放置ゲー廃課金者、転生する!

にがよもぎ

文字の大きさ
132 / 135

130話 -師-

しおりを挟む
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「ではベリル様。お好きな様に攻めてください」

「はい!!」

………というくだりをしてから早5分が経った。その5分間ベリル様は俺に一太刀入れようと躍起になっていた。

「『首落とし』!!」

「………………」

ベリル様の斬り下ろしを最小限で避けると足払いを掛ける。無防備となっているベリル様は足払いが当たると尻もちをつく。しかし、ベリル様は目を輝かせてブツブツと独り言を言うと更に攻撃をしてくる。今度は木刀を横一線に走らせるが、それも最小限の動きでかわしベリル様の腕を流れのままに引っ張る。

「うわぁ!!」

ベリル様は姿勢を崩しタタラを踏む。今度はこける様な真似はしなかったが、頃合いだと思い、ベリル様の懐へと詰め寄り首筋に手刀を当てる。

「……はい。よぉく分かりました」

「はぁっ……はぁっ………」

ベリル様は呼吸を整えながら木刀を下ろし、じっと俺の目を見つめる。ベリル様の目は爛々と輝いており、褒めて欲しそうにしていた。

「…………1つお聞きします。ベリル様はどの様な強さをお求めですか?」

「? どの様な…?」

「はい。冒険者としての強さなのか、兵士としてなのか英雄としてなのか……ですね」

「………ボク、いや!私はアルス先生の様な強い男になりたいんです!」

「…………そうですか」
(だよねー?さっきもそう言ってたもんねー?あー……どうしよう……?)

ベリル様の元気な返事に俺は頭を悩ます。ベリル様の動きはニリキナの様に兵士団のに近い。言わば教科書通りの剣術だった。

冒険者と兵士の違いは、俺が見たところ個か集だと思う。冒険者はパーティを組む時もあるが、基本的にはソロで活動する。魔物と戦う時には教科書通りの動きではまず勝てない。そこに我流を組み込む事で冒険者は戦う術を習得するのだ。……だが、兵士は違う。彼等は基本的に集団で戦う。全員が同じ剣術を使用し、4、5人で魔物と戦う。ニリキナ曰く『一対一で戦うのは愚策』だそうだ。恐らく、長年この稽古を積んでいる事で兵士達の質は高い。だが、それは集の場合であって個の場合はそうもいかない。恐らく高く見積もっても冒険者のDぐらいの強さだと思う。

(………うーん。どうしたもんか………別に基本が悪いって訳じゃねえしなぁ…)

ベリル様はまだ子供だ。子供というのは吸収力が高く成長も早い。だが、ベリル様は貴族でこれから先の未来はほぼほぼできているだろう。そこに俺なんかの知識を蒔いても良いのだろうか?

「アルス先生?」

なんと伝えればいいか悩んでいると心配そうにベリル様が顔を覗き込んで来た。

「あ、あぁ…すいません。ちょっと考え事をしてまして…」

「それはボクの事でしょうか?」

「え?い、いや、違いますよ?」

「先生は嘘をつくのが下手ですね。パパと似た様な仕草をします」

「…………」

「ボクが先生の様に強くなる事は無理だと分かってます。でも、先生みたいになりたいと思うのは本当です。ボクはまだ子供ですし、先生の力を全部吸収したって大人には勝てません。でも、大きくなるにつれそれを継続させる事は大事だとパパも言ってます」

「…………」

「先生には期間もありません。けど、ボクは教えてもらったことを続けていきたいと思ってます。それがボクが先生から教えてもらいたい事なんです」

ベリル様の風貌からは似合わない大人顔負けの台詞が出た事に言葉を失う。それと同時に俺は浅はかな考えを持っていたなと思い知る。

「……そうですか。なら、まずは基本を徹底的に覚えていきましょう。対人でも対魔物でも戦える様に」

「よろしくお願いします!!」

俺が考えていたのは技を教えるという考えであった。しかし、ベリル様の考えは違った。俺の教えを基礎にしようと考えていたのだ。それも長期的な計画で。………子供だと思ってたけど、貴族の子供だって事をすっかり忘れてたよ。そりゃ頭が良いはずだよ。

「では先ず、ベリル様は兵士の稽古を模倣してますね?」

「はい!パパに一度王宮に連れて行ってもらった時に見学しました!」

「見学で真似が出来るのか……。では、それを一度忘れましょう。兵士の稽古は集団戦を基本としています。ベリル様は先ず一人で戦える動きを身につけましょう」

「一人で戦える??」

「はい。戦いという動きは攻守一体です。見た所、ベリル様は攻撃した後に大きな隙が出来ます。それを先ずは無くしましょう」

「はい!!!」

「武器も木刀はまだ早いので素手から始めましょう。では先ずは-----

それからベリル様に漫画で得た知識を教えていく。俺は前世じゃ格闘技とかは一切してなかったけど、見るのは好きだった。そして何故か不思議な事にその知識は精細に覚えていた。普通なら忘れそうな話でも事細かくだ。

