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52. セント・グラスホッパー

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 エドソンが、グリズリー公爵に結構ドヤされて、エリザベスが商魂逞しく、シャトー・ロードグリズリーのシャトーを、グリズリー公爵に売りつけ、グリズリー公爵家が、元々招待されていたイーグル辺境伯の元へ、カレンと一緒に去っていくと、長男のセント兄が話し掛けて来た。

「ヨナン! 一体どうなってんだよ!
 母上が、グリズリー公爵家の娘だったていうのも驚いたが、お前が、あの剣鬼カレン・イーグルと婚約者って!
 しかも、お前、グラスホッパー商会の商会長だって?
 何だよ!それ? どうやったら貧乏で何もないグラスホッパー領で、商売立ち上げる事が出来るんだよ!」

 セント兄が、興奮して捲し立てる。

「まあまあ、家が金持ちになったんだからいいじゃない?
 家からも、たくさん仕送りが行ったんだろ?
 寮での生活もキツキツで、王都でもバイトしないといけないと嘆いてたけど、もうしなくていいんだし、良かったじゃないかよ」

「まあ、それはそうだけど」

 セント兄は、納得出来ない顔をしてる。

「一応、説明するけど、そこの朝から飲んだくれてるドワーフのオッサンの話によると、俺はドワーフ族で伝説のスキルと言われいる大工スキルを13歳の誕生日に女神ナルナーから授かったんだよ!
 そのスキルを使って、大森林を開発してったら、今みたいな状態になった感じかな?」

「端折り過ぎてて、話が分からないんだが……」

 セント兄は、余計困惑している。

「兎に角、グラスホッパー騎士爵家が豊かになって、グラスホッパー騎士爵家の長男で、跡取り息子のセント兄ちゃんは、ウホウホって事でいいんじゃないのか?」

「ウホウホか……確かに、俺、ウホウホだよな……」

「まあ、もしかしたら、ジミーが黙ってないかもしれんけど。セント兄は、貧乏なグラスホッパー騎士爵継ぎたくないってよく言ってたし」

 そう。セントは、貧乏過ぎるグラスホッパー領を見限って、王国騎士団に就職しようとしてたのである。
 そして、セントが、グラスホッパー領を見限って、次男のジミーに押し付けようとしてた事も、ジミーも公然の事実として知ってたりする

「イヤイヤイヤイヤ! 俺が絶対、グラスホッパー騎士爵を継ぐって!
 だって、このすげーホテルとか、お前のやってるグラスホッパー商会とかの税収とかも入ってくんだろ!」

 なんかよく分からんが、セントの目が燃えている。
 きっと、人生悲観してたセントの初めての大チャンスだったのだろう。

「俺は、必ず、グラスホッパー家の長男として、グラスホッパー騎士爵を相続する!」

 この日から、長男セントと、次男ジミーの骨肉のグラスホッパー騎士爵領争奪戦争が始まったのだった。

 ーーー

 朝からグリズリー公爵家が来たり、結構なゴタゴタがあり、今日は、カナワン支店からセバスチャンが鍛えた、色んな部門の精鋭従業員が、大挙して押し寄せる日だったので、色んな打ち合わせやなんかで結構、忙しい。

 それに、最近、有名になってきてる最高級ホテル、ロードグラスホッパーホテルのイーグル支店が、突如出来た事もあり、寄子会議兼、ワイン品評会で集まってたたくさんの貴族達から、泊めてくれないかとの問い合わせも殺到していて、急遽、ロードグラスホッパーホテル・イーグル支店を貴族限定でプレオープンする事となったのだ。

 そんな忙しい中、空気を読まずに、またカレンがやって来た。

「ヨナン! 大森林に狩りに行くわよ!」

「お前、頭おかしいのかよ! 俺、どう見ても忙しそうに見えるだろうがよ!」

「アンタ! 婚約者の頼みも聞けないわけ!」

「アホか! 俺がいつお前の婚約者になったかよ!」

「昨日、夫婦の営みもしたじゃない!」

「ただ、一緒の布団で寝ただけだ!」

 てな感じで揉めてると、

「まあ、いいじゃない。カレンちゃんはヨナン君の婚約者なんだから、付き合ってあげれば?
 それにカレンちゃんは、寄子パーティーとワインの品評会が終わったら、カララム王国学園に帰っちゃうのよね。
 明日までしか一緒に居れないんだから、たまには羽目を外して遊んできたら?
 ヨナン君って、ワークホリックだから、命令しないと、絶対に仕事し続けちゃうでしょ?」

