【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ

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21. 剣神ビクトル·クロムウェル(2)

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「待ちやがれ! 誰かそいつを捕まえてくれ!」

 薄汚いボロを着た、目付きだけが鋭い三白眼の少年が、両手にリンゴを握り締め、人通りが多い路地を駆け抜けていく。

 ここは西の大陸、神聖フレシア王国の王都。
 大通りから一本中に入った、商店が並ぶ人通りが多い路地。

「止まれと言われて止まるバカがいるかよ!」

 黒髪三白眼の少年は、まるで野生動物かのような有り得ない動きをしながら、行き交う人々を、華麗に避けながら逃げていく。

「ハァハァ……糞っ! またやられた!」

 果物店の店主は横っ腹を抑え、息を切らせながら大声をあげる。

 ビクトル·クロムウェルは、世界を放浪する傭兵の子供として、この世に生を授かった。

 ビクトルがフレシア王国の王都にやって来たのは5歳の時、父に連れられてこの街にやってきた。
 母は、ビクトルが産まれてすぐに亡くなったらしく、母の記憶は全く無い。

 ガブッ!

 ビクトルは人通りが少ないスラム街を歩きながら、盗んできたリンゴをかじる。

 ビクトルの父親は3年前、この街にやって来て呆気なく死んだ。

 神聖フレシア王国は、龍信仰が盛んな王国である。

 神聖フレシア王国の北には、『龍の巣』と言われる龍が暮らしている国があると言い伝えられている。

 ビクトルの父親が所属する傭兵団は、神聖フレシア王国から、『龍の巣』に行って、龍の子供を一匹捕まえて来る事を請け負ったのであった。

 龍はこの世界の最高種。
 普通は、人間などに従わない。
 フレシア王国は、南の大陸で信仰されている神獣ケルベロスが、ケルベロス教の総本山イヌヤマで飼われている事に対抗し、神聖フレシア王国にある神龍教の総本山にも、生き神様として龍を迎えようと画策したのであった。

 しかし、この作戦には最初から無理があった。
 相手は、この世界の最高種なのである。
 現在確認されている龍は、赤龍と黒龍のみ。
 この二匹とも、一匹で世界を滅ぼしてしまうような力を持っているのだ。

 龍の子供と言っても、その存在を確認された事もなく、いるかどうかも分からない。
 そして、もし龍の子供を発見し攫って来る事に成功したとしても、『龍の巣』を縄張りにしていると言われる赤龍に、喧嘩を売る行為と捉えられるかもしれない。

 それを回避する為に、神聖フレシア王国は、自国の兵を使わずに、極秘裏に屈強で知られていたビクトルの父親が所属していた傭兵団に破格のお金を払って依頼したのだ。

 ビクトルの父親は、王都の宿屋に半年分の宿賃を払い、ビクトルを置いて『龍の巣』に向かった。

 しかし、ビクトルの父親は半年経ってもビクトルを迎えに来る事は無かった。

 ビクトルは、当たり前のように宿屋から追い出される。

 お金も何も殆ど持っていなかったビクトルは、その日から路上生活が始まった。
 生きる為には、仕事をしなくてはならない。
 しかし、5歳のビクトルを雇ってくれるような所はどこにもなかった。

 宿屋から追い出されて三日後、三日三晩何も食べて居なかったビクトルは、生きる為に初めて盗みを行った。
 罪悪感にかられたが、生き残る為だ。
 ビクトルは、生来の俊敏さも手伝い、店の人に見つかる事なく、簡単に盗みができてしまった。

 それからというものビクトルは、盗みで生計を立てるようになる。
 悪い事だとは分かっているが、やらなければ飢え死にしてしまう。

 そんな罪悪感も、スラムに暮らすようになってからは、直ぐに何処かに行ってしまった。
 王都のスラムで、子供が生き抜く事は難しい。

 毎日が戦い。
 力が無い者は奪われる。
 折角、命懸けで盗んできた食べ物も、簡単に殴られて奪われる。

 スラムは力が全てなのだ。
 大人は子供から搾取する。
 能力が無い子供は、スラムでは生き残れない。
 まだ、見栄えが良い子供は、悪い大人に捕まって奴隷として売られるので、まだマシだ。

