ぼくはきみの目をふさぎたい

🫎藤月 こじか 春雷🦌

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夢と目合う ※ ※モブユン

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 そうしてケグリは、『土下座で“変態の僕をレイプしてくれ”と頼み込め』というような、あまりにも残虐な命令をユンファさんに下した。
 しかし、これは何もケグリの嗜虐心を満たすばかりの命令ではない。むしろこれでケグリが果たしたい真の目的とは、俺たちの間を引き裂くことである。

 それこそ……たとえば普通にユンファさんを風俗店のキャスト「ユエ」として指名している客であったなら、その客はまず彼に激怒したことであろう。
 
 それはなぜか?
 ……俺が今夜ユンファさんに頼んだ内容が、「本当の恋人として」――言い換えるならば、客の俺が彼に注文したプレイが「恋人プレイ」だったからである(とはいえ俺ははなから「プレイ」などというつもりはなかったが)。
 
 つまり今夜ユンファさんを指名した客(俺)が望んでいる彼の人物像は、間違っても淫乱で被虐趣味があって、ご主人様というのを含めた第三者に虐げられている「性奴隷のユンファ」――ではない。
 
 ――自分の「本当の恋人」としてのユンファさんである。
 そしてケグリが推測した俺という客の人物像は、高い金を払ってでも、また5つ星ホテルの最高級スイートルームという特別な場所をとってまで、本格的にユンファさんを恋人として扱い、彼を独占的にじっくりと時間をかけて甘く抱こうとしている客――またともすると、すでに惚れているユンファさんを口説くために彼を指名した可能性もある客――といったところだろう。
 
 しかしそうした客相手に、この恋人同士の甘い雰囲気が満ち満ちた特別なスイートルームのなかで、土下座で「僕のことをレイプしてください」と頼み込んでくるユンファさん――そして彼の膣内からは、どこの馬の骨とも知れない男の精液がどろり。しかもそれをわざわざバイブで栓をして溜めておきました、貴方に見せつけようと思って。
 さらには彼の内ももにはあの挑発的なメッセージと、注文していないケバケバしい下品な下着、興醒めどころか普通なら激怒さえ必至といえる。――そうでなくとも、まず常人であればいわゆる「ドン引き」は確実だろう。ユンファさんに恋人らしい振る舞いを求めている以前に、客がそれで気分を害さぬほうがよっぽどどうかしている。
 
 すると、いよいよ恋人らしい二人の甘い雰囲気など破綻する――。

 そう――それこそがあのドブガワ・イボガエルの狙いなのである。
 ……まず俺がユンファさんに幻滅し、失望し、そして激怒する。すると俺のほうが彼に「惚れる」ことはなくなる。仮に以前から惚れていたとしても、ここで彼に幻滅して俺の恋は終わる。…などと…笑えるが、あのケグリ、そのようなみじめな性奴隷に徹するユンファさんの醜態を見ては、まず俺のほうが彼のことを恋愛対象として見られるはずもない(見られなくなるだろう)と推察していたと思われる。
 まあちょっとやそっとの、多少気になっているくらいの愛ならばそうかもしれないけれどね。そもそも俺は彼のあれを醜態とも思っていない。
 
 ――そして激怒した客の俺は、うまくすれば本当に「そんなにお望みなら手酷く犯してやるよ」と彼に暴行を働く。…あるいはそうでなくとも、土下座などで恋人の雰囲気がすっかり損なわれて場が白ければ、少なくとも優しく愛しあうセックスには至らない。するとユンファさんもまた俺に「惚れる」ことはない。
 
 そうして事が上手く運べば――ユンファさんが、彼と同年代の若くて美しい、金持ちでステータス値の高いアルファ属男性……いうなれば、まず自分ケグリかなうところのないに恋人として扱われ、そのに優しくされたユンファさんが、あるいは自分ケグリの目の届かぬところで客であるそのと恋に落ちてしまう、などというケグリにとっての「最悪のシナリオ」は回避できる。
 ……もちろん俺にとっては「最高のシナリオ」だけれど。
 
 つけくわえ、これで客である俺が店にこの件でクレームでも入れた場合、あの男はユンファさんにくわえる理不尽なお仕置きの格好の理由をも得られる。
 それによってまたあのイボガエルはしめしめと、思い通りになったぞと、更にユンファさんの所有者としての支配欲を満たすのであろう。
 
