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第4章 王宮学園--長期休暇編--
第123話
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♢♦︎♢♦︎♢♦︎
「はぁー………しんどかったぁ……。こんなの毎日アルス達はしてるの?」
「お疲れ様です。今は非番ですけど、毎日こんな感じでしたよ」
「……タフだねぇ。先生ってのを少し尊敬するよ…」
午前が終わり、後片付けを確認した後スサノオさんと共に武闘場から出る。『スサノオさんフィーバー』は衰えを知らず、生徒達は常にスサノオさんの周りに居た。だが、スサノオさんは嫌な顔せず真摯に対応していたので、それはそれで凄いなとは思った。
しかし、やはり疲れていた様で生徒達が居なくなった瞬間に笑顔から真顔へと変わり『疲れた!』と文句を漏らしていた。その時に俺は『芸能人とかアイドルとかってこんな感じなんだろうなぁ』とふと思った。
「それじゃご飯でも食べに行きますか。タイリークで食べます?それとも食堂で食べますか?」
「歩くの面倒だから食堂でいい……。タイリークにわざわざ向かう元気はもう無いよぉ…」
武闘場から出ると、入り口側にアリスさんが立っていた。
「遅い!何してたのよ!」
「何してたって……。確認してたんだよ」
「レディーを待たすなんて失礼な人ね!お陰で少し日焼けしちゃったじゃない!」
「…いや、知らんし。待っとけとも言ってねーだろ?」
「私の指導をスサノオ様がしてくれるんでしょ?ならお昼からの移動は一緒にした方が効率が良いじゃない!…そんな事もわからないの?」
「…何だコイツ?頭イかれてんのか?」
「? なに?なんか言った?」
「いいえ。何も」
理由はどうあれ待たせてしまったのは事実。真剣に謝罪を一瞬だけして食堂へと向かう。その道中、俺を仲介役としてスサノオさんとアリスさんは会話をしていた。
「…ねぇ。スサノオ様に『何で私を指導するのか』って聞いて?」
「自分で聞けよ……。スサノオさん、アリスさんが『何で指導すんの?』ですって」
「マクネア様の頼みだからだよー!」
「だってさ」
「聞こえてるわよ!……じゃあ何でマクネア様が?」
「ですって」
「知らなーい!…というより秘密かな」
「だってよ」
「秘密?……その秘密は教えてくれないのかしら?」
「…もう自分で聞けよ…」
「秘密は秘密だよー!でもアリスさんにとって損は無いと思うよ!魔法について学びたいんでしょ?」
「……何でそれを。…ちょっとアンタ、どこまで教えてくれるのか聞いてよ」
「自分で聞け。もーめんどくさい」
「なっ!?ちょっとぐらい良いじゃない!」
「直接教えてもらうなら直接話した方が早いだろー?……つかなんで俺を挟んで会話するんだよ…」
無理矢理アリスさんをスサノオさんの隣に移動させ会話をさせる。何故そんなに警戒しているのかは全く分からないが、きっとアリスさんは人見知りな性格なんだろう。……ツンツンで人見知りで高飛車な性格って……もうお腹いっぱいだよ。
「あー!アルス先生ーっ!!」
食堂近くまで来ると、アーサーとケビン君、シュナさんと出会った。
「久し振りー」
「この時間にここに来るって事は…先生は今日当番だったんすか?」
「んにゃ、今日は代わりに出ただけだよ」
「ですよねー。予定表にも非番って書いてあったし…」
「……なんでアーサーが俺の予定を把握してるんですかねぇ?」
「へ?そりゃエド先生から貰ったからですよ!ほら!!」
アーサーがポケットから紙を一枚取り出す。それを奪いポケットにしまう。
「あっ!何するんすか!」
