ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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夢と目合う ※ ※モブユン

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「……んふふ…――。」
 
 俺はわかった。
 ――何がわかったか?
 
 ユンファさんの考えが聞けて本当によかった。
 ……俺の屈託であった八センチ差の件である。
 
 “「これまで僕が出会ってきた人は正直…大概、僕よりも背が低かったんです…。あるいは僕より背が高い人であったとしても、せいぜい数センチ高いというくらいの差で…――ですからその…僕はそれに慣れてしまっているというか……」”
 
 まずユンファさんは自分よりも背が低い相手か――あるいは、彼のその178センチと「同程度」の相手との高低差に慣れている。
 彼のいうその「同程度」というのはもちろん、自分と相手の目線の位置が水平からほとんど変わらない、ということを指している。――また仮に彼よりも五センチほど背の高い者と彼が対面した場合、彼はわずかにその者の目を見上げることとなるので、それを水平を基準とした「同程度」というのには少々の無理がある。……そのため、その「同程度」の範囲はまず五センチ未満であるとする。
 
 そしてユンファさんの178センチにプラス五センチ未満、せいぜいが一から三センチ以内に収まる範囲の身長、それを具体的にいえば179から181センチ――それを更にユンファさんの背丈を小数点込みのほぼ179センチでいったところでも、180から182センチの背丈の者が、彼の目線と水平の「同程度」ということになる。
 
 すると俺と彼のその八センチ差――ユンファさんが自分より背が高い相手にしても見慣れているという182センチ(か、それ以下)、それよりもおよそ五センチ高い俺の186.8センチとユンファさんの178.7センチの8.1センチ差は、やはり彼にとっても「身長差がある」と感じられる身長差なのではないか?
 
 
 これは吉兆ともいえる「気付き」である。
 
 
 俺はふと攻勢にでようと対面するユンファさんの顔を見た。
 
「……、…」
 
 ……ユンファさんは目を伏せ、自分の下腹部のまえで掴んだカッターシャツの袖口からせまい範囲の腕を撫でさすり、その切れ長のまぶたや長い黒いまつ毛のひさしかげった紺色の瞳でこう考えている。
 
 ――『僕なんかに対して言っていることである以上、まさか彼の「俺を貴方の理想の男にして」というのは本気ではないだろうが……そもそも僕なんかに本気で惚れる人なんかいるわけがないし、まるで僕が(また)彼をフッたようなあれでは、さすがに“お前ごときが調子に乗るなよ”と思われただろうか……。
 ……ただ、変にキャストとしてのリップサービスで、万が一彼を期待させてしまっても申し訳ないし、ここはハッキリ断るだけ断っておいて、プレイはプレイとメリハリをつけてきっちり切り替えよう、と……思っていたんだが、別にもう会うこともない人だからと思って、ちょっと言い過ぎたかな……。
 
 このあとのプレイに差し支えなかったらいいんだが…――というか正直、彼が僕のタイプじゃないというのは……実はちょっと、嘘だ…。
 でもプレイに差し支えないといいんだが、…いや、今の僕には本当に恋人への理想なんかない。理想の身長だの身長差だのもないし、僕はもう本当に、二度と恋はしないと決めている。
 
 ……ただ彼、どこかに似ていて……当然カナエはフィクション作品の、いわば架空の人物だが、…僕は正直カナエには憧れているところがある。もちろんカナエの恋人はユメミだ、僕だってユメミ以外はとても認められない。…ただ…カナエのような人なら、なんて…思わないでもない、というか…いやむしろ、カナエが架空の人物だからこその憧れかもしれないが。
 それに…彼を見ていると、まるで僕の大好きなあのカナエが現実に僕の目の前にいるようだな、きっとカナエを実写化したらこうなんだろうな、なんて…馬鹿馬鹿しいだろうけど……』
 
 
 おや――?
 