 さらにケグリは、顔も知らぬ客、コンプレックスの根源であるアルファ男の俺に卑劣なマウントを取ってきてもいるのである。そう、威嚇だ。
 ユンファはどこにいても何をしていても私の所有物だ、お前(俺)の恋人を演じていようがどう振る舞っていようが、どんなシチュエーションにあろうとも、ユンファは私を主人とする私の性奴隷なんだ。
 むしろユンファが私のものであるからこそ、ユンファは初対面のお前の恋人をも演じている、むしろそれをそいつに演じさせているのは私なんだ。私はユンファをお前に一晩貸してやっているだけなんだ――私に絶対服従しているユンファが本当に愛しているのは私だけなんだ、ユンファは私だけのものだ――などとね。
 
 ちなみにユンファさんはこの状況となる以前、あくまでも俺の注文した「恋人プレイ」を完遂できるようにと努めてくれていたが、あのときの彼には、強いて俺の恋人を演じ切ることでその後の展開をより絶望的なものにしよう、というような思惑はなかった。彼はあくまでも客である俺のことを考えて努めてくれていただけである。
 
 つまりユンファさんは、目の前の仕事に精一杯取り組むあまり――もともと生真面目な人であるので、客の要望や期待に応えようと一生懸命になっていたあまり――、(それとまあ何かといろいろな展開があったのもあって)、そこまでその命令をすっかり忘れていた。いや、忘れることができていたともいえようか。
 しかし、いよいよ俺に「優しく抱かれる」という折に、彼はあらためて「ケグリの命令」、ケグリに背負わされたその「罪」を思いだした…といったところである。
 
 ちなみにいうと――。
 
 例のイラマチオに関しても、およそこの件に関係がある――。
 ユンファさんがノダガワの家に帰った時点で、彼が自分の命令に背いていないかどうかの「チェック」をするというケグリは、そうしてユンファさんにすべてを吐かせることによって――ね――彼が客の俺に、ぞんざいな扱いを受けたかどうかを確認するつもりなのだろう。

 そうしてあのケグリは、ユンファさんが若いアルファの男(俺)とひと晩蜜月のときを過ごせないように画策した上で、更に、彼が万が一俺と共に食事などという恋人的な行為をしていないかどうかを、ユンファさんが帰った時点ですぐ入念にチェックをする。
 
 その執念たるや目を見張る…ことはないが。
 しかし、それにしても彼がノダガワの家に帰る時刻は遅くとも六時ごろとなるはずである。するとあの男、その時間には必ず起きていなければならないわけだ(帰ってすぐに吐かせないとそのうちに胃の中には何も無くなってしまうからである)。――馬鹿馬鹿しい、さすがIgnoranusだ。
 
 いや、あるいはユンファさんが五時台に帰ってくる可能性をあのケグリが想定していないとも思えない。
 とするとあのクソアホガマガエル、わざわざその時間に起きてユンファさんの帰りを待っているつもりなわけだ。わざわざご苦労なことで、さながら呪われた禍々まがまがしい無事カエルだね。
 ――いや無事カエル自体は可愛らしい縁起物だというのに、というかカエル自体は可愛いというのに、何ならカエル顔の人が必ずしも醜いなどということはないのに(むしろ愛らしい顔立ちの人もいるだろう)、……やっぱりケグリはキモい。
 
 まああいつクソ老害だし早朝起床はさほど苦でもないのかもしれないけれど、初老の脂ぎった男がこの二十七歳の美しいユンファさんに執着しているのだから、…貴方のお葬式には俺も出てあげる。手向たむけの花の代わりに、棺桶の中のお前のキモい阿呆面あほづらに唾吐きかけてやりましょうね、ケグリ。
 
 なぜあのクソガエルがそこまで彼に執着するのか? 
 ド変態ケグリの最終目的はあくまでも「ユンファさんと結婚すること」だからである。――ぬめついたイボガエルの分際で、あいつは身の程知らずにもユンファさんに恋しているから…ね。物凄くキモい。
 
 それこそあの男の感覚的には、好きな人の精神を完全に掌握するまであと一歩といったところなのだろう。…絶対にロクな死に方しない、というかむしろ俺がロクな死に方なんてさせませんから、貴方どうぞ阿鼻叫喚地獄の渦中で苦しんで苦しんで苦しみ抜いたあとに一人で野垂れ死ねばよろしいのでは?
 ところがここで、せっかくここまで上手くマインド・コントロールをしてきたユンファさんが誰かに救われてしまえば……彼が俺に恋をして、ケグリが働いてきた残酷な虐待行為の不当性に、また彼が自分の本当の価値に気が付いてしまったら?
 
 さんざっぱら「お前はゴミクズ同然の価値しかないが、私だけはお前のことを求めてやれるんだ。お前は私がいなければ生きてゆけないんだぞ」と洗脳してきたユンファさんに――。
 例えば「貴方には計り知れないほどの価値があるんだ。貴方は本当に綺麗だよ。貴方をあのケグリとかいうクソ気持ち悪ぃハゲデブス初老男から助けてあげたい」などと言うような――(イケメンアルファの)救世主の俺がユンファさんの前に現れてしまい、その結果、洗脳されていたはずの彼の精神に恋心という、ある種の自立心が芽生えてしまったら?
 