「オメーが俺の予定を管理する意味がわからん!それに、アーサーが持ってると俺の貴重な休みが潰されそうだからな」
「またまたー。どーせ暇してるんでしょ?予定入れなかったら先生はグータラしてそうだしなぁ…」
「それが一番良い休日の過ごし方なんだよ。……つか、ここ最近は色々あったからたまには丸々休みたいんだよ…」
「でも先生が居ない間、オレも暇なんすよー。依頼も一人じゃ受けれねーし」
「アシュレイさんとかロニキスさんとかと稽古すればいいじゃん」
「してますよ!長老は気分次第ですけど……ロニキス先生はもう超えちゃったし…」
「………は?超えた?……どういう事?」
食堂へと並ぶ長蛇の列の後ろに移動しながらアーサーへと尋ねる。
「そのまんまの意味っすよ。ロニキス先生と暇が合えば稽古つけて貰ってるんすけど……。ロニキス先生から『魔法無しなら俺よりも強いな』って言われました」
「…マジ?」
「はい。んで、長老立会いで実践稽古もしたんすけど、ロニキス先生が『アーサーとはもうやる意味ない』って言われたんすよー…」
唇を尖らせながらアーサーはつまらなそうに報告する。それを聞いて俺は『…そんな強くなったの?』と少し驚いてしまった。
「んで、マクネア様経由でリンドールさんとも連絡を取ったんですけど……。先生が居ないと教える意味が無いって断られちゃって……」
「……なんだよそれ…。ま、まぁ話は分かったけど…………アシュレイさんとはどんな感じなの?」
「長老とは戦績は五分五分ですねー。…まぁ言うても長老は手抜きしてるらしいすけど…」
(ふむふむ…。まだアシュレイさんを越してはいないって事か……。しかし………あからさまに成長してないか?あの依頼終えてからそんなに経ってないよな?)
アーサーは嘘を付くような子ではない。だとすれば、ロニキスさんが言ったのは事実なのだろう。だが、それが事実だと言われても納得は完全には出来なかった。
「…ケビン君。アーサーが言ってる事って本当?」
アーサーの隣に居たケビン君へと話しかけ、事のあらましを話すと正確な情報が返ってきた。
「あー……。た、確かにそう言われたのは事実です。けどそれは純粋な肉弾戦の事であって、魔法有りになるとまだまだって言われてますよ…」
「あ、そうなの?……よかったぁ。ロニキスさんを越したのかと思ったよ…」
「でもロニキス先生はこうも仰ってましたよ?『魔法戦術を少しでも覚えれば、俺はアーサーの相手にはならん。アルスか長老ぐらいのレベルになるだろうな』って…」
「…え?そんなに高評価されてんの?」
「は、はい……」
「見直したっすか?」
どうやらアーサーは本当に強くなってるみたいだ。確認してみないことには分からないが、そのような評価を受けているってことは急激に伸びたって事だろう。
「見直したって言われてもな……。元々素質はあった訳だし……。まぁとりあえず午後に手合わせしてみるか」
「やったぜ!オレ結構自信ありますからね!今回は先生に一太刀ぐらいは入れちゃいますよー!」
「はいはい。……ところでシュナさんはどんな感じ?」
「………先生。1つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
ケビン君の隣に居たシュナさんに話しかけると、シュナさんは俺の後ろを見ながら質問をする。
「………後ろにいる人って………スサノオ様…ですか?」
「ん?ああ、そうだよ?マクネアさんがアリスさんの指導役としてお願いしたみたい」
「……そ、その…先生とスサノオ様はお知り合いなんですか?」
「んー……知り合いっちゃー知り合いだな。そんな月日は経ってないけど」
「ウ、ウチも指導して貰えたりは…」
「それは分かんねーけど……頼んでみたら?」
「そ、そんな……話しかけるなんて恐れ多い…」
