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竹林を抜けて屋敷に流れ込む爽やかな朝の空気。この爽やかさを亡きものにしたのはイトウセンセイの豪快な笑い声だった。
「ホッホッホ。
戦じゃ、イクサ♪」
「明らかに喜んで……
まるで遊園地に行く前の子供のようにっ」
周りを見てみると、ワキミズとメィリオ以外の先輩たちもどことなく嬉しそうな表情をしている。
「センセイ! センパイ! どうしたんですかっ? 戦うって……先ずは話し合いとか、交渉の場を設けるとかしないんですか?」
「バッカモンが。武士の本分とは戦うことじゃろうが。おまえはこの数カ月で何を学んできたんじゃ?」
至極当然という認識をあえて問われたセンセイは非常に不可思議なことを聞かれた、という顔をしている。それに対して、ユキシロはワキミズに問う。
「アフォだなぁ。話し合いがしたいのなら襲ってきたり、わざわざ人質をとったりなんてするものか?
来るなら撃つ。アタシらに牙をむいたらどうなるか――
相手に分からせてやりゃあいいのよ」
ツクモもこれにうなづく。
「そうそう、ナメられたままでいいわけないじゃんよぅ。オトシマエ、そういうのはキッチリしておかないとな」
ワキミズは情けない声を上げながら部長にすがりつく。
「ぶ、部長~、なんとか先生やユキシロ先輩達をなだめてくださいよ~」
「イヤ、それがしもやられっぱなしというのは気に食わないんでな」
先生と三人の先輩の主張に、その場に座り込んでしまったワキミズ。その隣ではメィリオが震えていた。
「メィリオ……?」
その小さな体は小刻みに揺れ、歯はカタカタと鳴っている。
「メィリオ、怖いのか?」
「えぇ、確かに怖いです。でも、それ以上にお嬢様が心配で……僕なんかに何が出来るか分かりませんが、出来る限りのことをしなければならないんだと思います」
そういって、己の覚悟を口にした少年はその丸い瞳に炎を宿らせていたのだった。
その夜――夏休みということもあり、生徒はもとより夜間の見回りを担当する守衛のおじさんも学園の中にはいなかった。イトウセンセイが手をまわした結果らしい。
月の光で明るい夜だった。そんな夜、時代的にも地域的にも似つかわしくない物体が柳兎学園へと向かっていた。
「そろそろか……」
ツクモは屋敷の敷地内にある物見ヤグラの上に登り、夜の空気を肌で見ていた。そしてその耳は学園、そう、己らの領域(テリトリー)に入った侵入者を感知した。
――ム!
ガッシャァァンッッ
音が聞こえたのは学園の玄関。敵は堂々と校門を通り学園の玄関を破壊、勢いもそのままに、校舎を挟んで反対側へ突き抜け、サムライ部の屋敷へと向かってくる。
「「「キタ」」」
ツクモ、ハク、ユキシロはこれをそれぞれ感じ取り、目を見開いた。
ものすごい爆音を鳴り響かせるのは、前にも学園に乗り込んできたバイク。ミツクがその紅い髪を揺らしながら大きな競走馬のような二輪車で先頭に立っていたのだ。そしてその後に続くのは馬車だった。それも日本のものではないことは一目瞭然、絵本に出てくるような、黒塗りの大きなそれは、魔法とかぼちゃで作った様な西洋的ないでたちだった。
バイクの爆音と、馬車の車輪の音は次第に近づいてくる。
覚悟を決めた若者は誰彼となくつぶやく。事の重大さに意識を研ぎ澄ませる。
「オ、オレモ……こうなったら――うぁっぷ!」
ワキミズは突如として背後から現れた黒影に口元を押さえられ、連れ去られてしまった。
「オイ!
そろそろ着くぜぃ!」
ミツクは己の操るバイクの後ろ、後方の馬車に声を上げる。馬車は誰が手綱を持つわけでもないのに2頭の黒馬が引く。その馬たちは青白く炎のように燃える目と吐き出す火炎でその声に応じているようだった。黒い馬車自体も車輪が紅い炎に縁取られ、ガラガラと音を立てて進んでいる。
「このまま、このうざったい竹の林を抜けるぞ!
その炎で燃やしちまえ!」
音と音が、それこそ竹林の一本道を通り左右に群生する竹を両脇になぎ倒していくかのように、1分、2分と竹林の中を走るも、尚もその道は続く。
「オィオィ、どれだけ長いんだ? このクソタケヤブはよぉ」
そんな汚い言葉を吐き捨てた矢先であった。
「おぉ、やっと出口だぜ!」
ミツクのバイクが出口に躍り出る。そして――
カチリッ。
――ッドォオオン
バイクの車輪が地面に埋められていた突起を踏むと、炸裂音が鳴り響いた。火薬である。
「オッシ!
