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15.地仙、検分する
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雲の中に浮かんでいた珍妙な物体は、見た目的にはディフォルメされたタコに似ていて、なかなかにユーモラスであった。稀華から聞いて急行した蛇乱によって捕獲される際には、冷気を吐きつけ、足をふりまわして散々抵抗をしたのだが。
まず、仙の力はまったく無い。神力も、欠片も感じられない。
「これは、機械だ。」
「機械?まさか。だって、局所的な吹雪を起こせる機械なんかある筈ないわ。」
懐疑的な稀華に判る様に、機械タコの外装を引っ剥がす。
「本当に宝貝じゃないの?」
「見てみ?頭が変になりそうな構造してるぜ。」
稀華はちょっとだけ覗き込むと、顔をしかめた。機械類は苦手なのだ。
「うぇ~。」
「シュ~。」
コルノ共々、思わず呻く。
「…これ、電源かな?」
【…配線から見ると、複数ありそうです。】
蛇乱と玉鱗の二人がかりでタコの中身を引っ張り出し、あーでもないこーでもないと言い合いながら、どんどんバラして行くのを稀華とコルノと女性陣は冷めた目で見ている。
男衆にしても、馬明は礎の間から出て来ていないし、鯨牙も厨房で料理を仕込んでいる。竺転は最初の数分だけ見ていたが、欠伸を噛み殺しながら出ていった。おそらく厨房につまみ食いに行ったに違いない。
半日が過ぎる頃、結局客間で待っていた稀華の前に蛇乱と玉鱗が、何やら掌大の水晶板を持って来た。
「何か判った?」
「応。」
改めて水晶板を見てみると、明らかに天然の水晶では無かった。
「こいつは錬金術師が作った、賢者の石もどきだ。」
「錬金術?ホントにあるの?」
錬金術は、かつてのヨーロッパで盛に研究された自然科学、生物学に科学と化学、神秘学をミックスした未成熟な技術体系である。
「まあ、殆ど眉唾だけどな。」
その目的は、時代や個人の事情で変わるものだが、賢者の石というのもその一つと言われるものだ。
曰く、あらゆる物質を変成出来る
曰く、すべての命を創り出す
曰く、神に至る扉と成る
「下手に宗教的な解釈を捩じ込んだりするから、失敗するんだ。だからって神秘主義を完全に取り除けば、科学と化学になっちまう。」
仙人も様々な薬を練る。死人すら甦らせる仙の薬は、錬金術でいうならば所謂エリクサーと呼ばれる物に相当する。
「天の庁では、錬金術なんて完全に偽物扱いだけど?」
「地仙にゃ、ある程度近いのが居る。」
森羅万象を在りのままに受け入れ、より高次の存在に成らんとするか、森羅万象全てを解析して、自分の好きに変えようとするのか。
その違いなのだろうと、蛇乱は思っている。
【水晶板の表面に陣を刻んで、金を流し込んだ物を二百二十二枚張り合わせてあります。】
玉鱗が解説してくれても、稀華としては興味が無い。
「で、誰が作ったの?」
「…多分だが、迷宮主が生き残っているんだと思う。」
迷宮主は迷宮、所謂ダンジョンを支配するに至った者を指す。ダンジョンマスター又は、ダンジョンルーラー等とも呼ばれる彼らは、大地の気脈の集まる所【龍穴】に、様々な形の迷宮を配して気脈を制御したり、力を吸い上げて周囲の環境を変えたりする、地仙に近い存在とも言える。
多くは自分の迷宮周辺をテリトリーとして引きこもり、広範囲にまで影響を及ぼす事が無い為に、小規模な気脈の乱れや停滞を緩和する目的で、世界の管理者に招かれる場合もある。
「このナカーラ世界には、俺の前任として複数の迷宮主が招かれていた筈だ。」
「分解されたんでしょ?」
「俺は飛び降りた。他にもそんなのが居たのかも知れない。そういう前提で探してはみたが…」
蛇乱の探知が及ぶのは、地続きで凡そ四千里程。それより遠方だったり、相手が意図的に隠れているならば、判らないのも仕方ない。
「仙の力も無いみたいだしな。」
迷宮主は、仙人ではない。だが超常の力を持つ者なのは間違い無く、その力の源は迷宮主によってまちまちだ。
「問題は、何で攻撃してきたか、だ。」
「また女神の仕業じゃない?」
まだ卵の状態のコルノに邪気を込めて、魔獣化してけしかけて来たのはついこの間だ。
「しばらくは動けない筈だし、世界が閉じられたままだから、新しく呼んできた訳でも無いだろう。」