「……何でアリスさんといいシュナさんといい、そんなスサノオさんを怖がるんだ?」
隣に居たケビン君に話しかけると、苦笑いを浮かべながら答えてくれた。
「こ、怖がるというか……スサノオ様ってこの国での有名人ですし……実力もこの国に住んでいれば知ってますからね…。住んでる世界が違う人に話しかけるってのは抵抗があるんじゃないでしょうか…?」
「あー……なるほどねぇ。確かにそう言われればそんな反応はするわなぁ」
「ぼ、僕もお会いするのは初めてですからね……。話だけは色々と聞いてますけど…」
「あ、そうそう。今更な話なんだけどスサノオさんってどんな逸話があるの?そう言った話に疎いからさー…」
「そ、そういう話ならシュナさんの方が詳しいかと…」
「そうなの?」
「はい……。シュナさんは『三騎士』の熱烈なファンですから…」
「三騎士??…なにそれ?」
「シ、シュナさん……。アルス先生が三騎士について聞きたいって…」
ケビン君はシュナさんにバトンタッチすると聞き手側に回る。
「えっ?!先生は三騎士を知らないんですか?」
「う、うん……。その三騎士ってのを教えてくれない?」
「……仕方ないですねぇ!」
シュナさんは嬉々とした表情を浮かべるとゴソゴソとポケットから3枚の小さなカード状の物を取り出す。そして、それを俺に手渡すと説明を始める。
「三騎士ってのは各国を代表する実力者の事です!アルゼリアル国はスサノオ様。シュピー共和国はドウザン様。ドルド国にはユミル様!この3人は実力もさることながら、大変心優しいお方で全ての民から愛されているお方なのです!」
「ほーん………」
シュナさんから手渡された物は前世でいうプロマイド的なもので、満面の笑みを浮かべたスサノオさんがリアルに描かれていた。
「……ん?この渋い顔の人は?」
「これはドウザン様です!」
「んじゃこっちの人は?」
「これはユミル様です!」
スサノオさんの肖像とは違い、この二人の描き方はとても渋めであった。特にこのユミルって人。ぱっと見の印象だと犯罪者かと思うぐらいだ。失礼だとは思うけどさ。
「ふーん…………」
「その3人の逸話は沢山あるんですよー!スサノオ様は『龍を屠る者』、ドウザン様は『神の眼』、ユミル様は『地の支配者』って二つ名が有るんです!」
「二つ名?……なんかどれも凄そうだけど……アシュレイさんも龍は倒してるよな?」
「長老も二つ名はありますけど、スサノオ様はもっと上なんです!」
「上って………。まぁ龍と戦ったこと無いから分かんねーな…」
「他にも色々とあるんですけど、共通しているのが『一人で』討伐しているんです!」
「へぇ……。って事は龍以外にも討伐してるって事か」
「はい!『雪の巨人』や『灼熱の大蜥蜴』、『水の怪物』などの脅威となる魔物を一人で討伐してるんですよー!」
「魔物も色々と種類があるんだなぁ……。んで?シュナさん的には誰が一番強いと思うの?」
「断然スサノオ様ですよ!!」
語気を荒げながら、シュナさんは他にも色々と教えてくれる。どれも今ひとつピンと来ないのだが、早い話この3人は化け物染みた実力者って事だ。ゲームでいう『最強』って事だろうな……。
まだまだ話したそうにしているシュナさんであったが、食堂の列が進んだのでその話は終わることになった。厨房で注文し、席に着いて呼ばれるのを待っているとロニキスさんとエドがやって来た。
「おう!今日は勢揃いだな!」
「やほー!お久しぶりっ!」
「久しぶり」
ロニキスさん達はそのまま席に腰を下ろすと、スサノオさんの顔を二度見する。そして、なぜか俺を睨みつける。
「え?なに??」
「お、おい……アレってもしかして…」
「ア、アルスさん?!あの人ってもしかして…」
