ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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幸福に浸りながら望む貴石※

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「…さあ、お待たせしましたユンファさん。――一緒にお風呂、入りましょうか…?」
 
 と、ソンジュさんは僕の白いローブの襟元をするりとはだけさせ、それを脱がせようとしてくるが。――いや。
 
 いやいや、――やっぱりおかしいだろう。
 僕は彼の手を掴み、精一杯その人を睨みつける。あんな会話を聞いてしまったあとだと、はっきり言って怖いが。
 
「――あ…あの。ソンジュさん。申し訳ないが、さすがに全部捨てられるのは、…服、それにスマホだって、…何勝手に、…しょ、初期化、!? もうほんと、…っていうか一番好きな本も持ってきたんです、あれ本当に捨てられたら困るんですが、…」
 
 いくら僕がソンジュさんより身分の低い庶民であったとしても…契約上のなんたらだとか言っても――さすがに、それらの持ち主である僕の意向を何も聞かず、勝手に捨てられてしまうのは困る。…困るというか、いっそ怒りすらじわりと覚えている。なんて身勝手な、と。
 しかしソンジュさんは、にっこりと微笑んで手を引くと。
 
「…はは、あぁ…“夢見の恋人”ね。本当に大切にしてらっしゃるんだ、可愛い……」
 
「…っそうですよ、だから捨てられたら正直迷わk、…」
 
「大丈夫ですよ。――モグスさんも、さすがに本やら財布やらは捨てられないとおっしゃっていましたから。」
 
 そう心配しなくても、と微笑むソンジュさんは、くいと顔を傾けて僕を見てくる。
 
「そもそも俺も、頭に血が上って全部などと言ってしまいましたが…はなから、ユンファさんの貴重品類まで捨てろと言うつもりはありませんでしたので。」
 
「…あ…なら、…いや、……」
 
 いや、それはわかった。
 つまり、僕が持ってきたスマホや財布(とはいってもせいぜい保険証や免許証、ポイントカード、キャッシュカードくらいしか入っていないすっからかんの財布)、また『夢見の恋人』なんかは、幸いゴミ箱行きをまぬがれたということなんだろう。――ただ…その言い方だと、僕の衣類はすべて捨てられたということになる。
 
「…じゃあ、服は」
 
 僕が聞くとソンジュさんは、むしろ僕の怒りに不思議そうに目を丸くし、あまりにもきょとんとしては事もなげに。
 
「…え、必要ですか? 新品がうちにあると言ったでしょう。」
 
 あくまで当然、という口ぶりである。――いや信じられないのは僕だ、これに関してはさすがに我儘すぎる。
 ただ正直いうと、僕は自分でも何が悔しいのかはわかっていない、そのモヤモヤがかなり漠然としているのだ。
 
 きょとーんとしているソンジュさんは、くいと顔を傾ける。
 
「……いやぁ正直、そんなに怒られるとは思いもしませんでした。…しかし、古着よりも、ずっとランクの高い着る服がうちあるのに…、はっきり言って、必要ないでしょう…?」
 
「……、はあ、まあ、…いや、たしかに捨てられて困るようなものは、ない、んですが……、…」
 
 というのも…まず理論的に考えれば。
 実を言うと僕は、そもそも服へのこだわりがない人なのである。――つまりお金を貯めて、やっとの思いで買った服なんか一着もない。ブランドもの? そんなのは靴のブランド(スポーツブランド)くらいしか、僕はそもそも詳しく知らないのだから、持っているはずがない。
 大学生のころだって、量販店でなんとなく無難そうな服を買い、なんとなくみっともなくないような服装を選び、なんとなくそれで過ごしていたような僕に、そういう大事な服なんかない。――何ならあのころの僕は、母さんがついでに買ってきたパンツ(もちろん無難な黒や紺のボクサー)を穿いていたくらいだ。
 ましてやあのノダガワ家に行ってからというもの、僕は制服を着るか裸エプロン、あるいはケグリ氏が指定してきた服しか着ていなかったのだ。――いや、もちろんそれはそうだが…、捨てられたって別に、とも思う反面、…なんというか、…なんというか。
 
 それは、ナシだろ、というか、――私物を、勝手に古着とか言われる始末だ。お…おかしく、ないだろうか?
 
「……、…っ」
 
 なん、というか、――一応睨みつけるつもりはないので目線を伏せてはいるが、僕の顔がひどく強ばって、唇が自然ムッと突き出される。
 
 そんな僕を見ていたソンジュさんは、何か――ははは、と嬉しそうに、朗らかに笑ったのだ。
 
「……っ?」
 
 見れば彼、嬉しそうな笑みを浮かべている。
 
「…ユンファさん、怒ってらっしゃるんですね」
 
「……あ、は…っ? ぃ、いえ、いいえ。怒ってません…、怒ってるわけじゃなくて……」
 
 怒っているんじゃないと俯くが、僕はどうしても眉が深く寄ってしまう。――いや怒ってはいない、多分。…というか僕なんかは怒れる立場では…いや、――今は恋人。
 
「…………」
 
 ソンジュさんは一応(今は)僕の恋人であり、僕は一応(今は)ソンジュさんの恋人だ。――なら怒っていいのか? いや、でも、怒ってはいない、多分、本当に怒っては…だって無駄じゃないか、怒ったってどうせ無駄だ、そういう無駄な感情はないほうがいい、…――待てよ。
 
「………、…」
 
 
 僕…――もしかして今、…怒っている、のか…?
 
 
 
 
 
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