柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

文字の大きさ
6 / 54

6/54

しおりを挟む
「庭だ。よく見ておけ」

 女性が見据える先、そこには何者かが立っている。
 一同の位置から見るに、氷色とでも言えばいいのだろうか、エミィとはまた違った蒼色の長髪を編み込んで肩に掛け、たたずむ細身で長身。その人もここまで案内してくれた袴の女性と同じく、美人であることは遠目にも明らかだった。
 男子も女子もその女性に見とれている。ワキミズに至っては袴の女性、蒼髪の長躯、そしてエミィを順に見比べ、そのシンボル的な場所から目を離せずにいたが、何かの気配を感じて声を上げる。

「オイ、あれは?」

 彼が指差した先は瓦ではなく、いわゆるカヤブキ屋根の上。何者かが立っていた。その何者かは自分に視線が集まったことを確認してから屋根から飛び降りる。クルリと、一転。宙空でその身を翻し、庭の中央から更に奥の方、ちょうどワキミズ達から見て氷色髪の長身美女と相対する形に直立した。

「なぁ、アレッて……」
「あぁ、そうだよな……あの人って……」

 ここで再び、エミィがポンと手を打つ。

「ニンジャだ!
 彼、ニンジャですよね」

 確かにその者は、帯や足袋も同じ色の黒装束に身を包み、口元を黒い布で覆っていたが、ひときわ目立つのがその身長と頭髪であった。背丈は150センチにも満たない位で、対峙している細面の美人と比べるとその差が歴然としていた。

 そして頭髪。およそ日本人としてはあり得ないほどの金髪がもっこりもっさり、アフロとして顔の上部に位置していた。
 二人が見合い、互いに一礼をする。すると、それまでの涼やかな声からは想像もできないほどの裂帛の気合いが袴美人の口から発せられた。

「始めェイッ!!」

 隣で袴の裾に触ろうとしていたエミィは思わず耳に手を当てる。更にはその後ろに立っていたメィリオや他の者達もビクリと身を竦ませた。
 構えたのはアフロの忍者だった。

「おっし、イッくぜぇ~?」

 まるで西部劇に出てくるガンマンがホルスターから拳銃を抜く前のように、若干背を丸め、両手をわき腹の横に位置させる。更には肘を天に突きあげた構えをとる。

「ッセィヤッ!」

 右手が陽炎のように揺らめくと、ヒュっという風切り音だけが聞こえる。この時何かが忍者から放たれたのだろうが、その場に居合わせたほとんどの人間には、それが見えてはいない。
 忍者の右手から放たれたものは対峙した美人が、ソレを顔の目の前で掴んでからやっと判別されたのだった。

 ――苦(く)無(ない)。

 古くから何故、忍者がこれを使うことがあるかというと、職人等の一般人が道具として使っていたことから、誰が持ち歩いていても不審に見られなかったという点に由来する。

「んじゃぁ、コレはどうだ?」

 構えていた両手をスッとに懐に納める。まるで右の手を左の脇腹に、左の手を右の脇腹に添えるような格好に見えるほど深々と。

「イイから、こいや」

 同じく目元を緩め、まるでキャッチボールでもしているかのように楽しそうな言葉のやり取りをする長躯の美人。
 アフロの忍者は呼気を漏らす。

「ッヒュ!」

 勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。

 ――キィンッ!

 火花が閃き、一同からどよめきの声が上がる。
 二撃目が投擲されていたと知らせる金属音。
 一撃目で長躯の女が掴んだクナイがこれを弾いたのだ。

「なぁ、アレ、思いっきり顔を狙ってたよな・・・・・・」

 火花の散った位置から容易に想像できたことだが、刃のついた鉄の塊がまともに当たれば無事ではすむまい。
 いや、場所が顔なら掠っただけでも危険なことはワキミズだけではなく、子どもでもわかることである。
 続けざまに己の放った投擲物が目標に突き刺さらなかったにもかかわらず、忍者はその黒布の上からでも分かるほど、顔を綻ばせているようだった。

「んじゃぁ、今度はどうよ?」
「なんじゃ?」

 ――ッシャア!!

 勢いよく両手を引き抜いた。しかし、その手には例の如く何も握られてはいない。
 今度は空を切る音と共に、飛来物が目に映る。右からは二つ、左からは一つ、弧を描いて飛んでくる。
 忍者といえばこれであろう。手裏剣であった。
 合計三枚の手裏剣は、其々のタイミングが微妙にずれていた。
 一枚目は何とか避けられよう。二枚目は弾く事が出来る。しかし三枚目は・・・・・・
 これに対して、手裏剣の的であった美女は、ゆらりと身を動かす。それはおおよそ武闘に関連するような激しいものではなく、どちらかと言えば何かの舞のようであった。
 緩やかで、しかし緩慢とは言えないその身のこなしのまま、美女は手裏剣をかいくぐりながら、忍者との間合をつめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...