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8.地仙、説明する
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師匠は、結局七日滞在して戻っていった。
問題は…
「…」
「…な、なによ。」
何故か、師匠は女仙を置いていってしまった。それは良いのだが、問題は女仙の方にも帰る気が無さそうな事である。仕方ないので、客間でお茶と相成った。
「ええと…」
「稀華よ。暫くよろしく。」
「何で?」
首を傾げるしかない蛇乱である。
しかし、女仙…稀華に答える気は無かったらしい。
「ところで、どうして貴方がこの世界に来たのよ?」
「師匠の代わりだよ。」
逆に質問されて答える羽目になる。
まあ、構わない。
修行中に師匠からの呼び出しがあり、指定された場所で四女神から説明を受けて、送りこまれた。それだけの事だ。
「それだけ?」
「世界の力の流れが滞って、このままだと五百年位で人が住めなくなる。神の力を振るうと、大陸ごと沈みかねないから、地仙の力を借りたい。何人か迷宮主を送ったが、目立った成果が見られない。それでもチームで取り組んでるから、合流して事に当たって欲しい…後は、女神の名に懸けて、万全のサポートを約束するって言われたよ。」
「なんで大仙は来なかったのかしら?厚待遇じゃない。」
答えは簡単。一言だ。
「あいつらは面倒だと仰ってね。実際、面倒どころの騒ぎじゃない。」
何を言ってるのか、理解出来ていません。と、顔に書いてある女仙に、蛇乱は一から説明する事にする。理解しないまま、女神共に目をつけられたら世間知らずのお嬢様など一溜まりもない。
美味しいデザートにされても自己責任だが、どうやら預かりものらしいので放置はマズいと判断する。
「まず、到着早々に分解されかけた。」
「えっ!?」
女神の用意した金ぴかな鳳に乗り続けていたら、今、ここで話しなど出来ていなかったろう。魂まで分解されて、力の一部に変えられていた筈だ。
「大地の寿命も尽き掛けてた。」
五百年などとんでもない、あと七年弱で大陸が連鎖崩壊していただろう。
「…連鎖崩壊…」
「先に送り込まれたって迷宮主達は、多分分解されている。生き残りはまだ見つからない。」
そして、万全のサポートどころか世界を閉じて逃げられない様にしている。師匠達が事も無げに出入りしているから簡単に思ってしまうが、大仙の実力が桁違いなだけだ。
「ここは女神共のエサ場なんだろう。」
力有るものを分解し、力の末端部から食い散らかす。
「そんな…まさか。」
天で生まれ、天で育った稀華にとって、神、特に女神は身近な存在だ。この世界を管理している女神達だって、親しくはないが、知らない訳では無い。たしか大じじ様に連れられて行った宴にも、来ていたと思う。
「まあ、この洞天では、もう好きにはさせないから安心していいよ。」
神将にも匹敵する陽と月の精が、八体もいるのだ。神格があるとはいえ、戦い慣れしていない女神なぞ問題にならない。
「…過剰戦力ね。」
思わず呆れ顔になる稀華であった。
ホルク出身のウィリアム王には、俄には信じられない話だった。
しかし、シンハと縁の深いランバンの老王ガルタと、他でもない妻が、太鼓判を捺している。
妻、王妃はこのシンハから迎えたのだ。思えば、晩餐の料理を見た時から、やけに驚いていた。
「シンハで、あれだけの食材が採れる訳がないもの。」
小さく訊ねれば、確信を持った力強い答え。
「…では、本当に呪われた地峡が。」
「我が国の兵に確認させた。既に地峡に開拓村を作り、ダロスへと調査隊を送っている所だ。」
訝しげな年若きゼニア王太子に、落ち着いて答えるシルバ王。
素直な気質の好青年だが、経験不足からか感情が丸分かりだ。何も言わず、静かに微笑む彼の伴侶こそが、ラーケン王の懐刀というのは本当なのかも知れない。
しかし、なるほど、ガドに知られたく無い話だ。小さな銅山一つでヒメリアが滅ぼされたのは十年前。
戦狂いの野蛮王ペドロスも、五十の声を聞いて最近は大人しいが、残虐王子の異名を持つ王太子のフェルナンドは、父親に輪を掛けた凶人ともっぱらの噂だ。
「しかして、何処まで見ておる?」
老王ガルタが問う。確かに、そこは重要だ。
四国による同盟止まりか、何れかの国を核として、一つの国を興すのか。
「一つとなるには、時期尚早でしょう。まだダロスの地に向かった調査隊は、戻ってすらいません。地峡の恵みがミゼット西側の何処まで届くのか。届くまでの時間はどの程度なのか。全て、これからなのです。」
「なるほどの。」
答えが気に入ったのだろうか、少し目を細めて小さく頷いた老王は、不意に威厳を纏って厳かに宣誓を始めた。
「ランバン国王ガルタは、シンハ王国との同盟を宣言する。」
「ホルク国王ウィリアム。シンハ王国との同盟を宣言しよう。」
遅れる訳には、いかない。
「ゼニア王太子、フリード。シンハ王国との同盟を国王ラーケンに進言するとお約束いたします。」
ゼニアは旧ヒメリアと国境を接する。ラーケン王も、出来るなら出席されたかった事だろう。
問題は…
「…」
「…な、なによ。」
何故か、師匠は女仙を置いていってしまった。それは良いのだが、問題は女仙の方にも帰る気が無さそうな事である。仕方ないので、客間でお茶と相成った。
「ええと…」
「稀華よ。暫くよろしく。」
「何で?」
首を傾げるしかない蛇乱である。
しかし、女仙…稀華に答える気は無かったらしい。
「ところで、どうして貴方がこの世界に来たのよ?」
「師匠の代わりだよ。」
逆に質問されて答える羽目になる。
まあ、構わない。
修行中に師匠からの呼び出しがあり、指定された場所で四女神から説明を受けて、送りこまれた。それだけの事だ。
「それだけ?」
「世界の力の流れが滞って、このままだと五百年位で人が住めなくなる。神の力を振るうと、大陸ごと沈みかねないから、地仙の力を借りたい。何人か迷宮主を送ったが、目立った成果が見られない。それでもチームで取り組んでるから、合流して事に当たって欲しい…後は、女神の名に懸けて、万全のサポートを約束するって言われたよ。」
「なんで大仙は来なかったのかしら?厚待遇じゃない。」
答えは簡単。一言だ。
「あいつらは面倒だと仰ってね。実際、面倒どころの騒ぎじゃない。」
何を言ってるのか、理解出来ていません。と、顔に書いてある女仙に、蛇乱は一から説明する事にする。理解しないまま、女神共に目をつけられたら世間知らずのお嬢様など一溜まりもない。
美味しいデザートにされても自己責任だが、どうやら預かりものらしいので放置はマズいと判断する。
「まず、到着早々に分解されかけた。」
「えっ!?」
女神の用意した金ぴかな鳳に乗り続けていたら、今、ここで話しなど出来ていなかったろう。魂まで分解されて、力の一部に変えられていた筈だ。
「大地の寿命も尽き掛けてた。」
五百年などとんでもない、あと七年弱で大陸が連鎖崩壊していただろう。
「…連鎖崩壊…」
「先に送り込まれたって迷宮主達は、多分分解されている。生き残りはまだ見つからない。」
そして、万全のサポートどころか世界を閉じて逃げられない様にしている。師匠達が事も無げに出入りしているから簡単に思ってしまうが、大仙の実力が桁違いなだけだ。
「ここは女神共のエサ場なんだろう。」
力有るものを分解し、力の末端部から食い散らかす。
「そんな…まさか。」
天で生まれ、天で育った稀華にとって、神、特に女神は身近な存在だ。この世界を管理している女神達だって、親しくはないが、知らない訳では無い。たしか大じじ様に連れられて行った宴にも、来ていたと思う。
「まあ、この洞天では、もう好きにはさせないから安心していいよ。」
神将にも匹敵する陽と月の精が、八体もいるのだ。神格があるとはいえ、戦い慣れしていない女神なぞ問題にならない。
「…過剰戦力ね。」
思わず呆れ顔になる稀華であった。
ホルク出身のウィリアム王には、俄には信じられない話だった。
しかし、シンハと縁の深いランバンの老王ガルタと、他でもない妻が、太鼓判を捺している。
妻、王妃はこのシンハから迎えたのだ。思えば、晩餐の料理を見た時から、やけに驚いていた。
「シンハで、あれだけの食材が採れる訳がないもの。」
小さく訊ねれば、確信を持った力強い答え。
「…では、本当に呪われた地峡が。」
「我が国の兵に確認させた。既に地峡に開拓村を作り、ダロスへと調査隊を送っている所だ。」
訝しげな年若きゼニア王太子に、落ち着いて答えるシルバ王。
素直な気質の好青年だが、経験不足からか感情が丸分かりだ。何も言わず、静かに微笑む彼の伴侶こそが、ラーケン王の懐刀というのは本当なのかも知れない。
しかし、なるほど、ガドに知られたく無い話だ。小さな銅山一つでヒメリアが滅ぼされたのは十年前。
戦狂いの野蛮王ペドロスも、五十の声を聞いて最近は大人しいが、残虐王子の異名を持つ王太子のフェルナンドは、父親に輪を掛けた凶人ともっぱらの噂だ。
「しかして、何処まで見ておる?」
老王ガルタが問う。確かに、そこは重要だ。
四国による同盟止まりか、何れかの国を核として、一つの国を興すのか。
「一つとなるには、時期尚早でしょう。まだダロスの地に向かった調査隊は、戻ってすらいません。地峡の恵みがミゼット西側の何処まで届くのか。届くまでの時間はどの程度なのか。全て、これからなのです。」
「なるほどの。」
答えが気に入ったのだろうか、少し目を細めて小さく頷いた老王は、不意に威厳を纏って厳かに宣誓を始めた。
「ランバン国王ガルタは、シンハ王国との同盟を宣言する。」
「ホルク国王ウィリアム。シンハ王国との同盟を宣言しよう。」
遅れる訳には、いかない。
「ゼニア王太子、フリード。シンハ王国との同盟を国王ラーケンに進言するとお約束いたします。」
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