 殺し合いは当たり前。
 欲しい物があれば、殺して奪う。
 下手に生かして置いても、後から報復される可能性があるので殺した方が楽なのだ。

 そんな場所で生活していたら、罪悪感など言ってられない。
 生きるか死ぬか。

 スラムでは、正直者はバカを見る。
 正直イコール死なのだ。

 ビクトルはそのスラムの生存競争を、今まで一人で生き抜いてきた。

 力の無い子供達の殆どは、徒党を組み何とか仲間と生き抜くのが常なのだが、ビクトルはいつも一人で行動する。

 ビクトルには、一人で生き抜く力があった。

 ビクトルは、判断力、決断力、瞬発力が図抜けていたのだ。

 スラムでは、ほんの些細な判断の遅れで命を落とす事が多々ある。

 ビクトルにとって鈍臭い仲間とつるむ事の方が、危険なのだ。

 そんな感じで父親が居なくなってから3年が経ち、ビクトルは8歳になっていた。

 ビクトルは、盗んだ二つ目のリンゴを齧りながら、自分隠れ家に向かう。

 隠れ家と言っても、落ちてたゴミで作った掘っ建て小屋なのだが、それでも雨風は防げる。

『ん?!  誰かいる……』

 ビクトルの隠れ家の前に、薄汚い使い込んだ装備を身をまとう、大剣を持ったタダならぬ雰囲気を発する男が立っていた。

 ビクトルは、身の危険を感じ立ち止まる。

 ビクトルが立ち止まったと同時に、大剣を持った男と目が合う。

『ヤバイ、あいつはヤバイ奴だ!』

 ビクトルの危機察知能力が、警報を鳴らす。
 ビクトルは踵を返し、全速力で来た道を引き返す。

『クッ! 追ってきやがる!
 アイツは誰だ? この辺で見た事もない。俺を殺る為に、誰かが雇った殺し屋か?』

 ビクトルは、必死に逃げる。
 アイツはヤバイ。
 どう考えても普通じゃない。
 何で、あんなヤバイい奴に俺が狙われるんだ?
 誰が放った殺し屋だ?

 恨まれる事をやった記憶は、山のようにある。
 生き残る為に、殺しもやった。
 スラムでは、殺るか殺られるかなのだ。
 舐められたら終わりだ。
 舐められたら、骨の髄までしゃぶられ、全てを奪われ死ぬしかなくなる。

 しかし、誰だ。
 俺もバカではない。
 手を出していけない者ぐらい心得ている。
 本当にヤバイ奴らには、絶対に手を出さない。
 出さないというか、関わらないように生きてきたのだ。

 それなのにアイツは誰だ?
 俺に恨みがある様な奴らには、雇えるような男ではない。

「待て!」

 大剣の男に、肩をガシッと、掴まれる。
 俺のスピードについてこれるなんて……

 掴まれただけで、この男が只者出ない事が分かる。
 男の手は、剣ダコでゴツゴツしていて大きい。
 どれだけ敵を倒し、剣を振ってきたか分かるというものだ。

 俺は、そんな手を知っている。
 凄腕傭兵団の一員でもあった、自分の死んだと思われる父親の手だ。

 俺は、大剣の男の手を必死に振り払おうとするが、男の大きな手は、俺の肩をガッシリと掴み逃げる事ができない。

 俺は懐からナイフを取り出し、男の腕に斬り掛かる。

 まだ死にたくない。

 逃げ切ってやる!

「チッ!」

 大剣の男の舌打ちが聞こえた瞬間、俺のみぞおちに衝撃が走り、俺の意識は刈り取られた。


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