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84. 聖級移転
しおりを挟む俺達は、その場でヨネンさんと契約し、100年ローンを組まされた。
「そんなに心配しないで大丈夫ですよ!
僕は、ちゃんと支払い能力がある人達にしか商品を売りませんので!」
ヨネンさんが、100年ローンを組まされて悲壮な顔をしている俺達に語りかける。
「俺達は、本当にこんな借金をして大丈夫だったんでしょうか……」
「大丈夫。大丈夫。
例えば、エーサクさんの着ているタイツの素材なんて、良いお金になると思いますよ!
その素材は、伸縮性があって、尚且つ、強度もありそうですもんね!
多分、クモさんの鋼鉄糸を使って『錬金』しているのですよね。
女郎蜘蛛の鋼鉄糸は、高価で滅多に手に入らない代物です。
最近では、鋼鉄糸をドロップするような高レベルの女郎蜘蛛は、現在クモさん以外に見つかっておりません!
尚且つ普通は、女郎蜘蛛をテイムできないので倒すしか素材をドロップできないのです。
この意味をエーサクさん、分かりますか?」
ヨネンさんがニヤリと笑いながら、俺に問いかける。
「俺達は、クモがいるので幾らでも鋼鉄糸を量産できると?」
「そういう事です!
普通、軽さ重視の装備として、クサビかたびらが人気ですが、それと同等以上の強度を持ち、尚且つ、軽く下着のように着れるロングTシャツなんかあったら、売れると思いませんか?」
「う……売れますね」
「それから、ビー子さんが装備している伸縮性が有り、強度もある革服も魅力的ですよね?」
「魅力的です! ピッタリジャストフィットのボンテージは、とても興奮します!」
「エーサクさんの性癖は、さておき、防具を作る上で、大変需要があると思いますよ。何せ強度も有りつつ伸びる革なんて他に有りませんからね!」
「成程!」
「ドワーフ王国としては、セラミック粘土と共に、鋼鉄糸で『錬金』した伸びる布と、さらに鋼鉄糸で『錬金』した伸びる革を、『鉄血の乙女』様から定期的に仕入れたいと思っております!
それを含めて非売品の『白虎』と、ダンジョン管理用端末を特別価格でお譲りしたのです!」
「打算ですね……」
「打算ですよ!
僕は何せ、職人でありながら、商人でも有りますからね!」
まあハッキリ言われた方が、こちらも逆に分かりやすい。
何せ、200年も誰にも売らなかった『白虎』を、全く無名のアナ先生に売ってくれるなんておかしすぎる。
完全に『白虎』を売る代わりに、便宜を計れと言う事だ。
「分かりました! これから毎月、セラミックス粘土と、鋼鉄糸の布と革をドワーフ王国に納めます!
で、どれくらいの量を納めれば良いのですか?」
「そうですね! セラミックス粘土を10トン、鋼鉄糸の布は3メートル四方を300枚、鋼鉄糸の革は100枚は必要ですね!」
「そんなに……」
「エーサクさんなら大丈夫ですよ!
大変なのは最初だけですって!
直ぐに『錬金』レベルが上がって、それぐらいの量など簡単になりますから!」
ヨネンさんが、微笑みながら答える。
「ヨネンさん。私に『白虎』を売ってくれたのは有り難いのですが、卸価格は冒険者ギルドに売った場合と同じにしてくれますか?」
アナ先生が、自分の我儘で『白虎』を買ってしまったという負い目があるのか、ヨネンさんと交渉を始める。
「それで、結構ですよ。
直接、仕入れなければ、冒険者ギルドから仕入れるだけですし!
手数料が無い分、ドワーフ王国としては、得しますので!」
どうやら、アナ先生とヨネンさんの交渉は即決したようだ。
「アッ! そうだ。世界樹のフルーツの販路を紹介しましょうか?
センコーさんの叔父さんが社長で『漆黒の森』の国営企業のサンアリコーポレーションかウルフデパートになりますが。
できれば、『鉄血の乙女』を紹介してもらった手前、サンアリコーポレーションに卸してもらうと有り難いのですが……」
「サンアリコーポレーションで、お願いします!
私はエーバルに来てから、ずっとセンコーさんにお世話になっているので、少しでも恩返しがしたいですから!」
アナ先生的に、サンアリコーポレーション一択のようだ。
「サンアリコーポレーションは、『漆黒の森』の国営企業なので間違いないですね!
勿論、ウルフデパートも南の大陸の大財閥なので間違いないのですけど。
まあ、取り敢えず、サンアリさんに会いに行きますか!」
と、言った筈のヨネンさんが、ウルフデパートのバックヤードに勝手に入って行く。
「ヨネンさん! どこに行くんですか?
