
首を横に降る。
「母上は父上の腕の中で、最期を?」
「そうだ。俺が殺したんだからな。エレノアが望んだこととはいえ、まだ数日は生きただろう。それを奪ったのは確かだ」
あの侍女ではなく、父上が母上の命を奪ったという事実は衝撃だった。
しかし、なぜかそこはむしろ良かったとすら思える。
寝台の上で冷たくなっていた姿は、今でも脳裏に焼き付いている。
母上にもたらされる死は、あんなに苦しんでいた病から楽になったと穏やかに受け入れられるはずのものだった。
それが……母上に関係のない嫌疑によって突然奪われ、一人寝台の上で絶望のままなすすべなく死を迎い入れたのか、と。
そうではなかった。
母上は自らの手で侍女を廃し、自らの望みで死を手繰りよせた。
「父上……母上は、強い方だったのですね……?」
「……そうだな。あれほどの女に会ったことがない。俺に相応しい女だった」
「……!」
相応しい……。
一度も二人が共に在る所を見たことがない。
むしろ、あえて見せなかったのかもしれない。
そんな二人が互いを必要とし、支え合う姿が見えた気がした。
力が抜け、座っていた椅子からその場に崩れ落ちる。
「バーン!」
ルカが慌てて椅子から立ち上がり側に駆けよると、その胸にぎゅっと抱いてくれる。
「ルカ……私は……生まれてきて良かったんだな……」
「……っ、そうだ!お前は望まれて生まれた子だ!ごめん……お前にとって知りたくなかったこともあったと思う。でも、俺はお前に知って欲しかった。お前がいたから不幸になったんじゃない。お前を愛していたから、どんなことでもできたんだって……すごい、母さんだなっ」
ルカは呆然としている私の顔を両手で包み込み、ぐっと上を向かせる。
ルカはその夜空のような美しい瞳からポロポロと涙を溢しながら、歯を見せ、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
その笑顔があまりにも愛しくて、私は息もできないほど、強く強くルカを抱き締めた。
「失礼します」
応接室には対面で父とフォルクス様が座っていた。
何か、政治的な話をされていたんだろう。
「父上がお呼びとのことですが、何か?」
「たいした話じゃない」
「?」
父はいつもと変わらないが、なぜか背後のルカから異様なほどの緊張感が伝わってくる。
「お前の後ろにいるルカに、エレノアとのことを話せと煩く言われてな。バーン、知りたいか?」
母上とのこと?
どういうことだ?
噂話ではなく、父の口から聞けと?
今さら、必要性ない。
「必要ありません」
「だと」
「ダメだ!」
ルカ?
背後のルカを見る。
なぜそんなに気にするのだろう。
別に今さら父との関係性を変えることなど望んではいない。
父のことを、憎んでいた。
それは否定しない。
だが、今ならば分かることもある。
この、オルレラ家の当主としてなさなければならないこともあるんだろう。
その重責にいない自分が、慮ることができるほどには成長した。
しかし、母の姿はまだ脳裏に焼き付いている。
ただ、そこに在っただけの母。
その胸の内を思うと……。
「バーン……俺はお前に真実を知って欲しい。それが、どんな真実でも」
ルカの絞り出すような声。
真実、とは?
ルカの言っている意味が分からない。
なぜか、悲痛そうな顔をしている。
そんな顔をして欲しくない。
その顔にそっと触れる。
「バーン」
父上の声にはっと前を向く。
「申し訳ありません」
父上の御前で、礼に欠く行為をしてしまった。
頭を下げる。
父上は目をすがめると、椅子で優雅に足を組み換える。
「で?どうする?」
父上の意図も分からない。
そもそも、なぜルカと父上が?
父上は高位貴族だが、血筋がすべてとする貴族主義ではない。
実力主義だ。
しかし、もちろん平民のルカが会える相手ではない。
ここにフォルクス様がいたということは、フォルクス様に頼んだのではないかと思う。
だが、会談前に会えたとしても、父上が簡単にルカの話を聞くとは思えない。
分からないことばかりだが、ルカが望んでいることは分かる。
父上から直接、母上の話を聞いて欲しいということだろう。
まずは、そこから、か。
「母上の話を聞きます」
「……そうか。少し長くなる。お前たちも座るといい」
父上に促され、ルカと共に応接室の椅子に座ると、父上に向き直る。
父上は組んでいた足をまた組み換えると、いつもと同じ表情のまま、淡々と語り始めた。
心臓が、うるさい。
父上の話を何度も遮りそうになるのをぐっと堪えていたため、何度も握りしめた拳は手汗に濡れていた。
頭が混乱し、何も言葉が出てこない。
その話は本当ですか?と問いたいが、愚問であることは分かっている。
父上が児戯のような真似をされるはずがない。
すべて、真実。
私が抱いていた母上への思いは、何だったのか?
「なぜ、今まで、黙って……」
ようやく、絞り出した言葉。
「聞かれなかったからなぁ?お前が勝手に噂話を信じただけだろう?俺かエレノアに問うたことがあるか?」
そうだ。
一人噂話を信じ、母を憂い、父を憎んだ。
母に問うたら傷つけ、父に問うたら傷つけられると思い込んでいた。
勇気がなかった、ただの臆病者の子供だ。
「どうだ?エレノアはお前が思っていた女ではなかった。騙されていた気分か?」
騙されていた?
そうは思わない。
母上は確かに父上に利用され搾取された可哀想な人ではなかった。
でも、私に見せた顔は……嘘ではなかったはずだ。
私を見て、嬉しそうに父に似ていると言った、あの笑顔は。
首を横に降る。
「母上は父上の腕の中で、最期を?」
「そうだ。俺が殺したんだからな。エレノアが望んだこととはいえ、まだ数日は生きただろう。それを奪ったのは確かだ」
あの侍女ではなく、父上が母上の命を奪ったという事実は衝撃だった。
しかし、なぜかそこはむしろ良かったとすら思える。
寝台の上で冷たくなっていた姿は、今でも脳裏に焼き付いている。
母上にもたらされる死は、あんなに苦しんでいた病から楽になったと穏やかに受け入れられるはずのものだった。
それが……母上に関係のない嫌疑によって突然奪われ、一人寝台の上で絶望のままなすすべなく死を迎い入れたのか、と。
そうではなかった。
母上は自らの手で侍女を廃し、自らの望みで死を手繰りよせた。
「父上……母上は、強い方だったのですね……?」
「……そうだな。あれほどの女に会ったことがない。俺に相応しい女だった」
「……!」
相応しい……。
一度も二人が共に在る所を見たことがない。
むしろ、あえて見せなかったのかもしれない。
そんな二人が互いを必要とし、支え合う姿が見えた気がした。
力が抜け、座っていた椅子からその場に崩れ落ちる。
「バーン!」
ルカが慌てて椅子から立ち上がり側に駆けよると、その胸にぎゅっと抱いてくれる。
「ルカ……私は……生まれてきて良かったんだな……」
「……っ、そうだ!お前は望まれて生まれた子だ!ごめん……お前にとって知りたくなかったこともあったと思う。でも、俺はお前に知って欲しかった。お前がいたから不幸になったんじゃない。お前を愛していたから、どんなことでもできたんだって……すごい、母さんだなっ」
ルカは呆然としている私の顔を両手で包み込み、ぐっと上を向かせる。
ルカはその夜空のような美しい瞳からポロポロと涙を溢しながら、歯を見せ、いたずらっ子のような笑顔を見せた。
その笑顔があまりにも愛しくて、私は息もできないほど、強く強くルカを抱き締めた。
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