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次の瞬間、当たればバットの2~3本は軽くへし折れそうな、豪速の蹴りが忍者に向けられる。
「ッセィ!」
しかし、さすがは忍びの者。アフロはすっと右半身からかがむようにこれを避ける。
これに対して、蹴りを放った美女はくるりと体の重心を立て直す。蹴ったままの足、踵を更に忍者に向けて降り落とす。
「――ッハ!」
忍者は派手に身を翻して追撃を避けた。小柄な身体でトンボを切る。ヒュンヒュンと飛び離れると、再度距離を取る。
このとき、投げた手裏剣は的が動いたことで行く場所を失い、あらぬ方向へ。
「~~~~」
不運にもワキミズの方へ向かっていた。勢いはだいぶ落ちているとはいえ、自分に向かってくるのは紛れもない凶器。
次の瞬間に必ず訪れる痛みに目をつぶり、歯を食いしばった。
――シュリンッ。
耳に届くのは、ワキミズの体に刃が食い込んだ音ではなく、軽い金属音。恐る恐る目を開くと、足元に真っ二つになった手裏剣があった。
隣にはここまで案内してくれた女性が相変わらず、つむったような目を戦う二人に向けて立っているのみであった。その右手には白木の木刀を携えて。
彼がこの一連の所作に気を向けている間に、忍者と美女の攻防は更に激しくなっていた。
「ッハッハッハ!!」
高らかに笑い声を上げながら、忍者は懐からピンポン玉のような大きさの球をいくつも取り出す。その球には其々、5センチほどの紐がついている。
これに対して、氷色髪の美女は形の良い整った眉を中央に寄せながらも笑顔を浮かべるのみ。
これまでのやり取りで、見学に来ていた一同はすっかり引き気味であった。
「アレッて・・・・・・もしかして、爆弾か何かじゃね?」
「よくわかったな、一年!」
忍者はうれしそうに己に対して問われてもいなかった問に答え、幾つもある球のうちの一つを右手の人差し指と中指ではさみ、そのまま紐を指でこする。するとバチッと言う音と共に紐に着火した。短気そうに紐はジジジと唸り、火花と煙を生む。忍者はコレを振りかぶって――投げる。
大仰なフォームから、球は一直線に向かっていく。
「っしゃらくさいッッ」
的となった女は、先ほど掴んだクナイを投げ返し、これを撃墜。
球は空中で爆散した。
小ぶりな爆発とはいえ、光も衝撃も、その場に居合わせた一年生を驚かすには十分だった。
「なんだよここ!?
あっぶねー!」
「ヤバイッて!
まともじゃないよ、ココ!!」
なおも続く爆音と閃光に、あたりは阿鼻叫喚。
「コレが、ジャパンのファンタスティックですね!」
エミィは常盤色の瞳を爛々と輝かせて食い入るよう見ていた。
嬉々として凶器と爆発物を投げ続ける忍者。
その危機の雨の中を涼しげに舞うように避ける氷色髪の美女。
袴姿の女性はこの地獄のような惨状を眉一つ動かさず見ている。
エミィに危機が及ばぬよう、その場から避難させようとする。しかし自身もまたすくみ上がり、その場に伏せるのみのメィリオ。
ワキミズにいたっては腰が抜けたのか、地に尻をついてへたり込むばかりであった。
ここでようやく、案内をしてくれた女性が惨状に止めを入れた。
「まぁ、ウチの稽古はこんなもんだ。どうだった?」
「どうだったって・・・・・・こんな滅茶苦茶なとこ・・・・・・
ネェ?
アレ?」
ワキミズが周囲を見回すと、あれだけいたエミィの取り巻きが一人もいないのだ。
そりゃあ、たしかに刃物や爆薬があれだけ飛び交えば、誰だって逃げるに決まっている。そんな中――
「ハイ!
エミィ・ディープブルー、入部を希望します!」
「お、お嬢様!
いけませんっ。ワタクシはお嬢様の安全を守るために今回の日本への留学に同行したのですから、こんな危ない倶楽部になんて……」
ガツン。氷色の髪の美女がメィリオの頭にげんこつを落とす。
「いいから、いいからさ。先ずはやってみなくちゃな。事の良し悪しなんてぇもんはそれから考えるがいいさ。もちろん、その人として中身の入った、己の頭でだ」
「ほぅ、入部希望が・・・・・・三人か」
――ハテ、三人・・・・・・?
忍者が指を刺して数える。
「そこの外国人の留学生に……」
――ウン。
「黒いスーツのチビ」
――ハイ
「そんで、そこでへたり込んでるオトコ。三人もいれば十分じゃん」
いつの間にやら、逃げ遅れたことで数に数えられていたワキミズ。
……?
一拍の間。
――ぇぇぇえええ!?