二人してスサノオさんを見ているので、シュナさんに話した様に二人に説明する。
「……マジかよ。信じらんねぇ…」
「スサノオ様に指導を頼むなんて…………。マクネアちゃんは何がしたいんだろう……」
ロニキスさん達はスサノオさんを見ながら思い思いの言葉を漏らす。そこで俺はとある事を閃いた。
「あ、そういや2人は午後暇っすか?」
「は?……ああ、予定はねぇけど…」
「私も……」
「んじゃ、ちょっと午後は一緒に訓練しません?」
「「は?」」
俺の提案に2人は間抜けな声で返す。
「いやぁ、ここであったのも何かの縁だと思いますし……。スサノオさんがどんな指導をするか教師として興味ありません?」
「……ま、まぁそう言われると…なぁ?」
「興味はありますけど……」
「なら午後一緒に過ごしましょうよ。俺はロニキスさんにアーサーの事について色々と聞きたいですし」
「……あ。そういやそうだな。俺もアルスに言わねーとって思ってたんだ」
「わ、私は何をすれば…」
「シュナさんとケビン君を見てくれると助かる」
「…わかりましたぁ」
(………やったぜ。正直、ケビン君とシュナさんまで手が回らないと思ってたんだよなぁ……。俺はアーサーの指導だし、スサノオさんはアリスさんだし…………。いやぁ、マジラッキー)
偶然ではあるが、ロニキスさんからは話を聞きたいと思っていたのは事実。アーサーと手合わせする前に会いに行こうとは思っていた。エドは………まぁ失礼だが保護者的な意味合いだ。俺が手が離せない時にケビン君達を見ててもらおうと考えている。
(よしよし……。これでバランスは取れたな。エドとロニキスさんがいる事で俺はアーサーを集中して教えれるし、ケビン君達も聞きやすい人が居るから大丈夫だろう)
「アーサー君達の分出来上がったよー!取りにおいでー!!」
厨房からオバちゃんの声が聞こえ、昼食を取りに行く。今日の日替わりは『コロッケ』だ。
「んじゃ先に食べまーす」
席に座ってから、ロニキスさん達に一言伝えてから昼食を食べる。『コロッケもどき』だと想像していたが、見た目と食感ともにコロッケであった。イモの甘さとミンチにした肉の脂がマッチしており、甘めのソースが食欲を唆る。『辛子』があると嬉しかったが、その代わりに何故か山葵が置いてあった。まぁ山葵とコロッケという組み合わせは前世でも食べた事ない組み合わせであったが、それなりに美味しかった。……べらぼうに美味いって事は無いけど…。
そして、せっかくコロッケとパンがあるのでとある事をする。ナイフでパンに切れ込みを入れ、その切れ込みにソースがかかっているコロッケを挟み頬張る。
「んー………美味い」
「……下品な食べ方」
「……俺の村ではこれが当たり前なんだよ。…一口食べてみる?」
「遠慮するわ」
米も良いけど、パンと食べるならこの食べ方は当たり前だよなぁ?
お手製のコロッケパンを頬張りながら、『パスタがあるなら焼きそばパンも出来るよな?』と考える。貴族の口に合うかどうかは分からないし、アリスさんが言った様に『下品』と捉えられるかも知れない。しかし、俺にとってこの『惣菜パン』という物は前世でよく食べていたものだし、懐かしく思えるものであった。
「アルス先生!なんすかそれ!」
コロッケパンもどきを見たアーサーが、興味津々に俺に尋ねてくる。
「アーサーも試してみろよ。案外美味いんだぜ?」
「パンに挟むだけすか?」
「おう。そして、コロッケにソースをたっぷり染み込ませるのが最強だ」
「うおおお!最強すか!?オレもやってみるっす!」
「……はぁ。下品が2人もいる…」
俺とアーサーの会話を聞いていたアリスさんは頭を抱える。下品下品言うけど、一度食べてみれば良さが分かると思うんだけどなー。…無理矢理喰わせるか?
