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57. アド
しおりを挟む『何でも致しますので、私の森を、これ以上燃やさないで下さいませ!』
頭の中に、このダンジョンのラスボスと思われる幼い女の子の声が聞こえてきた。
「ハッハッハッハッ!
燃えろ、燃えろ、燃え盛れ!」
アナ先生は、悪鬼のように森にファイアーボールを撃ち込む事を止めない。
アナ先生は炎を見て、完全にハイになっているようだ。
『頼みますから、どうか魔法を撃つのを止めて下さいませ!』
突然 俺達の前に、緑色の巻き髪をした涙目の幼女が現れた。
「ハッハッハッハッ! 森が真っ赤よ!
もっともっともっと燃やすわよ!」
アナ先生は涙目の幼女を無視して、森にファイアーボールをぶち込み続ける。
ビー子とクモも、アナ先生に呼応するように、森に魔法を撃ち込み続けている。
『お願いです! あの方達を止めて下さいませ!』
緑髪の幼女は、魔法を撃つのを止めた俺の足にしがみつき、アナ先生を止めるように懇願してきた。
俺は幼女の涙に弱い。
尚且つ、この幼女は美幼女だ。
これは、お兄さんが何とかしなければ。
「あの……アナ先生、もうそろそろ止めたほうが……」
俺は放火魔ハイになっているアナ先生に、恐る恐る意見してみる。
「私はその子がエー君の配下になるまで、絶対に止めないわよ!」
アナ先生は振り向きもせず、森にファイアーボールを撃ち続けている。
鬼畜だ。
アナ先生は、幼女にも容赦がない。
「あのぉ……ああ言ってるけど、どうする?
お兄さんの配下になってみる?」
「配下になります! お兄さんの配下になりますから、これ以上 森を燃やさないで下さい!」
緑髪の幼女は、鼻水を垂らしながら俺の足にキスをしてきた。
少し嬉しかったが、足にべっとりと幼女の鼻水が付いてしまい少し汚い。
これは、この緑髪の幼女が、俺の配下になる事を了承したという行為なのか?
よく分からんから、アナ先生に聞いてみる。
「アナ先生。 何故か幼女に足にキスされたんですけど……」
「残念、折角盛り上がって来た所なのに」
アナ先生は、森にファイアーボールを撃ち込むのを止めた。
どうやら足へのキスは、配下になる証だったらしい。
「エー君、森の火を止めてくれる」
アナ先生が、気楽に俺に指示してくる。
この山火事のような炎を止めろだと……
前の世界でも、山火事の消化は難しかったんだぞ。
何年も消せない山火事があると、俺はテレビで見た事があるし。
しかし、幼女の為にもこの山火事を消さなくてはならない。
早くしないと、森の中央にある幼女が宿る大樹も燃えてしまう。
どうするか……
確か江戸時代の火事の時は、燃焼の拡がりを防ぐ為、敢えて燃えていない家を壊したと聞いた事があったな。
良し、それでいこう。
『……』
というか、どうやって森の中央に行けば良いのだ……
炎は大樹を中心に、ドーナツ上に燃え盛っている。
こうしている間にも、炎はドンドン森の中央にある大樹に近づいていく。
「早く、早く火を消して下さいませ!」
緑髪の幼女は必死に、俺に泣きながら懇願してくる。
クッ! やるしかないか。
俺は取り敢えず、皆に水魔法で水をぶっ掛けた後、「皆、俺に着いて来い!」と、言って、俺は水魔法を放ちながら、炎の中の森の中央に向けて走りだす。
「エッ! 嘘でしょ!」
まさか俺が、山大火事真っ最中の森の中に入って行くとは思ってなかったのか、アナ先生が声をあげる。
「こんな大火事、俺の水魔法で止めるのは無理です!
森の外側を消化している間に、森の中央にある大樹が燃えてしまいますから!」
「そ……そうなの?」
アナ先生が動揺している。
「当たり前でしょ!
俺の魔法だって万能では無いですよ!」
「お願いです! どうか私を助けて下さい!」
緑髪の幼女は、自分の命が掛かっているので必死に懇願してくる。
取り敢えず、俺達は森の中央に向かって走る。
森の中は、熱気と水蒸気で息苦しい。
俺達は やっとの事で、まだ火が回っていない森の中央部分に到着した。
「アナ先生、ビー子、クモ!
風魔法で、まだ燃えていない木を伐採して、火事がこれ以上拡がらなようにするんだ!」
「りょ……了解!」
「了解だよぉ!」
「クモ!」
アナ先生達は俺の命令に頷き、素早く別れて木の伐採に向かう。
そして俺は、水魔法を使って山火事の消化にあたる。
『キツい……』
流石に、これだけの炎を一人で消すのは難儀だ。
しかし水魔法を使えるのは、このパーティーで俺だけなのだ。
幼女の為にも頑張らなくては。
俺は、この可愛い幼女のご主人様になったのだ。
最初に俺の凄さを見せつけなければ、舐められてしまう。
結局、俺達は、森の火事を消化するのに半日も掛かってしまった。
火魔法を放っていたのは、たった30分程なのに……
緑髪の幼女に とても感謝されたが、放火したのは俺達なので、感謝される筋合いは本当はないのだが、ここで俺達が謝ってしまうとおかしな事になってしまうので、感謝されるだけ感謝してもらった。
「で、お前がこのダンジョンのダンジョンマスターでいいんだな?」
「ハイ、そうでございます。主様。
私がこのダンジョンのダンジョンマスターのドライアドでございます!」
緑髪の幼女は、俺にちょこんとお辞儀をする。
「名前は無いのか?」
「私は生まれも育ちもダンジョンなので、名前は有りません!」
「私と一緒だよぉ!」
何故かビー子がアピールする。
「そしたら、お前の事はこれからアドと呼ぼう!」
「ハイ! 主様!」
緑髪の幼女は、嬉そうだ。
どうやら上手く俺の【調教】スキルが発揮されているかもしれない。
『フフフフフ……主様か、良い響きだ』
アドは、俺をとても敬ってくれているようなので、俺もアドに合わせて偉そうにしておく事に決めたのだった。
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