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69. ヨネン·ドラクエル
しおりを挟む「アンタ達、ちょっと待ってておくれ。
私が今から、モフウフの叔父さんの所に行って話を付けてくるからね」
エーバル城塞都市は、漆黒の森から北に歩いて1時間程の距離にある城塞都市だ。
しかし漆黒の森は、南の大陸の5分の1を占める大国家ある。
なので、いくら漆黒の森から1時間の距離だといっても、中央にある王都のモフウフからエーバル城塞都市まで最低でも5日は掛かかってしまうのだ。
そんな5日もかかる王都モフウフに行くのに、チョットというのは、いくらセンコーさんでも無理な話だ。
と、考えている合間に、センコーさんは地面の影に吸い込まれるように消えてしまった。
「き……消えた!」
「何言ってるのよ! エー君も悪魔たがら【影渡り】スキルぐらい持ってるでしょ!」と、アナ先生が指摘する。
そういえば、【影渡り】スキルを持っていた。
俺は、いつもビー子と一緒に行動していたので、全く使う事がなかったが、確か悪魔同士の移動に使えるスキルだった筈だ。
「そうでした。でもなんで、悪魔でもないセンコーさんが【影渡り】スキルを使えるんですか?」
俺は、疑問に思い質問する。
「それはセンコーさんが、ゴトウ族だからよ!
前に説明したと思うけど、センコーさんの本名は、センコー·G·サンアリよ!
ミドルネームにGが付いているのは、昔いた大魔王ゴトウ·サイトの眷族なのよ!」
「アッ! 思い出しました。
ゴトウ族は みんなチートだって、バルトさんが言ってましたね!」
俺は、前にバルトさんに聞いた事を思い出す。
「そうよ。ゴトウ族は、生まれ落ちた時から色々なスキルを持って生まれてくるわ!
そして【影渡り】スキルは、ゴトウ族なら誰でも持ってる基本スキルの中の一つね!」
生まれた時からスキルを沢山持ってるなんて、なんて羨ましい種族なのだ。
俺もたくさんスキルが欲しい。
兎に角この世界には、ゴトウ族のような俺よりチートな奴らが沢山いる事は分かった。
ゴトウ族のセンコーさんは、俺から見てもかなりチートに見える。
そんな会話をしながら、俺達はセンコーさんが帰ってくるのを待っていると、センコーさんが突然、俺の影の中から現れた。
「すまないね。勝手にエーサク君の影を使わしてもらって!」
「何で、僕の影から【影渡り】できるんですか!」
俺はセンコーさんに詰め寄って、問い詰める。
「実は、エーサク君に最初に会った時に、軽く【調教】を仕掛けておいたのさね!
【影渡り】スキルは、【影渡り】スキルを持ってる者同士に絆が生まれると、お互いの影を行き来きできるようになるスキルだからね!」
「そ……そうですか……」
やはり、センコーさんは侮れない。
多分【調教】を仕掛けられたのは、初めて会った時に、センコーさんに杖で殴らた時だろう。
確かにあの時、センコーさんには敵わないと思ってしまった。
俺は、それを利用されたのだ。
【調教】スキルは、屈服すると掛かってしまうスキルである。
まあ、孫のように可愛がっているアナ先生が、俺のような得体の知れない悪魔と一緒にいるのだ。
何か有った時の為、保険をかけていたのであろう。
というか、俺の今の状況は、センコーさんに生殺与奪権を握られている状況に等しい……
こんな事を簡単にしてしまうなんて……
ヤバイ、ヤバすぎるぞゴトウ族。
「ちょっと、スペースを空けてくれるかい!」
俺がセンコーさんの恐ろしさに、勝手にビビっていると、センコーさんは俺を手で押し退けて、床に魔方陣が描かれたスクロールを置いた。
そして、何やらスマホのような物を取り出して、「準備できたよ!」と、言うと、魔方陣が青白く光り輝いたと思ったら、その中から20歳ぐらいに見える、童顔の青年が現れた。
「初めまして、私はドワーフ王国の南の大陸の代表を努めますヨネン·ドラクエルです!」
童顔の青年は、アナ先生に頭を下げ、手を差し伸べる。
アナ先生も頭を下げ、「私はアナ·アナシアと申します。
この度は私共の申し出を受けいれてもらい誠にありがとうございます!」と、言って、ガッチリとヨネン·ドラクエルと握手した。
アナ先生は まだ、鋼鉄の腕の力加減が分かっていないのに、あんなに固く握手してしまって大丈夫なのかと、俺はヨネンの心配をするが、ヨネンは涼しい顔をしている。
どうやら、このヨネン·ドラクエルという童顔の青年も只者ではない。
というか、ドラクエル?