まぁそんな度胸は無いので、クチャラーにならない様、そしてこぼさない様に気をつけながらコロッケパンを頬張るのであった。
「はぁー………しんどかったぁ……。こんなの毎日アルス達はしてるの?」
「お疲れ様です。今は非番ですけど、毎日こんな感じでしたよ」
「……タフだねぇ。先生ってのを少し尊敬するよ…」
午前が終わり、後片付けを確認した後スサノオさんと共に武闘場から出る。『スサノオさんフィーバー』は衰えを知らず、生徒達は常にスサノオさんの周りに居た。だが、スサノオさんは嫌な顔せず真摯に対応していたので、それはそれで凄いなとは思った。
しかし、やはり疲れていた様で生徒達が居なくなった瞬間に笑顔から真顔へと変わり『疲れた!』と文句を漏らしていた。その時に俺は『芸能人とかアイドルとかってこんな感じなんだろうなぁ』とふと思った。
「それじゃご飯でも食べに行きますか。タイリークで食べます?それとも食堂で食べますか?」
「歩くの面倒だから食堂でいい……。タイリークにわざわざ向かう元気はもう無いよぉ…」
武闘場から出ると、入り口側にアリスさんが立っていた。
「遅い!何してたのよ!」
「何してたって……。確認してたんだよ」
「レディーを待たすなんて失礼な人ね!お陰で少し日焼けしちゃったじゃない!」
「…いや、知らんし。待っとけとも言ってねーだろ?」
「私の指導をスサノオ様がしてくれるんでしょ?ならお昼からの移動は一緒にした方が効率が良いじゃない!…そんな事もわからないの?」
「…何だコイツ?頭イかれてんのか?」
「? なに?なんか言った?」
「いいえ。何も」
理由はどうあれ待たせてしまったのは事実。真剣に謝罪を一瞬だけして食堂へと向かう。その道中、俺を仲介役としてスサノオさんとアリスさんは会話をしていた。
「…ねぇ。スサノオ様に『何で私を指導するのか』って聞いて?」
「自分で聞けよ……。スサノオさん、アリスさんが『何で指導すんの?』ですって」
「マクネア様の頼みだからだよー!」
「だってさ」
「聞こえてるわよ!……じゃあ何でマクネア様が?」
「ですって」
「知らなーい!…というより秘密かな」
「だってよ」
「秘密?……その秘密は教えてくれないのかしら?」
「…もう自分で聞けよ…」
「秘密は秘密だよー!でもアリスさんにとって損は無いと思うよ!魔法について学びたいんでしょ?」
「……何でそれを。…ちょっとアンタ、どこまで教えてくれるのか聞いてよ」
「自分で聞け。もーめんどくさい」
「なっ!?ちょっとぐらい良いじゃない!」
「直接教えてもらうなら直接話した方が早いだろー?……つかなんで俺を挟んで会話するんだよ…」
無理矢理アリスさんをスサノオさんの隣に移動させ会話をさせる。何故そんなに警戒しているのかは全く分からないが、きっとアリスさんは人見知りな性格なんだろう。……ツンツンで人見知りで高飛車な性格って……もうお腹いっぱいだよ。
「あー!アルス先生ーっ!!」
食堂近くまで来ると、アーサーとケビン君、シュナさんと出会った。
「久し振りー」
「この時間にここに来るって事は…先生は今日当番だったんすか?」
「んにゃ、今日は代わりに出ただけだよ」
「ですよねー。予定表にも非番って書いてあったし…」
「……なんでアーサーが俺の予定を把握してるんですかねぇ?」
「へ?そりゃエド先生から貰ったからですよ!ほら!!」
アーサーがポケットから紙を一枚取り出す。それを奪いポケットにしまう。
「あっ!何するんすか!」
「オメーが俺の予定を管理する意味がわからん!それに、アーサーが持ってると俺の貴重な休みが潰されそうだからな」
「またまたー。どーせ暇してるんでしょ?予定入れなかったら先生はグータラしてそうだしなぁ…」