 
「……んふ…――。」
 
 何と朗報と朗報と朗報である!
 ……まず一つ。ユンファさんにとっても俺の186センチは「身長差がある」と見なされるだろう身長だということ。先ほどの「気付き」だ。アプローチの仕方によってはその件彼を納得させられるに違いない。
 
 さらに二つ目。ユンファさんは俺が書いた(ユンファさんとの妄想)小説『夢見の恋人』を愛読してくださっているばかりか――ここまでにも彼は俺を「カナエ君」と呼びながらときめいている節があったが――やはりあのカナエに、恋心にも近しい好意をもってくださっているということ。シンプルに嬉しい。
 
 そして三つ目――ユンファさんが「理想の男」だとまで思っているカナエ、「僕のタイプなんだよな(架空の人物だが)」と思っているカナエ――そう、である。
 
 ――カナエと俺がそっくり?
 当然だ。あのカナエとは十三歳当時の俺の理想の姿、そしてカナエの恋人であるあのユメミとはまさしく貴方なのだ。――カナエ=俺、ということで、ユンファさんが恋心にも近しい好意を抱いているのは、大ざっぱにいって俺である。
 
 
 ――畢竟ひっきょうということ!

 

「……ふふ…――ねえユエさん…?」
 
 と俺は大回復し、ご機嫌で向かいあうユンファさんに声をかけた。
 彼は「あ、はい…」とはたと俺の目を見た。彼の澄明ちょうめいな薄紫色の瞳はやや上向きに俺の目を見上げている。そして一方の俺はやや伏し目気味に、彼のその薄紫色の瞳を見つめている。
 
 ――なるほど。
 
 八センチ差、思ったより八センチとは絶妙な高低差だ。
 ……ちなみに、そもそも八センチというのはどれほどの長さなのかというと、だいたい握り拳の親指を含めない指四本分の長さである。ちなみに以前はその握り拳ひとつが矢の長さを測る一束ひとつかという単位であった(束の間の語源でもある)。
 ……さてこの八センチ、いやこの8.1センチ差は、案外本当に理想的な身長差である――。
 
「先ほど貴方は、俺のことを“自分の理想の男には出来ない”とおっしゃいましたね」
 
「……ぇ、ええ……」
 
 ユンファさんが『今度は何を言うつもりだ…?』となかば俺に呆れながら警戒する。
 
「…もう結構です。俺のことを貴方の理想の男とされなくても――」
 
 もう既に俺はユンファさんの「理想の男」だからね。あとは彼がそのことに気が付けばよいだけのこと。――大丈夫、この俺が絶対に気が付かせてあげる。……俺は貴方の「理想の男」なのだと…ね。
 
「…ただし…――」
 
「……はい…」
 
 何か(また)嫌な予感がする、とうんざりしたユンファさんの切れ長のまぶたに、その薄紫色の瞳が半分かくれる。――俺は揚々ようようと彼に微笑みかけた。
 
 
 
「俺と貴方の身長差、その8.1センチを――貴方の“カップルの理想の身長差”にしてください。」
 
 
 
「……、…はあ゛、……」
 
 ユンファさんが難しげな顔をして目を伏せ、わずかにその端整な黒眉をひそめる。その人の群青色の瞳が『いやこの人、何なんだ…?』と俺の要求が、あたかも無茶なようだと呆れ返っている。
 ――『それ、正直ちょっと理想の範囲がせばまっただけじゃないか…?』
 
「…しかし、説明無くしてそう理想とは出来ませんよね。」
 
「……いやそういう問題じゃ……」
 
 とユンファさんが目を伏せたまま力なく言う。
 ――しかし俺はもちろん強行する。
 
「…まずはよく言われる、二人が並び歩いているときの見栄みばえに関してですけれど…――悪い筈がないのです。…貴方という179センチにも近しいまるでフィギュアのようにスタイル抜群の美男子と、俺という顔が小さく股下90センチのモデル体型の美男子が並んで歩いていて、見栄えが悪いなどということは有り得ません。」
 
「……、…、…」
 
 ――おののきつつ愕然と俺を見たユンファさんがまず思った感想は、『ん脚なっが、90センチって何だよ、芸能人のそれじゃないか、…』である。しかしその股下90センチは誇張でもなく事実なのだから、俺には何ら恥じるところがない(なお正確には股下90.3センチである)。
 ……そして彼はふと俺の脚を茫然と見下ろした。
 
