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「庭だ。よく見ておけ」
女性が見据える先、そこには何者かが立っている。
一同の位置から見るに、氷色とでも言えばいいのだろうか、エミィとはまた違った蒼色の長髪を編み込んで肩に掛け、たたずむ細身で長身。その人もここまで案内してくれた袴の女性と同じく、美人であることは遠目にも明らかだった。
男子も女子もその女性に見とれている。ワキミズに至っては袴の女性、蒼髪の長躯、そしてエミィを順に見比べ、そのシンボル的な場所から目を離せずにいたが、何かの気配を感じて声を上げる。
「オイ、あれは?」
彼が指差した先は瓦ではなく、いわゆるカヤブキ屋根の上。何者かが立っていた。その何者かは自分に視線が集まったことを確認してから屋根から飛び降りる。クルリと、一転。宙空でその身を翻し、庭の中央から更に奥の方、ちょうどワキミズ達から見て氷色髪の長身美女と相対する形に直立した。
「なぁ、アレッて……」
「あぁ、そうだよな……あの人って……」
ここで再び、エミィがポンと手を打つ。
「ニンジャだ!
彼、ニンジャですよね」
確かにその者は、帯や足袋も同じ色の黒装束に身を包み、口元を黒い布で覆っていたが、ひときわ目立つのがその身長と頭髪であった。背丈は150センチにも満たない位で、対峙している細面の美人と比べるとその差が歴然としていた。
そして頭髪。およそ日本人としてはあり得ないほどの金髪がもっこりもっさり、アフロとして顔の上部に位置していた。
二人が見合い、互いに一礼をする。すると、それまでの涼やかな声からは想像もできないほどの裂帛の気合いが袴美人の口から発せられた。
「始めェイッ!!」
隣で袴の裾に触ろうとしていたエミィは思わず耳に手を当てる。更にはその後ろに立っていたメィリオや他の者達もビクリと身を竦ませた。
構えたのはアフロの忍者だった。
「おっし、イッくぜぇ~?」
まるで西部劇に出てくるガンマンがホルスターから拳銃を抜く前のように、若干背を丸め、両手をわき腹の横に位置させる。更には肘を天に突きあげた構えをとる。
「ッセィヤッ!」
右手が陽炎のように揺らめくと、ヒュっという風切り音だけが聞こえる。この時何かが忍者から放たれたのだろうが、その場に居合わせたほとんどの人間には、それが見えてはいない。
忍者の右手から放たれたものは対峙した美人が、ソレを顔の目の前で掴んでからやっと判別されたのだった。
――苦(く)無(ない)。
古くから何故、忍者がこれを使うことがあるかというと、職人等の一般人が道具として使っていたことから、誰が持ち歩いていても不審に見られなかったという点に由来する。
「んじゃぁ、コレはどうだ?」
構えていた両手をスッとに懐に納める。まるで右の手を左の脇腹に、左の手を右の脇腹に添えるような格好に見えるほど深々と。
「イイから、こいや」
同じく目元を緩め、まるでキャッチボールでもしているかのように楽しそうな言葉のやり取りをする長躯の美人。
アフロの忍者は呼気を漏らす。
「ッヒュ!」
勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。
――キィンッ!
火花が閃き、一同からどよめきの声が上がる。
二撃目が投擲されていたと知らせる金属音。
一撃目で長躯の女が掴んだクナイがこれを弾いたのだ。
「なぁ、アレ、思いっきり顔を狙ってたよな・・・・・・」
火花の散った位置から容易に想像できたことだが、刃のついた鉄の塊がまともに当たれば無事ではすむまい。
いや、場所が顔なら掠っただけでも危険なことはワキミズだけではなく、子どもでもわかることである。
続けざまに己の放った投擲物が目標に突き刺さらなかったにもかかわらず、忍者はその黒布の上からでも分かるほど、顔を綻ばせているようだった。
「んじゃぁ、今度はどうよ?」
「なんじゃ?」
――ッシャア!!
勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。
今度は空を切る音と共に、飛来物が目に映る。右からは二つ、左からは一つ、弧を描いて飛んでくる。
忍者といえばこれであろう。手裏剣であった。
合計三枚の手裏剣は、其々のタイミングが微妙にずれていた。
一枚目は何とか避けられよう。二枚目は弾く事が出来る。しかし三枚目は・・・・・・
これに対して、手裏剣の的であった美女は、ゆらりと身を動かす。それはおおよそ武闘に関連するような激しいものではなく、どちらかと言えば何かの舞のようであった。
緩やかで、しかし緩慢とは言えないその身のこなしのまま、美女は手裏剣をかいくぐりながら、忍者との間合をつめていた。
女性が見据える先、そこには何者かが立っている。
一同の位置から見るに、氷色とでも言えばいいのだろうか、エミィとはまた違った蒼色の長髪を編み込んで肩に掛け、たたずむ細身で長身。その人もここまで案内してくれた袴の女性と同じく、美人であることは遠目にも明らかだった。
男子も女子もその女性に見とれている。ワキミズに至っては袴の女性、蒼髪の長躯、そしてエミィを順に見比べ、そのシンボル的な場所から目を離せずにいたが、何かの気配を感じて声を上げる。
「オイ、あれは?」
彼が指差した先は瓦ではなく、いわゆるカヤブキ屋根の上。何者かが立っていた。その何者かは自分に視線が集まったことを確認してから屋根から飛び降りる。クルリと、一転。宙空でその身を翻し、庭の中央から更に奥の方、ちょうどワキミズ達から見て氷色髪の長身美女と相対する形に直立した。
「なぁ、アレッて……」
「あぁ、そうだよな……あの人って……」
ここで再び、エミィがポンと手を打つ。
「ニンジャだ!
彼、ニンジャですよね」
確かにその者は、帯や足袋も同じ色の黒装束に身を包み、口元を黒い布で覆っていたが、ひときわ目立つのがその身長と頭髪であった。背丈は150センチにも満たない位で、対峙している細面の美人と比べるとその差が歴然としていた。
そして頭髪。およそ日本人としてはあり得ないほどの金髪がもっこりもっさり、アフロとして顔の上部に位置していた。
二人が見合い、互いに一礼をする。すると、それまでの涼やかな声からは想像もできないほどの裂帛の気合いが袴美人の口から発せられた。
「始めェイッ!!」
隣で袴の裾に触ろうとしていたエミィは思わず耳に手を当てる。更にはその後ろに立っていたメィリオや他の者達もビクリと身を竦ませた。
構えたのはアフロの忍者だった。
「おっし、イッくぜぇ~?」
まるで西部劇に出てくるガンマンがホルスターから拳銃を抜く前のように、若干背を丸め、両手をわき腹の横に位置させる。更には肘を天に突きあげた構えをとる。
「ッセィヤッ!」
右手が陽炎のように揺らめくと、ヒュっという風切り音だけが聞こえる。この時何かが忍者から放たれたのだろうが、その場に居合わせたほとんどの人間には、それが見えてはいない。
忍者の右手から放たれたものは対峙した美人が、ソレを顔の目の前で掴んでからやっと判別されたのだった。
――苦(く)無(ない)。
古くから何故、忍者がこれを使うことがあるかというと、職人等の一般人が道具として使っていたことから、誰が持ち歩いていても不審に見られなかったという点に由来する。
「んじゃぁ、コレはどうだ?」
構えていた両手をスッとに懐に納める。まるで右の手を左の脇腹に、左の手を右の脇腹に添えるような格好に見えるほど深々と。
「イイから、こいや」
同じく目元を緩め、まるでキャッチボールでもしているかのように楽しそうな言葉のやり取りをする長躯の美人。
アフロの忍者は呼気を漏らす。
「ッヒュ!」
勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。
――キィンッ!
火花が閃き、一同からどよめきの声が上がる。
二撃目が投擲されていたと知らせる金属音。
一撃目で長躯の女が掴んだクナイがこれを弾いたのだ。
「なぁ、アレ、思いっきり顔を狙ってたよな・・・・・・」
火花の散った位置から容易に想像できたことだが、刃のついた鉄の塊がまともに当たれば無事ではすむまい。
いや、場所が顔なら掠っただけでも危険なことはワキミズだけではなく、子どもでもわかることである。
続けざまに己の放った投擲物が目標に突き刺さらなかったにもかかわらず、忍者はその黒布の上からでも分かるほど、顔を綻ばせているようだった。
「んじゃぁ、今度はどうよ?」
「なんじゃ?」
――ッシャア!!
勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。
今度は空を切る音と共に、飛来物が目に映る。右からは二つ、左からは一つ、弧を描いて飛んでくる。
忍者といえばこれであろう。手裏剣であった。
合計三枚の手裏剣は、其々のタイミングが微妙にずれていた。
一枚目は何とか避けられよう。二枚目は弾く事が出来る。しかし三枚目は・・・・・・
これに対して、手裏剣の的であった美女は、ゆらりと身を動かす。それはおおよそ武闘に関連するような激しいものではなく、どちらかと言えば何かの舞のようであった。
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