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第一章 ヨナン・グラスホッパー編
127. 剣鬼VS剣姫(2)
しおりを挟む「チッ!重過ぎる」
アンの連撃を全て受け止めてやろうとしてた、カレンが舌打ちを打つ。
アンの一撃一撃が、想像以上に重かったのだ。
『力だけは、負けてるわね』
カレンは、直ぐに頭を切り替えて、避けに専念する。
このままアンの剣を受け続けてたら、とてもじゃないが体が持たない。
それ程、アンの剣激は、常軌を逸した重さなのだ。
ズドン! ズドン!
カレンが、避けるたびに、床が裂け地響きが起こる。
どれだけ愚直に修行したら、これほど綺麗な振りになるのだろう。
アンの振りは、力任せの振りとは全く違う。
その上段から振り落とされる剣撃は、空気を切り裂き地面を割る。
カレンだからこそ、何とか、数発受け止める事が出来たが、常人なら、多分、風圧だけで体が破裂してしまうだろう。それほどの信じられいほどの圧が、木刀に込められてるのだ。
未だに、カレンの手が痺れてるのは、その証拠。
カレンは元より、自分が普通の人より力が有ることを知っている。
カレンのお爺ちゃんの、イーグル辺境伯も、力持ちだったし、それがイーグル辺境伯の血筋だと教えられて育ってきた。
そして、勿論、今まで、同年代の女の子に、力で負けた事など一度も無かった。
それなのに、カレンより2歳年下のアンが、カレンより力強い剣撃を放ってくるのだ。
実を言うと、そんなアンと対峙して、カレンはとてもワクワクしてる。
だって、今迄、カレンとマトモに剣を交えることが出来る者など居なかったから。
ん?ヨナンは?
まあ、確かに、ヨナン・グラスホッパーは強い。
だけれども、ヨナンの場合は、ハッキリ言って次元が違い過ぎる。
だって、カレンは、その辺に落ちてた小枝で負けたのだから。
それまで、カレンは、お爺ちゃんである、イーグル辺境伯にしか負けた事なかったのに。
ヨナンとのファーストインパクトで、始めてヨナンと剣を交えた時など、全く、ヨナンの動きが見えなかった。
完全なる敗北。
せめて、ヨナンの動きが分かる実力を身に付けたいのだ。最終的な目的は、ヨナンを捕まえて、自分の旦那にする為に。
取り敢えずのカレンの目標は、本気になったヨナンを目で追えるようになる事。
その為に、カララムダンジョンを攻略して修行したと言っても過言じゃない。
少しでも、ヨナンの奥さんに相応しい女になる為に、ヨナンと同じように、カララムダンジョンを完全攻略しようと思ったのだ。
そして、攻略した暁には、きっとヨナンの動きを、目で追えるようになってると。
ヨナンを、絶対に逃がさない為には、せめて目で追える実力を身につけなければならないと。切に願ったのである。
そして、ただただヨナンに追いつく為に、無心に魔物をぶった斬ってたら、カララムダンジョンをいつの間にか、攻略してた感じだ。多分、完全にゾーンに入ってたのだろう。
イーグル辺境伯の血筋の女は、集中し始めると止まらない性質をしている。2徹3徹当たり前、飯を食べるのも、生理現象(オシッコやウ〇コ)まで忘れて、ただ一心に目標に向かって突き進んでしまうのだ。
で、その結果。カララムダンジョンを攻略して凱旋したら、たまたまカララム王国学園剣術祭が開催されていて、そしてたまたま、聖剣ムラサメを持って、せっせと、剣術祭の実行委員の仕事をしてたヨナンを、その目で視認出来たのだ。
まあ、それだけで、実は、カレンの目標だった、本気のヨナンを目で追うという目標を、達成できてたりする。
とか、思ってたのは、昨日まで。
昨日は、聖剣ムラサメを持って移動してたヨナンを視認する事が出来ていたのだが、今日は、全く、ヨナンを視認する事が出来なくなってしまっていたのだ。
ヨナンが上空を飛んでるのは、気配で分かるのだが、姿は、どれだけ目を細めても見えない。
まあ、ヨナンは、誰にも見えないように、超高速移動しながら、貧乏揺すりというか、空中を走り回ってるから仕方がないんだけど。
だって、カレンとアンの決勝戦より、空を飛んでるヨナンの方が、目立ってしまう訳にはいけないしね。
カレンは、実をいうと相当凹んでいる。
カララムダンジョンを完全攻略して、相当強くなり、ヨナンの本気の動きも視認出来るようになったと思ったのだけど。
それ以上に、ヨナンの実力が、更に更に上だった事に。
だけれども、カレンは凹んだ反面、嬉しかったりもするのだ。
「流石は、私が認めた旦那様。私が想像してた何千倍も凄い男」と、
そんなふうに感じてしまうのが、イーグル辺境伯の血筋の悪い所。強くて甲斐性がある男に、強く強く惹かれてしまうのだ。
まあ、ヨナンの話は、その辺にしといて、今は、目の前のアンをどうにかしないといけない。
ヨナン以外での、始めての好敵手。
動きは基本に忠実。裏表が全く無い剣。
当たれば、一撃必殺だが、当たらなければそれまで。
アダマンタイトミスリル合金で作らた床をも破壊する、アンの一撃必殺の剣を避け続ける事、5分。やっと手の痺れが取れてきた。
『やっと、やれる』
カレンは、木刀を強く握り締め、手が問題なく動くか確認すると、斬りかかってくるアンの剣撃を、紙一重で避け、そしてそのまま、アンの懐に潜り込み、一閃。
ズザン!
アンの腹を木刀で、打ち抜く。
「グフッ!」
正に閃光。アンは、ガクッと、腹を抱えて膝を付く。
「私の勝ちね! やはり、剣貴コンビのリーダーは、この、私という事よ!」
どうやら、どっちがリーダーになるか、未だに揉めてたようである。
というか、アンは何か言いたそうな顔をしてるのだが、鳩尾に木刀がヒットしたようで、悶絶してマトモに話せなそうだ。
そして、
「勝者! カレン・イーグル!」
グロリア先生が、勝ち名乗りを上げる。
「「ウオォォォォーー!! ブラボー!!」」
「今年の優勝は、前回同様、カレン・イーグルだーー!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
「決勝戦に相応しい、戦いだったぞーー!」
「カレン姉ちゃん、スゲー!」
観客は、決勝戦に相応しい戦いに、歓声と拍手を送る。
まあ、ヨナン的には、スローモーションの世界で見てたので、大した戦いに見えなかったが、観客的には、見応えがあった試合だったかもしれない。
だって、アン姉ちゃんが、アダマンタイトミスリル合金のメッチャ硬い床を、盛大に破壊尽くしてしまったので、絵柄的には、壮絶な戦いをしたように見えるしね!
まあ、兎に角、アン姉ちゃんを怒らしたら、アダマンタイトミスリル合金をも破壊しちゃうパワーで、ボコられてしまう事が、よ~く分かった試合であった。
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