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第2話
069. 剣と魔法ってこんな感じなんだ18
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「向こうって言っても……
もう大体は探し回ったし、あとは……街の外なのだ。
確かこっちの外は耕作地帯だから、農家の家がまばらにあるばかりで……」
門をくぐって外に出ると、すでに時刻はお昼というには遅すぎた。
なんなら、これから午後の仕事の合間に一服するようなタイミングだ。
「農家、といえばあの赤毛の子の家くらいしかイツキが行きそうな場所はないけれど、昨日の今日で、その家に行くとは思えないのだ」
でもなぁ、とつぶやきながらそこしか思い当たる場所はないので、もしそこにいなくても同じ黒熊の仲間として少し謝るつもりで歩いて行った。
「今はもう、畑には秋まきの小麦が青く伸びているのだ。
これから夏になると邪魔をする草が伸びるから、今のうちに準備をするのが仕事だとは聞いていたけど、この広さでは大変そうなのだ。
ん?
あの影は……」
目の前の麦畑の向こうで、麦藁帽が三つ、動くのが見えた。
「この畑はもう、あの赤髪の娘マイちゃんの家のはず。
そしてあの家で農作業をするのは、マイちゃんとそのお父さんだから、三つ目の帽子はだれなのだ?」
目を凝らして遠くを見る。
普段から弓を扱っているワシにとって距離によって視界を調整するのは慣れているのだ。
「あの背格好は……
あ、やっぱり!
背を伸ばしたらよく見えたのだ。
イツキなのだ!」
それまで探していた人がやっと見つかったので、うれしさのあまり手にしていた昼ご飯の包みをひっくり返してしまいそうになった。
「オーイ!
イツキー!」
大きく手を振ったワシの声に気が付いたのか、イツキも手を振って返してくれた。
畑の麦を踏まないように、駆け寄ると普段のイツキとはなんだか様子が違ったのだ。
「おぉ、こんなところでなにをしているのだ?
まだ、依頼を受けていたわけではなかったはずなのだ」
「そうなんだ、アニー。
無理を言ってお手伝いをさせてもらっていたんだ」
「お手伝い?」
みればイツキは全身を藍色の丈夫な布のつなぎで覆い、頭には麦藁帽。
顔は汗と土にまみれて、普段の気弱そうな青年といった風体とは違う、なんだか……
「見違えたのだ。
なんだか、一生懸命って感じがしてとても、良いのだ」
「はは、違うかな。
ちょっと、今日一日いろんなところで手伝いをさせてもらってたから。
あ、それはバンディのご飯?
よかったー
まだお昼食べてなくって」
そういうと、イツキはマイちゃんとお父さんに断りを入れて、みんなでおやつの時間にすることにしたのだ。
「おぉ、キミも黒熊のひとかい?
娘がいつも世話になっとるね」
マイちゃんのお父さんはいかにも働き者といった見た目の、あごひげに汗の露を光らせた優しそうな男性だった。
そのしずくをマイちゃんから受け取った手拭いで拭くと、畑の横の岩に腰を掛けて、そばに置いてあったエールの瓶に口をつけた。
「ぷはぁ、ウマいな!
でもいいのかい?
こんな風にしてもらって」
「気にしないでください。
マイちゃんを……お嬢さんを危ない目に合わせてしまったほんのお詫びのしるしです」
イツキはワシが持ってきた包みを受け取ると中身の玄米のおにぎりを頬張っていた。
「でもなぁ、突然仕事を手伝わせてくれっていうのには驚いたぜ。
依頼を出したわけでもないし、払えるもんもないっていうのに、なぁ?」
「そうなんですよ。
イツキさんたらお礼はいらないので、手伝わせてくれって。
エールにおかずの塩漬けのハムまでもってきてくれて。
びっくりしました」
マイちゃんは一緒にそばにあった木桶に組んだ水で手を洗いながら言っていた。
イツキは彼女たちの言葉を、ワシに聞かれるのが居心地の悪そうに腰の位置を何度も直しながら三つ目の塩のきいた玄米のおにぎりを飲み込むと、マイちゃんから水を受け取って飲み下していた。
「そういうことだったのだ」
「アニー、これには訳が……」
「わかっているのだ。
わしにすべて任せておくのだ」
ワシがまっすぐ見つめるイツキの顔は、さっきも感じたようにいままでとは違う、何かこの世界で座るべき椅子の一つを見つけたような、そんな落ち着きがあった。
そして――
今、黒熊の面々の前に座っているイツキの胸は、泥と汗にまみれてはいるが、しっかりと意思をもって正面を向いていたのだ。
もう大体は探し回ったし、あとは……街の外なのだ。
確かこっちの外は耕作地帯だから、農家の家がまばらにあるばかりで……」
門をくぐって外に出ると、すでに時刻はお昼というには遅すぎた。
なんなら、これから午後の仕事の合間に一服するようなタイミングだ。
「農家、といえばあの赤毛の子の家くらいしかイツキが行きそうな場所はないけれど、昨日の今日で、その家に行くとは思えないのだ」
でもなぁ、とつぶやきながらそこしか思い当たる場所はないので、もしそこにいなくても同じ黒熊の仲間として少し謝るつもりで歩いて行った。
「今はもう、畑には秋まきの小麦が青く伸びているのだ。
これから夏になると邪魔をする草が伸びるから、今のうちに準備をするのが仕事だとは聞いていたけど、この広さでは大変そうなのだ。
ん?