 エリザベスが、ありがた迷惑な横やりを入れてきた。

「エリザベス叔母様も、ああ言ってるじゃない! 行こうよ!」

 ヨナンは、絶対にカレンと二人きりなんかで、出歩きたくない。
 これが続くと、既成事実になって、本当に結婚させられてしまうかもしれないし。

「セント兄、一緒に行かない?」

 ヨナンは、とても暇そうにしてるセント兄に話し掛ける。

「俺が?カレンさんと?」

 セント兄が、とても戸惑っている。
 無理もない。セント兄は今まで、多分、カララム王国学園でのヒエラルキーは、底辺にいたと思われるのに、突然、ヒエラルキー頂点に君臨するカレンと出歩くなんて、信じられないのだろう。

「ふ~ん。セント・グラスホッパーなら、足を引っ張らないし申し分ないわね!」

 何故か、カレンは納得してる。
 というか、同じ学年でもないセント兄の事を知ってるようである。

「ん? 二人は知り合いなのか?」

 ヨナンは、気になり質問する。

「知ってるわよ! セント・グラスホッパーは、私がカララム王国学園に入学するまで、カララム王国学園最強の剣士と言われてた男だから!
 まあ、私が入学したその日に、倒したのだけどね! 
 まあ、私もちょっと苦戦したし、セント・グラスホッパーは、私に次ぐ、カララム王国学園2番目に強いのは確かね!」

「えっ? そうだったの?セント兄?」

「まあ、絶対に俺は、カララム王国騎士団に入団しようと思ってたからな。
 カララム王国騎士団のエリート士官になろうと思ったら、最低でも、学園で5本の指に入ってなかったら無理だから、必死で修行してたんだよ!」

 セント兄は、カレンの前だから謙遜する。

「ん?でも、セント兄は、剣術スキルLv.1で、ジミーは、剣術スキルLv.2だから、実際、カララム王国学園2番手は、ジミーじゃないのか?
 剣術スキルLv.1と、剣術スキルLv.2には、絶対に越えられない壁があるというし?」

 ヨナンは、どういう事かと首を傾げる。

「ふ~ん。そうなの?だけど、私が戦ってみた感想だと、セント・グラスホッパーと、ジミー・グラスホッパーのレベル差は歴然よ!
 そうね。セント・グラスホッパーが、百獣の王ライオンなら、ジミー・グラスホッパーは、アリンコね!」

「え? そんなにも差があるのかよ!」

 カレンの例えに、ヨナンは滅茶苦茶ビックリする。

『ご主人様。セントさんが強いのは本当ですよ!』

「何だ?! 今、突然、頭の中で声が聞こえたぞ!」

 セント兄が、突然、聞こえた鑑定スキルの念話に驚いている。

「そうなのか?」

 そんなセント兄を無視して、ヨナンは鑑定スキルに尋ねる。

 名前: セント・グラスホッパー
 スキル: 剣術スキルLv.1
 ユニークスキル: 攻撃力4倍
 力: 540
 HP: 1000
 MP: 300

『これが、セントさんのステータスです。エドソンさんのユニークスキル、攻撃力4倍をしっかり受け継いでるんです!』

「本当だ……こりゃあ、ジミーは敵わないよな……だって、ジミーって、ユニークスキル持ってないし……」

「うわー! 何だこれ? 俺のステータスか?!
 というか、ユニークスキルが開示されてる!」

 何も知らないセントが、一々騒いでる。

「でしょ! だから、セント・グラスホッパーなら、私達についてきても、きっと、足を引っ張らないわよ!
 なんてったって、大森林は、私でも命を落としそうになるほどの危険な魔の森なんだもん!」

「ん?大森林が危険?」

 なんか、カレンが不穏な事を言った。
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