運命だけはいらない

文字の大きさ
2 / 5

しおりを挟む
そんな俺の運命が変わる日。
今日、バース性の診断結果が渡される。

朝、家を出る時に珍しく奏と親父が揃って見送る。
いや、意識しすぎだって。

「心……結果がαでもβでも、もちろんΩでも、俺は……お前のこと変わらず愛してる」
分かってる。
奏はものすごく思い詰めた顔をしている。
奏の、自分がβだと思っていたら判定がΩで人生がひっくり返った話を小さい頃から何度も聞いた。
自分のあの日のことが重なって、辛いんだろう。

いつの間にか背を追い越していた奏を正面から抱きしめる。
「俺は大丈夫。バース性がどうあれ、奏が俺のこと愛してくれてるから」
腕の中で、奏がこくんと頷いた。

「はい、離れてー。親子なのに、恋人同士みたいな空気、やめてくれる?奏は俺のだから」
親父に引き剥がされた。
俺と奏の間に割り込むと、人気俳優らしからぬ不遜な態度で言い放つ。

「お前のバース性はどうでもいい。何であれ、飲み込んで前を向け。奏に不安を与えたら、分かってんな?あと、今日は海里と山中さんがバース性の祝いに来るらしいから、どこも寄らず帰れ」
「え!海里さんもタロさんも?」
「山中さん!」
すかさず奏に注意される。

海里さんとタロさん(山中さん)は、小さい時から頻繁に家に遊びに来ている二人だ。
海里さんはΩでタロさんはβだが、こっちが目のやり場にこまるくらいラブラブだ。
二人の元々の関係は、海里さんは有名な小説家でその編集担当がタロさんらしい。
タロさんは奏の編集担当でもある。
文が海里さん、イラストが奏の絵本は、俺がボロボロになるまで読んだ大好きな絵本だ。

奏も親父も親戚付き合いをあまりしないため、二人が俺にとって親戚みたいな感覚だ。
大好きな二人。

「やった!何をお祝いするのか分かんないけど、終わったらすぐ帰ってくるよ」
「海里が飲んで騒ぎたいだけだろ。……どこにもよるなよ?」
「はいはい」
前に学校帰りに声かけてきた女とヤって帰ったら、その女がΩだったみたいでフェロモンの匂いがすると親父にキレられた。
俺はまだソレが分からないから気を付けようがない。

不安そうな奏に笑顔で手を振り、高校へ向かう。

俺は正直、ウキウキしている。
どんな結果だろう。
Ωでもいい。
もし、Ωならガラッと人生が変わる。
それも面白いんじゃないか?

足取り軽く高校へ向かっていると、同じクラスの奴らに絡まれる。
「おい、シン。お前なんかぜってーαだろ」
「余裕だなー」
「αだったらΩの可愛い子とエッチしまくりかぁ……うらやましー」
いや、もうしてる。

「うるせぇよ。もしかしたら、βやΩかもしれねぇだろ?」
「まっさかー!」
「こんなデカイΩいねぇよー」
げらげら笑いながら校門を抜け、クツ箱の前に立つと、「おはよ」と声をかけられる。
見ると、こぼれんばかりの大きな二重の瞳にグロスをたっぷり塗った小振りな唇ではにかむ美少女が立っていた。
「あぁ、おはよ」
……誰だっけ?
とりあえず挨拶を返す。
美少女は嬉しそうに笑うと、小走りで教室へと戻っていった。

「おいおい、早速かよー」
「あれ、誰だっけ?」
「うぉい!俺らの学年一の美少女の紗世ちゃんだよ!あの美少女っぷりから、Ωじゃねぇかって言われてる」
ふぅん。
まぁ、興味はない。
「今日、お前がαで紗世ちゃんがΩって分かるんじゃないかってみんな噂してんだよ」
「相変わらず、無関心だなー」
「紗世ちゃん……処女だってよ?あんな可愛い子の処女なんて、お前っ!羨ましすぎるわっ」
いやいや、処女なんてめんどくせーだけだろ。
それに、何で俺がαであの子がΩならセックスするって決めつけてるんだ?

確かに、αもΩも数が少ない。
学年でそれぞれ一人か二人だろう。
だからといって、なぜαとΩがそれだけで運命の番のような扱いをされないといけないのか。

そもそも、運命の番ほど信用ならないものはない。
本能に勝手に決められるんだ。
そんなの、ごめんだ。

教室に入ると、男どものからかう声と女達のひそひそと噂する声がウザイ。
うんざりしていると、ようやく担任が入ってくる。

「えー、もう気になって授業もできないだろうから、バース性の結果を先に渡す。言ってもムダだが、個人情報だからなー」

ようやくだ。
俺の人生が変わるとしたら、今日しかない。
久しぶりに鼓動が早まった。
担任から渡された紙。
何かごちゃごちゃと書いてある最後に一行

バース性:α

……ははっ。
つまらなすぎて、笑えてくる。
なぁんだ。
何も、変わらない。
人生は、イージーモードだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...