あの影は……」
目の前の麦畑の向こうで、麦藁帽が三つ、動くのが見えた。
「この畑はもう、あの赤髪の娘マイちゃんの家のはず。
そしてあの家で農作業をするのは、マイちゃんとそのお父さんだから、三つ目の帽子はだれなのだ?」
目を凝らして遠くを見る。
普段から弓を扱っているワシにとって距離によって視界を調整するのは慣れているのだ。
「あの背格好は……
あ、やっぱり!
背を伸ばしたらよく見えたのだ。
イツキなのだ!」
それまで探していた人がやっと見つかったので、うれしさのあまり手にしていた昼ご飯の包みをひっくり返してしまいそうになった。
「オーイ!
イツキー!」
大きく手を振ったワシの声に気が付いたのか、イツキも手を振って返してくれた。
畑の麦を踏まないように、駆け寄ると普段のイツキとはなんだか様子が違ったのだ。
「おぉ、こんなところでなにをしているのだ?
まだ、依頼を受けていたわけではなかったはずなのだ」
「そうなんだ、アニー。
無理を言ってお手伝いをさせてもらっていたんだ」
「お手伝い?」
みればイツキは全身を藍色の丈夫な布のつなぎで覆い、頭には麦藁帽。
顔は汗と土にまみれて、普段の気弱そうな青年といった風体とは違う、なんだか……
「見違えたのだ。
なんだか、一生懸命って感じがしてとても、良いのだ」
「はは、違うかな。
ちょっと、今日一日いろんなところで手伝いをさせてもらってたから。
あ、それはバンディのご飯?
よかったー
まだお昼食べてなくって」
そういうと、イツキはマイちゃんとお父さんに断りを入れて、みんなでおやつの時間にすることにしたのだ。
「おぉ、キミも黒熊のひとかい?
娘がいつも世話になっとるね」
マイちゃんのお父さんはいかにも働き者といった見た目の、あごひげに汗の露を光らせた優しそうな男性だった。
そのしずくをマイちゃんから受け取った手拭いで拭くと、畑の横の岩に腰を掛けて、そばに置いてあったエールの瓶に口をつけた。
「ぷはぁ、ウマいな!
でもいいのかい?
こんな風にしてもらって」
「気にしないでください。
マイちゃんを……お嬢さんを危ない目に合わせてしまったほんのお詫びのしるしです」
イツキはワシが持ってきた包みを受け取ると中身の玄米のおにぎりを頬張っていた。
「でもなぁ、突然仕事を手伝わせてくれっていうのには驚いたぜ。
依頼を出したわけでもないし、払えるもんもないっていうのに、なぁ?」
「そうなんですよ。
イツキさんたらお礼はいらないので、手伝わせてくれって。
エールにおかずの塩漬けのハムまでもってきてくれて。
びっくりしました」
マイちゃんは一緒にそばにあった木桶に組んだ水で手を洗いながら言っていた。
イツキは彼女たちの言葉を、ワシに聞かれるのが居心地の悪そうに腰の位置を何度も直しながら三つ目の塩のきいた玄米のおにぎりを飲み込むと、マイちゃんから水を受け取って飲み下していた。
「そういうことだったのだ」
「アニー、これには訳が……」
「わかっているのだ。
わしにすべて任せておくのだ」
ワシがまっすぐ見つめるイツキの顔は、さっきも感じたようにいままでとは違う、何かこの世界で座るべき椅子の一つを見つけたような、そんな落ち着きがあった。
そして――
今、黒熊の面々の前に座っているイツキの胸は、泥と汗にまみれてはいるが、しっかりと意思をもって正面を向いていたのだ。
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