「…わぁ…なが…長い…、コレガ90センチ……」
 
 そうカタコトで呟くようなユンファさんの、その乾いた群青色の瞳はこう言っている。――『まあ実際そうなんだろうが…、こんなに脚長いもんな、尋常じゃなく……というか、まあそれだけスタイル良かったらもはや嫌味でも何でもなく聞こえるが、それにしても彼、物凄い自信家だ…(自分のことを美男子と言い切ったな…)』
 
 自信は無いより有ったほうが生産的だ。俺は「ありがとう」と軽々かるがるお礼を言って、それらすべてを褒め言葉として受け取っておく。
 
「…さて、…従って俺たちは、二人で街中を歩いているただそれだけで…誰しもが憧れの眼差しで振り返り見る、世の人々にとってもかなり理想的なカップルであるといって、全く過言ではないことでしょう。」
 
「…いやそぉ……れはどうかな、貴方はともかくとしても……」
 
 と難しい顔をするユンファさんはうつむき加減で首を傾げる。
 
「いやというか、そりゃあ股下90センチもある人が街を歩いていたら、僕が居ようが居まいがみんな振り返r……」
 
「次に」

 俺はユンファさんの引かれている顎を人差し指と親指でつまみ、くいっとその顔を真っ正面まで上げさせる。
 
「…8.1センチ差であればこうして…お互いの瞳が凄く見つめやすい」
 
「……、…」
 
 ユンファさんの薄紫色の瞳がその口とともに黙り込む。
 こうして俺とユンファさんが向かい合ったとき、ユンファさんの目線の位置はほぼ俺の鼻の頭あたりにある。すると俺はわずかに顎を引いて彼の目を見下ろすようだが、反対に彼のほうはわずかに瞳を上げて俺の目を見ることとなる。――お互いに無理がなく見つめ合いやすいというのに、水平よりはやや上目遣いのユンファさんのその目元は、俺の目にとても美しく愛らしく映る。
 ……また彼のほうも瞳や顎をぐっと上げる必要もないので、俺の目を見つめるにも疲れない。またやや伏し目がちの俺の目に見下ろされている彼は、威圧感があるわけでもないがかといって身長差が足りないということもない、ちょうどよい加減で見下ろされているというようだろう。
 そして少し顎を引いているだけの俺は輪郭もシャープなまま、伏し目で際だつ俺の長い濃いまつ毛、俺のほうの見栄えもバッチリ、俺は今もきっと、愛する人ユンファさんにとびきり格好良く美しくセクシーに見られているに違いない。

「…どうです…八センチ差って、見つめ合いやすいでしょう…?」
 
「……そ、れは…確かに、そうですね…」
 
 ユンファさんは照れくさそうに笑った。
 俺の迷いのない水色の瞳にじっと目を見つめられながら、ふと微笑みかけられたためである。
 
「…それから…ほんの少しでしょうけれど、俺に見下ろされているという感じ、しません…?」
 
「……、…」
 
 ユンファさんの明るい薄紫の瞳がちらと一瞬揺れた。――彼はドキッとしながら『確かに』と思ったのである。『確かに…思ったら僕、彼に見下ろされている…、いや、ほんの少しだが、……』――嬉しい、他の男とは違って、俺とはそれなりに身長差があるとやっとわかってくれた――彼が目を伏せ、ともなって彼の顎が引かれる。
 
「…確かに…」

「そうでしょうね。…ところで、瞳だけで俺の目を見てくださいます…?」
 
「……、……? こうですか……」
 
 とユンファさんが俺を上目遣いに見る。
 
「…うん…贅沢ですね、8.1センチ差……」
 
 上目遣いも完璧だ。
 ……ユンファさんが顎を引いて上目遣いをしても、自然な無理のない上目遣いとなる――贅沢である。まともに見つめ合うにも苦労がなく、愛する美男子の上目遣いのほうもまたしっかりと堪能できるとはね。
 
