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第2話
068. 剣と魔法ってこんな感じなんだ17
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「ねぇ、あれって……」
その日、ワシが見たのはゴルド・ストリートの公衆酒場「リトル・ニュー」の店の裏口のある路地に出入りしている、見知った仲間の姿だったのだ。
「あぁ?
イツキじゃねぇか。
不貞腐れて酒でも飲みに来たのか?」
「フゥ兄じゃないんだから、そんなこというもんじゃないのだ。
それにイツキは落ち込んでもお酒に逃げるような……」
「なんだよ、オレが酒に逃げてるっていうのか?」
「そうじゃないのだ。
ッシ――」
そんなやり取りをしているとイツキの視線がこちらに向きそうになったので、あわててフゥ兄を反対側の家屋の陰に押し込んだ。
癖で噛んでいる木の枝がぴょこんと飛び出ていたので、急いでそれも手で押し込んだ。
「どうやら、お酒を飲んでいるのではなさそうなのだ」
みると酒瓶の入った木箱を運んでいる。
何往復も、裏口に通じる路地に入ったり出たりしている。
「ありゃあ、荷運びか?
でも、依頼は受けてないはずだぜ」
「そうなのだ。
きっと店主さんに頼まれた手伝いなのだ」
「それもあんまり関心しねぇな。
きちんと黒熊を通しての依頼じゃなければ――」
「黙ってるのだ。
きっとイツキにも考えがあってのことなのだ。
さぁ、今日の買い出し当番はワシとフゥ兄なのだ」
そういって、大きな腕をつかんで商店が軒を連ねるエリアに向かった。
そう、きっとお腹がすけば帰ってくるのだ。
「んで、昼飯も片づけるつもりなんだが……
そのバイト君はどこにいってるんだ?」
バンディの親父さんは皿を洗いながらぶつぶつと文句を言っている。
基本的にこの黒熊のコンクエスターは三度の食事を親父さんに用意してもらっているから、要らないなら要らないであらかじめ言っておかないと準備した分が無駄になり、親父さんの機嫌を損ねることになってしまうのだ。
「じゃあ、ワシが届けてあげるのだ」
そういって、今日の昼食を包みにしてもらうと、リトル・ニューに向けて走った。
「荷運びもそろそろ終わるころだし、ご飯をもっていってあげれば、声をかけるきっかけにもなるのだ。
そう、イツキは今……
きっと心細いはずなのだ」
「あぁ、あのイツキって子ならさっさと仕事を終わらせて帰っていったよ」
店内で昼営業を始めたばかりの店主にそう言われて、ワシはイツキの居場所を尋ねた。
「さぁねぇ。
一杯飲んでいくかって聞いても、この後まだ行くところがあるんでって言ってたな。
渡した駄賃で一本エールを買っていったが、どっかで飲んでんじゃねぇのか?」
店主にありがとう、とイツキの分まで礼を言って次に彼の足が向きそうな場所を考えた。
「なるほど、自分が飲みたかった分のエールを買って……
とすれば、一緒に食べるものを買うと思うのだ。
この店から行くとすれば……」
「おや、黒熊のお嬢ちゃん」
「まだ、矢は足りてるかい?」
「イーグルウッドのお婆ちゃん達。
元気そうで何よりなのだ。
おかげさまで今はまだ余裕があるけど、もうしばらくしたら店に寄らせてもらうのだ。
お婆ちゃん達の店の矢も弦も、品がいいから他の店にはなかなか行けないのだ」
お婆ちゃん達は二人して皺のよった口を大きく開いて笑った。
「ファッファッ。
嬉しいことを言うてくれるわ。
ところでこれから待ち合わせかい?」
「この前、うちで騒いだ坊ちゃんがエールを一瓶抱えててな。
そこの肉屋で塩漬けのハムを買って向こうに歩いて行ってたのよ。
お嬢ちゃんがお弁当をもって、これからどこかで遅めのお昼かね?」
「そうだった……
そうだったのだ。
まだ、イツキから場所を聞いてなかったのだ。
ありがとうなのだ」
ワシはぺこりと頭を下げた。
「おやおや、もういっちまったよ。
考える前に奔る、か」
「ちゃんと頭を下げるだけの礼儀が身についているんだ。
若いってのはいいもんだ」
お婆ちゃん達はまた笑って目を細めていたようだったが、その時すでにワシは二人の言った方向へ走っていた。
その日、ワシが見たのはゴルド・ストリートの公衆酒場「リトル・ニュー」の店の裏口のある路地に出入りしている、見知った仲間の姿だったのだ。
「あぁ?
