上 下
4 / 61
第一章 魔眼転生

4. 猫耳幼女クロメ

しおりを挟む
 
 その猫耳の幼女は、とても可愛らしかった。
 年齢は10歳くらいか。黒髪、黒耳、黒尻尾の大人しそうな幼女。

『こんな年端もいかない子供まで、実験に使うのかよ!』

 流石に、ジジイの所業になれていた俺も、心が痛む。どうにかして助けたい。だけれども、今の俺は、ただの眼球。

 おもむろに、イカレジジイは、幼女の左眼球を取り出す。

 幼女は、左目があった場所を抑え、うずくまり泣いている。
 相当、痛かったのだろう。今までと違う。
 今迄、目を取られた奴らは目を取られても朦朧としていた。
 だけれども、幼女は泣いているのだ。子供だからだろうか?隷属の首輪の効果より、痛さの方が勝ったのか?

『チキショー!あんな可愛い幼女を泣かせるなんて!』

 俺は憤る。絶対に許さねえ。子供を虐める奴は万死に値する。
 俺の麻痺していた正義の心が、メラメラと湧き上がる。
 どうにかして助けてあげたい。黒猫の幼女なんて、超絶レアなのだ。というか、俺はあの子の左目になりたい。

 少しだけ、正義の心に願望も混ざってしまう。だって宿主を選べるというなら、男より女の子の方がいいし、しかも年寄りより若い娘の方が、なお良い。

 俺がこの猫耳幼女に、あんな事や、こんな事を色々教えて、俺色に育ててみたいのである。
 黒猫幼女が欲しい。どうしても俺のものにしたい。

 俺は、ひたすら念じる。
 左目を失った幼女に。
 俺を使えと。俺を欲しろと。

 ーーー

『痛い。痛い。痛いよぉ』

 左目が燃えるように痛い。
 痛みに耐えながら、最近起こった辛かった出来事が、走馬灯のように思い出される。

 住んでた村が魔物の大群に襲われ、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも妹も全員殺されてしまった。
 私は、たまたま近所の森で薬草集めをしていて助かったのだけど、魔族の大群が去った後、村人は全員、皆殺しにされていて。しかも、村は跡形もなく全て燃やされていたのだった。

 帰る家も家族も、知り合いも全て失った私は、朦朧と森をさまよっていた。何日も何日も……
 そして、疲れ果てて道に倒れてる所を、悪い大人に捕まって奴隷にされてしまったのである。

 奴隷にされた後は、そのまま競売に掛けられ、白髪のお爺さんに買い取られたのだ。

 そして今。私は、白髪のお爺さんに左目をクリ抜かれてしまっている。
 突然の事で、訳が分からない。頭がずっと朦朧としてたのに、余りの痛さに頭がクリヤーになって来る。

 痛い。痛いよぉー!!

 逃げなきゃ。ここに居ると何をされるか分からない。実際、左目を無理矢理、引っこ抜かれてしまったのだ。
 よく見ると床は真っ赤だ。赤黒い血の色に染まっている。この場所で何人の人が殺されたのだろう。まだ新鮮な、人であったであろう肉片が無造作に転がっている。

『俺を使え……』

 なんか、目から血を流し過ぎたのか、幻聴のような微かな声が聞こえてくる気がする。

『俺を使え……』

 確かに聞こえる。というか、直接、頭に響いてくる。

『俺を使え……』

 誰が、私に話し掛けてくるの?
 この部屋には、私の目を抜き取った白髪のお爺さんしか居ないのに?

『俺を使え……』

 体を動かそうとするが、動かす事が出来ない。
 そう言えば、お爺さんに命令された時以外、動くなと言われてた気がする。

『俺を使え……』

 クソー!どうやっても体が動かせない。
 だけれども、私はついさっき、動く事が出来ていたのだ。左目をくり抜かれた瞬間、痛みに耐えきれず、床で転げ回っていたのだ。

 だけれども、痛みに少し慣れて来た所で、また、体が動かせなくなっていたのである。
 そして、どうにかして唯一動かせるのは、もの凄く痛い左目の辺りだけ。口は何とか、まだ動かせる。

