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56. 放火魔
しおりを挟むある出来事が切っ掛けで、パーティープレイを心掛けるようになってから、1ヶ月が過ぎた。
俺達は、現在400階層目の階段フロアーの扉を開けようとしている。
「準備はいいか?」
「OK!」
「ビー子もOKだよぉ!」
「クモ!」
どうやら、みなの準備は整っているようだ。
「よし、開けるぞ!」
俺がいつものように先頭を切って、扉を勢い良く開けると、そこには薄暗いダンジョンにあるまじき、真っ青な空が広がっていた。
「こ……これは……」
驚きすぎて、体が固まる。
「森だよぉ~」
「外……クモ?」
ビー子とクモも、アホっぽい声を上げる。
「このパターンは、悪魔の巣窟と言われた第666ダンジョンの最下層と一緒だね」
俺、ビー子、クモの呟きに、アナ先生が解説する。
「悪魔の巣窟?」
「そう、異界の大悪魔ベルゼブブが支配していたダンジョンの事だよ。
50年前のベルゼブブ討伐レイドに参加していたセンコーさんが、ベルゼブブのダンジョンの最下層には、森が広がっていたと言ってたの」
「その第666ダンジョンと同じように森が広がっているという事は、このダンジョンも異界の悪魔が統治してるダンジョンという事ですか!?」
俺は驚愕の表情をしながら、アナ先生に質問する。
「ウ~ン……
そうとは、かぎらないなぁ……
実は、第666ダンジョン以外にもダンジョン内に森が広がってたという事例は何件かあるんだよね」
「そうなんですか」
「そうだよ。その殆どが、トレント系の魔物の上位種が作ったと言われてるんだよね。
多分、このダンジョンのダンジョンマスターもトレント系だと考えられるよ」
アナ先生は、断言する。
「ダンジョンマスターが悪魔じゃないと、何で言いきれるんですか?」
俺は気になり質問する。
「まず、城が見当たらない事!
ベルゼブブが統治していた第666ダンジョンには、城があったとセンコーさんは言ってたわ!
悪魔は貴族趣味があるから、城を作るのに拘るのよ!
それから森の中央にある、あの大きな木ね!
あれは、どうみてもトレント系上位種が宿る大樹にしか見えないわ!」
確かに城は見当たらないし、森の中央には20メートルはありそうな大樹が生えている。
それにしてもこの空間は、どうなっているのだ?
どう見てもダンジョンの中のようには見えない。
空には太陽まであるし。
そんな空間を作ってしまうダンジョンマスターなんて、俺達に倒せるのか……
「アナ先生、仮に悪魔が支配するダンジョンじゃないとして、トレントって強いんですか?」
俺は、最も気になる事を聞いてみた。
「これだけの空間を作れる個体だからかなりな強敵な筈よ!
間違いなく、トレント系の最上位種ドライアドね!」
「そのドライアドを、俺達は倒せるのですか?」
「ドライアドは強敵だけど、ドライアドには決定的な弱点があるのよ!」
「その弱点とは、何ですか?」
俺は食いつき気味に、アナ先生に質問する。
「火ね! ドライアドは木に宿る魔物よ!
その木を燃やしてしまえば、簡単に倒せる筈よ!
幸い、エー君とビーちゃんは、悪魔らしく火の魔法が使えるし、私も火魔法が使えるから、私達はドライアドとは相当相性がいいわ!
クモちゃんも風魔法が得意だから、火を広げて森を全焼させるのに最適ね!」
アナ先生が物騒な事を言っている。
アナ先生は、どうやらこの階層全体を燃やしてしまう気でいるらしい。
確かに、アナ先生の話を聞く分には、俺達は相当ドライアドと相性が良い。
アナ先生は、風魔法と火魔法の他に雷魔法もマスターしたので、あのドライアドが宿る大樹に、雷とかを落とすのも有りかもしれない。
ビー子も現在、回復、風、火の魔法が使える。
風と火魔法が使えるビー子もまた、ドライアドと滅茶苦茶相性が良い。
クモは風魔法しか使えないが、火の勢いを増すのにとても有効だ。
俺も全属種の魔法が使えるので、何でも出来てしまう。
この時点で、ドライアドは完全に詰んでいるようである。
「それじゃあ、やるわよ!」
アナ先生はいきなり、その場からファイアーボールを森に向けて発射し始めた。
「エッ!! いきなり! しかもここから?!」
俺はアナ先生の、突拍子もない行動に固まる。
「当たり前じゃない! わざわざ森に入って、ドライアドの術中に嵌るなんて馬鹿馬鹿しいわ!
どうせ、たくさん罠を仕掛けてるんでしょ!」
やはりアナ先生は、このダンジョン内の森全体を燃やす気らしい。
一歩も森に入らず、いきなり火炎魔法なんて……
「ビー子も頑張る!」
ビー子もアナ先生に見習い、森に向けてファイアーボールを連射する。
クモも、森に向けて風魔法を発動させている。
「エー君も、じゃんじゃん火魔法をはなって!」
チョット鬼畜的な作戦だとは思うが、これ程の森を、いとも簡単にダンジョンに出現させる程の魔物を、正攻法で倒すのは やはり難しいと思うので、俺も渋々アナ先生に従う事にする。
『悪く思うなよ。これも戦略なのだ』
俺は心の中で、このダンジョンのラスボスと思われる、ドライアドが宿るという大樹に向けて頭を下げる。
ダンジョンの森は、俺達の容赦ない火魔法で盛大に燃えさかっている。
クモが森に向けて、風魔法を絶えず放ち続けているので、俺達の方に炎が来る事はない。
逆に森の方は、面白いように燃え広がり完全に山火事状態だ。
「ワッハッハッハッハッ!
燃えてるわ! もっともっと燃えるのよ!」
炎を見て、テンションが上がるアナ先生が少し恐ろしい。
人は、焚き火の火を見て癒されるというが、アナ先生の場合は、放火して興奮するサイコな女にしか見えない。
そして、森の三分の二ぐらいが燃えた頃、頭の中に、幼い女の子の悲壮な声が響いてきた。
『何で致しますので、私の森を、これ以上燃やさないで下さいませ!』
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