イツキじゃねぇか。
不貞腐れて酒でも飲みに来たのか?」
「フゥ兄じゃないんだから、そんなこというもんじゃないのだ。
それにイツキは落ち込んでもお酒に逃げるような……」
「なんだよ、オレが酒に逃げてるっていうのか?」
「そうじゃないのだ。
ッシ――」
そんなやり取りをしているとイツキの視線がこちらに向きそうになったので、あわててフゥ兄を反対側の家屋の陰に押し込んだ。
癖で噛んでいる木の枝がぴょこんと飛び出ていたので、急いでそれも手で押し込んだ。
「どうやら、お酒を飲んでいるのではなさそうなのだ」
みると酒瓶の入った木箱を運んでいる。
何往復も、裏口に通じる路地に入ったり出たりしている。
「ありゃあ、荷運びか?
でも、依頼は受けてないはずだぜ」
「そうなのだ。
きっと店主さんに頼まれた手伝いなのだ」
「それもあんまり関心しねぇな。
きちんと黒熊を通しての依頼じゃなければ――」
「黙ってるのだ。
きっとイツキにも考えがあってのことなのだ。
さぁ、今日の買い出し当番はワシとフゥ兄なのだ」
そういって、大きな腕をつかんで商店が軒を連ねるエリアに向かった。
そう、きっとお腹がすけば帰ってくるのだ。
「んで、昼飯も片づけるつもりなんだが……
そのバイト君はどこにいってるんだ?」
バンディの親父さんは皿を洗いながらぶつぶつと文句を言っている。
基本的にこの黒熊のコンクエスターは三度の食事を親父さんに用意してもらっているから、要らないなら要らないであらかじめ言っておかないと準備した分が無駄になり、親父さんの機嫌を損ねることになってしまうのだ。
「じゃあ、ワシが届けてあげるのだ」
そういって、今日の昼食を包みにしてもらうと、リトル・ニューに向けて走った。
「荷運びもそろそろ終わるころだし、ご飯をもっていってあげれば、声をかけるきっかけにもなるのだ。
そう、イツキは今……
きっと心細いはずなのだ」
「あぁ、あのイツキって子ならさっさと仕事を終わらせて帰っていったよ」
店内で昼営業を始めたばかりの店主にそう言われて、ワシはイツキの居場所を尋ねた。
「さぁねぇ。
一杯飲んでいくかって聞いても、この後まだ行くところがあるんでって言ってたな。
渡した駄賃で一本エールを買っていったが、どっかで飲んでんじゃねぇのか?」
店主にありがとう、とイツキの分まで礼を言って次に彼の足が向きそうな場所を考えた。
「なるほど、自分が飲みたかった分のエールを買って……
とすれば、一緒に食べるものを買うと思うのだ。
この店から行くとすれば……」
「おや、黒熊のお嬢ちゃん」
「まだ、矢は足りてるかい?」
「イーグルウッドのお婆ちゃん達。
元気そうで何よりなのだ。
おかげさまで今はまだ余裕があるけど、もうしばらくしたら店に寄らせてもらうのだ。
お婆ちゃん達の店の矢も弦も、品がいいから他の店にはなかなか行けないのだ」
お婆ちゃん達は二人して皺のよった口を大きく開いて笑った。
「ファッファッ。
嬉しいことを言うてくれるわ。
ところでこれから待ち合わせかい?」
「この前、うちで騒いだ坊ちゃんがエールを一瓶抱えててな。
そこの肉屋で塩漬けのハムを買って向こうに歩いて行ってたのよ。
お嬢ちゃんがお弁当をもって、これからどこかで遅めのお昼かね?」
「そうだった……
そうだったのだ。
まだ、イツキから場所を聞いてなかったのだ。
ありがとうなのだ」
ワシはぺこりと頭を下げた。
「おやおや、もういっちまったよ。
考える前に奔る、か」
「ちゃんと頭を下げるだけの礼儀が身についているんだ。
若いってのはいいもんだ」
お婆ちゃん達はまた笑って目を細めていたようだったが、その時すでにワシは二人の言った方向へ走っていた。
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