運命だけはいらない

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「ただいまー」
「遅いよ~絶対学校で寝てたでしょ~ココ」
「海里さん!」

慌てて帰った家の玄関で、待ち構えていた海里さんにハグされる。
久しぶりに会う海里さんは相変わらず化け物だった。
この容姿で年齢が……って怒られるが、トップクラスのΩの美貌は恐ろしい。
妖精か?と思うくらい、俺が小さい頃と変わらない。

「心くん、久しぶりだね。相変わらずかっこいいなぁ」
「タロさんも、相変わらず癒しだね」
奏の前では山中さんと言わないと怒られるが、タロさんは容姿は普通のおじさんだ。
穏やかな口調と性格で、いつも癒される。
でも、何か、エロい。
それは、この海里さんに愛されてるからなんだろうな……心だけじゃなくて、身体も。

「で?バース性は?」
海里さんはニヤニヤしてる。
どーせ、って思ってるんだろうな。
俺も驚かせたかった。

「α、だよ」
「やっぱりなー」
つまらないーと笑う海里さんを小突きながら、山中さんは「そうか」と穏やかに微笑んだ。

「えっ、えっ、心、αだった!?」
キッチンで親父と一緒に料理していた、といってもほぼ親父が作って手伝い程度だけど……奏がキッチンからひょこっと顔を出す。
「そーだよ、安心した?」
奏はけっこうナイーブになっていた。
どんなバース性でも、と言いながら、俺が自分と同じΩだったら、と気に病んでいたのを気づいていた。

「いや、何でも良かったけど……でも、正直Ωだと苦労するなって思ってたから」
「そう~?」
同じΩでも、奏と海里さんでは考え方が全く違う。
どのバース性でもいいと思えたのは、この海里さんのおかげかもしれない。
Ωでもβのタロさんを愛し、Ωなのに抱く側だ。
これにはかなり驚いた。
二人が恋人同士ってことは、海里さんの態度や雰囲気からも伝わってきていたが。
性の知識を得たくらいに、こっそり海里さんが教えてくれた。
「僕のこと好きになったら困るでしょ?もちろん、タロはもっとダメだけどね~」
歳の差がどれだけあると!!
でも、自信家の海里さんもこんな年下に釘を刺すくらい、タロさんにベタ惚れだ。
こんな二人をずっと見て育った俺は、βもΩも関係ないと思うようになった。

「でも、αも発情は気を付けないとね。抑制剤、ちゃんと飲むように!」
はぁ……めんどくさ。

「まぁ、ココは優秀だからαだろうって思ってたからね~。とりあえず、おめでとうってことで、パーティーしよー!」
いや、バース性が何でもパーティーだったんだろ……。

とりあえず、部屋でジーパンとTシャツに着替える。
大人達のはしゃぐ声を聞きながら、帰りに会った椿のことをふと思い出す。

アイツは自分がΩだって、思ってたのか?
奏みたいに、ショック受けてたのかもしれない。
もっと、アイツに興味もってやれば良かったかな。
いつも他人に興味がなく、顔すら覚えない俺が、なぜか椿の顔がちらついた。
真っ赤になった顔……ふっ。
思い出し笑いをしながら、大人達に混じるためにリビングに戻る。

「おっそーい」
「わりーわりー」
早速飲んでる海里さんに絡まれる。
「ココがΩなら、護身術でも教えてあげようと思ったのにねー。襲う側かー」
「いやいや、襲わないって。でも、ヒートのΩには気を付けないとな。……あいつもヒートになるのかな……」
「んんー?あいつぅ?早速Ωに目をつけてるの?」
やばっ。
口に出してた。
「えー!どんな子?男?女?可愛い?僕よりも?」
めんどくさ。

「いや、今日初めて会っただけでよく知らない。男のΩで、βの女達に囲まれててさ。お前がΩなわけないとか言われてたけど、ふつーにそいつらより可愛かった……って、何ニヤついてんの」
「とうとう、ココにも春がきたのかな?」
「そーゆーんじゃない」
「Ωなら運命の番の可能性もあるよ?まだヒートきてないから気づいてないのかも」
「じゃあ、もっと無理」

海里さんとタロさんははぁ~とため息をつき、奏と親父は苦笑してる。
「お前の運命の番嫌いは俺達のせいなんだろうな」
親父は料理をテーブルに乗せながら、やれやれと言った感じだ。

そりゃそうだろ。
この四人とも運命の番と結ばれてないんだから。
βのタロさんはもちろん、奏と親父も運命の番じゃない。
そして。

「ここに運命の番でありながら、お互いが自分で運命見つけた二人がいるからねぇ」

海里さんと親父が運命の番だ。
それを知った時は衝撃だった。
運命の番ですら、越える想い……。
俺がそれを望むのも当然だよな。

運命に決められるのだけは、ごめんだ。
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