「…可愛い」
 
「……、……」
 
 ユンファさんの瞳がきょとんとほの白くなる。

「…凄く可愛いよ」
 
「……、……」
 
 ユンファさんは薄く唇をあけ、ゆっくりと段階ずつ俺を見上げていた瞳を下げてゆく。
 
「…可愛い…?」
 
 とそうぼそりと呟いた彼は、「信じられない」というぼーっとした顔をしている。
 例えばその白い顔が紅潮するようなこともなく、例えばその切れ長の両目に色っぽい熱が灯るようなこともなく、例えば彼の心臓が高鳴るわけでもなく、ただ彼は「信じられない」という茫然とした顔をしているのである。――彼は自分が「可愛い」と言われたことが全く理解できなかった。
 どこかで自分に言っているのだろうとは思いながらも、あるいは他の何かに言っているのではないか、あるいは自分の聞き間違いではないか――あるいは……。
 
「……あの、…あぁ、…はは…」
 
 彼は目を伏せたまま苦笑した。
 ただの冗談――ただ揶揄からかわれただけ――ただ、馬鹿にされただけ。
 
「何故笑うの。まさか俺が冗談を言ったのだとでも思ったのですか」
 
「……いえ、でも…」
 
「…上目遣いになっていた。本当に可愛かったよ」
 
「……、…」
 
 ユンファさんの顔から苦笑が消え、その代わりにじんわりと淡い桃色が彼の頬ににじみ出る。
 彼のその頬の紅潮は俺の言葉が嬉しかったというより、言われ慣れない俺のそのセリフにどう反応するべきかわからないという戸惑い、その緊張の色だ。緊張をしている人の顔が赤くなるそれである。
 ……俺はユンファさんの顎の下に人差し指の側面を添え、く…とその顔を上げさせた。
 
「……、…、…」
 
 ユンファさんの目がつと俺を見る。
 困り顔ではあるが、ひとたび俺の目を見たなり釘付けになっている彼のその薄紫色の瞳には、こうしたにごりのない思いが秘められている。――『この人の目…水色の、この目……まるで海だ、透き通っていて…本当に綺麗だ……』
 
「…貴方のその貴石タンザナイトのような瞳…、透き通っていて、とても神秘的で…とてもお綺麗だ…――いつまでも眺めていたい…。ふふ……」
 
「……、…、…」
 
 俺の「形容」によって俺が自分と「同じ思い」を抱いていると知ったなり、ユンファさんは気恥ずかしくなって目を伏せる。――可愛い…――ともかく、と俺は更にこう続ける。
 
「ああして見つめ合いやすく、お互いの瞳の美しさを堪能出来る身長差…それすなわち八センチ、ということは…これでお分かりいただけましたでしょう…?」
 
「…ぇ、ええ、まあ、はい…」
 
 ユンファさんが目を伏せたまま、照れくさそうに渋々とコクコク頷いた。
 
「では次――抱き締めても…?」
 
「……ど、どうぞ…?」

 許可は得た。
 俺は「失礼…」と声をかけながら、おもむろにユンファさんのことを抱きしめる。――これはユンファさんにお分かりいただくための抱擁ほうようである。
 よって俺が彼の腰の裏をぐっと抱き寄せ、彼の背中の中腹よりやや上をぐっと抱き寄せ――更に俺の肉厚な筋肉を彼の体に押しつけ、二人の体をしっかりと密着させ――そして、彼のその桃の香のただよう首筋に仮面の唇を寄せているのは――あまりにもとろけそうなほど良い匂いだけれど、決してセクハラではなく――お分かりいただくためには致し方ないことなのである。
 
「……は…、…あ、あの…」
 
「…貴方も俺を抱き締め返して…?」
 
「……ぁ、あぁ、…はい…、……」
 
 恐る恐るユンファさんの両腕が俺の背にまわり、俺は彼に抱きしめ返される。ほとんど添えるというような力の弱さで、俺の背にまわった彼の両手が俺の両肩をつかむ。――すると、自然とお互いの体の凹凸おうとつが埋まるようなのである。
 