「それが一番良い休日の過ごし方なんだよ。……つか、ここ最近は色々あったからたまには丸々休みたいんだよ…」
「でも先生が居ない間、オレも暇なんすよー。依頼も一人じゃ受けれねーし」
「アシュレイさんとかロニキスさんとかと稽古すればいいじゃん」
「してますよ!長老は気分次第ですけど……ロニキス先生はもう超えちゃったし…」
「………は?超えた?……どういう事?」
食堂へと並ぶ長蛇の列の後ろに移動しながらアーサーへと尋ねる。
「そのまんまの意味っすよ。ロニキス先生と暇が合えば稽古つけて貰ってるんすけど……。ロニキス先生から『魔法無しなら俺よりも強いな』って言われました」
「…マジ?」
「はい。んで、長老立会いで実践稽古もしたんすけど、ロニキス先生が『アーサーとはもうやる意味ない』って言われたんすよー…」
唇を尖らせながらアーサーはつまらなそうに報告する。それを聞いて俺は『…そんな強くなったの?』と少し驚いてしまった。
「んで、マクネア様経由でリンドールさんとも連絡を取ったんですけど……。先生が居ないと教える意味が無いって断られちゃって……」
「……なんだよそれ…。ま、まぁ話は分かったけど…………アシュレイさんとはどんな感じなの?」
「長老とは戦績は五分五分ですねー。…まぁ言うても長老は手抜きしてるらしいすけど…」
(ふむふむ…。まだアシュレイさんを越してはいないって事か……。しかし………あからさまに成長してないか?あの依頼終えてからそんなに経ってないよな?)
アーサーは嘘を付くような子ではない。だとすれば、ロニキスさんが言ったのは事実なのだろう。だが、それが事実だと言われても納得は完全には出来なかった。
「…ケビン君。アーサーが言ってる事って本当?」
アーサーの隣に居たケビン君へと話しかけ、事のあらましを話すと正確な情報が返ってきた。
「あー……。た、確かにそう言われたのは事実です。けどそれは純粋な肉弾戦の事であって、魔法有りになるとまだまだって言われてますよ…」
「あ、そうなの?……よかったぁ。ロニキスさんを越したのかと思ったよ…」
「でもロニキス先生はこうも仰ってましたよ?『魔法戦術を少しでも覚えれば、俺はアーサーの相手にはならん。アルスか長老ぐらいのレベルになるだろうな』って…」
「…え?そんなに高評価されてんの?」
「は、はい……」
「見直したっすか?」
どうやらアーサーは本当に強くなってるみたいだ。確認してみないことには分からないが、そのような評価を受けているってことは急激に伸びたって事だろう。
「見直したって言われてもな……。元々素質はあった訳だし……。まぁとりあえず午後に手合わせしてみるか」
「やったぜ!オレ結構自信ありますからね!今回は先生に一太刀ぐらいは入れちゃいますよー!」
「はいはい。……ところでシュナさんはどんな感じ?」
「………先生。1つ聞いてもいいですか?」
「ん?」
ケビン君の隣に居たシュナさんに話しかけると、シュナさんは俺の後ろを見ながら質問をする。
「………後ろにいる人って………スサノオ様…ですか?」
「ん?ああ、そうだよ?マクネアさんがアリスさんの指導役としてお願いしたみたい」
「……そ、その…先生とスサノオ様はお知り合いなんですか?」
「んー……知り合いっちゃー知り合いだな。そんな月日は経ってないけど」
「ウ、ウチも指導して貰えたりは…」
「それは分かんねーけど……頼んでみたら?」
「そ、そんな……話しかけるなんて恐れ多い…」
「……何でアリスさんといいシュナさんといい、そんなスサノオさんを怖がるんだ?」
隣に居たケビン君に話しかけると、苦笑いを浮かべながら答えてくれた。