て、ここって従業員以外入っちゃいけない所ですよね!」
「大丈夫ですって!
ウルフデパートのCEOとは、古くからの知り合いですから!
アッ! ナンシーさんにクモさんを連れて来るようにお願いします!」
「かしこまりました」
ヨネンさんは俺と喋りながら、バックヤードにいた他の従業員にクモを連れて来るように指示を出す。
俺達はバックヤードの中にある従業員用の魔道式エレベーターで3階に到着すると、そこは従業員用のフロアーになっていた。
「もう少し歩きますよ!」
俺達はヨネンさんに言われるまま後を着いていく。
「ヨネンさん、従業員さんの他に冒険者もたくさんいるみたいですけど?」
「あれ? 知らなかったんですか?
ウルフデパートは、ギルド『シルバーウルフ』も運営してるんですよ!」
ヨネンさんは、当たり前のように答える。
「そ……そうなんですか……」
「確か最初に、『シルバーウルフ』を始めて、副業に料理上手なガリクソンさんがレストランを始めたら、瞬く間に人気店になり、あれよあれよと大きくなって、いつの間にかウルフデパートになっていたと言ってました!」
「ガリクソン師匠の腕なら当然クモ!」
いつの間にか合流していたクモが、納得顔でウンウン頷いている。
「こちらです!」
いつの間にか目的の場所に着いたのか、ヨネンさんが一際豪華な扉を開ける。
「ここからはウルフデパートのCEOのプライベートルームになっています!
一応言っときますが、ウルフデパートのCEOは冒険者を引退して、今は冒険者ギルド本部の職員のトップをしていますからね!
今日は居ないと思いますが、もし居たら粗相のないようにお願いしますね!」
何故かヨネンさんが脅してくる。
ちょっと怖くなってきた。
「プライベートルームって、勝手に入って良い所なんですか……
それから、ウルフデパートのCEOって、てっきりガリクソンさんだと思ってたんですけど」
「不死の魔女ブリジア様よね!
エー君、誰もが知ってる超有名人よ!
そして、そんな人のプライベートルームに、ヨネンさん。勝手に入って良かったんですか?」
アナ先生が、俺の質問をヨネンさんの代わりに答えてくれた。
そして、俺の質問と同じ質問を、ヨネンさんに問いただす。
「ブリジア様は、ゴトウさんの配下でしたからね!
なので、ブリジア様のプライベートルームに、ゴトウ族の『聖級移転』が、設置してあるんですよ!
そして、その『聖級移転』はゴトウ族と限られた人物のみ、自由に使う事が許されています!
その限られた人物のうちの1人が、僕なのですよ」
ヨネンさんが胸を反らし、鼻高々に自慢する。
多分、ゴトウ族のお姉さん、アン·ゴトウ·ドラクエルのコネだろう。
これっぽっちも、ヨネンさんの実力とは関係無いと思われる。
「まあ、取り敢えず中に入りましょうよ!」
ヨネンさんが扉を開いた先は、少し大きなエントランスになっていて、奥に豪華な階段が見える。
その階段を登って行くと、バリ風リゾートホテルの様な素敵な空間が現れた。
「ウルフデパートの作りは、大体同じつくりですね!
これはブリジア様が、どこの支店に移動しても同じように寛げるよう配慮している為です!」
そう言いながらヨネンさんは、廊下を歩いていき、ある部屋の扉を開ける。
「ここです!」
ヨネンさんが扉を開けると、そこの床に青白く光り輝く魔法陣が浮かびあがっていた。
「いいですか! 皆さん! ナンコー·サンアリと頭に念じながら魔法陣の中に入って下さい!
そうすれば、サンアリさんがいる場所の一番近くの『聖級移転』装置に移転できる筈ですから!」
ヨネンさんが、俺達に向かって説明する。
「ヨネンさん! 質問です!
僕達はゴトウ族でも無いのに、『聖級移転』を使えるんですか?」
「エーサクさん、良い質問ですね!
実は今日一日だけエーサクさん達も『聖級移転』が使えるように、許可を取っております。
それから一応言っときますが、普段ならエーサクさん達は、従業員用のバックヤードの中にも入る事は出来ませんからね!
後日、勝手に入って、捕まらないように!
それでは、行きますよ!
ちゃんと、ナンコー·サンアリと念じて下さいね!」
ヨネンさんは、俺達に説明した後、青白い魔法陣の中心に移動する。
すると数秒後には、魔法陣の中に溶けるように消えていったのだった。
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