夕闇の竹林にワキミズの声が染み入るばかりであった。
「ッセィ!」
しかし、さすがは忍びの者。アフロはすっと右半身からかがむようにこれを避ける。
これに対して、蹴りを放った美女はくるりと体の重心を立て直す。蹴ったままの足、踵を更に忍者に向けて降り落とす。
「――ッハ!」
忍者は派手に身を翻して追撃を避けた。小柄な身体でトンボを切る。ヒュンヒュンと飛び離れると、再度距離を取る。
このとき、投げた手裏剣は的が動いたことで行く場所を失い、あらぬ方向へ。
「~~~~」
不運にもワキミズの方へ向かっていた。勢いはだいぶ落ちているとはいえ、自分に向かってくるのは紛れもない凶器。
次の瞬間に必ず訪れる痛みに目をつぶり、歯を食いしばった。
――シュリンッ。
耳に届くのは、ワキミズの体に刃が食い込んだ音ではなく、軽い金属音。恐る恐る目を開くと、足元に真っ二つになった手裏剣があった。
隣にはここまで案内してくれた女性が相変わらず、つむったような目を戦う二人に向けて立っているのみであった。その右手には白木の木刀を携えて。
彼がこの一連の所作に気を向けている間に、忍者と美女の攻防は更に激しくなっていた。
「ッハッハッハ!!」
高らかに笑い声を上げながら、忍者は懐からピンポン玉のような大きさの球をいくつも取り出す。その球には其々、5センチほどの紐がついている。
これに対して、氷色髪の美女は形の良い整った眉を中央に寄せながらも笑顔を浮かべるのみ。
これまでのやり取りで、見学に来ていた一同はすっかり引き気味であった。
「アレッて・・・・・・もしかして、爆弾か何かじゃね?」
「よくわかったな、一年!」
忍者はうれしそうに己に対して問われてもいなかった問に答え、幾つもある球のうちの一つを右手の人差し指と中指ではさみ、そのまま紐を指でこする。するとバチッと言う音と共に紐に着火した。短気そうに紐はジジジと唸り、火花と煙を生む。忍者はコレを振りかぶって――投げる。
大仰なフォームから、球は一直線に向かっていく。
「っしゃらくさいッッ」
的となった女は、先ほど掴んだクナイを投げ返し、これを撃墜。
球は空中で爆散した。
小ぶりな爆発とはいえ、光も衝撃も、その場に居合わせた一年生を驚かすには十分だった。
「なんだよここ!?
あっぶねー!」
「ヤバイッて!
まともじゃないよ、ココ!!」
なおも続く爆音と閃光に、あたりは阿鼻叫喚。
「コレが、ジャパンのファンタスティックですね!」
エミィは常盤色の瞳を爛々と輝かせて食い入るよう見ていた。
嬉々として凶器と爆発物を投げ続ける忍者。
その危機の雨の中を涼しげに舞うように避ける氷色髪の美女。
袴姿の女性はこの地獄のような惨状を眉一つ動かさず見ている。
エミィに危機が及ばぬよう、その場から避難させようとする。しかし自身もまたすくみ上がり、その場に伏せるのみのメィリオ。
ワキミズにいたっては腰が抜けたのか、地に尻をついてへたり込むばかりであった。
ここでようやく、案内をしてくれた女性が惨状に止めを入れた。
「まぁ、ウチの稽古はこんなもんだ。どうだった?」
「どうだったって・・・・・・こんな滅茶苦茶なとこ・・・・・・
ネェ?
アレ?」
ワキミズが周囲を見回すと、あれだけいたエミィの取り巻きが一人もいないのだ。
そりゃあ、たしかに刃物や爆薬があれだけ飛び交えば、誰だって逃げるに決まっている。そんな中――
「ハイ!
エミィ・ディープブルー、入部を希望します!」
「お、お嬢様!
いけませんっ。ワタクシはお嬢様の安全を守るために今回の日本への留学に同行したのですから、こんな危ない倶楽部になんて……」
ガツン。氷色の髪の美女がメィリオの頭にげんこつを落とす。
「いいから、いいからさ。先ずはやってみなくちゃな。事の良し悪しなんてぇもんはそれから考えるがいいさ。もちろん、その人として中身の入った、己の頭でだ」
「ほぅ、入部希望が・・・・・・三人か」
――ハテ、三人・・・・・・?
忍者が指を刺して数える。
「そこの外国人の留学生に……」
――ウン。
「黒いスーツのチビ」
――ハイ
「そんで、そこでへたり込んでるオトコ。三人もいれば十分じゃん」
いつの間にやら、逃げ遅れたことで数に数えられていたワキミズ。
……?
一拍の間。
――ぇぇぇえええ!?
夕闇の竹林にワキミズの声が染み入るばかりであった。
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