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第2章 城塞都市グラードバッハ編

33. 詠唱魔法こそ至宝

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「クックックックックッ。地獄の帝王であらせられる卍様と、闇に生き、闇を従え、闇を統べる黒耳族最後の生き残りである、この卍様の下僕であるクロメの暗躍によって、グラードバッハ城塞都市の洗脳工作が成功しましたね!」

 なんか、クロメは御満悦である。
 確かに、俺とクロメの活躍なんだけど、洗脳って……俺は解呪しただけだし。
 知らない人が聞いたら、本当に俺が洗脳したと思っちゃうだろ。
 俺って、見た目、本当におどろおどろしいし。実際、日頃から、勇者リクトの禍々しい怨念混じりの魔力を発してるし、勘違いされやすくて気にしてるのだ。

「クックックックックッ。卍様は、少しも気にする事などありませんよ。結局は、卍様がこの世界を統べる皇帝になるのですからね! クワッハッハッハッ! フワッハッハッハッ!」

 最近、クロメの中二が激しい。
 というか、何でいつも高笑い?
 目立ってしょうがないんだけど。
 闇に生きとか、影に生きとか、そんな言葉が大好きなのに、日中、公衆の面前で高笑いして、目立っちゃ駄目だろ?と、本当に思う。

 まあ、これがクロメの個性でアイデンティティだと言ったらそれまでだけど。
 俺は、もう少し注意した方が良いのか?
 せめて、公衆の面前で高笑いしない方が良いって。女の子なんだから、もっとお淑やかにした方が良いって。

 しかし、今はジェンダーレスの時代だし、男とか女とか差別とか言われちゃうかもしれないから、言えないんだよね……
 本当に、子育てって難しい。というか、俺、前世で結婚してなかったから、子育てなんて分かんないんだよ!

 しかも、クロメって、元々ネグレクトで、親の愛情もなく育ってきた子供で、その親も、兄も妹も、一族全てが魔族に皆殺しにされた身の上なんだよ。

 子育てなんて一切した事がない俺には、クロメの身の上は荷が重すぎるんだよ!
 中二過ぎる性格も、辛過ぎるこの世界から現実逃避する為に、自衛の為に無意識にやってる事かもしれないから、無下に止めろとか言えないし……

「卍様、クロメの事は心配しないで下さい。この性格は地ですから。卍様が心配する所など、1ミリもないですから」

 そう。クロメのこんな所も問題。クロメって、本当に俺ファーストで、俺に依存してるんだよね。
 本心で言ってるのか、俺に捨てられたくなくて言ってるのか、本当に分からない。
 何も分からないとか、俺は本当に、クロメの保護者失格である。

 まあ、そんなクロメの独り言にしか聞こえない中二喋りを気にしながら、俺達は、ギルドに向かう。
 街の人達は、殆どの人が、クロメの事を魔族に滅ぼされた黒耳族の村の生き残りと知ってるからか、クロメの変な独り言も、辛く悲しい出来事のフラッシュバックから来る奇行だと、生暖かく見守ってくれてるし。

 無駄な所でグラードバッハの人々は暖かいのだ。俺の代わりに注意してくれてもいいんだけど。

 とか、都合の良い事を考えながら歩いてたら、目的地である冒険者ギルドに到着した。

「よお! クロメちゃん! おはよう!」

「クロメちゃん! 今日も可愛いね!」

「ウム。矮小な人間共も、おはよう」

 クロメは、俺が何も言わなくても、挨拶が出来るようになったのだ。

 これも全て、グラードバッハの人々が、暖かくクロメを受け入れてくれたから。まあ、最初は、暖かいというか、生暖かく見守ってくれてたんだけど。珍獣を見るような目でね。

 しかし、結果良ければ、全て良し。
 クロメは、結構、真面目にクエストを受けるし、たまにミノタウロスの力こぶ亭でも3倍速で一所懸命働いてるのを、冒険者や街の人々は見ているのだ。言動はアレだけど、根は物凄く真面目だと思われてるのである。

 まあ、クロメ的には、伝説の黒耳族が請け負った仕事は、完璧にこなすのが当たり前と思ってるだけかもしれないけど。
 それにより、生暖かく見守るから、暖かく見守るに昇格したのであった。

 でもって、今日、冒険者ギルドに訪れたのは、やっとこさ、王都に向けての旅を再開する事をギルド長に伝える為。
 もう、グラードバッハ城塞都市の人々の記憶を戻して、クロメが帰れる場所作った訳だから、行ってもいいよね?と、確認を取りに来たのだ。

 ギルドの受け付けの女の子に案内されて、2階のギルド長の部屋に着くと、そこにはグラードバッハ辺境伯と、娘のマリアもそこに居た。

「む、来たか。待っておったぞ」

 ギルド長が、いつものようにキセルを吸いながら、クロメに声を掛ける。

「卍様、クロメ様、ご無沙汰しております」

「卍様、クロメちゃん。久しぶりです」

 グラードバッハ辺境伯とマリアも、クロメに挨拶する。

「矮小な人間共と、それから、木っ端神獣おはよう」

 なんとかクロメは挨拶できたが、誰に対しても、自分は強者である事をアピールしたいようである。
 神獣のギルド長に対して、木っ端って、どんなだよ。
 もしかしたら、クロメより強いかもしれないのに。

「フッフッフッフッフッ。相変わらずじゃな」

 ギルド長は、木っ端と言われた事を、何も気にしてなさそうである。
 これぞ、強者の余裕かもしれない。

『なんで、グラードバッハ辺境伯とマリアが、ここに居るんだ?』

 俺は気になり、直接、念話でギルド長に聞いてみる。

「ああ。昨日、お前達は、今日の朝に、私に会いにくるとギルドでアポイントを取っておったじゃろ?
 だから、多分、お前達がグラードバッハ城塞都市から出て行くだろうと思って、一応、この城塞都市の領主であるグラードバッハ辺境伯に伝えておいたのじゃ」

『それで、グラードバッハ辺境伯とマリアが、お別れの挨拶でも言いに、俺達に会いに来たと?』

「さあ、それはどうじゃろうな?」

 ギルド長は、含みを持たせて言葉を返す。

「あの……卍様! クロメちゃん! 私も、勇者リクト様の仇を取りたいの! だから……私も、卍様とクロメちゃんの旅に連れてって欲しいんです!」

 突然、マリアが、俺とクロメの前まで来て、頭を下げる。

 俺とクロメは、思ってもみない展開に気が動転してしまう。
 というか、クロメが見た事のないぐらいテンパってるし。

「エッ……卍様、どうしよう……」

『どうしようたって、どうするんだよ!』

 クロメは、俺以外の者と旅をした事がないのだ。というか、同じくらいの年齢の友達も1人も居ないし、友達と遊んだ事もないのである。

 基本、クロメは、子供の頃かららずっと1人っきり。同じくらいの子供達が、村の広場で遊んでいたのを、遠くから羨ましく指を加えて見ていたのである。

 そしてクロメを観察してると、好き好んで1人で居る訳ではない。
 人がたくさん居る冒険者ギルドや、人とたくさん接する事ができる、ミノタウロスの力こぶ亭のウェイトレスの仕事も大好きなのである。

 子供の頃、ずっと1人っきりだった反動で、今、人と接すれる事が、とても嬉しいのかもしれない。
 ただ、人との距離感や接し方が分からないだけで、中二のセリフを連発するのも、ただの照れ隠しとも考えられるし。

 なのだが……

「あの、私、役に立てると思うんです! 無詠唱魔法も使えるし、料理も習ってますし!」

 必死に懇願してくるマリアの何気ないワードに、クロメの体が勝手に反応してしまう。

「クックックックックッ。無詠唱魔法だと?そんなものが使えて何になる?詠唱魔法の美しい長文の旋律にこそ価値があるのだ!
 無詠唱魔法などゴミクズ同然。詠唱魔法こそが至高!
 フッフッフッフッフッ。そんな事も分からぬ未熟者など、偉大なる地獄の帝王であらせられる卍様との旅に同行出来ると、本当に思ってるのか?」

 クロメは、鼻で笑いながら、マリアを侮蔑の表情で見下す。

「エッ?」

 そりゃあ、「エッ?」て、なるよね。普通は、詠唱魔法より、無詠唱魔法の方が格が上と言われてるし。
 クロメが詠唱魔法が大好きなのは、ただ、中二の長ったらしいカッコ良い詠唱を唱えたいだけだし。

 それにしても、良いのかクロメ?友達欲しかったんじゃないのか?
 まあ、クロメ的に、いつもの中二病が反射的に出ちゃったんだな。

 クロメも心の中で、「しまった!」と、思ってるし。珍しく物凄く動揺してるのが、シンクロ率100%の俺に、直に伝わってきてるし。

 マリアと友達になって、一緒に旅したいのがアリアリだし、どんだけツンデレなのだ。
 イヤ、中二デレ?

 兎に角、「思わず、なんてこと口滑ってしまったんだ……マリアちゃんに嫌われてしまうかも……」と、クロメの心臓の鼓動がバクバク鳴ってるのが、シンクロ率100%の俺には、ひしひしと伝わってくるのであった。
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