本当に、何故なのか。蛇乱と稀華は首を傾げた。なにせ、敵対した覚えもない。
「まあ、迷宮主ってのは基本的に個人営業の引きこもりだ。同業者はとりあえず潰すタイプなのかもしれん。」
まず、仙の力はまったく無い。神力も、欠片も感じられない。
「これは、機械だ。」
「機械?まさか。だって、局所的な吹雪を起こせる機械なんかある筈ないわ。」
懐疑的な稀華に判る様に、機械タコの外装を引っ剥がす。
「本当に宝貝じゃないの?」
「見てみ?頭が変になりそうな構造してるぜ。」
稀華はちょっとだけ覗き込むと、顔をしかめた。機械類は苦手なのだ。
「うぇ~。」
「シュ~。」
コルノ共々、思わず呻く。
「…これ、電源かな?」
【…配線から見ると、複数ありそうです。】
蛇乱と玉鱗の二人がかりでタコの中身を引っ張り出し、あーでもないこーでもないと言い合いながら、どんどんバラして行くのを稀華とコルノと女性陣は冷めた目で見ている。
男衆にしても、馬明は礎の間から出て来ていないし、鯨牙も厨房で料理を仕込んでいる。竺転は最初の数分だけ見ていたが、欠伸を噛み殺しながら出ていった。おそらく厨房につまみ食いに行ったに違いない。
半日が過ぎる頃、結局客間で待っていた稀華の前に蛇乱と玉鱗が、何やら掌大の水晶板を持って来た。
「何か判った?」
「応。」
改めて水晶板を見てみると、明らかに天然の水晶では無かった。
「こいつは錬金術師が作った、賢者の石もどきだ。」
「錬金術?ホントにあるの?」
錬金術は、かつてのヨーロッパで盛に研究された自然科学、生物学に科学と化学、神秘学をミックスした未成熟な技術体系である。
「まあ、殆ど眉唾だけどな。」
その目的は、時代や個人の事情で変わるものだが、賢者の石というのもその一つと言われるものだ。
曰く、あらゆる物質を変成出来る
曰く、すべての命を創り出す
曰く、神に至る扉と成る
「下手に宗教的な解釈を捩じ込んだりするから、失敗するんだ。だからって神秘主義を完全に取り除けば、科学と化学になっちまう。」
仙人も様々な薬を練る。死人すら甦らせる仙の薬は、錬金術でいうならば所謂エリクサーと呼ばれる物に相当する。
「天の庁では、錬金術なんて完全に偽物扱いだけど?」
「地仙にゃ、ある程度近いのが居る。」
森羅万象を在りのままに受け入れ、より高次の存在に成らんとするか、森羅万象全てを解析して、自分の好きに変えようとするのか。
その違いなのだろうと、蛇乱は思っている。
【水晶板の表面に陣を刻んで、金を流し込んだ物を二百二十二枚張り合わせてあります。】
玉鱗が解説してくれても、稀華としては興味が無い。
「で、誰が作ったの?」
「…多分だが、迷宮主が生き残っているんだと思う。」
迷宮主は迷宮、所謂ダンジョンを支配するに至った者を指す。ダンジョンマスター又は、ダンジョンルーラー等とも呼ばれる彼らは、大地の気脈の集まる所【龍穴】に、様々な形の迷宮を配して気脈を制御したり、力を吸い上げて周囲の環境を変えたりする、地仙に近い存在とも言える。
多くは自分の迷宮周辺をテリトリーとして引きこもり、広範囲にまで影響を及ぼす事が無い為に、小規模な気脈の乱れや停滞を緩和する目的で、世界の管理者に招かれる場合もある。
「このナカーラ世界には、俺の前任として複数の迷宮主が招かれていた筈だ。」
「分解されたんでしょ?」
「俺は飛び降りた。他にもそんなのが居たのかも知れない。そういう前提で探してはみたが…」
蛇乱の探知が及ぶのは、地続きで凡そ四千里程。それより遠方だったり、相手が意図的に隠れているならば、判らないのも仕方ない。
「仙の力も無いみたいだしな。」
迷宮主は、仙人ではない。だが超常の力を持つ者なのは間違い無く、その力の源は迷宮主によってまちまちだ。
「問題は、何で攻撃してきたか、だ。」
「また女神の仕業じゃない?」
まだ卵の状態のコルノに邪気を込めて、魔獣化してけしかけて来たのはついこの間だ。
「しばらくは動けない筈だし、世界が閉じられたままだから、新しく呼んできた訳でも無いだろう。」
本当に、何故なのか。蛇乱と稀華は首を傾げた。なにせ、敵対した覚えもない。
「まあ、迷宮主ってのは基本的に個人営業の引きこもりだ。同業者はとりあえず潰すタイプなのかもしれん。」
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