279 / 286
279. 木刀野郎
しおりを挟む「ん? こ……これは……」
『鷹の爪』団長、剣聖ハラダ·シンタローが300階層目の階段フロアーを開けると、そこには薄暗く不気味な空が広がっていた。
「何で、ダンジョン内なのに空が広がってるの?」
シャンティさんが上空に飛び上がり、辺り一帯を見渡す。
「凄いよ~! ダンジョンの中に森があるよ~!」
エリスさんはというと、いきなりダンジョン内に森が広がっているのに気付き興奮している。
「シンタロー! 森の奥に城があるわよ!」
シャンティさんは、上空からシンタローさんに声をかける。
「そうか! それはお宝の匂いがするな!」
「冒険だぁ~!」
エリスさんは、右拳を突き上げジャンプし、興奮MAXのようだ。
『鷹の爪』のメンバー達もズボンのテントをビンビンに張り、盛り上がっている。
「取り敢えず、シローに連絡しておく?」
「そうだな! ホウレンソウは重要だ!」
「私がシローさんに連絡に行ってきます!」
『三日月旅団』の団長のミカサ·ムーンが階段フロアーに戻り、ダンジョン1階層の階段フロアーのレイド本部にいるシロー爺さんを呼んできた。
「オオォォ……こ……これは……」
シロー爺さんはダンジョン内に広がる、まるで地上のような光景に驚愕している。
「シロー! 森の奥に城があるわよ!」
シャンティさんが、シロー爺さんに城の事を教えると、元拳神であるシロー爺さんは、空中闊歩を使って空を登って行く。
「オォ、これは凄いですね!
しかし、あの城からは禍々しい魔素をビンビンに感じますね……」
「そうよね。相当遠くに建っているのに、ここまであの城にいるであろう魔物の魔素を感じるという事は、相当な大物の城のようね!」
「こんな時、ブリジア様が居てくれると助かるのですが、ブリジア様は2週間前から連絡が取れなくなってしまわれましたから……」
シロー爺さんは思案げに、不気味な城をジッと見続けている。
「確かに、3000年以上も生きている不死の魔女ブリジア様がいらっしゃったら便利よね!
この世界の有名所は、皆知ってそうだもの!
でも、お宝を前にして、ブリジア様を待ってはいられないわ!
ブリジア様までこのレイドに参加されてしまわれたら、私の取り分が減ってしまうじゃない!」
シャンティさんは、どんな時でも金の亡者だ。
「ヨシ! そうと決まれば出発するか!」
シンタローが、木刀を前に突き出し、出発を宣言する。
「シロー! 勿論、私達に同行してくれるわよね!」
「無論、そのつもりで御座います。
冒険者ギルドとしては、あの城を見つけてしまった以上、調べる義務がございますので」
シローはそう言うと、地上に降りてきた。
「それじゃあ、いつものフォーメーションで探索するわよ!」
『鷹の爪』の基本フォーメーションに、エリスさんとシャンティさんが真ん中、シルマンが前衛に加わり、他の『三日月旅団』のメンバーも中央付近で、『鷹の爪』のメンバーを援護する隊形をとる。
「シローも真中でお願いできるかしら?
どこから敵が来ても、真中なら全て対処できるでしょ!」
「承知しました」
レイド部隊は、城を目指して森の中を進み始めた。
「囲まれましたな」
シロー爺さんが皆に伝える。
「全く気配を感じないんだけど?
敵は、己の気配を消せる程の知恵を持った魔物という事ね!
で、シロー敵は何人いるの?」
シャンティさんが、シロー爺さんに尋ねる。
「正面に5匹、右に4匹、左に5匹、後ろに7匹といった所ですか」
「結構いるわね! 後ろに7匹という事は、私達を絶対に逃がさないつもりね!」
「シャンティさん、どうする?」
シンタローさんが、シャンティさんに指示を仰ぐ。
「シンタローが正面、シルマンが右、カンガルー君が左、シローが殿!
『鷹の爪』盾役は、新手に備えて正面に待機。
あとの者はエリスの結界の中から魔法、弓攻撃をお願い!
回復は全て、私が受け持つわ!」
「「「オオォォ!!」」」
シャンティさんの的確な指示で、『鷹の爪』『犬の肉球』『三日月旅団』の合同レイドチームは、素早く陣形につく。
敵は、シャンティさん達に自分達が察知された事に気付き姿を現した。
「チッ! ゴブリンロードにオークロード、オーガロードまでいるぜ!」
シンタローさんが、舌打ちする。
「これは不味いわね……
みんな最上位種じゃない!
というか、ゴブリンロードもオークロードも、オーガロードも初めて見たわね……」
「私はゴブリンロードは倒した事がありますが、しかし単体でしか倒した事はありませんね」
シローさんが静かな口調で話す。
「それじゃぁ、倒せない相手ではないという事だな!」
シンタローさんは、そう言うなり、木刀を上段に構え、正面にいたゴブリンロードに襲いかかる。
「一刀両断、ジゲン流奥義【一撃必殺】!」
ズダダダダダダーン!
ゴブリンロードは盾で受け止めるが、そのまま盾ごと吹っ飛ばされる。
「糞! 一撃じゃ、殺れねーか!」
シンタローさんは苦虫を噛み潰したよな顔をして、悔しがっている。
「ニンゲン、ユルサン!」
吹っ飛ばされたゴブリンロードが立ち上がる。
「シンタロー! 勝手に飛び出すんじゃないわよ!
まだ、アンタ達にエンチャンター掛けてないんだからね!
長期戦になるかもしれないから、体の負担が少ない全ステータス2倍を掛けるわよ!
それからシンタロー! あんた木刀じゃなくて、いい加減真剣を使いなさいよ!」
シャンティさんが、怒り心頭でシンタローさんを叱りつける。
「シンタロー殿、過信は禁物ですぞ!」
シロー爺さんもシンタローさんに、チクリと釘を刺す。
「ああ、解ってるさ!
ここからが、俺の本気の戦いだ!」
剣聖ハラダ·シンタローが、鞘から黒光りする日本刀に似た長刀を、スルリと抜いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,528
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる