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イオリの真っ正直な返答にコハルは顔を赤らめ、サヤは激高する。
先ほどと同じように苦無を抜き、構える。
「そ、それはボクの……
ボクの胸がないことに対するあてつけかッッ!?」
イオリとコハルの視線がサヤの胸元に集まる。
サヤよりも幼いと思われるコハルだが、その胸は、着物の上からでもその豊満な果実を確認することができる。それに対して、たしかにサヤのそれは、年のころ十三~四の娘としては心もとない気もする。
イオリは激高したサヤをなだめるように応える。
「確かに!
その果実は世の男性を魅了することもありましょう。しかし、無い場合は無い場合で結構なものです!
安心してください、需要はあるはずです!」
至極ハッキリと言い切ったイオリ。こういった好色にすぎる面さえなければいい男なのだが……
これに対して、それまで彼に対して満更でもない感情を抱いていたコハルは、あきれ返ってまたもや乾いた笑い声を合わせるしかなかった。
そんなやり取りをしながら半刻も歩いた先に、コハルのいう峠のお茶屋があった。
お茶屋が見えたころにはコハルの足腰も元の様に動き、ここまで彼女を運んできた二人は一杯の茶を御馳走になることになった。
イオリとサヤが腰かけに座り、ふぅと一息をつかんばかりのころ合いに、中からお茶を運んでくるコハルがヒョイと顔を出した。
二人が茶をすすっていると、店の中から店主が現れ礼を述べた。
「いやぁ、ウチのコハルの危ないところを助けていただいたそうで。ほんに、ありがとうございます」
イオリが名物のトコロテンをすすっていると、コハルはここまでサヤが小脇に抱えて運んできた山賊たちの刀や槍がなくなっていることに気がついた。
「アレ?
サヤさん、ここまで持ってきた刀とかはどうしたんですか?」
「あぁ、アレね……あれはちょっとね。それより、ここらで辻斬りかなんかの話は聞かないかい?」
これにはコハルもオヤジさんも首をかしげる。
「辻斬りねぇ……この街道も山賊やらおい剥ぎは出るようになっちまったが、辻斬りなんてのは聞かないねぇ。お前さん方、奉行所のお役人さんかなにかかい?」
サヤはそれまで手の持っていた茶碗の中のお茶に視線を落として応える。
「まぁ、奉行所とかそういったお高い類のもんじゃないんだけどね……まぁ、強いて言うなら探しモノって感じかな?」
「そうですかぁ。見つかるといいですね」
コハルののどかな受け答えに、語調を合わせてサヤも応える。
「あぁ、早く見つけたいよ。――本当に」
峠の茶屋一帯を温和な空気が包んだ頃、オヤジが街道に人気を感じ、挨拶に出ようとすると――
「おぅ、ここに銀髪の娘と眼鏡をかけたひょろっちい兄ちゃんはいるか?」
「――ヒィイッ!」
表には獣臭と共に招かれざる客が集まってきていた。
その気配を感じたのか、オヤジの素っ頓狂な声で察したのか、サヤとイオリはすっと店の外に出た。
すると、獣か物の怪かと見まごう程の山賊たちの粗野な集団の後ろから、身なりも着こなしもそれなりにきちんとした侍が一人、現れた。
侍は一見、中性的に見える外見をしており、少し紅の差してあるかのような口元を絶妙に開いた。
「おまえ達をイジめたのは――このお嬢さんで間違いないのかい?」
艶のある声で山賊たちに尋ねた。
これに対して、粗暴な山賊たちは答える。
「へ、ヘイ! そこの娘に……恥ずかしながらやられましたッッ」
――そう。
侍がつぶやくと同時に、紫電一閃。
抜き打ちの見えないその太刀筋は、答えた山賊のうちの一人の右腕を斬り飛ばした。
「あア亜ぁァぁああ!!?」
見るも無残に肩から先をすっ飛ばされた山賊は、切り口に手を当てるのみで止血すらまともにおこなえていない。
周りの粗野な男たちもオロオロとするのみでどうする事も出来ていなかった。
そんな喧騒の中をゆらりと歩み出た侍。
陽炎のように捉えどころのないその雰囲気は、まるで空気自体に色が付いているかのように場を揺らめかせ、サヤとイオリはその顔から、先ほどまで茶を啜っていたような安寧の表情を消した。
サヤは侍のいような存在感に対して先ほど、山賊たちを蹴散らしたように苦無を構える。
「それが話に聞いた、飛び苦無かい。
はたして……私に刺さるかしら?」
先ほどと同じように苦無を抜き、構える。
「そ、それはボクの……
ボクの胸がないことに対するあてつけかッッ!?」
イオリとコハルの視線がサヤの胸元に集まる。
サヤよりも幼いと思われるコハルだが、その胸は、着物の上からでもその豊満な果実を確認することができる。それに対して、たしかにサヤのそれは、年のころ十三~四の娘としては心もとない気もする。
イオリは激高したサヤをなだめるように応える。
「確かに!
その果実は世の男性を魅了することもありましょう。しかし、無い場合は無い場合で結構なものです!
安心してください、需要はあるはずです!」
至極ハッキリと言い切ったイオリ。こういった好色にすぎる面さえなければいい男なのだが……
これに対して、それまで彼に対して満更でもない感情を抱いていたコハルは、あきれ返ってまたもや乾いた笑い声を合わせるしかなかった。
そんなやり取りをしながら半刻も歩いた先に、コハルのいう峠のお茶屋があった。
お茶屋が見えたころにはコハルの足腰も元の様に動き、ここまで彼女を運んできた二人は一杯の茶を御馳走になることになった。
イオリとサヤが腰かけに座り、ふぅと一息をつかんばかりのころ合いに、中からお茶を運んでくるコハルがヒョイと顔を出した。
二人が茶をすすっていると、店の中から店主が現れ礼を述べた。
「いやぁ、ウチのコハルの危ないところを助けていただいたそうで。ほんに、ありがとうございます」
イオリが名物のトコロテンをすすっていると、コハルはここまでサヤが小脇に抱えて運んできた山賊たちの刀や槍がなくなっていることに気がついた。
「アレ?
サヤさん、ここまで持ってきた刀とかはどうしたんですか?」
「あぁ、アレね……あれはちょっとね。それより、ここらで辻斬りかなんかの話は聞かないかい?」
これにはコハルもオヤジさんも首をかしげる。
「辻斬りねぇ……この街道も山賊やらおい剥ぎは出るようになっちまったが、辻斬りなんてのは聞かないねぇ。お前さん方、奉行所のお役人さんかなにかかい?」
サヤはそれまで手の持っていた茶碗の中のお茶に視線を落として応える。
「まぁ、奉行所とかそういったお高い類のもんじゃないんだけどね……まぁ、強いて言うなら探しモノって感じかな?」
「そうですかぁ。見つかるといいですね」
コハルののどかな受け答えに、語調を合わせてサヤも応える。
「あぁ、早く見つけたいよ。――本当に」
峠の茶屋一帯を温和な空気が包んだ頃、オヤジが街道に人気を感じ、挨拶に出ようとすると――
「おぅ、ここに銀髪の娘と眼鏡をかけたひょろっちい兄ちゃんはいるか?」
「――ヒィイッ!」
表には獣臭と共に招かれざる客が集まってきていた。
その気配を感じたのか、オヤジの素っ頓狂な声で察したのか、サヤとイオリはすっと店の外に出た。
すると、獣か物の怪かと見まごう程の山賊たちの粗野な集団の後ろから、身なりも着こなしもそれなりにきちんとした侍が一人、現れた。
侍は一見、中性的に見える外見をしており、少し紅の差してあるかのような口元を絶妙に開いた。
「おまえ達をイジめたのは――このお嬢さんで間違いないのかい?」
艶のある声で山賊たちに尋ねた。
これに対して、粗暴な山賊たちは答える。
「へ、ヘイ! そこの娘に……恥ずかしながらやられましたッッ」
――そう。
侍がつぶやくと同時に、紫電一閃。
抜き打ちの見えないその太刀筋は、答えた山賊のうちの一人の右腕を斬り飛ばした。
「あア亜ぁァぁああ!!?」
見るも無残に肩から先をすっ飛ばされた山賊は、切り口に手を当てるのみで止血すらまともにおこなえていない。
周りの粗野な男たちもオロオロとするのみでどうする事も出来ていなかった。
そんな喧騒の中をゆらりと歩み出た侍。
陽炎のように捉えどころのないその雰囲気は、まるで空気自体に色が付いているかのように場を揺らめかせ、サヤとイオリはその顔から、先ほどまで茶を啜っていたような安寧の表情を消した。
サヤは侍のいような存在感に対して先ほど、山賊たちを蹴散らしたように苦無を構える。
「それが話に聞いた、飛び苦無かい。
はたして……私に刺さるかしら?」
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