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1. プロローグ

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 伯爵令嬢リーナ・ドレスナーは、前世の記憶がある。

 思い出したのは、9歳の時。
 その当時、お転婆過ぎたリーナは、メイドが止めるのも聞かず、屋敷の庭で木登りしてた時に足を滑らし転落。
 3日間も意識を失い、目覚めた時に、自分が転生者だった事をはたと思い出したのであった。

 転生前のリーナは、この国、マリリナ王国の大賢者モッコリーナ。
 結構、偉い人だったのだが、オタク気質で、研究大好き。
 しかも、人見知りで、極度の女性恐怖症。

 110歳まで生きたのだが、女子と話すと恥ずかし過ぎて、すぐに赤面。彼女居ない歴も110年。

 そんな拗らせジジイだったのに、9歳の美幼女に転生してしまったのだ。

 だって、女の子と、生まれて此の方、マトモに話した事がないのに、金色が濃い琥珀色の瞳をした、クリーミーブロンドの軽いウェーブが掛かった超絶美幼女なっちゃったんだよ。

 そりゃあ、モッコリーナの記憶が戻ったら、卒倒するよ。

 それまで、活発だったリーナ・ドレスナーは、大賢者モッコリーナ本来の性質に、思いっきし引っ張られて、オタク気質の根暗少女になってしまったのだった。

 リーナが、どんだけ生きづらくなってしまったかというと、まず、メイドが近付くと、激しい動悸がして過呼吸になってしまう。

 だって、話した事もないような若くて美人さんのメイドが、あれやこれやとお世話してくるんだよ。
 ずっと研究一筋だった、モッコリーナには、もう地獄。
 メイド怖いと、直ぐに、引きこもりになってしまったのだ。

「なんなのだ……この顔……可愛い過ぎだろ……」

 毎日、自分を見て赤面してしまうレベル。
 あまりに、自分が可愛い過ぎるから、前髪を延ばして顔を隠し、頭もボサボサ、出来るだけ可愛くない服を着て、お風呂も入らず自分が耐えられるぐらいの見た目になるように、努力したのである。

 ここまでくると、メイドもお手上げ、最初の頃は、頼みますからお風呂だけでも入って下さいと懇願されたが、断固拒否。
 屋敷の書庫に籠って、1日中、大好きな本を読み漁る生活。

 完全に出不精のオタク生活突入。

 そんなリーナに転機が訪れたのは、13歳の時、何をとち狂ったのか、両親が親戚筋の男爵家の家から、養女を貰ったのである。

 実を言うと、リーナには子供の頃からの許嫁が居たのだ。
 相手は、アーモンド侯爵家のエドモンド様。
 容姿端麗の黒髪黒目のイケメン王子様。

 初めて、顔合わせした時、当時の、まだモッコリーナの人格が無かったリーナは、一目惚れ。
 だけれども、モッコリーナの人格も合わさった、今のリーナは、男と結婚するなんて有り得ない。

 モッコリーナの人格が合わさってからも、何度もエドモンド様が家に遊びに来たが、その全てをガン無視して、部屋に閉じこもり籠城。散々両親を困らしてきたのだ。

 エドモンド様との婚約は、所謂、政略結婚。簡単に破談に出来るものではない。
 リーナの両親も困り果て、苦肉の策で、遠縁だった男爵家のアイナ・クルーズを養女に貰ったのであった。

「何、あの子、臭い……」

 リーナより茶色ぽい琥珀色の目で、レッドブロンドの髪をした、アイナ・クルーズとのファーストインパクトは最悪。
 いきなり、臭いと言われて、リーナは大ショックを受けてしまう。
 無理もない、もう、2年間ぐらいお風呂に入っていなかったのだ。
 自分では、全く気付かなかったが、よっぽど臭ったのだろう。

 流石に、それを言われて、リーナは急いでお風呂に入るくらい狼狽した。
 だって、アイナ・クルーズは、リーナに負けないくらい美少女だったから。

 誰しも、美少女に臭いとか言われるとショックを受けてしまうものだ。
 それも、極度の女性恐怖症のオタクなら尚更。

 でもって、臭いリーナより、素直で愛らしいアイナを、両親が可愛がるのは自然の流れ。

 両親は、アイナの我儘を聞く為に、散財を始める。そんなに裕福でもないのに。
 アーモンド侯爵家と婚姻を結ぼうとしてたのも、アーモンド侯爵家から金銭的な援助を受ける為。
 なので、両親は、婚姻が破談になると困るから、わざわざ親戚筋のクルーズ男爵家から養子を取ったのである。

「お義母様。 私、盛大なお披露目会をやりたいの。
 私が、伯爵家の娘になった事を、みんなに知ってもらわないといけないし」

 うちの両親は、アイナに甘い。養女になって貰った負い目もあるし、なにより、アイナが、リーナと違って甘え上手だから。

 ずっと、リーナに避けられていた両親は、娘に甘えて貰うのに飢えてたのかもしれない。

「お義母様。私、もっと可愛らしいドレスが欲しいわ」

「お義父様。 私、流行のアクセサリーが欲しいの」

 こんな感じに、アイナの贅沢はエスカレート。
 元々、領地にロクな産業もなく、貧乏貴族だったドレスナー伯爵家は、一気に貧乏になっていって、メイドも1人、また1人と辞めていき、リーナの食事も殆ど、具が入ってない水っぽいスープだけになっていった。

 ヤバイ。コレはヤバイ。
 そこまでいって、リーナはとても焦りだす。
 このままでは、自分は餓死してしまうと。
 アイナは散財を止める気ないし、両親は、アイナがアーモンド侯爵家と婚姻を結べば、お金が入ってくると、甘い考え。

 リーナは、それは無いからと言おうと思っても、言う事ができない。
 何せ、リーナは極度の女性恐怖症で、実の母親とも喋れなくなってるし、父親は、臭すぎるリーナを避けるようになっている。

 案の定、ドレスナー侯爵家は、間もなく破綻する。
 無理もない、湯水のようにお金を使えば無くなるものなのだ。

 そして、リーナは、1週間食事が出なくなって、決断したのだ。
 賢者だった時の知識を使って、お金を稼ごうと、そして、飢え死にするのを間逃れようと!

 これは、元賢者のリーナが、女性恐怖症と、極度の人見知りを、その可愛すぎる容姿を受け入れ、少しづつ克服していく話。
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