「こ、怖がるというか……スサノオ様ってこの国での有名人ですし……実力もこの国に住んでいれば知ってますからね…。住んでる世界が違う人に話しかけるってのは抵抗があるんじゃないでしょうか…?」
「あー……なるほどねぇ。確かにそう言われればそんな反応はするわなぁ」
「ぼ、僕もお会いするのは初めてですからね……。話だけは色々と聞いてますけど…」
「あ、そうそう。今更な話なんだけどスサノオさんってどんな逸話があるの?そう言った話に疎いからさー…」
「そ、そういう話ならシュナさんの方が詳しいかと…」
「そうなの?」
「はい……。シュナさんは『三騎士』の熱烈なファンですから…」
「三騎士??…なにそれ?」
「シ、シュナさん……。アルス先生が三騎士について聞きたいって…」
ケビン君はシュナさんにバトンタッチすると聞き手側に回る。
「えっ?!先生は三騎士を知らないんですか?」
「う、うん……。その三騎士ってのを教えてくれない?」
「……仕方ないですねぇ!」
シュナさんは嬉々とした表情を浮かべるとゴソゴソとポケットから3枚の小さなカード状の物を取り出す。そして、それを俺に手渡すと説明を始める。
「三騎士ってのは各国を代表する実力者の事です!アルゼリアル国はスサノオ様。シュピー共和国はドウザン様。ドルド国にはユミル様!この3人は実力もさることながら、大変心優しいお方で全ての民から愛されているお方なのです!」
「ほーん………」
シュナさんから手渡された物は前世でいうプロマイド的なもので、満面の笑みを浮かべたスサノオさんがリアルに描かれていた。
「……ん?この渋い顔の人は?」
「これはドウザン様です!」
「んじゃこっちの人は?」
「これはユミル様です!」
スサノオさんの肖像とは違い、この二人の描き方はとても渋めであった。特にこのユミルって人。ぱっと見の印象だと犯罪者かと思うぐらいだ。失礼だとは思うけどさ。
「ふーん…………」
「その3人の逸話は沢山あるんですよー!スサノオ様は『龍を屠る者』、ドウザン様は『神の眼』、ユミル様は『地の支配者』って二つ名が有るんです!」
「二つ名?……なんかどれも凄そうだけど……アシュレイさんも龍は倒してるよな?」
「長老も二つ名はありますけど、スサノオ様はもっと上なんです!」
「上って………。まぁ龍と戦ったこと無いから分かんねーな…」
「他にも色々とあるんですけど、共通しているのが『一人で』討伐しているんです!」
「へぇ……。って事は龍以外にも討伐してるって事か」
「はい!『雪の巨人』や『灼熱の大蜥蜴』、『水の怪物』などの脅威となる魔物を一人で討伐してるんですよー!」
「魔物も色々と種類があるんだなぁ……。んで?シュナさん的には誰が一番強いと思うの?」
「断然スサノオ様ですよ!!」
語気を荒げながら、シュナさんは他にも色々と教えてくれる。どれも今ひとつピンと来ないのだが、早い話この3人は化け物染みた実力者って事だ。ゲームでいう『最強』って事だろうな……。
まだまだ話したそうにしているシュナさんであったが、食堂の列が進んだのでその話は終わることになった。厨房で注文し、席に着いて呼ばれるのを待っているとロニキスさんとエドがやって来た。
「おう!今日は勢揃いだな!」
「やほー!お久しぶりっ!」
「久しぶり」
ロニキスさん達はそのまま席に腰を下ろすと、スサノオさんの顔を二度見する。そして、なぜか俺を睨みつける。
「え?なに??」
「お、おい……アレってもしかして…」
「ア、アルスさん?!あの人ってもしかして…」
二人してスサノオさんを見ているので、シュナさんに話した様に二人に説明する。
「……マジかよ。信じらんねぇ…」
「スサノオ様に指導を頼むなんて…………。マクネアちゃんは何がしたいんだろう……」
ロニキスさん達はスサノオさんを見ながら思い思いの言葉を漏らす。そこで俺はとある事を閃いた。
