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第三章 王都へgo!
51. 初めての任務失敗
しおりを挟む今回、泥棒に取られたと思われる20ほどの落し物クエストのうち、12ものクエストが未解決クエストになってしまった。
そう、証拠隠滅の為に、犯人が財布を燃やすか何かして中身だけ抜き取っていたのだ。
「黒耳族とあろう者が、依頼を失敗してしまうなんて……」
クロメは、ショックのあまり、涙目で四つん這いになり途方に暮れている。
『クロメよ。そう気を落とす事ではない。今回のクエストは誰が受けたとしても、必ず失敗してたクエストだ。そもそも落し物クエストなのに、実際は財布をスラれてた訳だから、俺達に落ち度は全く無い筈だ』
俺は、クロメの親役として諭してやる。
そう、誰にでも失敗はあるのだ。失敗して学んで、人は成長していくものなのである。
今回失敗は、クエストを受けた時点で既に失敗していたのだ。
財布の落し物クエストは、結構、美味しいクエストなのである。大体、中身の半分を貰える契約が多いから。
だがしかし、今回のように失敗する可能性も過分にあるのだ。
財布の落し物クエストって、普通は、財布を無くした時点で諦めるのだが、そうじゃない場合は、それなりの金額が財布の中に入ってた場合。そんな場合は、冒険者ギルドにクエストが出される。
しかし、大体の場合は、財布を落したのじゃなくて、スラれており戻ってこない方が大半なのだ。
しかも、財布を見つけても中身が無かったりするし、逆に、クエストを受けて大金が入ってたら、冒険者が欲に眩んで、猫ババする場合もあったりするし。
てな訳で、今回は、財布の落し物クエストを受けた時点で間違いだったのだ。
基本、儲かる可能性もあるけど、冒険者はリスクがある財布の落し物クエストを受けたがらない。
クエスト失敗したら、それなりの違約金を払わないといけなくなるし、冒険者としての評価も下がってしまうしね。
俺達の場合は、千里眼と透視眼を持ってるので、クエストを受ける前に、最初に財布を見つけておいてから、クエストを受ければ良いだけだったのである。
「アヤメなら、失敗しなかった……」
クロメは、双子の妹だったというアヤメの名前を出す。
『アヤメだって、今回のクエストは失敗するさ』
「アヤメは、絶対に失敗しない。私とではデキが違う……」
クロメは、出来が良いアヤメなら失敗しないと言い張る。
『それは、アヤメが未来視眼を持ってるからだろ?確かに、未来視眼を持ってれば数秒先の未来が分かるかもしれんけど、今回の場合は無理だろ?』
「アヤメは特別。黒耳族史上、2つの未来視眼を持って生まれてきた、本物の天才。アヤメの未来視眼は、5分前の未来を見る事ができる」
『5分って……そいつは凄いな』
5分前の未来を見えるという事は、相当なアドバンテージがある。
普通の未来視眼のように5秒先が見える未来視眼だったとしても、戦闘においては、物凄いアドバンテージがあるのだ。それが5分ともなると、どうなるのだ?
戦う前から勝負が見える感じか?もう、勝負事に関して、絶対に負ける事ないじゃん。
トランプのポーカーしても、ポーカーする前から勝負が見えてる感じ。たった5秒前の未来しか見えないなら、ポーカーでも、わざと時間を使ってプレイすれば、未来視眼の対策が出来るけど、5分ともなると絶対に不可能。毎回、5分間も熟考してプレイ止めれないし。
クロメの双子の妹アヤメは、相当なチートであったようである。
だとしても、もう、アヤメは居ないのだ。
いつまでも、黒耳族の、アヤメの呪縛に囚われ続けるのは良くない。
絶対に依頼を失敗しないと自負していた黒耳族だって、失敗はするのだ。
現に、黒耳族の村は、魔族によって滅ぼされてしまったのだから。
『そしたら、黒耳族で唯一生き残ったクロメの方が、優秀なアヤメよりもっと凄いだろ!』
ただ、黒耳族の村でハブられてて、たまたま魔族に見つからなかっただけかもしれないけど。
ちょっと、両親や兄妹の死に関わる話題なので、オブラートに包んで話さなきゃならない話だったかもしれないけど、いつも自分で、黒耳族最後の生き残りと言ってるからいいよね。
「それは……」
『人間生きてるだけで、丸儲け!これは俺が居た世界の偉大な人が語った言葉だ。
クロメは、今、生きている。魔族に襲われたとき死んでいたら、俺とも出会えなかったんだぞ!そう、未来視眼の何倍も価値がある、この俺とな!』
そう、クロメは俺と出会えたのだ。
最強の魔眼である、この俺と。
「生きてたから、卍様と出会えた……」
『ああ!』
俺は、力強く返事を返す。
『私は、偉大なる卍様と出会えて、世界を征服するだけの力を得られた……
そのお陰で、異世界の大魔王であり、地獄の帝王であらせられる、地獄の深淵から産み落とされ破壊神、卍様の下僕となり、私は世界一の魔眼である卍眼を操りし、至高なる極大魔法使い忍者マスターになれたのだ……! クックックックックッ、クワッハッハッハッハッハッ!!』
クロメが、いつもの状態に戻った。
街の真ん中で、1人っきりで高笑いするいつもの状態が、良い事かどうか分からないけど。
だけど、落ち込んでるクロメより、俺は元気なクロメの方が好きなのである。例え、中二全開の痛い女の子でもね。
クロメが、未来視眼を得られなかったのも運が無かった訳ではないのだ。シンクロ率100パーセントの俺と出会う為に、未来視眼を得られずに生まれてきたのだ。
そう思えば、少しは救われる。いやいや少しじゃないよね!クロメに言わせれば、俺は、異世界の大魔王にして、地獄の帝王でもある至高なる唯一無二の卍様なのだから。
それにしても、良く考えたら凄いよね。
俺、ただの目玉なのに、異世界の大魔王で、地獄の帝王なんだからね。一体、どうやってなったんだろう。
しかしまあ、よく考えると、クロメの中二設定には穴があり過ぎる。
ただの設定だから、格好良くて響きが良い言葉を発せれれば、それで良いだけかもしれないけど。
おどろおどろしい卍の文字と複雑な魔法陣が刻まれていて、禍々しい勇者リクトの怨念混じりの魔力を発し続けてる俺が、兎の国のゆるふわマスコット設定にされちゃうよりマシだよね。どう考えても目玉の親父だし。
本当に、クロメが、いつも兎のぬいぐるみを抱いてるようなメンヘラ幼女じゃなくて良かったよ。
本当は、ロリータ系の服を着ているメンヘラのクロメも、少しだけ興味がある卍様だけど、それはクロメにも秘密の事なのであった。
応援ありがとうございます!
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