柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

文字の大きさ
5 / 54

5/54

しおりを挟む
 一同が校舎の裏から出て、少し離れた竹林の中の一本道をぞろぞろと進む。
「へぇ~、こんなところがあったんだねぇ~」
 春の暖かい日差しは竹の間からサラサラと入り込むが、その陽も傾き始め、肌寒い空気が竹林に漂い始めていた。
 暫く竹林の一本道を歩くと一同の目の前に扉、イヤ、門とその奥に屋敷が見えた。
 まるで時代劇の中でしか見たことの無いような、立派な冠木門(かぶきもん)とお屋敷に一同はため息に似た関心を寄せる。
 左右に立てた柱に笠木(かさぎ)と呼ばれる材木を上部に通し、屋根のない門。それをエミィは目を爛々と輝かせ、トントンと叩く。

「ハロー……」

 ――一拍

「コンニチハー……」

 ――二拍

「タノモー……」

 ――三拍。

 しばらく様子を見るも、返事がない。
 後ろでこの様子を見ていたワキミズも、皆と同じく暫く待った。

「……?
 留守かな?」

 エミィはまだ中を伺っている。次第に戸を叩くノックの音が大きくなると、一同がこれをたしなめる。

「エミィちゃん、今日は留守みたいだよ。帰ろう?」

 しかし、尚も叩(こう)扉(ひ)を続けようと振りかぶった時だった。

「――なんだ?」

 一同の意識が全く向いていなかった後方から声がかかる。
 そこに立っていたのは、一人の女性であった。女性はいわゆる剣道着らしきものに身を包んでおり、白い木刀を携えていた。凛とした声にエミィとメィリオ、そしてワキミズを含めた一同が振り向く。
 エミィは女性に近寄り、まじまじと女性を見る。光の加減からか、緑の縁を有する黒髪や、その道着の上からでも分かる豊満な果実に視線を送り、自分のものとそれぞれ比べてみる。中でも袴に対して強く触覚の動いた彼女は上から下へと視線を移した。

「ふぅむ……、これはインディゴ・ブルー、藍で染めたジャパンの着物ですね?
 それに、その右手のものは『木刀』、ウッドソードですか!
 そうですね?」
「何の用だ?」

 エミィの問いに答えることも無く、そのまま女性は端的に言葉を発する。その声は一同の耳にはもちろん、周りの竹林の中の静けさにまでスッと染み込んでいくかのように。
 くじけることなくエミィも続ける。

「あのですね、あなたがサムライですか?」

 率直にして、安直な彼女の疑問。後ろにいた男子学生がこれに口を挟む。

「エミィちゃん、サムライって、アハハ。今の、現代の日本にはサムライもニンジャもいないんだよ」

 そうだそうだと、声があがる。
 これは、いわゆるステレオタイプな外国人であるエミィに対する軽視の発言ではなかったようだが、彼女はキョトンとしたままだった。メィリオが慌ててこれに注釈を付け加える。

「お、お嬢様、サムライというのは古の王、将軍や領主に仕えた戦士のことで、我々の国で言う騎士(ナイト)のように過去のものとして捉えてくださいませ」

 ヤレヤレと言った風体の一同に、ワキミズも苦笑を浮かべる。

「コレが、外国人の見る日本のイメージって奴なのかね……マァ、そこがエミィさんのカワイイところでもあるんだけど……」

 ――いるぞ、ここに。

 その一言はどよめき立っていた一同を、周囲に群生する竹の如く黙らせた。

「こっちだ。ついて来い」

 そういって門を開くと、袴姿の女性はエミィ達を門内へと案内した。連れていかれた先は広場であった。そこには芝生も無ければ庭石も、昔のお屋敷にありそうな玉砂利も石灯籠もなかった。ただ、そこは草一本生えず、それが日常的に「何かに」使われているといった印象を与える場ではあった。
 屋敷の縁側ともいえる通路にそのままつながっているが、その広さゆえ運動場か何かと間違える者が多かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...