先程、アナ先生の話に出ていたドワーフ王国の王の名前と同じではないのか?
もしかして、息子が何かか?
「貴方は、もしや神聖フレシア王国のアナシア家と御関係がある方なのではないですか?」
俺の心の中の疑問をスルーして、先に ヨネン·ドラクエルがアナ先生に質問する。
「エッ! 何故それを」
アナ先生が、とても驚いた顔をしている。
「貴方の持ってる剣は、何百年も前に、私達ドワーフ王国のお店に、神聖フレシア王国がオーダーして作った剣でございます。
10年程前に、私共のお店に前フレシア王国の騎士団長アナル·アナシア様がお越しになった時に、その剣をお持ちになっていたのを、お見かけしておりましたので、まさかと思って尋ねてみました。」
アナルって……
俺は笑いを噛み締める。
「オイオイ! アナの父ちゃんって、雷剣アナル·アナシアかよ!
俺達世代では、超有名人だぞ!」
バルトが、ビックリ驚いている。
俺は前に聞いた事があったので、驚かなかったが、そんな事より、名前が『アナル』って言う方に衝撃を受けた。
「ア……アナルさんって、そんなに有名人だったんですか?」
自分の口から、『アナル』と言ってみたが、やはり口に出してみると恥ずかしい。
俺がアナルさんの立場なら、名付けた親を恨んでいただろう。
「お前、アナル·アナシアをバカにしてるだろ!
名前は確かにアレだが、剣の実力は本物だ。
何せ、剣王にまでなっているんだからな!」
バルトさんは俺に注意しながらも、質問に答えてくれた。
「剣王ってなんですか?」
「剣王は剣王だよ! 冒険者の中での称号だな!
剣神、剣聖、剣帝、剣王ってのがあって、剣神が1人、剣聖が2人、剣帝が3人、剣王が4人いて、アナの父ちゃんは最低でも冒険者の中で10指の剣の腕だったて事だ!」
「アナ先生のお父さんって凄い方だったんですね!」
「ああ、凄い。間違いなく凄い男だった……」
バルトさんは、何故か遠くをみながら答える。
知り合いだったのか?
しかし、名前がアナルってしまらないな。
というか、ケツの穴なので締まるのか?
ケツのアナ?
もしかして、アナ先生のアナという名前は、ケツの穴から取ったのか?
「バルトさん、エー君! お父さんの話は置いといて下さい!
私達の話が進みません!」
俺が変な妄想をしながらバルトさんと話をしていると、アナ先生が話を遮ってきた。
「す……すまない」
バルトさんは、少し反省しているのか頭を下げる。
「あの、それよりヨネンさんって、あのヨネンさんですよね?」
気を取り直して、アナ先生がヨネンさんに質問する。
「僕は僕ですけど?」
アナ先生の当たり前の質問に、ヨネンさんは普通に答える。
「センコーさん! なんて大物連れてくるんですか!
ドワーフ王国一の芸術家にして建築家、それから魔道具職人のヨネン·ドラクエルさんに頼んだら、予算がいくらあっても足りませんよ!」
どうやら、このヨネン·ドラクエルという童顔のドワーフ族の青年は、かなりの大物のようであった。
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