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146. 悲しい記憶
しおりを挟む「ご主人様! アソコの席が空いてるニャ!」
初めて、冒険者が集まる飲み屋のような場所に来たので、カウンターに座り、店の親父にミルクを注文して、ベテラン冒険者が、『ここはお前らのような、坊ちゃん嬢ちゃんが来るところじゃねえぞ!』と、言われるくだりをやってみたかったのだが、そういう雰囲気ではなかったので、大人しくブリトニーが見つけた空いてる席に座る。
席に座ると、ウェートレスが注文を取りにきた。
「あ……あのぉ……
な……何になさいますか?」
ウェートレスはビビっているのか、伏し目がちにオドオドしながら注文を聞いてきた。
しょうがないよな。
ついさっき、ハラハラの王城を吹き飛ばした張本人が、何故か裸の状態で椅子に座っているのだ。
俺だって、その裸の幼女がどれだけ美人で可愛くても、関わろうとは思わない。
「ここのお勧めはなんだ?」
「は…はい……
この街はロブスターが有名で、ハラハラ冒険亭ではロブスターのボイルとロブスターのサンドイッチが名物となっています!」
「そうか、それじゃあ、皆もロブスターのボイルとサンドイッチでいいか?」
「ハイなのです!」
「ハイニャ!」
「いいですよ!」
「良いワン!」
「ワン! ワン! ワン!」
皆、元気に返事をする。
「飲み物は何にする?」
「私はエールがいいニャ!」
「今日はまだまだ移動するので、お酒は駄目だ!」
「ウゥ……だったらオレンジジュースでいいニャ!」
ブリトニーが、恨めしそうに返事をする。
「姫はどうする?」
「私はイチゴオレが良いのです!」
「そしたらペロもイチゴオレな!」
「ワン!ワン! ワン!」
「アンちゃんとブリジアはどうする?」
「僕はハーブティーでお願いします!」
「妾もハーブティーが良いワン!」
「ロブスターのボイルを人数分とサンドイッチを3つ、オレンジジュース1つに、イチゴオレを3つ、ハーブティーを2つお願いな!
それから、イチゴオレを一つだけ皿に入れてくれると有難いんだが」
「しょ……承知しました!」
ウェートレスは深々と頭を下げ、逃げるようにカウンターに消えていった。
冒険者ギルドは、相変わらず静寂につつまれている。
ここまで静かだと喋りにくい。
緊張した冒険者の唾を呑み込む音までも聴こえる。
やはりブリジアがいけないのだ。
少し危険でヤラシイ女は魅力的だが、命に関わる程デンジャラスで、ヤラシイを通り越して、街の中をまるでヌーデストビーチにでもいるように、堂々とスッポンポンで歩くような幼女には、目をつけられないようにするのが普通だ。
「ブリジア、頼むから服を着てくれないか?」
「嫌だワン! オナペットはご主人様を興奮させるのが仕事だワン!
妾は魔女様に、仕事は真面目にするように教わったのだワン!」
確かに、オナペットとしての仕事は真面目にこなしているが、傍から見るとふざけているようにしか見えないのだが……
「ブリジアが裸の状態だと、男の冒険者が股間にテントを張って、立ち上がる事ができなくなってしまうんだ。
ブリジアだけが、仕事を完璧にこなせたとしても、周りの人々が仕事ができなくなってしまうのは問題だろう。
本当は、あの冒険者達は、今から仕事に行かないといけないかも知れないが、ブリジアのせいで勃起して、恥ずかしくて立ち上がる事ができないかもしれないのだぞ!」
適当な理由をこじつけて、ブリジアの説得を試みる。
「そしたら狼の状態に戻るワン!」
「狼って、さっきの状態だろ!
室内で、あんなに大きくなったら駄目だろ!」
「大丈夫ワン! 小さくもなれるワン!」
ブリジアは何故か、豆シバ程の銀狐に変身した。
「小さくもなれたのか。でも何故に狼から狐に?」
「人間に変身できるようになった時点で、動物になら、何にだって変身できるワン!
狼から子狐になったのは、ただ単に子狐の方が可愛いいからワン!」
狐になったブリジアは、襟巻きのように俺の首にまとわりつく。
「ブリジアさんが狐になったぞ!」
「不死の魔女ブリジアは、変身が得意だと聞いた事があるが、実際この目で見ると、流石に凄いな」
「僕的には、裸のままでいて欲しかったのに」
「しかし、狐なのに語尾が『ワン』って、普通『コン』だろ!」
何やら、冒険者ギルドが騒がしくなってきた。
これでやっと、落ち着いて食事ができる。
ウェートレスが飲み物を持ってきた。
「悪いが、ハーブティーも皿に入れてもらえるか」
ブリジアが子狐に変身してしまったので、飲み物を皿に入れてくれるようにウェートレスにお願いする。
「このままで良いワン!」
ブリジアは、俺の首元からテーブルの上に降り、両手でコップを器用にもって、フーフーしながらハーブティーをすする。
小動物が器用に両手を使って、食事を取るのは、何やら可愛らしく感じる。
「ハラハラ冒険者亭名物のロブスターのボイルとサンドイッチです!」
ウェートレスが、真っ赤に茹で上がった大きなロブスターと、サンドイッチを持ってきた。
ロブスターのボイルには、緑色のライムのような柑橘類と、臭みを取るために一緒に茹でられたであろう香草が添えられている。
「美味しそうなのです!」
姫が目を輝かせて、ヨダレを垂らしている。
「よし! 食べるとするか!」
先ずは、胴体と尻尾を手で割る。
次に、尻尾に付いている足を外していき、尻尾の殻も綺麗に剥きとる。
出てきた白いプルプル身にライムもどきをかけて、思いっきりむしゃぶりつく。
「美味い! 日本で伊勢海老を食べた事があるが、ロブスターも伊勢海老に似てとても美味しいぞ!」
「サイト君! 伊勢海老というのは、何なのか分からないけど、このロブスターは、とっても美味しいよ!
やっぱり、産地で食べるロブスターは、新鮮で身が引き締まってる気がするよ!」
アンちゃんも、とても美味しそうにロブスターを頬張っている。
アンちゃんが美味しというなら間違いない。
アンちゃんは、かなりの美食家なのだ。
俺は実際、ロブスターなど食べた事などないので、他のロブスターと比べる事などできない。
せいぜい、伊勢に旅行に行った時に、一度だけ食べた事のある伊勢海老としか、比べる事ができないのだ。
それも縦に半分にカットされて、身がほとんど無かった。
その少ない身を、チビチビと味をしっかりと確認しながら、ゆっくりと食べたのだ。
身がたくさんある分、このロブスターの方が、美味しく感じるのが正直な所なのだ。
何だか、思い出したら悲しくなってきた……
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