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170. 宣言

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 冒険者会議が開かれる朝になった。
『ウルフデパート』兼『シルバーウルフ』本拠地、兼、『犬の尻尾』ムササビ支部に、モフウフのアジトで総料理長をしているガリクソンが、『シルバーウルフ』副団長として、冒険者会議に出席する為に戻ってきた。

「ゴ……ゴトウ様、そのお顔はどうなされたのですか?」

 ガリクソンが、俺の腫れ上がった顔を見て、驚いた様子で話しかけてきたので、昨日の事と次第を説明した。

「『犬の肉球』の腹黒妖精シャンティーですか、あまり面識はありませんので、会っても挨拶するぐらいですが、色々と噂は聞いております。
 腹黒妖精シャンティーに関わると、ろくな事ないと、冒険者の間では常識ですので。
『犬の肉球』は殆ど営業停止状態なので、勇者パーティーの主要メンバーが揃うギルドだと一般冒険者はあまり知らないし、そもそもエリスさんが、勇者パーティーのメンバーだったとはあまり知られていませんので。
 他のメンバーは全員そこそこ有名なのですが、エリスさんだけは黒竜戦争の時はまだ子供で、精霊達に結界を張ってもらって、後ろの方から応援していただけだったと言われてますからね。
 でも実際には、黒竜戦争で引き分けられたのは、エリスさんが連れてきた赤龍アリエッタの活躍があったからだと、知ってる者は知っています。
 まあ、そんな訳で、エリスさんが勇者パーティーだと知らない一般冒険者が、気軽にエリスさんに言い寄っては、シャンティーさんにボコられる無限ループが続いていると風の噂で聞いております」

「そ……そうなんだ! なので俺は、エリスさんの為に、シャンティー様に殴られてボコボコになった顔を、街の人々に見てもらっているんだ!」

「ゴトウ様が、そのボコボコの顔を、街の人達に見せる事が、何故エリスさんの為になるのですか?」

「バカだな、ガリクソン。
 俺のような超有名人が、エリスさんにちょっかい出して、逆に、シャンティー様に返り討ちにあったと街中に広まれば、俺より弱い一般ピーポーが、迂闊にエリスさんに言い寄れなくなるだろう」

「……な…なるほど……」

 ガリクソンは、顔を引き攣かせながらも相打ちをした。

「ご主人様! そろそろ行くワン!」

 幼女体から、ウルフデパートCEO用のエロお姉さんに変身したブリジアが声をかけてきた。

「それじゃあ、行くか!」

「行くのです!」

「行くニャ!」

「了解です!」

「ワン! ワン! ワン!」

「では、参りましょうか!」

 最後に、ここには居ない筈の人物の返事が聞こえてきた。

「ん? 何でここにサンアリがいるんだ?」

 そこには、当たり前のように俺達に付いて行こうと、サンアリが立っていた。

「冒険者会議は、決戦ですので!
 ゴトウ様達だけでは、任せておけません!」

 目の錯覚か、サンアリの体の周りに、炎が纏っているように見える。

「そいつは無理だワン!冒険者会議に出席できるのは、使い魔を除く1ギルド4人までだワン!
 前に、新参者のギルドが参入した時、自分達の力を誇示する為に、ギルドメンバー全員を連れてきたバカがいたワン!
 それからは、1ギルド4人までと決められたのだワン!」

「な……なんですと!」

 サンアリが、ガックリしている。

「僕が、メンバーから抜けましょうか?」

 アンちゃんが提案する。

「そ……それは駄目です。アン様は勇者パーティーのドラクエル様の娘様であらせられるので、会議の交渉の上で『犬の尻尾』に所属しているという事実を、他のギルドに見せるだけで、それなりに効果があると思われますので」

 サンアリは、そう言った後、ブリトニーの顔をジッと見る。

「何なのニャ! なんで私を見るのニャ!私は絶対に、冒険者会議に参加するのニャ!
 面白そうなイベントには、全て参加すると決めているのね!」

 確かに、ブリトニーが冒険者会議に参加するより、サンアリが参加した方が断然良い。
 俺の代わりに全て仕切ってくれそうなので、凄く助かる。
 実際、俺は何をすれば良いのか全く分かっていないのだ。

「ブリトニー、悪いがサンアリと代わってくれ」

「イヤなのニャ! 例えご主人様の命令でも、これだけは絶対に譲れないのニャ!
 私は私がやりたい事だけしか、絶対にやらないのね!」

 俺の命令を聞かないとは……
 やはり、ブリトニーには全く【魅了】効果が効いていない。

「それなら、ブリトニー姉様は『シルバーウルフ』の関係者として会議に出席すれば良いワン!
『シルバーウルフ』は、妾とガリクソンしか出席しないので、会議の出席者の枠がまだ空いてるワン!」

「そんな事可能ニャのか?」

「問題ないワン! 会議に出席できる権利をもっているギルドメンバーが1人でも出席していたら、残りのメンバーは、誰を入れてもOKと決まっているワン!」

 良かった……これでブリトニーがこれ以上、タダを捏ねなくて済む。

 実際に、ブリトニーが我儘を言い続けたら、誰にも止める事などできないのだ。

 ブリトニーの動きは神速。実際に敵の攻撃をマトモにもらった事がない。
 ブリトニーが本気で逃げたら、多分、ブリトニーの姉である剣姫カレン·ロマンチックにしか捕まえる事はできないであろう。

 どれだけ、ブリトニーが会議に来るのを止めさせようとしても、俺達の手を掻い潜って、普通に会議に出席してしまうのが関の山だったのだ。

「それではイザ、冒険者会議に出席するのニャ!」

 ブリトニーは上機嫌で、高々と拳を突き上げ、意気揚々と宣言した。


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