ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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「やっと見つけた」

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「――随分長く…考え込んでらっしゃいますね、ユンファさん。」
 
「……あ…」
 
 そう頬杖を着いて僕のほうへ顔を向けているソンジュさんは、とても美しく微笑んでいる。――僕ははたとして、彼に頭を下げた。
 
「……すみません…」
 
「いえ。…ご自分の属性である、オメガ属のことですから。――当然かと。」
 
「………、…」
 
 いつの間にか――ソンジュさんの近くのテーブルに置かれた、白い灰皿に十本あまりも黒いタバコの吸い殻が入っている。…思っていたよりも僕は、この件で考え込んでしまったらしい。
 
「…でも、おかげさまで…考え、まとまりました。」
 
「……そうですか。――どのように、思われますか。」
 
 僕はソンジュさんへ、顔を向けた。
 
「…たしかに僕は、オメガ属の当事者ですから…――だからこその、つらいところはいくらでもあります。…」
 
「…ええ…?」
 
 とても甘い、やわらかなソンジュさんの相槌に、僕はもうあまり緊張もしていない。――というか、もはや打算的な、おもねるような言葉はどうしても。
 
「…今じっくり考えてみて、たしかに思うところは正直、たくさんありました。――ですが…」
 
 僕には、言えないらしいのだ。
 いや、だからこそ僕は、ソンジュさんの淡い水色の瞳を見据えられるのかもしれない。――結局、後ろめたいことなんかないからだ。
 
「…逆に言えば…それはみんな、そうじゃないでしょうか。――ベータ属であるからこその苦しみも、アルファ属であるからこその苦しみも…また、男性であるから、女性であるから…きっと僕らは六通りの、があるんです。…」
 
「………、…」
 
 くら、と揺れる、その水色の瞳。
 何かぼんやりと妙な顔をしているソンジュさんだが、…別にもう――彼に気に入られなくたって構わない。
 嘘を言っても、バレてしまう。――この場だけ取り繕えたとしても、今後にボロが出ては意味がない。

「…もっと言えば、苦しみの数なんて、それ以上にあるかと。――一人一人、個人個人に、があるものだと思います。…ですから、オメガ属だから、オメガ男性だから、そうした僕ならではの苦しみもありますが、…きっと…オメガ属だけがつらいわけではない。」
 
「…………」
 
 僕の目をじっと見てくるソンジュさんの瞳は、僕の目の中に何を探しているのだろう。――嘘だろうか? 真実だろうか? それとも、別の何かだろうか。

「…きっと…ベータ属の人にも、アルファ属の人にも、それぞれの苦しさがある。――正直、社会には思うところがあります。でも…オメガ属だからこそ守ってくれる、僕たちの代わりに声をあげてくれる、いや…僕らの声を大きくしてくれる、ベータ属の方々もたくさんいらっしゃいますから。…思えば、悪いことばかりじゃないんです」
 
「…………」
 
 ソンジュさんは真剣な目をしている。…チラチラと動くその水色の瞳を見ていると、透き通った海の水面の輝きを見つめているような、気持ちの落ち着きを感じる。
 
 ベータ属であるノダガワ家の人々に、こうして地獄に、性奴隷に堕とされても――どうしても僕は、ベータ属そのものを恨むことはできない。
 ベータ属である両親のおかげだ。ベータ属である、友人のおかげだ。――僕を愛して、これまでに守ってくれた…ベータ属の人々のおかげだ。
 
「…僕のことを理解し、僕の問題を解決しようとしてくれている人々の、その人たちのつらさを、問題を…――僕は叶うなら…理解し、一緒に考えて、解決してあげたい。…もちろん属性や、性別なんかは関係なくです。…」
 
「…………」
 
 僕はまばたきをした。――真剣に話しているために、まばたきを忘れていたのだ。
 いや、思えば人に、こんなふうに持論を語るのはいつぶりだ。…大学時代以来か…正直今、とても胸がスッとしている。――楽しい、のかもしれない。
 
「…オメガ属に対して…――というよりは、全部の属性の、全部の性別の方々に、僕はそう思います。…いまや性奴隷となった、オメガの僕なんかに何ができるわけでもありませんが、…たとえば…僕のことを愛してくれた両親のこと。友人のこと。…今も優しくしてくださった、ソンジュさんのことも。――できることなら、理解したいです。」
 
「………、…」
 
 ソンジュさんは食い入るように僕の目を見つめてくる。
 しかし彼のその淡い水色はとても真剣だが、…その人の朱色の唇はわずかに、笑みの形にたわんでいる。
 その表情はどこか、僕の考えを肯定してくださっているようだ。
 
「…的はずれなことを言いました。でも、僕が属性や、それに伴う性別で言えることは――正直、本当にこれくらいなんです。…は、から。…」
 
「…………」
 
 また、ソンジュさんの口角がまっすぐになる。
 でも、僕の口はとまらない。――正直、昔のように自分の考えを誰かに打ち明けられただけ、気分が良いからだ。
 
 ある意味で、本当にもう、どうでもいい。
 どうなってもいい。――ソンジュさんに嫌われてもいい。……ただ少し、少しだけ…自分を取り戻せたようで、幸せだから。
 
「…それに、同じオメガ男性として生まれた人でも、僕と同じ考えを持ち、同じ悩みを持っているとは限りません。…生きてきた道すじも、家庭も、人によってそれぞれ違うからです。――ましてや僕は、…こういう…姿で生まれましたから。…」
 
「…………」
 
 僕は、ソンジュさんの切れ長の目から、目を背けない。
 見るべきだ。――話しているときに、人の目は、見るべきものなのだ。
 
「だから僕は…自分がオメガ属であるからと、オメガ属とは何たるかを、語ることはできません。――ごめんなさい。…でも、ソンジュさんが求めている回答が、こういうんじゃないのは僕もわかって……」
 
「…いえ、それなんですよ。――私が求めていた回答は。…」
 
 ソンジュさんはガタ、と前のめり、――僕の両手をさっと取って、…両手で包み込んできた。
 
「……へ…――?」
 
 
 
 
 
 
 

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