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第2章 城塞都市グラードバッハ編

28. グラードバッハの娘

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 目指すは王の部屋。取り敢えず、偉そうな人が住んでそうな、窓が一際大きな部屋から侵入してみる事にする。

 窓を開けて中に侵入すると、そこはどうやら、見た感じ女の子の部屋であるようだった。天蓋付きのベッドが部屋の中央にあり、誰かがスヤスヤと吐息をたてて寝ている。

『王様の部屋じゃなかったな……』

「ですね。卍様の御前であるのに、寝て迎えるとは無礼です!」

 また、クロメの変なスイッチが入ってしまったようである。

『あの……俺達が忍び込んだの解ってる?』

「しかし、それにしても無礼です。私なら飛び起きて、少なくとも膝まづいて頭を下げます」

『俺っていつも眼帯の中だし、クロメが眼帯取らないと、俺が誰だか分からないだろ?』

「ア……」

 どうやら、クロメは肝心な事に気付いてなかったようである。
 クロメは、地球の知識を利用して新魔法を作ったりと地頭は良いのだが、俺の事になると途端にポンコツになってしまうのだ。

「誰?」

 とか、クロメと話してると、天蓋付きベッドで寝てた女の子が起きてしまったようである。
 どうやら年齢は、クロメと同じくらいの10歳前後。金髪碧眼の、いかにもの貴族の女の子のようだ。

「クックックックックッ。私か?そう! 私こそが、闇に生き、闇に潜み、闇を喰らう者!伝説の暗殺集団、黒耳族の最後の生き残りにして、我が主、卍様の下僕にして、史上最強の魔眼、卍眼の使い手クロメ!」

 クロメは、眼帯を外して左手でピースサインを作り、左目を押し拡げて俺を際立たせる、いつのもの決めポーズをする。

 これ、本当に恥ずかしいんだけど。こんなに俺は目立ちたくないのだ。ここまでくると、俺を眼帯で隠してる意味ないし。
 もう既に、グラードバッハ城塞都市の人々はクロメが卍眼を持ってるの事を殆どの人が知ってるし。

「ああ。貴方様がグラードバッハ城塞都市で今、話題の卍眼を操る黒耳族のクロメ様でいらっしゃいましたか!」

 どうやら、グラードバッハ辺境伯の娘は、クロメの事を知ってたようである。
 まあ、あれ程、目立ってれれば、流石に、この地を治める領主一家の耳に入っててもおかしくない。

 黒耳族ってだけでも珍しいのに、格好が格好だし(忍者なのか魔法使いなのか分からない格好)
 極めつけは、俺。瞳孔に卍の文字が刻まれていて、尚且つ、瞳孔以外の場所には、色々な魔法陣が細かく刻まれてるし。
 しかも、クロメが興奮すると、青白く光り輝いちゃうしね。

「フッフッフッフッフッ。私と卍様を知ってるとは、お前、中々見所があるな」

 どうやら、クロメは、お貴族様の娘にまで知られていて満更でも無い様子。
 そもそも、闇に生き、闇の潜む者とか、自分で言っときながら、昼間でもヘッチャラで行動し、目立つ格好で歩き回ってたら元も子もない。

 しかも、折角、俺を眼帯で隠してるのに、やたらと卍眼を見せたがるし。
 まあ、弱者だと思われたくないだけだと思うが、俺の異世界検索機能(日本のインターネット)で得たアニメのセリフを言いたいだけかもしれないけど。(主に中二のセリフ)

「私は、クロメ様の噂を聞いて、ずっとクロメ様に会いたいと思ってたんです。何でも、ミノタウロスの力こぶ亭で、漫画肉とマンモス肉にも勝るとも劣らない、新たな看板メニューを考えついたとかで!」

「フッフッフッフッフッ。やはり、お前は見所があるな。あれは我が主、全能の神でもある卍様の知識を利用して作りだした至高の唐揚げなのだ!」

 クロメは鼻高々、無い胸を限界まで反り、ドヤ顔。
 何で俺の事で、ここまで威張れるのか意味不明。

「それは、もしや、勇者リクト様の故郷である異世界の料理なのではありませんか?」

「フッフッフッフッフッ。何を隠そう、我が主、卍様は異世界より召喚されし、偉大なる大魔王様なのだよ」

 なんか、クロメの中での俺の設定は、地球から召喚された大魔王であるようだ。
 まあ、クロメって、地獄の炎とかよく言うし、そんな設定だと何となく思ってたけど。

「なるほど。卍様は、勇者リクト様と同郷の大魔王様であらせられましたか!」

「そうだ! 卍様は、この世界を総べる為に、この世界に、降臨されたのだ! そして下僕である私の役目は、卍様の手足になり、この世界を滅亡させる事!」

「そ……そうなんですね……」

 グラードバッハ辺境伯の娘は困惑気味。
 そりゃあ、いきなり、この世界を滅亡させるとか言っちゃったら、誰でも困惑するし。
 しかしなが、そんな困惑する娘にお構い無しに、クロメは喋り続ける。

「手始めに、この国のアレキサンダー王とシリカ姫を血祭りにして、ぶっ殺す事を、卍様は御所望なのである!」

「ですね。その意見には私も同意します! アレキサンダー王とシリカ姫は、この国に巣食う癌ですので」

『ん?』

 まさかの同意。この国の人達って、女将とギルド長以外は、シリカ姫に記憶改ざんされてたんじゃなかったっけ?

「卍様?!」

 どうやら、クロメも気付いたようである。

『クロメ、俺の言葉を通訳しろ!』

「ハッ!」

 クロメは、その場で、片膝を付き返事をする。
 なんか、一人芝居してるようで相当おかしいが、クロメは、人の目など全く気にしない精神力を持っているのだ。

『取り敢えず、この子に、何で記憶が改ざんされてないか聞け!』

「承知!」

 クロメは、その場で深々と頭を下げた後、グラードバッハの娘に質問する。

「娘! 何でお前は、シリカ姫の記憶改ざんスキルが効いてないのだ! と、卍様が仰られている!」

「それは、勇者リクト様により、全ての呪いをリジェクトするという、伝説の月蝕草のお薬を飲ませて頂いたからでございます」
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