「あ、そういや2人は午後暇っすか?」
「は?……ああ、予定はねぇけど…」
「私も……」
「んじゃ、ちょっと午後は一緒に訓練しません?」
「「は?」」
俺の提案に2人は間抜けな声で返す。
「いやぁ、ここであったのも何かの縁だと思いますし……。スサノオさんがどんな指導をするか教師として興味ありません?」
「……ま、まぁそう言われると…なぁ?」
「興味はありますけど……」
「なら午後一緒に過ごしましょうよ。俺はロニキスさんにアーサーの事について色々と聞きたいですし」
「……あ。そういやそうだな。俺もアルスに言わねーとって思ってたんだ」
「わ、私は何をすれば…」
「シュナさんとケビン君を見てくれると助かる」
「…わかりましたぁ」
(………やったぜ。正直、ケビン君とシュナさんまで手が回らないと思ってたんだよなぁ……。俺はアーサーの指導だし、スサノオさんはアリスさんだし…………。いやぁ、マジラッキー)
偶然ではあるが、ロニキスさんからは話を聞きたいと思っていたのは事実。アーサーと手合わせする前に会いに行こうとは思っていた。エドは………まぁ失礼だが保護者的な意味合いだ。俺が手が離せない時にケビン君達を見ててもらおうと考えている。
(よしよし……。これでバランスは取れたな。エドとロニキスさんがいる事で俺はアーサーを集中して教えれるし、ケビン君達も聞きやすい人が居るから大丈夫だろう)
「アーサー君達の分出来上がったよー!取りにおいでー!!」
厨房からオバちゃんの声が聞こえ、昼食を取りに行く。今日の日替わりは『コロッケ』だ。
「んじゃ先に食べまーす」
席に座ってから、ロニキスさん達に一言伝えてから昼食を食べる。『コロッケもどき』だと想像していたが、見た目と食感ともにコロッケであった。イモの甘さとミンチにした肉の脂がマッチしており、甘めのソースが食欲を唆る。『辛子』があると嬉しかったが、その代わりに何故か山葵が置いてあった。まぁ山葵とコロッケという組み合わせは前世でも食べた事ない組み合わせであったが、それなりに美味しかった。……べらぼうに美味いって事は無いけど…。
そして、せっかくコロッケとパンがあるのでとある事をする。ナイフでパンに切れ込みを入れ、その切れ込みにソースがかかっているコロッケを挟み頬張る。
「んー………美味い」
「……下品な食べ方」
「……俺の村ではこれが当たり前なんだよ。…一口食べてみる?」
「遠慮するわ」
米も良いけど、パンと食べるならこの食べ方は当たり前だよなぁ?
お手製のコロッケパンを頬張りながら、『パスタがあるなら焼きそばパンも出来るよな?』と考える。貴族の口に合うかどうかは分からないし、アリスさんが言った様に『下品』と捉えられるかも知れない。しかし、俺にとってこの『惣菜パン』という物は前世でよく食べていたものだし、懐かしく思えるものであった。
「アルス先生!なんすかそれ!」
コロッケパンもどきを見たアーサーが、興味津々に俺に尋ねてくる。
「アーサーも試してみろよ。案外美味いんだぜ?」
「パンに挟むだけすか?」
「おう。そして、コロッケにソースをたっぷり染み込ませるのが最強だ」
「うおおお!最強すか!?オレもやってみるっす!」
「……はぁ。下品が2人もいる…」
俺とアーサーの会話を聞いていたアリスさんは頭を抱える。下品下品言うけど、一度食べてみれば良さが分かると思うんだけどなー。…無理矢理喰わせるか?
まぁそんな度胸は無いので、クチャラーにならない様、そしてこぼさない様に気をつけながらコロッケパンを頬張るのであった。
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