170 / 286
170. 宣言
しおりを挟む冒険者会議が開かれる朝になった。
『ウルフデパート』兼『シルバーウルフ』本拠地、兼、『犬の尻尾』ムササビ支部に、モフウフのアジトで総料理長をしているガリクソンが、『シルバーウルフ』副団長として、冒険者会議に出席する為に戻ってきた。
「ゴ……ゴトウ様、そのお顔はどうなされたのですか?」
ガリクソンが、俺の腫れ上がった顔を見て、驚いた様子で話しかけてきたので、昨日の事と次第を説明した。
「『犬の肉球』の腹黒妖精シャンティーですか、あまり面識はありませんので、会っても挨拶するぐらいですが、色々と噂は聞いております。
腹黒妖精シャンティーに関わると、ろくな事ないと、冒険者の間では常識ですので。
『犬の肉球』は殆ど営業停止状態なので、勇者パーティーの主要メンバーが揃うギルドだと一般冒険者はあまり知らないし、そもそもエリスさんが、勇者パーティーのメンバーだったとはあまり知られていませんので。
他のメンバーは全員そこそこ有名なのですが、エリスさんだけは黒竜戦争の時はまだ子供で、精霊達に結界を張ってもらって、後ろの方から応援していただけだったと言われてますからね。
でも実際には、黒竜戦争で引き分けられたのは、エリスさんが連れてきた赤龍アリエッタの活躍があったからだと、知ってる者は知っています。
まあ、そんな訳で、エリスさんが勇者パーティーだと知らない一般冒険者が、気軽にエリスさんに言い寄っては、シャンティーさんにボコられる無限ループが続いていると風の噂で聞いております」
「そ……そうなんだ! なので俺は、エリスさんの為に、シャンティー様に殴られてボコボコになった顔を、街の人々に見てもらっているんだ!」
「ゴトウ様が、そのボコボコの顔を、街の人達に見せる事が、何故エリスさんの為になるのですか?」
「バカだな、ガリクソン。
俺のような超有名人が、エリスさんにちょっかい出して、逆に、シャンティー様に返り討ちにあったと街中に広まれば、俺より弱い一般ピーポーが、迂闊にエリスさんに言い寄れなくなるだろう」
「……な…なるほど……」
ガリクソンは、顔を引き攣かせながらも相打ちをした。
「ご主人様! そろそろ行くワン!」
幼女体から、ウルフデパートCEO用のエロお姉さんに変身したブリジアが声をかけてきた。
「それじゃあ、行くか!」
「行くのです!」
「行くニャ!」
「了解です!」
「ワン! ワン! ワン!」
「では、参りましょうか!」
最後に、ここには居ない筈の人物の返事が聞こえてきた。
「ん? 何でここにサンアリがいるんだ?」
そこには、当たり前のように俺達に付いて行こうと、サンアリが立っていた。
「冒険者会議は、決戦ですので!
ゴトウ様達だけでは、任せておけません!」
目の錯覚か、サンアリの体の周りに、炎が纏っているように見える。
「そいつは無理だワン!冒険者会議に出席できるのは、使い魔を除く1ギルド4人までだワン!
前に、新参者のギルドが参入した時、自分達の力を誇示する為に、ギルドメンバー全員を連れてきたバカがいたワン!
それからは、1ギルド4人までと決められたのだワン!」
「な……なんですと!」
サンアリが、ガックリしている。
「僕が、メンバーから抜けましょうか?」
アンちゃんが提案する。
「そ……それは駄目です。アン様は勇者パーティーのドラクエル様の娘様であらせられるので、会議の交渉の上で『犬の尻尾』に所属しているという事実を、他のギルドに見せるだけで、それなりに効果があると思われますので」
サンアリは、そう言った後、ブリトニーの顔をジッと見る。
「何なのニャ! なんで私を見るのニャ!私は絶対に、冒険者会議に参加するのニャ!
面白そうなイベントには、全て参加すると決めているのね!」
確かに、ブリトニーが冒険者会議に参加するより、サンアリが参加した方が断然良い。
俺の代わりに全て仕切ってくれそうなので、凄く助かる。
実際、俺は何をすれば良いのか全く分かっていないのだ。
「ブリトニー、悪いがサンアリと代わってくれ」
「イヤなのニャ! 例えご主人様の命令でも、これだけは絶対に譲れないのニャ!
私は私がやりたい事だけしか、絶対にやらないのね!」
俺の命令を聞かないとは……
やはり、ブリトニーには全く【魅了】効果が効いていない。
「それなら、ブリトニー姉様は『シルバーウルフ』の関係者として会議に出席すれば良いワン!
『シルバーウルフ』は、妾とガリクソンしか出席しないので、会議の出席者の枠がまだ空いてるワン!」
「そんな事可能ニャのか?」
「問題ないワン! 会議に出席できる権利をもっているギルドメンバーが1人でも出席していたら、残りのメンバーは、誰を入れてもOKと決まっているワン!」
良かった……これでブリトニーがこれ以上、タダを捏ねなくて済む。
実際に、ブリトニーが我儘を言い続けたら、誰にも止める事などできないのだ。
ブリトニーの動きは神速。実際に敵の攻撃をマトモにもらった事がない。
ブリトニーが本気で逃げたら、多分、ブリトニーの姉である剣姫カレン·ロマンチックにしか捕まえる事はできないであろう。
どれだけ、ブリトニーが会議に来るのを止めさせようとしても、俺達の手を掻い潜って、普通に会議に出席してしまうのが関の山だったのだ。
「それではイザ、冒険者会議に出席するのニャ!」
ブリトニーは上機嫌で、高々と拳を突き上げ、意気揚々と宣言した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,528
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる