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夢と目合う ※ ※モブユン
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しおりを挟むましてやユンファさんに「生理的に無理です」というようなことを思われた場合、生理的に無理な男に抱かれるユンファさんの哀れさにも勝って、「気持ち悪いな」と思いつつも俺の肌に堪えているユンファさんなど見てしまった暁には…――俺はもういよいよ死ぬしかない。
俺は胸の前で両腕を組み、やや斜めに崩していた両脚を真っ直ぐに正して――というよりか、仁王立ちに近い体勢となった上で深くうなだれた。
いや、その場合は男らしく潔く死のう…ユンファさんに愛されないどころか、「生理的に無理な男」認定をされてしまった場合はもはや、俺は生きている意味もない……。
「……俺のことが生理的に無理だと思われるようなら早くトドメを刺してください……」
「…はい…?」
「……、…、…」
この瞬間、ユンファさんの返答次第で俺の生死が決まることとなった。――いや、何ともリスキーなギャンブルを始めてしまったね。
…何と俺は我知らずこのセリフをぬるりともらしてしまったのである(なぜこういうリスキーなセリフはするぅんとなめらかに出てくるのだ俺の喉よ、これはもはや何かしらのバグである…)。
すなわち、ユンファさんが俺のことを「生理的に無理な男」だと思っているか否かという「白黒」をはっきりさせてしまうこのセリフは、俺にとってはかなりリスキーな、命賭けの「ギャンブル」のようなものである。
なぜなら彼の返答が「黒(はい、実は生理的に無理です)」であった場合――何なら嘘か真かが見え、聞き取れる俺にしてみれば、あるいは彼が気を使って「そんなことないですよ~」と言ってはくれても、それが「黒」であった場合――俺は精神的な死を迎え、その結果俺は、肉体的な死をも自ら選ぶことになるであろうからだ。
なるほど、本当に最悪俺は今(いろんな意味で)死ぬかもしれないということだ。どのような可能性もゼロではない、これこそまさにそれを象徴するアクシデントである。
しかも、あまつさえユンファさんの返答に(勝手に)生死を賭けているせいで、俺の心臓が「えっ…? いやまだ死にたくないんですが…?」と激しく動揺しているではないか(心臓バックバクである)。
さすがの俺も死は怖いらしいね。
「……? あの……」
「……、…、…」
それにしてもなぜだ…なぜか命知らずにも俺は自ら死にに行ってしまった…これで「はい、すみません(悪いけど正直、実は生理的にキモいと思っていました)」とでもユンファさんに言われたら、俺はもうマジで死ぬしかない……。
普段スリルときたら三度の飯のほうが好きではあるが三度の飯の次にスリル好きなこの俺が、このような「嫌なスリル」はもう御免だと、スリルを味わっているその最中に思っている……知らなかったよ…、俺でもさすがに生死を賭けているギャンブルには「嫌なスリルだ」と思うようだ。
「俺も所詮人だ…――。」
「……へ…?」
「人だよ、俺は……」
全く貴方は…この狼の牙で酸いも甘いも噛み分けてきたこの俺にまで、こんなにも素敵な初体験をたくさん授けてくださるのだね。さすが我が唯一神、今日は知らない自分に出会ってばかりだよ――これも貴方を愛しているからこそだ、ね…月下・夜伽・曇華さん。…俺は貴方のためなら死ねる。
「…人…は、はい、それは存じ上げておりますが…、いやすみません、さっきなんて仰ったんですか…? もう一回お願いしても…」
「俺のことが生理的に無理だと思われるようなら早くトドメを刺してください…と…、……」
いやなぜなのだ俺よ……俺としては幸いであったはずだ。
これは俺にとって命拾いをした幸いの展開であったはずだが、――先ほど俺があまりにもボソボソと言ったために(俺の生死を賭けた一か八かのセリフが)聞き取れなかったらしいユンファさんに――、なぜ俺は今妙な親切心を働かせてしまった?
