柳兎学園・江戸文化作法研究会 ~サムライ部での青春のワンシーン~

花山オリヴィエ

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「だって! 
 だって私には姉としての責務が――」
「ここでの生活は?
 厳しくも楽しく、そしてみんなが助け合い、笑顔だったじゃないか!
 ここには仲間も、友達だっているじゃないか!
 きっと何か方法があるはずだよ」
 その語にエミィは口に手を当てて声を漏らし、右手で携えていた銃から手を離す。ワキミズは己の心臓に狙いを定めていたピストルを足元に落とした。

「ハイ、それまでだ」

 落としたはずの拳銃が地につく前に拾い上げ、今度はワキミズの眉間に狙いを定めたのはメィリオだった。
 それまで彼が持っていた拳銃を右手に、ワキミズが落としたものを左手に、それぞれ構えていた。そう、ワキミズとエミィの二人の眉間に照準を合わせて。

「いいから、さっさと開けろ!」

 それまでの、少なくともワキミズが知っているメィリオではなかった。

「た、確かメィリオはセンセイと――
 センセイ?
 センセイ!? 」
「おーぅ、ここじゃー」

 ワキミズが顔を動かさずに目だけを向ける。メィリオとエミィの先、視界に入ってきたのはイトウセンセイが大きな岩の下になっている姿だった。
 岩にはなにやら御札の様なものが沢山張り付けられている。

「ウゥム、しくじったわい。門と同じ効果を持つ封じ石じゃ。ワシはユーレイじゃから、こう言った結界やら御札にはめっぽう弱くてのぅ」
「そんな、あれだけすごい存在感で幽霊だなんて……」
「ま、仕方ないじゃろ。そのおかげでお主らの見えていなかった事も見ておったんじゃからのぅ」
「ウルサイ!
 ジジィはどうでもいいんだよっ。
 さっさと門をあけやがれ!」
「まぁ、聞いておけ。
 三人の用心棒、ワキミズの寮への放火。
 そして今回の誘拐騒動。全ての黒幕はメィリオ、お主じゃろう。
 ん?
 どうだ?」

 センセイの指摘に声をあげて高らかに笑うメィリオのその姿は狂気に満ちていた。

「その通り、そこのオジョーサマを口車に乗せたのも、バケモノを集めて情報という餌をちらつかせた上で暴れさせたのも、みんなオレのやったことよ!」
「なん……ですって……?」
「あのバケモノを、リディを葬れるなら、人間としてオレは悪魔にだって魂を売ってやるってんだよ」
「なんだって、そんなにあの子の、リディの事を……」
「知らないのか?
 なら、教えてやるよ。テメェの妹が一番最初に手に掛けた人は誰だ?
 何の罪もなく、テメェの妹の世話をしていた乳母、オレの母さんを殺しておいて『妹を救う』だと?
 笑わせてくれる!
 オレはあの化け物を地獄の最下層、『無限地獄』に落としてやるのさ!
 一生を何もない地獄の底で、永遠に一人で狂わせておけばいいのさ!」

 メィリオはなおも、息の続くばかりに声を張り上げる。

「あんな化け物がこの世に解き放たれるなんて、オレが許さん!
 モチロン、エミィ、おまえも同罪だッッ」

 それまで知らなかった己の一番そばにいたはずの人間の闇を垣間見たエミィ。
 彼女はその顔を両手で覆い、その場に膝をついて崩れてしまった。

 「これを見ろ。あの化け物に殺されたオレの母さんだ。」
 メィリオはワキミズに向けていた銃を一旦懐にしまい、上着を脱いで見せた。今まで彼が着ていたどんな時も脱がなかったスーツ。

「――ッ!」
「あの化け物が、リディがオレの母さんの首を跳ねた後、母さんの着ていたこのスーツには母さんの血がべっとりと染み込んだ。そして何度洗ってもこの上着の裏地には母さんの恨みと悲しみが染みとなって涙を流している。」
 メィリオの上着の裏地、背に当たる部分には見るもおぞましい、不気味な人の顔があった。

「この母さんの顔はいつもオレに囁いてくる。
『あのバケモノを殺せ。母さんの恨みを晴らしておくれ』
 そんな母さんの悲しみの声を聞きながら、オレはその化け物の姉、そう、エミィ、おまえに心の中では反吐を吐きながらつき従っていたってわけだ」

 メィリオの言葉に心臓を掴みだされる様な悲しみを覚えるエミィ。彼の心は母を殺されたその悲しみを、サイズの合っていないスーツを着て十年以上も背負いながら生きてきたのだ。
「さぁ、ワキミズ。貴様の馬鹿力でそのゴツい門を開けるんだ」

 メィリオは今までの主人(あるじ)に銃口を突き付け、ワキミズを脅した。

「なぁ、メィリオ……もう……」
「ごちゃごちゃと煩い男だっ。
 言う通りにしないとお前の大好きなオジョーサマが柘榴みたいになっちまうぞっ」
「――ッ」

 すでにメィリオの目が、今までみてきた小動物のような優しさを抱いたそれではなった。
 人質をとられた形でワキミズは門に向き直り、手を添える。
 木で出来ているはずなのにどこかゾクリとさせる冷ややかな感触だった。
 ワキミズが手に力を込めた。
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