胡蝶の夢に耽溺す【完結】

🫎藤月 こじか 春雷🦌

文字の大きさ
60 / 163

60 甘美な水菓子、我がつがい

しおりを挟む

 
 
 
 
 
 
 
 
 何度も…ゆっくりと何度も…そのしっとりとした唇を食む。――ユンファ様はどうしたらよいのかわからないか、カタカタと小さく震えながら、く、ん、というように、ほんのわずか喉を鳴らしているだけ、…俺の口付けを、ただ受け入れている。
 ちろりと彼の柔い唇を舐めれば――つるりとして、確かに、甘い。
 
 なるほど、これが蝶族かと、俺は妙に納得し――また妙に興奮を覚え、くいとユンファ様の顔を軽く上げさせた。…「口を開いて…」間近な距離で囁くと、す…と閉じていたまぶたを薄く開けた彼は、うっとりとした目で俺のことを見つめてくる。
 その宝石のように透き通った薄紫色の瞳は、なぜ…? と俺に問いかけてくるようだった。――この初心な反応に、唆られぬはずもない。
 
「……舌を、絡め合うのです…」
 
「…舌を…?」
 
「ふふ、ええ…きっと気持ち良くなれますよ…」
 
 可愛らしいと俺が笑えば、ユンファ様はきゅうと恥ずかしそうに目を細めたが、…コクリと頷き、またそっと、その美しい切れ長のまぶたを閉ざしては――おずおずと控えめに、その赤く肉厚な唇の間を、薄く開けた。
 俺はちゅうとその唇に優しく吸い付き、薄く開いた上下の唇、その柔らかく甘い、あたたかい唇を抜けて、己の舌を彼の口内へ入れる。――甘い。…唾液さえほのかに甘い。ユンファ様の無抵抗な熱い舌は瑞々しくもやわく、まるであたためられた水菓子のようだ。
 くちゅり…ゆっくり、ユンファ様の舌を、舌で優しく絡めとる。
 
「……ん…、…」
 
 ふるん…と震えた彼だが、それでもおずおず、ぎこちなく舌を動かし――にゅる…にゅると絡まり合う舌先、舌全体…それによって、ユンファ様の甘い桃の果汁と、俺のなんの変哲もない無味の唾液が混ざり合う。
 きゅっとより強く握られた俺の手――こくん、と喉を鳴らして口の中の唾液を飲み込んだユンファ様は、ゆったりとした接吻であったからこそ、初めてでもそうできたのやもしれない。
 
「……はぁ…、…」
 
 唇を離し、彼の唇に、熱く湿った息を吐きかける。
 ぽう…とした顔をしているユンファ様もまた、はぁ…と熱いため息をつき、頬をじゅわりと桃色に染めて、とろりと緩んだ切れ長のまぶたの下、熱っぽく潤んだ瞳で俺の目を見つめてくる。
 
「……ソンジュ様…、は、はしたなくも……」
 
「……はい…?」
 
「今の、接吻…とても、気持ち良く…幸せで、…頭が、ぼうっといたします……」
 
 掠れたか弱い声で名を呼ばれ、そうゆったりと可愛らしい告白をされると――俺の心臓は歯を食いしばり、ぎりりと鈍い音を立てる。…これほど愛おしいと思えた人は初めてだ。…何も初心なばかりが可愛げとはいわぬが、無垢なユンファ様のこの初心さは、格別に可愛らしい。
 
「…ふふ…我がつがいよ、もっとして差し上げましょうか…?」
 
「…え、つがい…? ぁ、い、いいえ、そうはしたなくねだったわけでは……」
 
 俺が提案するなり、ユンファ様は――至極嬉しそうに、そのぽうっとした美貌をほころばせながらも、遠慮した。
 そして彼は、やや顎を引き、ふわりと微笑みながらも目線を伏せて。
 
「…しかし、つがい…? 僕を、ソンジュ様のつがいだと、認めてくださったのですか…?」
 
「はい、ユンファ様…」
 
「そう…。それは、凄く嬉しいな……」
 
 陶然としているまでに嬉しそうに笑ったユンファ様は、期待感にキラキラするその薄紫色の瞳で、とろりと俺の目を見つめてくる。――しかし、その目をまっすぐに見ることにはやはり、俺はいささか気後れしてしまう。
 
「……、…しかし、許されぬことです…」
 
 俺はユンファ様を抱き寄せ、その人の細く硬い体を、強く抱き締めた。
 
「…到底許されぬことだとは、俺はこれでもよく理解しているのです…――とはいえ、明日に死んでもよいと俺は、もう固く覚悟をしております…」
 
 すると、彼も俺の背を抱き寄せては、…震える蝶の羽のような儚い声で――。
 
「…そのときは…共に参りましょう、ソンジュ様……」
 
「…………」
 
 
 
 結ばれようとそうでなかろうと、結局は我ら、共に死にゆく運命さだめなのやもしれぬ。
 
 
 
 だとしても、だとしても俺は――もう、よい。
 
 
 
 むしろ良いのだ――狼として、本望ですらある。
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...