――いやそんなの聞くまでもないことではないか……愛するユンファさんが困っているのは可哀想だからだ。愛するユンファさんが困っているのならば何だってして助けてあげたい。ユンファさんのためならばこの命とて何ら惜しくはないよ……なるほど、俺は彼が好きすぎてどうやらおかしくなっているらしい。
「えっ…?」
するとユンファさんは慌てた様子で、
「…ぁ、あのいえ、生理的に無理だとかそんなまさか、…そんな……というか、さっきからずっと言おうと思っていたんですが、あのカナイさん…――ぼ、僕としてはむしろぜひ…ぜひ、僕としてはぜひカナイさんと今夜、素敵な夜を過ごしたいなと思っています……」
「…あぁ、はは…よかった…」
俺はユンファさんのその返答に安堵した。
彼の声を聞くにその全てに嘘は含まれていない。よかった(俺の死は免れた。どうやら今のところはバルコニーに向かう必要はなさそうである)が――ユンファさんは「ただ」と不安そうな声で、そっと俺のことをこう気遣ってくる。
「でもその…むしろ、カナイさんのほうはいかがですか…?」
俺がはたと見れば、ユンファさんは儚げな不安の翳りを帯びた美しい憂い顔をやや傾け、目を伏せていた。
「あの僕…むしろ僕のほうが、どうだろうと…、カナイさんにとって、その……」
彼は先ほど俺が片方の耳にかけた自分の黒髪を、四本の指の爪の腹を使い、その耳の裏にまとまっていた髪をほぐすようにしてまた元にもどした。――そうしてまた元通り、切れ長の目尻や痩せた白い片頬、そして耳の半分をも覆い隠すように前髪を垂らしたユンファさんは、「本気で酷い思い違い」をしているのである。
つまりこれほど世の人の多くが隣に並ぶことさえ憚るような美貌を持っていても、悲しいことに、ユンファさんは自分の顔を本気で「不細工だ」と思い込んでいる。――いや厳密にいえば、本来は讃嘆されるべき美貌を誇るユンファさんは、日々ケグリ共に浴びせられる「お前は不細工なんだ」といったようなあらゆる嘘八百の嘲罵によってそう刷り込まれ、そう自分の容姿は人より劣る存在なのだとあの男たちに信じ込まされているというべきである(もちろん無価値だと、俗物扱いを受けているのはその容姿のみならず、ではあるが)。
そのため無意識にもユンファさんは、不安に思うほどの自信の無さからああして前髪をもとに戻し、少しでも自分の「不細工な顔」を隠したかったのだ。
ユンファさんは憂いた伏し目がちに、か細い自信の欠片もない声で俺にこう言う。
「…もし…正直僕が期待外れなようでしたら、あの、どうぞ、チェンジしてください…。チェンジ…つまり今の段階なら、例え指名であったとしてももちろん、キャストを変更をすることが…」
「いやチェンジなんかするわけがない。とんでもないよ、俺は貴方だからいいんだ。…そんな、期待外れどころかむしろかなり期待以上です、貴方は本当にお綺麗だ。」
俺はついユンファさんの美しい憂い顔をじっと見据え、そう低く断言した。これが俺の腹の底から込み上げてくる本音も全く揺らぎのない本音であるからこそ、この腹から喉を真っ直ぐに通る俺の深い本音が俺の体内の道に響き、そうして俺自身も思わぬ低い声が出たのである。
「……え…、ほ、本当ですか…?」
俺の真実味の強い断言に驚いたユンファさんは、伏し目のまま目を丸くしてから、つっと確かめるような上目遣いで俺を見てきた。…ユンファさんのその上目遣いはとても可憐に見えるが、彼は何もそれで俺に媚びたのではない。
彼は自信が無いために伏せがちとなっているその顔を、俺の顔と真っ向から向かわせるようになる真正面に戻すだけの勇気がなかった。ただそれだけのことなのである。
「はは…本当だよ。こんなに綺麗な人と一晩過ごせるだなんて、俺は物凄い幸せ者だ。」
俺はユンファさんの不安を掻き消そうと笑った。
可哀想になったのである。彼がこれまでにどれほど残虐な方法で虐げられてきたかというのは俺もよく知っている。それは有りもしないことどころか、むしろ「嘘八百の暴言」をおよそ一年以上も毎日毎日浴びせられ続けてきたユンファさんは、もはや自尊心を傷付けられたという段階さえをも越えて、今やもうすっかりと何もかもの自尊心を失ってしまったのだろう――。
だが、俺はむしろそれだから今、ユンファさんの美しい顔を見られたのである。ユンファさんが自分の顔を(ケグリ共のせいで)「不細工な顔だ」と信じ込んでいればこそ、まさか目を背けるわけにはいかなかった。――容貌の美しさとは目に見える抜きん出た素晴らしさなのだから、しかと見留めながらにして「素晴らしい」と形容するべきではないか。…そうでなかったら彼に、単なる嘘の甘言とも捉えられかねない。
俺は確かに大嘘吐きだが――月下・夜伽・曇華の美貌は、本物なのである。
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