 それこそユンファさんが俺と駆け落ちしてしまってもおかしくはない。――駆け落ち、してやろうかな?
 またそれがケグリの知っている男ならまだしも、顔も知らない客の男、それも好意あってこそ「恋人プレイ」をユンファさんに求めている美貌のアルファ男と、美しいオメガ男のユンファさんがHoney moonの一夜を過ごす――と妄想して今もなお身を焦がすような嫉妬で眠れぬ夜を過ごしているケグリ(カエルの丸焼き、地獄の業火仕立て)――ざまあみろ、ああ愉快だ。…なるほど俄然やる気が出てきた。
 
 ここでユンファさんが俺と恋に落ちてしまう、ということは――それこそあのケグリの感覚でいうと、どこの馬の骨とも知れない男にを寝取られた、奪われた、というような感じなのだよ。
 ――ユンファさんは男。俺の夫。俺の花婿。男だからよいのです。ふざけるなよこのキモいガマ油コーヒー売って二束三文得ている能無し社会不適合者が。
 
 ……であるからケグリは彼に「私に中出しされたまんこを見せつけて、怒った客に酷いレイプをされてこい。お前のほうから土下座して、僕は変態マゾなのでレイプしてくださいと頼み込めよユンファ」的な感じで指図し、更に、「お前みたいな性奴隷が優しくなんてされるなよ。私の許可なく食事なんてするな(まるで恋人同士のデートのような食事は絶対にするな)」とでもユンファさんに命じたのでしょうね…――。
 
 いやしかしまさかとは思いますけれど、ユンファさんが諦めてお前と結婚してくれるまであとちょっとだ……などという妙な勘違いはしていないでしょうね、ケグリ…?
 略奪愛? とんでもない思い上がりは大概になさいクソブスガマガエルが。変態、不潔、不細工、社会不適合者、性格の悪い何の取り柄もない、何の長所もないお前がユンファさんに愛されることなど有り得ないのです。…お前が仮にも万が一何かしらの天変地異が起こった結果彼に愛されていたとしたら、彼はもうとっくにお前と籍を入れているはずでしょう…?
 まあそんなことになったら空から槍が降ってきて地球は滅びるでしょうけれど――。
 
 百億万年掛かってもお前など俺の足下にも及ばないのですよ。…何なら百億万年後お前の子孫と俺たちの子孫が交わるということすら有り得ないのです(死んでも俺が阻止するから)。
 そろそろ身の程をお知りなさいこのクソガマガエルが。お前なんぞ一生クソまみれのドブカワに棲んでいなさい、そこから出てくるんじゃありません、どうぞクソにまみれたまま肥溜めの中で死になさい。
 
 
「はは……ほんと死ねばいいのに……」

 俺はうっかり心の声を呟いてしまったが、…ユンファさんはよっぽど疲れていたのだろう。
 
「…すー……すー……」
 
 俺に頭を撫でられながら、眠っている。
 
「……ふふ…、……」
 
 よかった――。
 
 ところで…なるほどあのケグリ、アルファ男とユンファさんがイチャつくというのが許せないというのに付け加え、アルファ男に優しくされたユンファさんが、そのアルファ男――俺。俺に。俺にユンファさんが惚れてしまっては、あのクソデブス初老カエル男は困るし嫌だし嫉妬するし不幸になる。
 
 なるほど…ある意味であのケグリが一番苦しむ報復とは、どうやら俺がユンファさんを奪い去ること。
 もっといえば――俺とユンファさんが正真正銘恋に落ちたあとに結婚し、俺たちが幸せになること、か。
 
「…んふ、ククク…」
 
 俺は愛おしいユンファさんの綺麗な寝顔を眺めながら、俺の美しい王子様の髪を撫で、彼に愛を囁く。
 
「…やっぱりこれは運命…幸福な運命なのです。…俺たち…絶対に二人で幸せになりましょうね、ユンファさん…――?」
 
 これほど理にかなった復讐もないものだ。
 我が月の男神、月下ツキシタ夜伽ヤガキ曇華ユンファを手に入れられるそのついでに、あの男の苦痛に歪んだ顔が見られるだなんて…――その際に味わえるであろうSchadenfreudeシャーデンフロイデ――ケグリの不幸を甘美に味わえるその歓喜――が今からとても楽しみです。
 ……この俺がお前を生きたまま棺桶にぶち込んでやるから覚悟しておけよ、ケグリ――。
 
 
 
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