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一同が校舎の裏から出て、少し離れた竹林の中の一本道をぞろぞろと進む。
「へぇ~、こんなところがあったんだねぇ~」
春の暖かい日差しは竹の間からサラサラと入り込むが、その陽も傾き始め、肌寒い空気が竹林に漂い始めていた。
暫く竹林の一本道を歩くと一同の目の前に扉、イヤ、門とその奥に屋敷が見えた。
まるで時代劇の中でしか見たことの無いような、立派な冠木門(かぶきもん)とお屋敷に一同はため息に似た関心を寄せる。
左右に立てた柱に笠木(かさぎ)と呼ばれる材木を上部に通し、屋根のない門。それをエミィは目を爛々と輝かせ、トントンと叩く。
「ハロー……」
――一拍
「コンニチハー……」
――二拍
「タノモー……」
――三拍。
しばらく様子を見るも、返事がない。
後ろでこの様子を見ていたワキミズも、皆と同じく暫く待った。
「……?
留守かな?」
エミィはまだ中を伺っている。次第に戸を叩くノックの音が大きくなると、一同がこれをたしなめる。
「エミィちゃん、今日は留守みたいだよ。帰ろう?」
しかし、尚も叩(こう)扉(ひ)を続けようと振りかぶった時だった。
「――なんだ?」
一同の意識が全く向いていなかった後方から声がかかる。
そこに立っていたのは、一人の女性であった。女性はいわゆる剣道着らしきものに身を包んでおり、白い木刀を携えていた。凛とした声にエミィとメィリオ、そしてワキミズを含めた一同が振り向く。
エミィは女性に近寄り、まじまじと女性を見る。光の加減からか、緑の縁を有する黒髪や、その道着の上からでも分かる豊満な果実に視線を送り、自分のものとそれぞれ比べてみる。中でも袴に対して強く触覚の動いた彼女は上から下へと視線を移した。
「ふぅむ……、これはインディゴ・ブルー、藍で染めたジャパンの着物ですね?
それに、その右手のものは『木刀』、ウッドソードですか!
そうですね?」
「何の用だ?」
エミィの問いに答えることも無く、そのまま女性は端的に言葉を発する。その声は一同の耳にはもちろん、周りの竹林の中の静けさにまでスッと染み込んでいくかのように。
くじけることなくエミィも続ける。
「あのですね、あなたがサムライですか?」
率直にして、安直な彼女の疑問。後ろにいた男子学生がこれに口を挟む。
「エミィちゃん、サムライって、アハハ。今の、現代の日本にはサムライもニンジャもいないんだよ」
そうだそうだと、声があがる。
これは、いわゆるステレオタイプな外国人であるエミィに対する軽視の発言ではなかったようだが、彼女はキョトンとしたままだった。メィリオが慌ててこれに注釈を付け加える。
「お、お嬢様、サムライというのは古の王、将軍や領主に仕えた戦士のことで、我々の国で言う騎士(ナイト)のように過去のものとして捉えてくださいませ」
ヤレヤレと言った風体の一同に、ワキミズも苦笑を浮かべる。
「コレが、外国人の見る日本のイメージって奴なのかね……マァ、そこがエミィさんのカワイイところでもあるんだけど……」
――いるぞ、ここに。
その一言はどよめき立っていた一同を、周囲に群生する竹の如く黙らせた。
「こっちだ。ついて来い」
そういって門を開くと、袴姿の女性はエミィ達を門内へと案内した。連れていかれた先は広場であった。そこには芝生も無ければ庭石も、昔のお屋敷にありそうな玉砂利も石灯籠もなかった。ただ、そこは草一本生えず、それが日常的に「何かに」使われているといった印象を与える場ではあった。
屋敷の縁側ともいえる通路にそのままつながっているが、その広さゆえ運動場か何かと間違える者が多かった。
「へぇ~、こんなところがあったんだねぇ~」
春の暖かい日差しは竹の間からサラサラと入り込むが、その陽も傾き始め、肌寒い空気が竹林に漂い始めていた。
暫く竹林の一本道を歩くと一同の目の前に扉、イヤ、門とその奥に屋敷が見えた。
まるで時代劇の中でしか見たことの無いような、立派な冠木門(かぶきもん)とお屋敷に一同はため息に似た関心を寄せる。
左右に立てた柱に笠木(かさぎ)と呼ばれる材木を上部に通し、屋根のない門。それをエミィは目を爛々と輝かせ、トントンと叩く。
「ハロー……」
――一拍
「コンニチハー……」
――二拍
「タノモー……」
――三拍。
しばらく様子を見るも、返事がない。
後ろでこの様子を見ていたワキミズも、皆と同じく暫く待った。
「……?
留守かな?」
エミィはまだ中を伺っている。次第に戸を叩くノックの音が大きくなると、一同がこれをたしなめる。
「エミィちゃん、今日は留守みたいだよ。帰ろう?」
しかし、尚も叩(こう)扉(ひ)を続けようと振りかぶった時だった。
「――なんだ?」
一同の意識が全く向いていなかった後方から声がかかる。
そこに立っていたのは、一人の女性であった。女性はいわゆる剣道着らしきものに身を包んでおり、白い木刀を携えていた。凛とした声にエミィとメィリオ、そしてワキミズを含めた一同が振り向く。
エミィは女性に近寄り、まじまじと女性を見る。光の加減からか、緑の縁を有する黒髪や、その道着の上からでも分かる豊満な果実に視線を送り、自分のものとそれぞれ比べてみる。中でも袴に対して強く触覚の動いた彼女は上から下へと視線を移した。
「ふぅむ……、これはインディゴ・ブルー、藍で染めたジャパンの着物ですね?
それに、その右手のものは『木刀』、ウッドソードですか!
そうですね?」
「何の用だ?」
エミィの問いに答えることも無く、そのまま女性は端的に言葉を発する。その声は一同の耳にはもちろん、周りの竹林の中の静けさにまでスッと染み込んでいくかのように。
くじけることなくエミィも続ける。
「あのですね、あなたがサムライですか?」
率直にして、安直な彼女の疑問。後ろにいた男子学生がこれに口を挟む。
「エミィちゃん、サムライって、アハハ。今の、現代の日本にはサムライもニンジャもいないんだよ」
そうだそうだと、声があがる。
これは、いわゆるステレオタイプな外国人であるエミィに対する軽視の発言ではなかったようだが、彼女はキョトンとしたままだった。メィリオが慌ててこれに注釈を付け加える。
「お、お嬢様、サムライというのは古の王、将軍や領主に仕えた戦士のことで、我々の国で言う騎士(ナイト)のように過去のものとして捉えてくださいませ」
ヤレヤレと言った風体の一同に、ワキミズも苦笑を浮かべる。
「コレが、外国人の見る日本のイメージって奴なのかね……マァ、そこがエミィさんのカワイイところでもあるんだけど……」
――いるぞ、ここに。
その一言はどよめき立っていた一同を、周囲に群生する竹の如く黙らせた。
「こっちだ。ついて来い」
そういって門を開くと、袴姿の女性はエミィ達を門内へと案内した。連れていかれた先は広場であった。そこには芝生も無ければ庭石も、昔のお屋敷にありそうな玉砂利も石灯籠もなかった。ただ、そこは草一本生えず、それが日常的に「何かに」使われているといった印象を与える場ではあった。
屋敷の縁側ともいえる通路にそのままつながっているが、その広さゆえ運動場か何かと間違える者が多かった。
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