「……ほら…どうです…?」
 
 と俺がユンファさんの首筋に囁くと、
 
「……ッ、は、? な、何が、です、…」
 
 ユンファさんはビクッとし、俺の腕の中でわずかに身じろぐ。しかしそうされても俺の腕は彼を放さない。――俺は彼の耳に唇を寄せてこう囁く。
 
「…ほらちゃんと感じて、俺の体を……」
 
「…はク、♡ は、かっ感じ、?」
 
「…俺たちの体、ぴったり合わさっていますね…?」
 
 そう…こうして俺たちの8.1センチ差とは抱擁においても大変ちょうどよい。――ユンファさんの顎がちょうど俺の肩あたりにあるので、俺が彼を抱きしめても自然と俺の肩の上に彼の顔が逃れる。
 抱擁をするだけでお互いの肉体を組み合わさり、一体化したかのような情熱の立ちのぼる抱擁感、かつ包み込まれているかのような安心感、またお互いに腰をかがめる必要もない。
 
「……凄くぴったりだ…ねえ…? そうでしょう…?」
 
 と俺はユンファさんの耳に深い低声ていせいで囁きながら、ゆっくりと彼の背骨を指先で撫で…もう片手では、彼のお尻すれすれまでその腰の裏を撫でまわす。
 
「は……ん、♡ …っごめんなさ、…」
 
 ビクッと彼の腰が俺の手のひらの下で跳ねた。
 
「…凄く…ぴったりですね…?」
 
「…は、♡ っは…はい、…ぴったり、? はい…」
 
 ぞくぞくとしているユンファさんの心臓が、ドキドキドキドキと甚だしい速度で脈打っている心音が聞こえている。
 
「さあお分かりいただけました…? 八センチ差は、こうして抱き締め合うにも実に丁度良いのです…」
 
「わっわかりました、はい、…はい…っ!」
 
 追い詰められたかのようにコクコクと頷くユンファさんに、俺はす…と離れる。――そして「ではその次に」と彼の顎をつかみ、くっと上げる。
 
「…そして更に…何とこの8.1センチ差は、こうしてキスもしやすいのです…、……――。」
 
 と俺は顔を傾けながら、ユンファさんのその顔に顔を寄せてゆく。
 
「……、…っ」
 
 ユンファさんがぎゅっと目を瞑る。
 
「……、…」
 
 ――俺はユンファさんの唇にキスをした。
 ……とはいえ残念ながら、もちろん仮面の唇を彼の唇に押し付けただけである。
 
「……、…、…」
 
「……ふふ…、……」
 
 ほら――八センチ差は互いにキスもしやすい。
 俺は腰をかがめる必要もなく、それでいてユンファさんの顎をくっと少し上げたほうがキスがしやすいという、絶妙なロマンチックな高低差である。
 しかも無理に体を縮める必要もないためにキスに集中しやすい、ということは長いキスも楽々可能だ。
 
 また今回はひとまず見送りだけれど、ユンファさんからのキスもまた容易に可能だろう――。
 彼からも俺に濃厚な口付けをするに容易いこの身長差、しかもキスしにくければ彼は俺の両頬をつつんで下げるなり俺の顎を下げるなり、はたまた下から俺の唇に噛み付くなりと、やはりユンファさんからのロマンチックな所作に繋がるこの絶妙にロマンチックな高低差は、やはり理想的といって相違ない。
 
 
「……、…――ふふ……」
 
 俺は仮面の唇をそっと離し、自然とつむっていた目をそ…と開けて、ユンファさんに微笑みかけた。
 
「8.1センチ差は…こんなにもキスがしやすい…、これならばきっと、貴方からも俺にキスをしやすいことでしょうね……」
 
「……、…」
 
 俯いているユンファさんの頬はじわりと桃色に染まっているが、彼の表情はぼーっとしており、もはや彼は放心状態そのものである。
 さて――俺はユンファさんのうつむきがちの顎をつかみ、くっとまた上げる。…潤んだ彼の薄紫色の瞳が俺の目を見たが、その目つきは「もう勘弁してくれよ、もうわかったから…」というような、いわば降参的な諦めと呆れ半々のうんざりとした目つきである。
 
「…さあ、今この時より貴方の理想は――俺と貴方との身長差、8.1センチとなりましたね…?」
 
「……はい…。」
 
 ユンファさんがうんざりとしたままコクンと頷いた。――『もういい…もうこれ以上僕が何を言ったって、どうせもっと食い下がられるだけなんだから…』
 
 
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