 私は、思いっきし唇を噛んでみる。

『痛い!』

 だけれども、痛さと引き換えに、首を動かす事ができた。

 そして目にしたのは、

『目玉?!』

 棚に整然と並べられた何十もの目玉。
 そして、その中に見覚えがある目が、懐かしい目が、そこにあったのだ。

『未来視眼……』

 未来視眼は、私、クロメが、欲しくて欲しくて、心焦がれていた、黒耳族に伝わる魔眼。

 黒猫族にだけ、たまに隔世遺伝すると言われている魔眼。
 そして、未来視眼を手に入れた黒猫族の戦士は、暗殺者として育てられるのだ。

 そして、クロメは、その未来視眼を持つ父と母から生まれた族長の子であった。

 だけれども、族長の子でありながら、クロメだけが、未来視眼が発現しなかったのだ。
 まあ、他の家の子ならそれでも良かったのだが、クロメの家は、族長の家。

 未来視眼が発現しなかった子供は、人として認められない。
 クロメという名前も、未来視眼が発現しなかった私への当て付けに付けられた名前。

 黒目の、何もない子供であるという事。
 未来視眼は、本当に綺麗な魔眼なのだ。
 瞳孔が虹色に輝いており、その虹色に輝いた瞳孔が未来を見せると言われている。

『欲しい……』

 クロメは、動かない体を無理矢理動かし、未来視眼が置かれている棚に向かおうとする。

『私の未来視眼……私が、絶対に手に入れるべき魔眼』

 クロメは、這いつくばって、未来視眼の元に向かう。


 そして、そんなクロメを見ていて焦り出す俺。

 クロメに宿主になって欲しいと、強く願ったせいなのか、何故か、クロメとパスが繋がってしまっていたのだ。

 その影響なのか、クロメが思った情報が、俺の頭の中に全て流れ込んで来ていた。

 クロメが、未来視眼に心焦がれるのは分かる。
 だけれども、未来視眼より、俺を欲してくれよ!

 というか、俺の方を少しは見ろ!
 俺が、どんだけ格好良いのか。俺は、そんじょそこらの魔眼じゃないんだぜ!
 何せ、値段も付けれない程の、意思を持った魔眼なんだから!

 俺の知識を持ってしたら、ここからだって簡単に、脱出できるし!
 未来視眼なんて、たかが10秒先の未来が見えるだけだろ!
 クロメが、今、ここで未来視眼を手に入れても、何も出来ずに、またジジイに捕まり、殺されるのが目に見えてんだよ!

 俺を使え!そして、俺を信じろ!
 未来視眼なんて、少しだけレアかもしれないが、ありふれた魔眼なんだよ!
 意思を持っている、鑑定眼の俺の方が役に立つって!

 俺は、クロメに振り向いてもらおうと、必死に訴え掛け続けるのだった。

 ーーー

 なんか先程から、必死な声が頭に直接響いてくる。
 私も、未来視眼を手に入れる為に必死なのに。

 だけれど、未来視眼に近づけば近づくほど、声が大きくなり、より一層必死になってくるのだ。

『俺を使え! こっちを見ろ!右だって右!俺はお前から見て、右に居るんだよ!絶対に後悔させないから!俺って、未来視眼より、物凄く役に立つんだぜ!』

 本当に五月蝿い。仕方が無く、クロメは右に顔を向ける。

 そこには、卍と、複雑な魔法陣の線が青白く光り輝く、中二心を激しく揺さぶる、格好良過ぎる魔眼があったのだった。

『欲しい!!』

 クロメは、色めき立つ。だって、瞳が虹色に輝く未来視眼より、この卍眼の方が、どう考えても格好良いのだ。

 だって卍だよ。しかも、なんかよく分からない格好良過ぎる魔法陣が、目玉の隅々まで描かれえるし、しかも、卍と魔法陣が青白く光り輝いているのだ。

『発光する魔眼って……』

 クロメは、もう、卍眼を手に入れた自分を想像する。

 眼帯で卍眼を隠す自分。
 そして、絶対絶命の時に言うセリフ。

『クックックックッ。ついにこの眼帯を外す時が来てしまったか。だがしかし、この眼帯を外したら最後、お前の命は無いと思え!』

 ニヒルに笑う自分の姿が想像できてしまう。
 実は、クロエはもの凄く中二病を患った幼女だったのだ。

 下手に近くに未来視眼という、レアな魔眼の持ち主がいたからか、憧れて、憧れまくって、もし、私が未来視眼を持っていたなら、どんな生活が待っていたのだろうと、ずっと妄想し続け、拗らせた結果が、今のクロメなのである。

『卍眼欲しい……』

 もう、クロメの瞳に映っているのは、この俺、卍眼だけ。

『来たー! ついに来た! クロメが、俺に食いついた! 
 さあ、来い! 俺の元に!もう、相思相愛だよ!俺も、お前の左目になりたいんだよ!』

 クロメは、ほふく前進しながら、ついに俺の元まで来た。
 残ってる右目は、光り輝き、その瞳には、この俺、卍眼しか映っていない。

 そして、震える手で、俺が入った瓶の蓋を開け、その左目があった場所に、俺をそっと嵌め込んだのだ

 ーーー

 ここまで読んで下さりありがとうございます。
 面白かったら、お気に入りにいれてね!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

主役達の物語の裏側で(+α)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,002pt お気に入り:43

婚約破棄されまして・裏

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:617pt お気に入り:6,721

王子に転生したので悪役令嬢と正統派ヒロインと共に無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:681pt お気に入り:276

相手に望む3つの条件

恋愛 / 完結 24h.ポイント:655pt お気に入り:333

野生の聖女がやって来た!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:290

処理中です...