Art Pot JK+DK

高瀬彩

文字の大きさ
2 / 5

-saya- kiss

しおりを挟む
「今度の特集の相手役さ、誰か良い子居ない?」
編集者に声をかけられて、思い付いたのはひとりだけ。
あまり噂になりたくないから気乗りはしないけど、聞くだけ聞いてみよう。

彼とは同じ高校だけど、連絡はいつもTwitterかLINEでしている。
私たちは多感な時期だ。
男女が二人で仲良く話しているだけで、付き合ってるだの何だのと、面倒な噂が立ったりする。
ただの友達なのに、私も彼もそんなことはごめんなので、校内では出来るだけ接触しないことにした。
おかげで噂も大分なくなった。

LINEで特集の概要と、雑誌の傾向、撮影日や時間、ギャラは出ないこと等を説明した文章を彼に送る。
数分後返ってきた文章は
「彼氏役じゃなくて彼女役なら良いよ(*`・ω・)」
ふざけんな。
そのまま送ってしまった。

私が載らせてもらってる雑誌は、ティーンエイジャーの女の子が主な読者層だ。
もっと読者層の狭い特殊な雑誌なら、女装や男女逆転デートもありだろうけど、うちの雑誌では無理。
その辺りをもう一度説明したら、返ってきた応えは、いつも通りのゆるい「いいよ~(・ω・)ノ」だった。

彼――しょうに部活を一日休ませ、撮影現場に連れてきたのが木曜日。
「おおーかっこいい子連れてきたね!君モテるでしょ~」
「や~全然です~」
実際、しょうはモテる。
サッカー部で、それなりに背も高くてスタイルも良く、見た目にも気を使っていて、顔も悪くない。
性格も穏やかで、人の変化に敏感に気付き、女子の話題に余裕で付いてこられるくらい女子力も高い。
それでも、誰とも浮いた噂はなかった。
あったとしたら、私とくらいだ。

軽くメイクをして髪をセットし、あらかじめ伝えておいたしょうのサイズで、何パターンか揃えてもらった服を選ぶ。
特集名は「胸きゅん!理想のデート」。
ああこれで、また噂が立ってしまうんだろう。
カミソリレターはもう要らないんだけど。

「じゃあ恋人同士って設定で、自由に動いてみてください」
カメラマンから指示が入る。
とりあえず腕を絡ませ手を繋ぎ、とろけるような笑顔でしょうの顔を覗きこみながら言い放った。
「お前本気でなりきれよ。足引っ張ったら承知せえへんからな」

町並みを話しながら歩く。
撮影に慣れないしょうが自然体で居られるよう、適当な話題を探しながら。
カメラの位置は常に把握し、特集のメインである私がきちんとフレーム内に収まる位置取りをして、たまにしょうの位置も誘導し、いつシャッターを切られても良いようにポージングを続ける。

可愛い雑貨屋さんを見付けて、ふざけあい、お互いに似合いそうなアクセサリーを選んであてがう。
クレープ屋さんを見付けて、見た目も派手で可愛らしいものを2つ購入。
近くに公園があったので、ベンチでゆっくり食べることにする。

「さやちゃん、ここ」
気を付けて食べていたはずなのに、生クリームが頬に付いてしまったようだった。
私が自分の頬を触るより早く、しょうが私の頬をキスするように舐める。
反射的に私は少し驚いた顔を作る。
シャッターが切られる音を確認してから、嬉しさに少し恥ずかしさを混ぜた表情を作る。
シャッター音を確認する。
頬に手をやり、上目遣いでしょうに照れ隠しの文句を言う表情を作る。
シャッター音。
笑顔でしょうの肩を押しやる。
シャッター音。
シャッター音。
シャッター音。

――しょうが私で、私がかよちゃんなら良かったのに。

「お疲れさまでしたー!二人とも良かったよ!」
「ありがとうございました!お疲れさまです!」
「お疲れさまです~」
撮影が終わり着替え終わる頃には、もう日も落ち始めていた。
私の仕事もここまでだ。

「しょう、この後予定ある?頑張ってくれたから、お礼におねーさんがフラペチーノでも奢ってあげよう」
「ほんと~?やった~さやちゃん優し~」
本当に、しょうと話してると女の子と話してる気分になる。それも年下の、可愛らしい感じの。
たまに男としてこいつはどうなんだろうと思うことがある。
そう思ってすぐ、自分の見識の狭さに辟易する。
しょうはしょうだからこれで良いのだ。
私だって、これが私なんだから。

「バニラソイラテフラペチーノグランデサイズとロイヤルミルクティーエノルメサイズお待たせいたしました~」
「さやちゃんいっつもおっきいの飲むよねえ」
「しょうやってグランデやん」
「エノルメはさすがにないな~」
「水分は一日2~3リットル摂るからな~」
「さすがモデルさ~ん」

店内の混雑具合は普通。
良い感じのソファ席に陣取り、スマホをテーブルに置いた。
「今日はお疲れさま。ほんまにありがとう。助かったよ。」
「お役に立てて良かったです~楽しかったけどモデルって大変やねえ~さやちゃんすごいわ~」
「はは、ありがと。しょうのこと、スタッフさんたちかなり褒めてたよ」
「ほんま~?なら良かった~」

しばし歓談。
しょうのゆったりした話し方が好きだ。
彼が居るだけで、時間がゆっくり進む気がする。
リラックスした空間。

ミュートにしていたスマホの画面が付いた。
恐らくメルマガが届いたのだろう。
待機画面の画像が表示される。
「あ、そのプリクラ待受にしてるんや~」
「そう、これお気に入りなん」
嫌がるかよちゃんの頬にキスしたツーショットのプリクラ。
もちろん落書きは私。

「さやちゃん、かよちゃんのこと大好きやんねえ~」
「かよちゃんは私の天使やから」
そう、初めて会ったときから、私の天使。
小さくて繊細で可愛らしい、才能もある素晴らしい人。
片想い4年目突入して、しばらく経つ。
誰にも伝えたことのない想い。
誰にも伝えるつもりのない、想い。

「俺の待受はね~これ~」
「ルックス集中セルカやん!」
「これ良いよね~全員分出来れば良かったんやけど、かよちゃんの変顔練習待ちやね~」
「かよちゃんはそのままで良いよ」
「出た、さやちゃんのかよちゃん贔屓~」

気が付くと、すっかり日も落ちていた。
「そろそろ帰ろっか」
「せやね~明日も朝練やし」
「そっか、遅くまでごめん」
「全然~」
CDショップに寄るというしょうと別れ、一人帰路につく。
私はスマホを取り出して、待機画面を眺める。

ねえ、かよちゃん。今日、しょうにほっぺちゅーされたよ。
かよちゃんもあんな気分だった?ごめんね。
かよちゃん、今好きな子居る?
かよちゃん、私のこと、好きになってくれないよね?

画面が暗くなる前に、キスをした。
これくらいは、許されるよね?かみさま。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

筆下ろし

wawabubu
青春
私は京町家(きょうまちや)で書道塾の師範をしております。小学生から高校生までの塾生がいますが、たいてい男の子は大学受験を控えて塾を辞めていきます。そんなとき、男の子には私から、記念の作品を仕上げることと、筆下ろしの儀式をしてあげて、思い出を作って差し上げるのよ。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

処理中です...