掛ったぞ!」
ツクモは己の仕掛けた罠に敵がかかったことを喜び、物見ヤグラから飛び降りてきた。炎上する単車と馬車。開かれた冠木門の前で爆炎があがり、作りの古い屋敷もその身を震わせる。
「ホッホッホ。
戦じゃ、イクサ♪」
「明らかに喜んで……
まるで遊園地に行く前の子供のようにっ」
周りを見てみると、ワキミズとメィリオ以外の先輩たちもどことなく嬉しそうな表情をしている。
「センセイ! センパイ! どうしたんですかっ? 戦うって……先ずは話し合いとか、交渉の場を設けるとかしないんですか?」
「バッカモンが。武士の本分とは戦うことじゃろうが。おまえはこの数カ月で何を学んできたんじゃ?」
至極当然という認識をあえて問われたセンセイは非常に不可思議なことを聞かれた、という顔をしている。それに対して、ユキシロはワキミズに問う。
「アフォだなぁ。話し合いがしたいのなら襲ってきたり、わざわざ人質をとったりなんてするものか?
来るなら撃つ。アタシらに牙をむいたらどうなるか――
相手に分からせてやりゃあいいのよ」
ツクモもこれにうなづく。
「そうそう、ナメられたままでいいわけないじゃんよぅ。オトシマエ、そういうのはキッチリしておかないとな」
ワキミズは情けない声を上げながら部長にすがりつく。
「ぶ、部長~、なんとか先生やユキシロ先輩達をなだめてくださいよ~」
「イヤ、それがしもやられっぱなしというのは気に食わないんでな」
先生と三人の先輩の主張に、その場に座り込んでしまったワキミズ。その隣ではメィリオが震えていた。
「メィリオ……?」
その小さな体は小刻みに揺れ、歯はカタカタと鳴っている。
「メィリオ、怖いのか?」
「えぇ、確かに怖いです。でも、それ以上にお嬢様が心配で……僕なんかに何が出来るか分かりませんが、出来る限りのことをしなければならないんだと思います」
そういって、己の覚悟を口にした少年はその丸い瞳に炎を宿らせていたのだった。
その夜――夏休みということもあり、生徒はもとより夜間の見回りを担当する守衛のおじさんも学園の中にはいなかった。イトウセンセイが手をまわした結果らしい。
月の光で明るい夜だった。そんな夜、時代的にも地域的にも似つかわしくない物体が柳兎学園へと向かっていた。
「そろそろか……」
ツクモは屋敷の敷地内にある物見ヤグラの上に登り、夜の空気を肌で見ていた。そしてその耳は学園、そう、己らの領域(テリトリー)に入った侵入者を感知した。
――ム!
ガッシャァァンッッ
音が聞こえたのは学園の玄関。敵は堂々と校門を通り学園の玄関を破壊、勢いもそのままに、校舎を挟んで反対側へ突き抜け、サムライ部の屋敷へと向かってくる。
「「「キタ」」」
ツクモ、ハク、ユキシロはこれをそれぞれ感じ取り、目を見開いた。
ものすごい爆音を鳴り響かせるのは、前にも学園に乗り込んできたバイク。ミツクがその紅い髪を揺らしながら大きな競走馬のような二輪車で先頭に立っていたのだ。そしてその後に続くのは馬車だった。それも日本のものではないことは一目瞭然、絵本に出てくるような、黒塗りの大きなそれは、魔法とかぼちゃで作った様な西洋的ないでたちだった。
バイクの爆音と、馬車の車輪の音は次第に近づいてくる。
覚悟を決めた若者は誰彼となくつぶやく。事の重大さに意識を研ぎ澄ませる。
「オ、オレモ……こうなったら――うぁっぷ!」
ワキミズは突如として背後から現れた黒影に口元を押さえられ、連れ去られてしまった。
「オイ!
そろそろ着くぜぃ!」
ミツクは己の操るバイクの後ろ、後方の馬車に声を上げる。馬車は誰が手綱を持つわけでもないのに2頭の黒馬が引く。その馬たちは青白く炎のように燃える目と吐き出す火炎でその声に応じているようだった。黒い馬車自体も車輪が紅い炎に縁取られ、ガラガラと音を立てて進んでいる。
「このまま、このうざったい竹の林を抜けるぞ!
その炎で燃やしちまえ!」
音と音が、それこそ竹林の一本道を通り左右に群生する竹を両脇になぎ倒していくかのように、1分、2分と竹林の中を走るも、尚もその道は続く。
「オィオィ、どれだけ長いんだ? このクソタケヤブはよぉ」
そんな汚い言葉を吐き捨てた矢先であった。
「おぉ、やっと出口だぜ!」
ミツクのバイクが出口に躍り出る。そして――
カチリッ。
――ッドォオオン
バイクの車輪が地面に埋められていた突起を踏むと、炸裂音が鳴り響いた。火薬である。
「オッシ!
掛ったぞ!」
ツクモは己の仕掛けた罠に敵がかかったことを喜び、物見ヤグラから飛び降りてきた。炎上する単車と馬車。開かれた冠木門の前で爆炎があがり、作りの古い屋敷もその身を震わせる。
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