「対人戦闘の場合、隙を見つけるのが先になります。逆に隙がない場合は作り出す事も必要となります」

少年王者の某漫画の知識を教えながら実演していく。ベリル様は兵士の稽古を体験しない。だとすれば型を覚えるのは得意なはずだ。

「ベリル様は頭を使うのは得意ですか?」

「……勉強って事ですか?」

「…まぁそんな感じです」

「あまり……自信は無いです」

「ならパターンを覚えましょう。相手がこう動いたらこう!って感じで」

俺の抽象的な言い方にもベリル様は理解するのが早かった。そのパターンを何度も反復し身体に染み込ませた。それを何度もやっていると、馴染みの声が聞こえた。

「ただいまご主人様ぁー!!」
「マスター。お土産」
「糖分を欲しているのではありませんか?」

「お、お帰り。楽しかった?」

買い物から帰ってきたチカ達が声を掛けてくる。手には何やら甘い匂いのする箱を持っていた。

「あらあら。ベリルったら凄い汗をかいて……」

「ママ!」

ベリル様はターコイズさんの奥さんに早口で何かを話していた。それを横目に俺はチカ達と話をする。

「何か買い物したの?」

「お茶をしただけ。モルガは沢山買ってた」

「ナナ達は買わんかったの?」

「んー……次でいいかなって。服も興味無かったしー」

「あっそ。まぁコスチュームが沢山あるもんな。…んで?お土産って何?」

「モルガとお茶をした所のお菓子ですわ。甘くて美味しかったです」

チカから箱を渡された蓋を開けると見覚えのあるお菓子が飛び込んできた。

「こ、これは!!ケーキ!!!」

「そう。MP全回復のケーキ。でも食べても回復した感じはしなかった」

「それは………そうでしょうよ」

ケーキは『Destiny」でも存在していたイベントアイテムだ。これはそのイベント期間でしか製作できないアイテムで、対象クエストから出るドロップ品を加工したアイテムだった。加工するのには料理人のジョブが必要だが、ジョブレベルによって効果は大きく変わる。俺達はカンストしているので、MP全回復以外にバフも付いていた。でもそれはあくまでもゲームの話であって、普通のお菓子にはその様な効果は付いていない。むしろついていたらビビるわ。

「アルス様、この後予定が無ければぜひご一緒に夕食はいかがかしら?」

ケーキを手掴みで頬張っていると奥さんから声を掛けられる。

「え!いいんですか?」

「はい。ベリルもまだ話し足りなさそうですし、どんな稽古をしたのかお聞きしたいので」

「じゃあお言葉に甘えて!」

夕食に招待されるのは予想外だったが、予定もない為ホイホイと承諾する。ターコイズ様の屋敷の飯を味わう暇が無かったからね。

「それでは汗を流してから食事を。準備させときますわ」

「それって混浴ー??」

「い、いえ。時間をずらして入ってもらいますが…」

「別に一緒でも良いよねーご主人様?」

「あ?まぁ………温泉にも入ったしな」

「温泉?……ああ、あの町ですか?」

「知ってるんですか?」

「もちろん。半年に一回は私達も向かいますわ。ターコイズに無理を言ってこの屋敷にも作らせようとしたのですが……源泉がないから無理と言われましてね………」

「…まぁ温泉ですからね」

「けれど、浴室は広いですよ。そこをお手本にしたので」

「……それって湯船がいくつもあるって事すか?」

「ええ。そうですが?」

(………金持ちの感覚は分からんなぁ)

「先生!一緒に入りましょう!汗流します!!」

「あ、ありがとう………ん?ちょっと待ってね?」

ベリル様の申し出を承諾した瞬間、俺はチカ達と目を合わせ口を開く。

「俺とベリル様で一緒に入るからチカ達は別で入ってくれ」

「ええ!?なんで!!!!!?」

「いや………それは…その……まだ早いからね」

「早い?? どういうことだマスター?」

「あぇー……まぁベリル様が目覚めたら困るからだ」

「「「?????」」」

「と、とにかく一緒に入るのはダメ!!」

チカ達に釘を刺した後、意味を理解した奥さんが苦笑いを浮かべながら俺と目が合った。……プロポーションが桁違いなチカ達を見てしまったらベリル様に悪い経験値を積ませてしまう事になるからな。それに……まだ早い。男として。

俺の意図が分からないベリル様は喜んで俺の手を取る。そして、ベリル様に連れられ俺は屋敷へと入っていくのであった。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...